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“世界で一番熱い”酒コンペティション、SAKE AWARDがICCに吹き込んだ新風

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9月4日~7日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、今回初開催したSAKE AWARDのDAY2、予選ラウンドを経て6組の酒蔵が優勝を競い、「稲とアガベ」が優勝した決勝トーナメントの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

予選ラウンドから一夜明けて

SAKE AWARDの2日目、決勝トーナメントの冒頭で、審査員の住吉酒販 庄島 健泰さんは「静かな品評会とまるで違う異種格闘技、ぜひ五感を開いて」と語り、Makuakeの中山 亮太郎さんは「飲むだけでなく、視覚や酒を語る言葉が掛け算になる最高の宴」、平和酒造 山本 典正さんは「会場全体で新しいムーブメントを作っていけたら」と語った。

会場騒然! 前代未聞のノンジャンル酒バトル、初開催SAKE AWARD 予選ラウンドレポート

前日の大盛りあがりの予選を経ていよいよ決勝。ICC KYOTO 2023のDAY2は、カタパルトグランプリから、3つのアワードのファイナルラウンドまで、さまざまなドラマや感動の場面があったが、SAKE AWARD決勝トーナメントに集った酒蔵、審査員たちはしっかりと余力を残し、酒の異種格闘技に備えていた。

前夜の予選ラウンドに出場した酒蔵の皆さんは、旨い酒を醸すことだけでなく、酒業界の、酒の未来を見据えてあのあと熱く語り合ったと聞く。

審査員が会場を鼓舞すると、前日に決勝に選出された6組も負けずとばかり、1分スピーチで思いの丈を語った。この後、74名の審査員に向けて訴えないといけないにも関わらず、すでにアクセル全開といった空気だった。

予選ラウンド6位 HINEMOS 渡辺 毅志さん「ブランディング部門で1位をいただきましたが、想いがまだ伝わってないと非常に悔しいです。私はリクルート出身で、IT業界から飛び込んだメンバーで事業をしていますが、非常につらい思いをしています。

日本酒業界は、2018年に1,400社あった会社がコロナ禍もあって今は約1,000社と言われています。令和5年の速報値で清酒製造業者は、マイナス1億が平均利益と言われている。だから僕たちがベンチャーとしてVCからの資金もいただいて日本酒を盛り上げる。これこそが生き残る道だと思っています!」

予選ラウンド5位 マルカメ醸造所 北沢 毅さん「僕らは実は1種類のリンゴ果汁から複数の種類のシードルを造っています。今回用意した3種類は、すべて同じ果汁から造られたお酒で、発酵時間が違うことによって異なる味わいを引き出しています。ぜひ今日も僕らのシードルを通じて国産リンゴの美味しさ、シードルの面白さを感じてもらえたら」

予選ラウンド4位 ANTELOPE(アンテロープ)谷澤 優気さん「ミードという珍しいお酒で、昨日はパッションだけで4位に食い込んだんですけど、もう本当に感無量です。今日の3つはミードの世界で一番造られている糖度感と、アルコール度数、ミードの世界でいうど真ん中ストレートを3つ持ってきました。

21歳のときからお酒の造り方にどっぷりつかって、とにかく誰よりも勉強してきたという自負があって、その8年間の自分の精神を3種類にめちゃくちゃ込めました」

予選ラウンド3位 稲とアガベ岡住 修兵さん「私たちが住む男鹿市は人口2万3,000人で、65歳以上の高齢者の割合が50%を超えていて、おととしの出生数が70人、2022年の出生数が58人と、なくなりゆく町でお酒造りをしています。

僕はこのクラフトサケを通して男鹿の町を未来につなぐ、そういった思いでお酒造りをさせていただいています。どうか今日は、その思いを受け取っていただき、ぜひ男鹿に来ていただけるきっかけにしていただければなと思います」

予選ラウンド2位 阿部酒造阿部 裕太さん「僕らの造っている日本酒は、決勝ラウンドに残っている方々と比べると、飲んだ経験があると思います。だからこそマイナスイメージというのも、あるのかもしれません。

僕はそういった日本酒のイメージをぶち壊したい。日本酒は味も香りも幅広いアルコール飲料ですし、世界に行ける『国酒』として非常に面白いと思っています。だからこそ今日は日本酒の蔵として、伝統産業の人間として、必ず勝ちたいと思っております」

予選ラウンド1位 haccoba -Craft Sake Brewery-佐藤 太亮さん「2つお願いがあって、1つは予選1位だったのでこのまま1位にしていただけたら。もう1つがすごく大事で、このアワードをぜひ皆さんの力で、ICCの定番企画にと本気で思っています。

昨日、予選が終わって夜遅い時間に、異種格闘技で戦ったみんなでテイスティングし合って、ここから新しい酒の産業文化を創っていける確信がありました。今日盛り上がるかどうかが、すごく大事だと思いますので、ぜひ一緒につくっていただけたらと思います」

この日の審査方法はシンプルで、審査員もオーディエンス審査員も6種類を飲み終わったあと、QRコードで「一番良いと思った酒」を投票する。4つに絞られる準々決勝は1〜4まで投票、2社となる準決勝では1〜2を選び、最終的に選ばれた2社で決勝となる。どの酒をどのタイミングで出すかは酒蔵次第というのは、前日と同じだ。

決勝トーナメントの開始前、ブース準備の手の空いていそうな時に、各酒蔵にお話を伺った。壇上や審査会で熱く語る彼らの、言葉の裏にある想いも聞いてみようと試みた。審査会で語られた言葉も合わせてご紹介したい。

