気鋭の企業が明かす、価値創造の根幹となる事業、プロダクトの「ものがたり」とは?【ICC KYOTO 2021レポート】 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

気鋭の企業が明かす、価値創造の根幹となる事業、プロダクトの「ものがたり」とは?【ICC KYOTO 2021レポート】

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9月6日~9日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、9月7日のセッション「末永く愛されるブランドを作るには? – 『モノづくり』と『モノがたり』を語り尽くす」の模様からお伝えします。「獺祭」「伊勢角屋麦酒」「中川政七商店」「細尾」「スノーピーク」の経営者が語る、自社やプロダクトの「ものがたり」とは? ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


ICC FUKUOKA 2021まで続いていたTakram渡邉 康太郎さんがモデレーターを務める「コンテクストデザインを考える」セッション。その続編シリーズ的位置づけで始まったのが、今回の「末永く愛されるブランドを作るには? – 「モノづくり」と「モノがたり」を語り尽くす」セッションだ。

【一挙公開】「コンテクストデザイン」を考える(シーズン3)(全5回)

「獺祭」の櫻井 一宏さん、伊勢角屋麦酒の鈴木 成宗さん、中川政七商店の中川 政七さん、西陣織老舗「細尾」細尾 真孝さんに、ICC初参加のスノーピーク山井 梨沙さんという顔ぶれが、職人のこだわり/つくる喜びや品質向上の「ものづくり」、企業・プロダクトの背景のストーリーやお客様のストーリーの「ものがたり」を2つを軸に、自分たちの事業を語った。

モデレーターのTakram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん

リアルイベントで、この豪華な顔ぶれに会場は大勢の人が集まった。詳細の内容は後日書き起こし記事でご紹介するとして、このレポートでは登壇者の5名が「ものづくり」と「ものがたり」でどんなことを語ったのか、ダイジェストでお伝えしよう。

哲学すら感じるスノーピークの「ものがたり」

株式会社スノーピーク 代表取締役社長 山井 梨沙さん

2020年4月に3代目の社長として就任したスノーピーク山井 梨沙さんは、今回ICCサミット初参加。ご存知の方が多いと思うが、スノーピークは新潟県の約15万坪のキャンプフィールドの中に本社を構えていることでも有名なアウトドア総合メーカーだ。

株式会社スノーピーク(新潟県三条市)、本社併設キャンプ場に温浴施設を中心とした複合リゾート開業へ(にいがた経済新聞)

商品を製造・販売するだけでなく、人生を構成する5つのテーマである「衣食住働遊」に沿って、現代社会が抱える課題に対して、様々な事業を展開している。そしてそれらの事業の中心に「体験」の提供というものがあり、これがスノーピークの「ものがたり」でもある。

「年間30回以上ユーザーとキャンプするイベントで直接ユーザーの声を聞いたりするなど、ファンとの直接的なコミュニケーションを積極的に続けています。

Snow Peak Cycle スノーピークをつくるもの

それはは”スノーピークエクスペリエンス”といって、ユーザーの体験価値を提供することを使命としています。

Snow Peak Experience Booking Portal

アウトドアやアパレル、製品を通した体験価値の創造や、自然と人、人と人をつなぐプラットフォームを作るエクスペリエンス開発も、すべてインハウスデザイナーが行っています。デザイン開発担当者が、プロダクトの設計から納品、お客さまに届くまでを担当することもあります。

また、1990年代から一貫してアフターサービス永久保証にしています。ユーザー目線に立つと、思い入れがあって愛着のあるものが壊れたとき、メーカーとしてはなんとかしないといけないし、私たちがものづくりに責任を持っている会社として始めたことです。

テントやキャンプ用品を、3世代に渡って使っていただいている方も出てきています。

一方で最近のアウトドアブームもあって、新規参入ユーザー、売上が増えるなかで、修理も増えています。そこでフィールドインストラクターがテントの建て方や壊れないようにどのように使うのかなどをレクチャーしています」

プロダクトを生み出すサイクル、ユーザーが使うサイクル、学んで直すサイクルのすべてに自然の摂理があり、その奥底には人間性の回復、地球上の全てのものに良い影響を与える、という企業理念が流れている。スノーピークの「ものがたり」は、ユートピアを真剣に実現しようとする哲学すら感じさせる。

コロナ禍で誕生した「ものがたり」のある「獺祭」プロダクト

旭酒造株式会社 代表取締役 櫻井 一宏さん

「酒蔵の4代目で、他の会社から家業に戻ってきたときは、獺祭はありませんでした。平成2年(1990年)に獺祭が立ち上がり、それまでの製造量は現在の1/45くらい。『ものづくり』と『ものがたり』でいうなら、私たちは『ものづくり』から始まりました」

ICCでもこだわりと量産が共存する強烈な酒蔵を4月に見学させていただき、その驚きを参加者の皆さんにも体験していただくべくICC FUKUOKA 2022の特別プログラムを予定している旭酒造。

