これまでに配信した、組織づくりに関する議論を総特集いたします。今回は、ICCカンファレンス TOKYO 2016から、「世界で勝負するチーム・マネジメント」の記事を再編集して4回シリーズでお届けします。
組織づくり特集2(その1)は、世界で活躍する人のマインドセットについて議論しました。日本ラグビーフットボール協会の中竹さんの話す2種類のマインドセットに注目です。ぜひご覧ください。
ICCカンファンレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回ICCカンファレンス FUKUOKA 2017は2017年2月21〜23日 福岡市での開催を予定しております。
登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 4C
「世界で勝負するチーム・マネジメント」
(スピーカー)
中竹 竜二
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター/
株式会社TEAMBOX
代表取締役
本蔵 俊彦
クオンタムバイオシステムズ株式会社
代表取締役社長
山口 文洋
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
代表取締役社長
(モデレーター)
彌野 泰弘
株式会社Bloom&Co.(株式会社ブルーム・アンド・カンパニー)
代表取締役
本記事は以下の記事を再編集した記事となっております。冒頭の自己紹介を含む全文は以下の記事をご覧ください。 「グロース・マインドセットの人材は世界で活躍する」
海外でうまくいく人といかない人の違いは何か?
彌野泰弘氏(以下、彌野) 彌野です。よろしくお願いします。
彌野 泰弘 株式会社Bloom&Co.(株式会社ブルーム・アンド・カンパニー) 代表取締役 約9年間に渡り、P&G社にて日本、および、海外市場に向けたマーケティング担当。日本、シンガポール、ジュネーブにて、多国籍なチームメンバーとマーケティング戦略の策定・実行の指揮を取る。 2012年1月にDeNAに入社。執行役員 マーケティング本部 本部長として、パフォーマンスフォーカスのテレビCM、デジタルマーケティング、戦略PRなど、クロスメディアでの360°統合マーケティングを推進。手がけたCMの本数はネットサービスだけで100本を超える。 新規サービスのマーケティング視点での開発支援(コンセプト強化、UI/UX強化、集客機能の強化)や、DeNA社のコーポレートブランディングのために、DeNA社のロゴの刷新やグローバル拠点の名称統一、DeNA社のスポーツ事業を活かしたスポーツマーケティングも含め、全社のマーケティング活動を統括。2015年4月に株式会社Bloom & Co.を設立。ナショナルクライアントに加え、スタートアップ企業のマーケティングやブランディングを支援
私自身も海外に行きましたが、海外でうまくいくメンバーとうまくいかないメンバーがいると思いました。日本人が海外でうまくいかない場合、その課題や原因について考えられることはありますか?
本蔵 私はまだ成功しているわけではないので、これからうまくいくように努力をしているという立場でしかお話ができないと思うのですが、スポーツでも事業でも、やはり成功するためにはよいチームを作ることが基本原則だと思っています。
本蔵 俊彦 クオンタムバイオシステムズ株式会社 代表取締役社長 東京大学理学系大学院卒業後、同大学特任助手としてヒトゲノム解析研究に従事。その後、研究と事業の橋渡しの役割に惹かれ、ビジネスの世界へ転身。国内証券会社にてバイオ関連セクターのアナリスト、外資系コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーにて製薬・ヘルスケア関連プロジェクトに従事した後、政府系投資ファンドの産業革新機構ではライフサイエンス分野の投資および投資後のハンズオンマネージメントに従事。ライフサイエンスを軸とした経営支援、投資事業分野の経験をもとに、2013年1月に革新的DNAシーケンサーの開発に挑むクオンタムバイオシステムズ株式会社を設立し、現在はシリコンバレーを中心に活動。コロンビア大学MBA
優秀な人の気持ちになって考えてみると、優秀な人ほど選択肢がたくさんあるわけで、なぜ自分がその会社に入らなければならないのか、なぜこの日本人の作ったこの会社に入らなければならないのかと考えるわけです。
ですから、リターンというか利益のことだけではなくて、本人が時間を使う価値があって、大きなインパクトのあることができるんだということを現実的に想像できるくらいにまで、経営者のやりたいことや会社の方向性をしっかりと伝えることが、よいチーム作りや人集めでは最も大事なことではないかと思っています。
そういう意味では、言い古された言葉になるかもしれませんが、非常に壮大なビジョンを、しっかり自信を持ってみんなの前で言い続けること、これが、日本人が向こう(海外)に行ってよいチームを作り勝つために、非常に大事ではないかと思っています。
日本でももちろん人集めはしています。その時に強調しなければならないのは、スタートアップではありますが、「リスクはありません」つまり「潰れないので大丈夫ですよ」とか、そちらの方ですね。
一方で、グローバルにいく時には、こんなすごいことができるんだ、こんなリターンがあってこれができたらすごいと思いませんかと、そこを強調しないと人が集まりません。
日本は逆で、あまり大きなことを言うと、そんなことができるわけがないとか、失敗したらどうするんだと。
「リスクなんてないんだ」ということを強調しないと、なかなか大企業からは人が来てくれないということをすごく感じます。