阿部酒造「勇気を持ってアップデートできるところがうまい酒を造る」

予選ラウンドを2位通過した阿部さんは、今日は仲間を1人加えて決勝トーナメントに臨む。

阿部さん「まずはほっとしています。あれだけ多くの蔵が出ていたのに、ちゃんと残れたのはよかったなと思います。

僕らの日本酒は、今の“クラフトサケ”と比べて伝統産業なので、もっともっとアップデートできたり、味わいに幅ができたりする。それをやり遂げるためには、伝えるためには、やっぱり勝ち続けないといけないので、それを伝えられる場が増えたのはありがたいなと思いますし、ここまで来たら頑張って優勝したい。

今日は日本酒にしか出せないこだわり方、僕らのお酒は冷やしても飲めるし、温めても飲める。その面白さを皆さんにちゃんと伝えたいと思って『REGULUS』というお酒を用意をしています。

いろんな事業で結果を残している人たちに飲んでもらえる機会は非常にありがたいなとは思いますが、あまりそこは意識していないんです。あくまで一飲み手さんであり、その飲み手さんが最大限喜んでもらい、かつ僕たちを理解できるようにしっかり伝えればいいかなと思っています」

「稲とアガベ」の岡住さんは、師匠筋に当たるという話を先程聞いた。

岡住さん「僕、阿部さんの師匠です(笑)!」

阿部さん「麹造りの師匠です。僕らの業界は、オープンイノベーションというか、今の若い蔵は技術交流が非常にあって、僕がお邪魔させてもらった酒蔵に、米麹の責任者としていたのが彼だったんです。

うちは潰れる予定の蔵だったので、酒造りに関して何もアップデートされていなくて、何かを変えないと本当に生き残れないという危機感がありました。その時の技術交流の中で、『うちの蔵に来て色々見てもらったらいいんじゃない?」と声をかけてくれたのが秋田の酒蔵さんで、本当に感謝しかないです。

自分でPDCAを回してアップデートするのもいいですが限度はあって、秋田の蔵に行ったときは、斜め45°から脳天つつかれたみたいな感じでした。一番学んだのは、自分の考え方がいかに凝り固まっていたか。僕は異業種から入っていますが、考えも造り方も凝り固まっていたのを痛感しましたし、改めて酒造りを学ばさせてもらったんです。

もっとアグレッシブにいっていいんだなとか、自分はなぜ攻めた造りをしなかったんだろうと学びました。自分では攻めているつもりだったけど、井の中の蛙でした」

今や人気の蔵のひとつ、阿部酒造の六代目の阿部さん。現在は若手の育成にも注力して「haccoba」をはじめ、「wakaze」「 LIBROM」なども卒業生にあたる。それなのに当時の自分を隠すことなく語り、仲間たちと学び教え合い、手加減なしの競い合いに挑む。

阿部さん「それはめちゃめちゃいいなと思いますし、この決勝ラウンドに6分の4、米麹を原料とした日本酒とクラフトサケが残っているというのは、僕らとしては非常に嬉しいよねって話を昨日もしていました。決勝で日本酒界隈ではない蔵が2蔵いたら本当に悲しいから絶対に、必ず勝ちきろうと。

スタートアップのピッチもある場なので、“クラフトサケ”のほうが注目は浴びやすいっていうのはあるけれど……haccobaの佐藤にとっては師匠なので、黙って弟子に(譲る)とかも思ったんですけど、僕の役割は勝ち切ること、弟子に勝ち切ることにも意味があるとは思っています。

うちは日本酒のオーソドックスな蔵。昔からずっとあって、資金調達すらできないところからスタートで、本当に大変な状態、ある意味マイナスからのスタートっていう意味で言うと、僕も本当にスタートアップと近い状態でした。

別に“クラフトサケ”だろうが、日本酒蔵だろうが、結局は勇気を持ってアップデートできるところが、やっぱり美味しいものを作る。カルチャーを作っていくことを示すためには、僕ら日本酒蔵が勝たないと」

最後に阿部さんは師匠として、清酒製造免許が新規発行されないゆえに国内向けには「日本酒」を造れず、副原料と醸す“クラフトサケ”を造る仲間たちの蔵を思いやった。

阿部さん「彼らは別に“クラフトサケ”を造りたかったわけではない。ひたすら日本酒が好きで、日本酒を造りたいというめちゃめちゃ熱量のある人たちが酒蔵を作れない。こんなに悲しいことはないです。ただ酒を造りたいだけなのに、それすら達成できないのが、法律の壁なんですよ。

僕に関しては免許がある状態で家業に戻っているので、資金こそ大変でしたけど、ものづくりをすぐやることができた環境でした。だから僕らは全力を出さないと彼らに失礼です。ちゃんと結果を残さないといけないし、変なものを世の中に出しちゃだめだし、彼らより楽しんでものづくりしないといけないなと思います」

稲とアガベ「必ず決勝まで残って熱燗を」

稲とアガベの岡住さんは、決勝トーナメントの最初の酒として、ICCサミットでの出会いで生まれたコラボである「伊良コーラ」のコーラ粕を使った「稲とアガベとイヨシ」でチャレンジ。どぶろくの、もったりとした液体は審査員たちの好奇心を刺激している。

3人のクラフツマンと大きな収穫(伊良コーラ IYOSHI COLA 創業者コーラ小林note)

阿部さんの話の続きを聞いた。

岡住さん「僕が阿部さんの師匠なんですよ、だから、太亮くん(haccoba)は孫弟子。昨日の予選ラウンドのあと3人で話してたら、そういや、阿部さんの師匠、俺ですよね?って(笑)」

そこへ熱燗DJつけたろうさんが「マウント取ってない?」と入り、周囲から笑いが起こった。仲間同士のほほえましい小競り合いが始まっているようだ。「昨日の時点で孫弟子が1番なんて!」と、岡住さんはリベンジを決意した表情だ。