ICC FUKUOKA 2022の特別プログラムに決定! 地酒の酒造りの概念を変える「獺祭」の工場見学ツアーを体験してきました

旨い酒を造るためにデータの活用、機械化、何より実際に手を動かすことを惜しまない櫻井さんたちは、最高級の日本酒造りに挑戦しているという。

「1本50〜100万円の酒というと、皆さんワインが思いつくと思いますが、造って3カ月で飲んでもらう日本酒で、その価値のある最高の旨さを実現しようと思っています」

そんな旭酒造が、自らを語る「ものがたり」のプロダクトとして紹介したのは2つ。

「この2年でお酒を飲んでいただく飲食店市場は40%になり、免税店販売は1%を切るという状況で、酒の原材料をつくってくれる米農家も困っている。彼らのために何かできないかと、作れば作るほど赤字なのですが、獺祭のエタノールを造りました。

もう一つは新生獺祭という商品です。お酒は古来から百薬の長といわれますが、獺祭の発酵過程で造り出される獺祭エクソソームという物質に着目した商品です」

エクソソームはさまざまな分野への活用が期待され、研究が進んでいる物質だ。

驚異のメッセージカプセル「エクソソーム」(NHK)

全ての酒について、味は櫻井さんの厳しいチェックを通過している。獺祭の酒造りを通じて世の中にメッセージを届ける姿勢が、コロナ禍にあってなおさら獺祭というブランドの「ものがたり」を際立てている。

▶​​日経新聞で5月24日に意見広告を出します(朝日酒造株式会社)

西陣織の「ものがたり」に「ものづくり」が追いつくために「テクノロジー」が進化する

株式会社 細尾 代表取締役社長 細尾 真孝さん

元禄元年創業の西陣織の老舗、細尾。スノーピークの山井さんは、細尾さんとは以前から知り合いで、旅仲間でもあると明かし、「価値をぶらさずに30年、40年、50年先を見据えてプロセスを進めているのを尊敬する」と刺激を受けているそうだ。

「きもののマーケットが、40年前の1/10になり、マーケットの構造が機能しなくなっていくなかで、きものをどういう人に届けたいのか、そうすることによりどう世の中を変えたいのかが見えなくなっている。そこに文化がシュリンクして立ち直れない原因になっているのではないでしょうか。

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西陣織には20工程があり、それぞれの工程を請け負う高い技術を持つギルドの協業により作り上げられます。かつては天皇や大名が最高の美を求めて発注し、手間暇を惜しまずに作り上げられてきました。

織物の歴史は9000年前に遡ります。体をに糸をまきつけて織機として織っていた時代から、織機に木のフレームがつき、産業革命で動力の織機が出て、それを作っていたトヨタは車を作っていきます。つまり、究極の美を追求していくなかで身体を拡張して、テクノロジーを生むのです。

『ものがたり』と『ものづくり』に、『テクノロジー』の関係があるということは、織物の歴史を見ていても思います。細尾のDNAにも、そのような『美と協業と革新』があります」

美しい西陣織から「ものがたり」=「美」の熱が最も強いのだろうと勝手ながら想像していたが、その実現と進化に必須なのは「ものづくり」と「テクノロジー」。3つの要素は切っても切れない関係があり、それをもとに生み出す「モアザンテキスタイル」を自らに課しているという。

「定番に入れらるような新作を毎年1つ作ることにしています。前の作品を越えるものでないと出せないと決めていて、2年間出せなかった年もあります。1年間自分たちに負荷をかけてやっています」

中川政七商店「ものがたり」がある商品は強い

株式会社 中川政七商店 代表取締役会長  中川 政七さん

「細尾さんのお話を改めて聞いていると、うちは創業年(1716年創業、細尾は1688年)、将軍でなくて武士向けだし、絹でなくて麻だしと、ちょっとずつ全部負けているなと思いました。全部スケールダウンしているのがうちです」

と会場の笑いを誘ったのが中川さん。自社ビルの「鹿猿狐ビルヂング」を2021年に完成させたばかりの中川さんは、工芸が元気になることを目的とした”産地の一番星をつくる”コンサルティング業務含む、産業観光案件を手掛けており、自社ビルもその一環である。

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中川さんは、「ものづくり」と「ものがたり」の例として、手掛けた2つの商品を紹介した。

「うちの1995年からのヒット商品で、花ふきんというものがあります。台所で使うふきんというのは、30cm角で8枚重ねが一般的ですが、乾きが悪くて台所で使うには不衛生、それならば面積を4倍にして2枚重ねにしてみたら?と母親が言って生まれた商品で、大ヒットしたのです。ここまでは『ものづくり』の視点で作りました。

そのあとグッドデザイン賞も受賞して、審査員のコメントで『奈良の企業が作った商品によって、地元の斜陽産業が息を吹き返したところも含めグッドデザイン賞』といいことを言ってもらえたんです。僕も確かにその視点が抜けていたなと、あとから『ものがたり』がついてきたパターンです。

もう1つが、これは『ものがたり』が先にあったパターンで、新潟の燕三条のタダフサという庖丁工房にコンサルで入って作ったパン切り包丁です。パン切りでよくある波型の刃が先のほうだけついていて、あとはまっすぐの包丁です。