ですから、日本でそういうマインドセットで活動をしていて、そのままのやり方で海外に行くと、「誰もができそうな安全なことをスタートアップでやらなければならないのか?」とか、「そもそもスタートアップってそうではないでしょう?」という話になってしまうので、日本の企業が向こうで成功確率を上げるためには、壮大なビジョンと、それを言う勇気が必要だと思っています。
彌野 明確に言えるのは、欧米の人が実利的なリターンを明確に求めるということでしょうか。
どうしても日本人は比較的、それがやれたらいいかもしれないといったミッションやビジョンみたいなところとか、会社のスローガンに対して心を揺らしてくれると思いますが、海外に行ったら、実質的に金銭的なリターンや、自分の思っているオプションの中でベストかどうかということがすごく求められると思いますね。
本蔵 そうですね。あくまで僕の意見ですけれども、そういう意味では、結構ビジョンというか、金銭的なリターンの細かいもの以外を大事にする方が多いという感じがしています。
つまり、もちろんストックオプションがどうかとかいう話にもちろんなりますけれども、ただ、それだけでは優秀な人は来ないということです。
自分の時間を使う価値があって、やる価値があるんだという共通した思いみたいなものは、日本人、海外の人に関わらず、優秀な人はすごく持っているのではないかなという気はしています。
彌野 それって、教育やバイオなど、ミッションの度合いが高いカテゴリーだとよくあるのかなと思うのですが、かなりビジネスによってくるものだと効きにくい場合もあるのではないでしょうか。
スポーツ業界はまた全く形が違うと思いますが、日本の選手で一人で行く場合とチームで行く場合があると思うんですが、うまくいく選手といかない選手でその辺の差はあるのでしょうか?
どのような「マインドセット」が世界で必要か?
中竹 僕自身も、どうセレクションするかということが、今、一番の悩みです。
中竹 竜二 公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター 株式会社TEAMBOX代表取締役 1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。レスター大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育む」という自律支援型の指導法で多くの実績を残す。日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開したひとり。現在は日本ラグビー協会コーチングディレクター(初代)として、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力する一方、ラグビー界の枠を超え、民間企業、地方公共団体、教育機関、経営者団体等、各方面から分かりやすく結果を出す講師として講演・研修・セミナーなどへの出演依頼多数。2015年はU20日本代表ヘッドコーチを務め、ワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たす。2014年に株式会社TEAMBOXを設立。次世代リーダーの育成・教育や組織力強化に貢献し、企業コンサルタントとして活躍中。
U20のチームは6月に本大会があるのですが、2016年3月の遠征は、誰が世界と戦えるかを見るところだったんです。
去年も試みたのですが、去年もやはり見抜けなくて、本大会前に入れ替えをやったわけですよ。僕の経験の中から見えてきたことは、マインドセットが非常に重要だということです。
人間は、そのマインドセットによって大きく二つのタイプに分けることができます。要するに、自分の能力、人の能力、他者も含め、能力はそもそもあまり変わらない、生まれ持った能力がその人を決めるというフィックスト・マインドセット(Fixed Mindset)か、人は努力次第でいつでも変われると考えるグロース・マインドセット(Growth Mindset)か。
そして、面白いことに、ポジティブなんだけれどフィックスト・マインドの人もいるわけですよ。ネガティブなんだけれども、自分も含め人はみな成長するんだ(グロース・マインドセット)と考える人もいます。
これは全く違って、何が変わるかというと、フィックスト・マインドセットの人は、自分の能力を証明したがるんですよ。当たり前ですよね。能力は変わらないから。
そして努力を軽視するわけですよ。人が見なかったら努力しないわけですよ。けれども、グロース・マインドセットの人間は、失敗しても絶対にそこから学べるんだと思うから努力するわけです。
被験者を2つのグループに分けて実施した面白い実験があり、フィックスト・マインドセットの子供達は、何度もパズルをやらせると同じパズルしかやらないんですよ。
要するに、解けるパズルしかやらないんですけれど、グロース・マインドセットの子達は、難しいパズルをどんどん選んでいくんですよ。
一回やったものは面白くないんですよ。実はこれ、親や先生の褒め方も影響していて、結果だけ褒められる子供はフィックスト・マインドセットになりがちですよね。
要するに、うまくいっても、「お前すごいね!」ではなく、「よく頑張ったね。」と言って育てるとグロース・マインドセットになるんです。
僕自身、今回のフィジー遠征でも気づいたのが、フィックスト・マインドセットの人は、失敗しそうなエリアに入り込まないんですよ。
いわゆる「オープンフィールドプレー」において、自分が行っても相手を止められないと思うと、フィックスト・マインドセットの人は行かないんですよ。
抜かれるから。