つけたろうさんは今日もまだ、熱燗をつける気配はなくどぶろくのグラスを並べている。一部の酒好きから、こそこそと「つけたろうさんだ、本物だ」という声が上がっているのに気づいているか?と聞くと「あらあ、光栄ですね」と笑顔だ。昨日は決勝トーナメントで熱燗をつけると聞いていた。何をつける予定なのか。

つけたろうさん「岡住君によれば決勝まで残れたら、つけるということなので」

今日は決勝に行くまで、トーナメント戦であと2回勝ち抜かなければならない。岡住さん、すごい自信である。

つけたろうさん「はい、あと2回あります。その先の、決勝です。彼は残る気満々なので。僕が仕事をできるかどうか、酒を注ぐだけで京都から帰るかどうかは、これからにかかっています(笑)」

haccoba「垣根を超えた自由な醸造スタイルの酒を」

佐藤さん「僕らhaccobaは、福島の小高、浪江と2つの町で酒蔵をやってます。両方とも原発事故で人口が1回ゼロになってしまったいわばフロンティアの地で酒を造ってます。そこで目指しているのが自立的な地域文化と自由な酒造りの文化をもう一度ゼロから再構築するということです。

僕らのお酒を一言で表現すると、垣根を超えた自由な醸造スタイルの日本酒です。今は家庭でお酒造りは日本で禁止ですが、昔は自由に造ることができました。その自由に酒を造っていた文化をもう一度取り戻すということを目指しています。新しい文化ではなくて、むしろ原点回帰であるととらえています。

これから飲んでいただくお酒は「Quelle est votre madeleine?」、haccoba LABというシリーズで、コラボレーションで造ってる”自由研究”です。

haccoba LABは自由研究のテーマが3つあります。1つは他のジャンルの飲料との融合という形で、ビールやお茶など色んな飲料と融合したものを造っています。もう1つが他の造り手さんからいろんな絞り粕などをいただいて、それを一緒にお米と発酵させるというアップサイクルのお酒を造っています。

3つ目は、味覚だけではなく、いろんな五感で楽しんでいただくお酒です。例えばアジカンの後藤さんとか、坂本龍一さんのやっている団体があって、音と一緒に楽しむお酒を造ったりとか、そんなことをやっています。

坂本龍一、アジカン Gotchら主催のD2021とhaccobaのコラボレーション。ライブイベント『D-composition』を5月22日に開催。(PR TIMES)

今飲んでいただいているお酒も、実は最後の五感で楽しんでいただく、香りがテーマのお酒です。香りのブランドのfragrance yesさんっていうところと、「off」という同じ香りのブレンドでお酒とキャンドルを造っています。

お酒を飲んだ後に、キャンドルの香りもぜひ嗅いでみてください。オレンジ、ベルガモット、ラベンダー、シナモンという同じ原料で、酒とキャンドルを作っています。香り方が全然違うのを楽しんでいただけるかなと思います。こんなふうに複合的な酒の体験をどう創っていけるかということを研究しています」

HINEMOS「ブランドが一番伝わる酒で勝負する」

1分スピーチで悔しそうな表情だった渡辺さんは「勝てる自信があったんですけど…、想像以上に苦戦してギリギリ6位」という。

渡辺さん「自信がないと、こんな商売はやっていられないです。自信はあったんですけど、この異種格闘技戦は……。ミードもいてワインもいて、蒸留酒もいて、クラフトサケもいて、クラフトビールもいて。こんなコンテストはないですよね。

だから想いとか色々審査項目があることは、まあその通りだなと。味だけだと難しいのは分かるんだけど、自由な造り方をしている最近のクラフトサケとか、ミードに比べて、僕らは原材料が米で、米以外にはみ出られない、その中で勝てたらすごいなと思いながら、昨日はめちゃくちゃ悔しい思いをしました。

改めて自分が日本酒で勝負してることの意味みたいなものを考えるきっかけになりましたね」

「HINEMOS」のメインターゲットは、ショッピングビルに来るような女性。かなり勝手が違ったのでは?と尋ねると、

「たしかにターゲットではないですが、皆さんウェルカムで、美味しいって言っていただいたり、その後名刺交換に来ていただいたりとか。男性ばかりとは思ったんですが受け入れていただいているというのはありました。マーケティング、ブランディングで1位いただけたので、僕らのやってることのご評価もいただけたのかなと思いますね。

昨日は夜の7時と夜の3時がコンセプトのお酒を出したんですけど、今日は夜の10時のお酒『JUJI(PM10:00)』を出します」

時間がコンセプトのお酒造り、酒と時間はどのように決めているのか。

「我々は酒を造る前に、デザインとコンセプトを先に決めます。夜10時のお酒は、夜10時はデザートタイムと定義して、メインディッシュが終わった後のデザートタイムにぴったりな日本酒です。例えば相性がいい食べ物で言うと、チョコレートとかチーズケーキ、チーズとか、そういったものとの相性が抜群にいい日本酒で、甘口と辛口が同居しているようなお酒です。

本当はもう少し後に出そうかなと思っていましたが、もうなりふりかまっていられない。このペアリング付きの10時が一番ブランドが伝わるかなと思います。

チョコレートのマリアージュを楽しんでいただいて、コンセプトをガチッと知っていただくってところが大事かなと思ってます。次は0時、6時と、まだまだ違いがあるというところを出していければと思います」

マルカメ醸造所「僕らには新しいカテゴリーを確立するチャンスがある」

マルカメ醸造所の北沢さんは、これ以上はないといういさぎよさで、原料は全く同じ、発酵時間を変えただけのりんごのお酒、シードルで決勝トーナメントに挑む。予選突破の自信はあったそうだ。