そこは包丁の種類が900以上もあるのに、パン切り包丁はないのです。ではパンを何で切るのか?と聞くと、普通の包丁で切っていると言う。『波刃のパン切りは、のこぎりで切っているようなものだから、パンくずがたくさん出るだろう? 普通の包丁で切っている』と言うのです。

そこで包丁で切ってみると、スパッと切れる。くずも出ない。聞くとあの波刃は機械で作っているものだから先端が円く、職人が研いでいないというのです。でもハード系のパンもあるから、刃が入るための取っ掛かりは必要なので、先っぽにだけ波刃があるパン切り包丁にしました。

実は900種類もある工房で…という話をするとウケがよくて、会話が生まれるし、買ってもらえます。機能だけでは話はなかなか生まれないので、そういうサブストーリーがあるものがいい商品だと思って作っています」

中川さんがコンサル案件を受ける条件は、財務状況とか技術とか実はあまり関係なく、トップにどれだけ覚悟があるかだけを見ているそうだ。それがあればなんとかなるといい、これはどれだけ強い「ものがたり」が事業を支えるかという話でもあるのだろう。

伊勢角屋麦酒「ものづくり」を極める言葉を社内で読み合わせ

有限会社二軒茶屋餅角屋本店 / 伊勢角屋麦酒 代表取締役社長 鈴木 成宗さん

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「食品を作っていると、刹那的になってしまうので、長く残っていくものを作るというのは憧れるなぁと思いながら聞いていました」と話し始めたのは伊勢角屋麦酒の鈴木さん。今回の登壇者の中でも最も古い、1575年創業の二軒茶屋餅角屋の21代目で、1997年にビール造りを始めた。

「造り始めてみて初めて、歴史のゆるがなさに気がつきました。餅屋の歴史には絶対勝てないんです。それならば徹底的に本物を作るしかないと思い、ビール界で世界最高峰のタイトルを5年以内に獲ろうと決心して、結局6年後になりましたが獲得しました。

受賞歴(伊勢角麦酒)

『ものづくり』が好きで、いつもそちらを先にやってしまい、ストーリーは後付け。ただ100年以上の歴史がある味噌・醤油の醸造の蔵が遊び場だったので、醸造を肌感覚で知っていました。人が作るのではなく、最後は酵母が、微生物が作るという内側にあるストーリー性と、本物を追求するというところがブランドイメージです」

鈴木さんは醸造について博士号を取得し、伊勢の森の野生酵母からビールを作り出している。本物へのこだわりは、8000リットル仕込んでいても、味に納得いなかないとすべて廃棄するほどで、これは毎日10のタンクの獺祭を試飲する櫻井さんも同感のようだ。

櫻井さんは量産化によるブランドの希薄化と共に懸念しているのが、スタッフへが増えたときの「ものがたり」の伝え方。それを鈴木さんはもっといい方法があれば知りたいと言いながらも、こう答えた。

「自分たちが何のために仕事をしているのか、このビールではお客様に出せないという理由や、何のために作っているのか?など、それまで言葉で伝えていたものをすべて文字にしました。定期的に社内で読み合わせもしています」

セッションを終えて

実際のセッションでは、お互いへの質疑応答があったり、悩んでいることについてのディスカッションがあったりと、さまざまに話が発展したが、この5人の豪華なスピーカーに、時間は少々不足気味。時間帯のわりに多く集まった観客のなかには、質問をしたかった人もいたに違いない。

セッションを終えたスノーピークの山井さんに、ディスカッションやICC初参加の感想を伺った。

「普段からお会いしている方も、初めてお会いする方もいたんですが、自分たちとの共通点と、そうでない学ぶべき点というのがたくさんありましたので、登壇している立場からしても非常に有意義な時間を、機会を作っていただいてすごくありがたかったです。

セッションで印象に残ったのは、飲食と実際のプロダクトで価値提供していく時間軸の違いです。たとえば獺祭は長期的にブランドとしての価値というのが作れているのもすごいなぁと思いましたし、それぞれ提供するものの価値に対しての手段というのに、取り組まれているのがすごく印象的でした。

こうして一斉にこれだけの各業界の新進気鋭の方のお話を聴ける機会は、今は本当にこのICCサミットぐらいしかないんだろうなと思います。ご対応、オペレーション、あと中身の体験価値というところも含めて素晴らしいイベントだなと思いました。

目的、志が近い方はもちろん登壇者の方もそうですし、セッションを聞かせていただいた企業の方々も、いろいろと意見交換させていただいたり、実際の事業に発展していきそうなお話とかもいただけたので、ここを起点に新しい価値創造をしていけるんじゃないのかなと思います」

異なる「ものがたり」「ものづくり」を持つ企業の出会いが、新たな「ものがたり」を創造し、「ものづくり」を生む。そのためには自らを語り、相手の話に耳を傾ける交流が不可欠だ。ICCサミットは、一つでも多くのそういった機会を創造するための場でありたいと思っている。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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