けれど、グロース・マインドセットの人は、行くけれど、自分なんて役に立たないかもしれないけれど、チームのために行こうと思うわけです。
ここを見抜けるかどうかが重要で、僕は何度も何度もビデオを観て、「こいつはやっぱりこれ、ここで抜かれたふり、行けないふりをしているよね。」とプリテンド(ふり)している人間を探し出して、それをみんなの前でビデオを見せ、エースと呼ばれてみんなから評価されていた選手を指摘しました。
僕は絶対怒らないで、「これどう思う?活躍しているところだけみんなは評価しているかもしれないけれど、お前達気づいているでしょう?こいつ大事なところで逃げるんだよね。
このチームはこういうのを許しちゃいけないよね。」というような振り返りを何度もしていって、全員のマインドをフィクストからいかにグロース・マインドに持っていくかというのを相当やりましたね。
ですから、失敗するしないとかよりも、失敗から学んで成長できるかというマインドを持っている人間は、海外で活躍できるのではないかと思います。
国内で活躍する人間というのは、情報を豊富に持っていて、相手が分かり相手も自分のことを知って、実績を上げれば上げるほど優位になっていくんですよね。
要するにずっと有利な状況を作れるわけですが、海外に行ったら、どんなに自分がすごくても相手は自分を知らないわけで、環境も変わり、審判も違い、アウェーだとわざとロッカールームの時間を減らすために、当日にバスが来ないことなんかもあるんですよ。
そんなときにパニックにならずに対応できるかということを考えた時に、自分はここからでもできると思える、このマインドが必要かなということを、2年目にして改めて感じましたね。
彌野 面白いですね。スポーツもそうですし事業もそうだと思いますが、成長し続ける組織というのは、すごく強いじゃないですか。
そのフィックスト・マインドセットの人を変えていくきっかけというのは、みんなの前で見せるというやり方もあると思うんですが、他にどういった工夫をされていますか?
それと、フィックスト型の人が、どのように変化して、成長できる自信や成長する意欲を持てるようになるのかというところに、とても興味があります。
マインドセットを変えることはできるのか?
中竹 僕はコーチを教えるのが専門なので、コーチに言うんですけれども、コーチが持っているノウハウをいかにオープンにできるかが勝負だと思うんですよ。
何かというと、こういった2種類の人間がいるのを隠しながら「こいつをこうしよう」とするよりは、フレームを作った方が早いので、そのプレゼンを先にするんですよね。
要するに、「人間はフィックスとグロースの2種類いるんですよ」と。
そしてこれを基準に僕はチーム作りをします。全員がグロース・マインドセットになるようなチーム作りをしていくというビジョンを最初に掲げておいて、自分の失敗を隠そうとする「フィックストな」人は、この組織においてはバツが付きますよというルールを伝えます。
とかくあまりノウハウを出さずに、思いや直接的な指導だけになりがちですが、こちらが考えている作戦や戦略や理想は全部伝えた方がいいですね。
僕自身が、今、日本のコーチを変えようとしているのはこの点なんですよね。「アカウンタビリティー(Accountability)」という言葉がありますよね。
説明責任のこですが、日本で使われている説明責任は、何か事件が起こった後のアカウンタビリティーですけれども、先に我々はこういうことをやりますよと説明することが、本質的なアカウンタビリティーです。
僕自身、それをコーチには導入すべきだと思っていて、作りたいビジョン、もっていく手法、これを最初に示すのが有効的だと思いました。
彌野 海外でうまくいくのは、基本的にはグロース系の人なんでしょうか?
逆にフィックストだと難しいという話なのか、組み合わせで両方いた方がいいとか、その辺はどうなるんでしょうか?
中竹 短期決戦で成果を出し続けなくていいのだったら、フィックストだけで能力の高い人間の方がいいかもしれないですけれど、勝ち続けたり、何度も失敗を繰り返すと分かっているツアーなどであれば、絶対にグロースの方がいいです。
むしろフィックストはいない方がいいと思います。
彌野 それも、トレーニングの仕方によってはフィックストからグロースへの進化もでき得ると?
中竹 でき得ると思います。
彌野 なるほど。
中竹 これは研究でも言われていることですが、指導側が、フィックストの人間はそもそもグロースにならないんだと言っている時点で矛盾が起こっているんです。
要するに、「グロース・マインドがいい」と言っていながら、フィックスの人間は変わらない、この人の能力はもう変わらないと言っている時点で矛盾が起きているので、僕はそういう組織を目指すのだったら、今はこの状態であっても変われるんだということを伝えて、そういった矛盾を起こさない方がいいと思います。
彌野 なるほど。海外でうまくやっている人間って、結構カオスが嫌ではない人達で、むしろカオスがあるくらいの方が刺激的なんですよね。
やはり、海外に行くのが嫌だというのは、見えないのが怖いということだと思います。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子
続きは リクルートが世界で実践するダイバーシティ・マネジメント をご覧ください。
【編集部コメント】
続編(その2)では、世界で活躍する人の人材要件や、ダイバーシティを持った組織のマネジメントについて議論しました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。
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