北沢さん「いやあ、みなさん自信はあると思います。やっぱり、お酒、日本酒関係がすごく強いですよね。

まだシードルは日本だと新しいジャンルで、市場ではカテゴリーそのものが全然確立されていない段階。それだけに僕らにはチャンスがあって、日本のリンゴ農家がちゃんとこだわったものを使ってお酒造りまで、リンゴでこんな美味しいものができるんだよっていうことを、1つのカテゴリーとして確立するチャンスがある。

シードルはイギリスやアメリカ、スペイン、フランスなど、すごく昔から親しまれているものなんですが、日本にはまだその定義がないんです。

何となくフランスのシードルっぽい味わいとか、スペインっぽい味わいとかってあるんですが、日本らしいシードルの味わいっていうのはない。だからこそ僕ら日本のリンゴ農家しか作り得ないような味わいを、手間をかけて、生で食べても美味しいリンゴを使って、ちゃんと美味しいお酒を造る」

北沢さんが考える日本らしいシードルの味とは?

北沢さん「新鮮な果実感ですかね。あとはタンニンとかがたくさん含まれているような味わいではなくて、スッキリ爽やかな味わい。寿司もそうですが、素材の良さをそのまま出すのが、すごく日本らしい食に対するアプローチだと思います。

日本のりんごは香りも違うし、美味しい原料を使って、その原料そのものの味わいをきちんと引き出した造りっていうのが、僕らが考える日本のシードル。日本でしか造れないお酒です。

飲んでいただいて、皆さん驚かれる感じはあったかな。こんなに果実感が強いリンゴのお酒はあんまりないので、すごくリンゴが感じられる味だね、という感想をいただきました」

ANTELOPE「自分以上にミードを勉強した人は、日本に絶対いない」

予選ラウンドを経て一番イメージが変わったのはアンテロープの谷澤 優気さん。クールに見えて最初は勝ち残りなど期待していなかったように見えたのに、審査員の激励で本領発揮、4位で予選を通過した。「とてもマイナーなお酒」と自ら言うミードを、試飲と熱血プレゼンで会場で認知度100%にした。

谷澤さん「まずめちゃくちゃ嬉しいのと、ミードっていうお酒を…こんないろんなジャンルの中で知ってもらったことも嬉しいし、評価してもらえたことが素直に嬉しいです。今後の業界の発展に繋がるきっかけになって、すごくありがたいですね」

谷澤さんたちが国内で初めてミード専門の工場を作っており、ミードを造っているのはほかに3社しかいないのだという。

谷澤さん「その中でも、発酵の科学のバックボーンがあるのは、僕達しかいないですね。酒のプレイヤーから出てるのは僕達だけで、ほかは養蜂の流れで作り始める人が多いので」

なぜ谷澤さんは、そんなミードに目をつけたのか。

谷澤さん「もともとクラフトビールの世界にドップリはまって、ビールの勉強をしていたときに、偶然ミードに出会ったんです。飲んだ時に、味わいの多様性に強く感動してしまって。クラフトビールは生ビール以外の選択肢だ、というのがすごい喜びだったので、ミードも同じように新しい選択肢だと喜びを覚えた。

本当にクラフトビールを造ろうと思ってたんです。でも、こんなに面白いお酒が世の中に広がらないのはもったいないなと思って、クラフトビールはもうすでにたくさん広がってるから、ミードを造るのは自分しかいないかなと」

酒造りに限らず、起業家に通していえるこの「見つけてしまった感」、自分しかいないという使命を帯びて、谷澤さんはミードの道へ向かった。

谷澤さん「僕にとっては不幸中の幸いで、そこでちょうどコロナが始まったんです。1年半ミードに没頭して、深掘りする時間ができたんですね。多分自分以上にミードを勉強した人って日本にいない。絶対いないんで、だから自分がやらなくてはと思ったんですよ。絶対自分が詳しいし、造り方も絶対に自分が一番知っている。

造りに関してはまだまだ不足してる部分が大きいので、別ジャンルから飛び込んできた自分が1つ成功例を作ったら、みんな挑戦できるんじゃないかなと思います」

先駆者の責任感をしっかり背負ってもいる。

谷澤さん「それは本当に走っていく中でだんだん身についてきた。うまい酒を造ってりゃ評価されるだろうと思ったんですけど、だんだんそれだけじゃないなっていうか。広げること、伝えることも同じくらい大切で、とても重要。そのきっかけを今回いただけたので、すごく感謝してます」

審査員たちの反応も上々だったのは、造るミードが、谷澤さんが初めて飲んだときの感動を伝えられているからだろう。

谷澤さん「もともと飲まれてた方は、おそらく伝統的なものを飲まれていて、スタイルが全然違うのでミードの味わいの広がりに興味を持ってもらえて嬉しかったし、初めて飲んだ人はすごく素直に、全然思ってた感じじゃない、おいしいね、みたいな感じだったんで、そうなんですよ!みたいな。

皆さんにすごく素直に臨んでいただけた。それはCo-Creationっていうか、少しでも斜に構えていると『なんだ、こんなもんか』ってなるんですが、すごく参加者の人に恵まれています」

知り合いにも恵まれていて、今回はhaccobaの佐藤さんによる紹介。haccobaで酒を造るみなさんも、アンテロープのファンが多いそうだ。

「今回出すのは本当に挑戦。ミードのあるべき姿のスタイルで出そうと思ってます。甘みにフォーカスした『MI CASA, SU CASA』、スペイン語で『あなたの家は私のおうち』っていう意味の名前のミードです。いけるんじゃないかと思います」

準決勝選出は「ANTELOPE」「haccoba」「マルカメ醸造所」「稲とアガベ」

すべての審査員が6つのテーブルの酒を飲み、投票した結果は、1位「ANTELOPE」2位「haccoba」3位「マルカメ醸造所」4位「稲とアガベ」という結果になった。

やった! haccoba勝ち抜き決定!

準決勝に進む4組は、嬉しそうな表情は見せるものの、昨日のように心からの喜びという感じではない。むしろ、勝ち抜いて当然という自信と、これからの戦いに気を引き締めるといった表情だ。ここで脱落した阿部酒造と、HINEMOSは審査員側に回る。

アンテロープ谷澤さんはhaccoba佐藤さんや、今回脱落したHINEMOS渡辺さん、その他次々やってくる審査員に1位通過を称えられながらも、まだ夢の中のような表情だ。

残念ながらここで脱落となった阿部酒造のテーブルには、獺祭の櫻井さんやファクトリエの山田 敏夫さんをはじめ、審査員が続々と集まってきた。熱心に阿部さんに話しかけている。

続いて準決勝に進出した4組は、どんな酒で勝負したかを、ご紹介しよう。

ANTELOPE「久美子」

「今回はブルーベリーを使ったミードです。ブルーベリーと蜂蜜と水だけを混ぜてワイルドな発酵をさせました。ワイルドな発酵をさせると野生的な味わいも出るんじゃないかとよく思われるんですけど、もう本当に振り絞って、なるべくクリーンな味わいにしてみました。

このミードは『久美子』といいます。工場から歩いて約10分のところに畑がある、無農薬で何十年もやってる久美子さんっていう人が作ってるブルーベリーです。

『サザングッド』という酸味の強い品種で、完熟より2週間前の方が酸っぱくてお酒に使えるんじゃないか?と、ある日久美子さんから電話がかかってきて、2人で協力して摘みました。それぐらいめちゃくちゃ農家さんの想いもつまっています。

さきほど、ミードはお酒の選択肢に普通に入るねって言われて、めちゃくちゃ嬉しくて、本当にそういう世界を本気で創ろうと思ってます。

いろいろなフルーツを使って味が作れるし、スパイスを入れても面白いし、これがワイン樽じゃなくて、バーボンならまた違う味になるし、いろんな可能性、いろんな種類があるのがミードの面白さ。でもやっぱりまだまだプレイヤーが少なくて、自分が引っ張って業界を発展させていきたいと思っています。

ミードが発展するともう1ついいことがあり、養蜂家さんも今世界ではどんどん減ってきています。ミツバチが減ると、農作物も減って農家さんも困ってしまいます。僕らみたいなミードのプレイヤーが国内で増えてきたら、僕らもやっていますけど、養蜂をやってみようっていう気持ちになります。

廃れてしまった農村とかでも養蜂が始まって、もう1回養蜂する農家も出てこられるはずなんです。それぐらい、農産業も巻き込めるし、これからの若いお酒の世代も絶対巻き込めると信じているお酒です」

haccoba「カカオの夏休み」

審査が始まる本当にぎりぎり直前に、審査用の酒を注いだ佐藤さん。準備が押していたわけではない。酒を最高の状態で楽しんでもらいたいという想いから、温度まで細部にこだわり尽くしている。

佐藤さん「次に出すお酒は、カカオハスクのアップサイクルをテーマに造っているお酒です。先程に続き、垣根を越えたコラボレーションによる自由研究のお酒です。

ダンデライオンさんというチョコレートブランドと一緒に、僕らの酒粕で彼らはデザートを、逆にハスクを僕らがいただいてお酒を作るという物々交換をしています。酒粕のガトーショコラも一緒にお召し上がりください」

チョコレートを作るときの原料であるカカオ豆の種皮の皮、カカオハスク。その酒にカカオの味はあるのか?チョコレートの気配を探すように、「カカオの夏休み」に向かい合う審査員たち。

佐藤さんは「もし、決勝に行けるなら最後は僕らhaccobaの原点である「花酛(もと)」のお酒を出します!」と、日本の山に自生するホップ「唐花草」を使ったメインプロダクトを出すことを予告。勝負から降りる気はない。

マルカメ醸造所「MARUKAME CIDER 辛口」

北沢さん「今、お注ぎしたのが、先ほど飲んでもらった甘口をさらに発酵させて糖分ゼロになるまで完全に発酵させたキレッキレの辛口です。これ、さっきの甘口と全く使っている果汁自体は一緒です。それがこんなに幅のあるお酒造りができるのが、シードル造りのすごく面白い部分です。

昨日と今日飲んでもらったシードルは5種類のリンゴの果汁です。ちなみに国内にどれぐらいのリンゴの品種があるかご存知の方いらっしゃいますか? 実は2,020あります。

じゃあその約2,000品種からどう特性を持ったリンゴを何種類選んで、どのブレンドで、比率で、組み合わせたらどんなお酒になるんだろうっていうのをやってると、もう無限に選択肢があるんですよ。そこがシードル造りの面白いところです。

せっかくなので今日は皆さんに飲んでいただいたシードルで使ってる品種をご説明します。まずは一番有名な、蜜が入った完熟のふじ、これは蜜の香りを足しています。深く探ってもらうと感じると思うんですが、実はリンゴの蜜の香りは、日本酒の吟醸香、吟醸酒の香りとかなり似たエチレン系の成分が含まれています。

そして王林っていう極めて香りのいい青リンゴ。これは香りが出るまで完熟させてから収穫して、甘くて濃厚な香りをベースで造っています。あとはピンクレディーという、日本でまだ30数軒しか生産者がいない、はっきりした酸味と香りを持つ品種とグラニースミスという爽やかな酸味を持っている品種、はるかというかなり甘い香りを持った黄色系の品種です。

今回はこの5品種をブレンドしたものですが、がっちり決まっているわけではないです。僕らは立ち上げて4年目に入った醸造所なので、おそらく来年は味が変わってくると思います。

ワイン屋さんと違って、木樽は一切使いません。リンゴは極めて繊細な香りなので、少しでも雑菌が入って汚れてしまったらすぐ洗って取り換えられるような、新しいプラスチック樽を採用しています。僕らの目指すのは生のリンゴをこういう形でお酒の出荷につなげて、旬の味わいをガチっと固定した状態で皆さんに味わっていただくことなんです」

稲とアガベ「稲とブドウ(つけオーク樽貯蔵)」 

勝負師岡住さんは、まだ熱燗DJつけたろうさんを温存している。4位という順位に甘んじながら、熱いトークで訴えかけた。

岡住さん「一口だけ飲んでもらえますか? 引き続き我々の未来について説明させていただきますと、お酒は地域の名刺代わりに日本中世界中に旅立ってくれる存在です。お酒を通じて男鹿という町を知ってもらいたいと思っています。

先ほど申し上げたとおり、男鹿は人口減が続いている町です。この町に来てくれるようなきっかけになるようなお酒、そういうお酒を魂込めて造っている、願いを込めたお酒造りです。

今お出ししたのが『稲とブドウ』という、米と麹とブドウを一緒に発酵させたお酒です。甲州品種のブドウ、ブドウ単体では絶対この味にいかないです。米と麹を一緒に発酵させたから、こういった味わいに繋がっています。こういったことを大事に、我々クラフトサケを造らせてもらってます。

ワインじゃ絶対いけないところを日本酒技術でもっていく、そういうことを大事にしてます。おつまみとしてお配りしているのが、ミントのポテサラでして、ポテサラの中にはですね、酒粕のマヨネーズが入っています。

これを我々『発酵マヨ』という名前で販売しています。ポテサラを食べた後にお酒を追っかけてください。そして、口中調味という形でペアリングしてください。かなりマッチするかなと思ってます。

せっかく興味を持ってもらっても、今は空き家だらけで男鹿の市内はコンテンツが不足している状態です。ここのシャッターを開けていくことを、お酒造りと同時並行で我々チャレンジさせてもらってます。

具体的には男鹿の食材や、発酵料理、稲とアガベのペアリングを提供する「土と風」というレストラン、あるいは先ほどの発酵マヨを作っている食品加工場も近くです。ラーメン屋も今年の8月に始めまして、実は一風堂さんが監修してくれた塩ラーメンをやってます。平日100人ぐらい並ぶような行列店になってきています。

全く人通りのない町でしたが、1年間で少しずつ人通りが出てきました。まだまだチャレンジしないといけないです。向こう1年で蒸留所を作り、ホテルも作る計画です。全部具体的な計画として進んでいます。ぜひ今日をきっかけに男鹿を知っていただいて、遊びに来てください。歓待させていただきます」

「飲むたびに、投票したい蔵が変わってしまう!」

11組あった前日を考えると、4組の審査会は早い。審査員グループは6組あり、飲まずに待機しているグループもいる。そのタイミングで話を聞いた。今日はどこが強そうか? 立ち話をしているFar Yeast Brewing山田 司朗さんとヤッホーブルーイング森田 正文さんさん、温泉道場の山﨑 寿樹さんに聞いた。

「いろんなタイプがあるので、比べられないですよね。昨日から準々決勝と準決勝でちょっと変わったんですよね」

「準決勝は違うところに入れました」

「どこが良かった?」

「準々決勝と準決勝で、変えた」

「ほんとにそうですよね!」

「昨日の予選とも全然違うし」

「優劣じゃないんですよ。好きというのと、ワクワク感、こう来たか!感。この味?みたいな」

「準決勝はANTELOPEさんがイチオシ」

「阿部さんが準決勝で出そうとしてた酒が…」

「あれは、うまかった、本当にうまかった!」

「この4つの中で自分的には一番旨かった」

「うまかったなぁ。あれを最初に出していればなぁ」

「あの泡ね、本当にうまかった…」

審査員は贔屓の蔵があったとしても真剣に「酒単位」で評価をしようとしており、他の方々に聞いたときにも「昨日と今日で投票したところが変わった」と言っている人が多かった。最高の酒であっても、他の蔵が出す酒との兼ね合いで勝敗が決まってしまうことがありえる。

そんな話をしているうちに、集計が終了して決勝進出の2組が発表された。準決勝を勝ち抜いたのは、ANTELOPEと稲とアガベ。それぞれガッツポーズを見せた2組は、ICC小林とハグ。

いつもにこやかなhaccobaの佐藤さんは、脱落にショックを隠せない表情だ。一方マルカメ醸造所の北沢さんは、やりきった表情で岡住さんと固く握手を交わしている。ここまで比較的、低順位で勝ち抜けてきた岡住さんは、信じられないといった表情で天をあおぎ、うろうろと歩き回っている。

一方熱燗DJつけたろうさんはしばらく前から、勝ち抜けを確信していたかのように、器を温め始めていた。

決勝対決は「ANTELOPE」と「稲とアガベ」

ANTELOPE出品酒:「DEEPSEEK Bourbon Barrel-Aged Mead

1位通過した谷澤さんは、叫ぶように審査員たちに伝え始めた。

「ミードは北欧の蜂蜜とフレンチオーク樽で作るのが一般的ですが、僕らは南国のハチミツとバーボン樽で造りました。ミャンマー産のハチミツと水だけ。最後は本当に何も使ってない蜂蜜と水と酵母だけのミードです。

ちょっとシェリーっぽいというか、青リンゴみたいな匂いもフレッシュにあるし、バターみたいな匂いもあるし、これはバーボンのバレルからじゃないと出てこないんです。

北欧のミードは甘みがめっちゃ強くてフィニッシュがしまらない。ミャンマーの蜂蜜は温かいところで採蜜されて、食用だと苦くて評価が低く一番美味しくない蜂蜜と言われています。でもお酒にしてあげると甘みの中に柔らかくしまりを与えてくれるんで、僕らのこのミードは食中でもいけるし、いつでもいけます。

今までのミードは食事に合わないと言われていましたが、滋賀の漁師さんがブラックバスと合わせてくれたりして、白身魚と合わせることもできる。色々伝統的なミード造りを否定して造ってきたけれど、自分でもこういう(オーソドックスな)ものができるという一つの挑戦です。

『稲とアガベ』さんは男鹿だけど、僕ら東京生まれで育って、大学で京都に来て京都で造りたいと思ったけど、家賃の安い場所が見つかって滋賀でやっています。

でも僕は、岡住さんに負けないぐらい今は滋賀がめっちゃ好きです。なぜかと言うと、こんなよくわからない酒なのに滋賀の酒屋さんは最初からめっちゃ応援してくれて、ミードだからではなくて、滋賀人だからと教え合ってくれて、そんな酒屋さんたちにずっと支えてきてもらっているんです。

昨日、予選通過しましたと伝えたら、いろんな飲食店さんや酒屋さんから、ようやくだね、ようやくミードが広がり始めそうだねと言ってもらえて、もう本当に嬉しくて。語呂合わせで3月10日がミードの日というのですが、それよりも今日がマジで、ミードが生まれる日だと思ってます。

皆さんの気持ちを一身に受けて、絶対に広げられると思います。養蜂産業もミード産業も、これから絶対自分が日本で引っ張っていきます。皆さんに約束します。80歳になっても現場に立ってやるって約束します。だから、マジで滋賀、みんなのためにも一票欲しいです。よろしくお願いします」

稲とアガベ出品酒:「稲とアガベ OGAラベル

ついに熱燗DJつけたろうさん始動で吠える!

岡住さんも負けてはいない。こんなに力が残っていたのかと思うほど熱く語り始めた。つけたろうさんが熱燗を配り始める。

「僕の夢の話をさせてください。

僕には夢があります。伝統的な日本酒造りは、戦後70年間、新規参入が認められていない状態です。日本酒は需給調整要件でありまして、需要が落ちているから新規は認められませんというのを戦後70年間、ずっと続けている業界です。

僕はこの戦後70年間の壁を突破した初めての醸造家になる、そういう思いで5年間ずっと動いてきました。熱燗飲めますか?(笑)お待ちください。今日は最高の熱燗を作っていただきました。

決勝に用意した酒ですが、アガベシロップが少し入ったお酒です。我々は日本酒味の、でも日本酒と呼べないお酒として造らせてもらってます。どういうことかと言いますと、アガベシロップが少量しか、味に影響ない程度にしか入ってません。もし僕が日本酒を造ったらこういうお酒になるというものとして造らせてもらってます。

我々はこれまで、その規制を突破するためにずっとチャレンジさせてもらってきました。

具体的には、昨年男鹿市と一緒に内閣府さんに国家戦略特区の申請をさせてもらいました。今国が動いてまして、参入規制の突破に向けて国が動いて我々のチャレンジをサポートしてもらってる状態です。

男鹿の町に、もし国家戦略特区になればですね、酒造りしたいプレイヤーが集まってきてくれると思ってます。そのプレイヤー達にですね、我々は酒造りの場を提供したり、資金到達を提供したり、空き物件を提供したり、こういうふうにして酒蔵を一つ一つ男鹿の町に増やしていきたいんです。

新興の酒蔵がいっぱい集う町、そういう町にすることで男鹿の町が今、僕たち2年間でコンテンツを作った上に、文化っていう大きな柱ができると思います。こうすると、もしかしたら100年先も200年先も男鹿の町が未来に続くかもしれないです。

そういう覚悟で今、チャレンジしています。このお酒、近い未来のSAKEアワードにおいては日本酒と言わせてもらえるように頑張りますのでよろしくお願いします」

ANTELOPEも稲とアガベも、甲乙つけがたい味と味、想いと想いの戦いとなった。審査員をつとめたMakuakeの中山さんは「話を聞いているだけでも涙が出てきそうだった」と言ったが、それはうまい酒のみならず、造り手の人生をかけた想いまで五感で受け取ったからではないだろうか。

勝負の行方は…

発表を待つ岡住さんのこのときの心境は、「もう負けても良い」だったそうで、このときの想いをXで綴っている。

岡住修兵|稲とアガベ|男鹿まち企画|代表 |クラフトサケを文化に(X)

オフィシャル審査員とオーディエンス審査員による投票の得点はANTELOPEも稲とアガベも同数だったという。そこでオフィシャル審査員の点数が高かった稲とアガベが、初代優勝となった。

2日間のハードなアワードを走り抜いた谷澤さんと岡住さんはがっちり握手した。このときは得点の内訳はふたりとも知らないはずだが、お互いへのリスペクトが見えるような、固い固い握手だった。

このアワード誕生のきっかけとなった岡住さんが優勝となり、ICC小林も感激の表情。すでに裏で始まっているCo-Creation Nightに出席しないといけない時間だというのに、まだ会場に残って岡住さんのスピーチを聞いている。

「皆さんありがとうございます。(小林)雅さん、ありがとうございます。やったあ……!

1年前のクラフテッド・カタパルト、この会場、場所で、頭真っ白になって声が出なくなって、それが悔しくて1年間ずっとチャレンジしてきました。そのチャレンジを今日3回のプレゼンテーションで全部出し切ったので、全然悔いがなかったです。なので多分、笑顔でこの場所に立てたことを僕は誇りに思います。

このSAKE AWARD、むちゃくちゃ楽しかったです。審査員の方々にもお酒造りやられてる方いらっしゃると思います。ぜひ次回一緒に登壇いただいて戦いましょう! よろしくお願いします!」

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【速報】新企画「SAKE AWARD」、初代優勝は秋田・男鹿のクラフトサケ醸造所「稲とアガベ」(ICC KYOTO 2... 「ともに学び、ともに産業を創る。」エクストリーム・カンファレンス 「Industry Co-Creation(ICC)サミット KYOTO 2023」(2023年9月4日〜9月7日開催)、9月6日に新企画「ICC SAKE AWARD」(Sponsored by ICCパートナーズ) の決勝トーナメントが開催されました。11の酒造が参加し、酒のスペシャリストや酒を愛する審査員たちが2日間にわたって投票を行った結果、決勝トーナメントで「稲とアガベ」が初代優勝に輝きました!

結果速報の記事のアイキャッチ写真となった岡住さんの力強いガッツポーズの写真は、実は上のスピーチの「次回一緒に登壇いただいて戦いましょう!」のときのもの。ディフェンディングチャンピオンとして次回再び参戦するのかは現在未定だが、1年前のカタパルトが全く別人のように、岡住さんは最後まで力強く語った。

ちなみに準優勝となった谷澤さんも後日、このポーズに敬意を表して後日インスタグラムにこんな投稿を上げている。谷澤さんも今回のSAKE AWARDを唯一無二の存在感で盛り上げた立役者の1人で、たくさんのファンを作っていった。

antelope_honeywine(Instagram)

決勝トーナメントは3時間11分、盛り上がりすぎて破格の長丁場となったが、挑戦者を称える大きな拍手に包まれて、最後は決勝トーナメントまで残った6人が壇上に上がり、記念撮影となった。

「たぶん世界で一番熱い酒コンペティション」

感激と興奮が残っているのか、アワードが終了した直後の岡住さんは、まだ震えていた。

「僕は起業して2年とちょっとになるんですけど、本当に多くの人たちに支えられて今の僕があると思っていまして、少しみんなに恩返しできたかな、そういうふうに思ってます。

SAKE AWARDの第1回で優勝させていただいたので、この我々のお酒を、ただ男鹿のPRのために使うのではなくて、世界に知らしめる責任が出てきたかなと思っています。僕たちは今まで男鹿の船川地区のためにずっと頑張ってきましたが、ICCをきっかけに世界にチャレンジする、そういうグローバル企業を目指していきたいと、強く思います。

4回のプレゼンテーションで情報を小出しにしながら、優勝することを目指してきました。だけど、僕1回も予選から1位を獲っていないんですよ。1回も獲らずに最後1位なんですね。もうずっと心折れそうになりながら、でも絶対この道は優勝に続く道だ、そう信じてプレゼンテーションしてきました。

次回こんな綱渡りだと少し不安なんですけど、でも次回もぜひチャレンジさせていただきたいなと思える、楽しいアワードでした。

たぶん世界で一番熱い酒コンペティションですね。こんなに最高な舞台は無いです。とにかく会場の審査員の方々と一体になりながら熱く燃えた、そんなコンペティションでした。こんなコンペほかに無いです」

「造り手の皆さんが、一番大きなものを得られる」

「岡住の背中を押す手がたくさん見えた、その差だったんじゃないか?」と庄島さん(写真右)

優勝の盃を贈った住吉酒販の庄島さんは、業界のプロでさまざまな品評会などにも出席しており、ICCの酒関連のイベントでもずっとお世話になっている。今回のSAKE AWARDをどう観たのか聞いた。

「酒の業界でこの種類の感動を味わったこと無かったので、ICCならではというか、もうICCにしかできないアワード。酒を本当に皆さんに知ってもらえる、ありがたい機会でした。

ICCならではというのは、こだわるところはこだわり、こだわらないところはこだわらないところ。3分間で次のテーブルへとか、そういったルールや運営するところは細かく繊細にやっていただきつつ、僕らの業界だと、別の酒を比べるなんてタブーみたいなところはあるけど、そこはもう横並びで一緒というのに驚きました。

おそらく今回出場した、酒造りしている造り手の皆さんが一番大きなものを得て今回帰るんじゃないかなという気がします。

今回すべてのお酒はただ美味しいというだけじゃなくて、地域を守るためとか農業を守るためという、お酒造りを通してしかできないことを実現しようとしている。それがこれからの時代に必要なお酒造りなんだなというのを再確認しましたね。

ICCにいる時間すべてが、ともに産業を創るというモチベーションとなっているのですが、お酒でまさか、こういったきっかけをいただけるとは思っていなかったので、本当に感謝しています」

◆    ◆    ◆

ICCサミットで4つ目のアワードとなったSAKE AWARD。フード&ドリンク同様、うまさが第一義ではあるものの、造り手の直接の声、想い、背景、描く未来像まで聞くと、応援せずにはいられない気持ちになる。想像できないほどの真剣なドラマと感動もあった。正直アワードが始まるまでは、こんなに白熱した勝負が見られるとは思わなかった。

カタパルトでの登壇では一様に寡黙なイメージがあった酒の造り手たちが熱く語り、躍動するSAKE AWARD。「次の開催は、新しい酒ができる1年後に」という真摯なリクエストが造り手たちから上がったが、こんなに盛り上がるアワードを年1回開催にできるだろうか? 初めてにしては十分すぎる手応えを得た、第1回SAKE AWARDであった。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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