ICC KYOTO 2024 リアルテック・カタパルトに登壇いただき3位に入賞した、3DC 黒田 拓馬さんのプレゼンテーション動画【ノーベル賞級の新炭素材料で、リチウムイオン電池の性能に革新をもたらす「3DC」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは 慶應イノベーション・イニシアティブ です。
▶【速報】アルツハイマー病の治療に光! 新薬で世界規模の課題解決を目指す「Neusignal Therapeutics」が「リアルテック・カタパルト」優勝(ICC KYOTO 2024)
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【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 7A
REALTECH CATAPULT リアルテック・ベンチャーが世界を変える
Sponsored by 慶應イノベーション・イニシアティブ
黒田 拓馬
3DC
代表取締役CEO
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材料メーカーで製品開発に従事した後、シードベンチャーキャピタルを経て、ベンチャーキャピタル時代に意気投合した東北大学の西原教授と株式会社3DCを共同創業。ノーベル賞級の炭素材料「Graphene MesoSpongo®️」を開発・生産し、リチウムイオン電池の性能限界を突破することを目指す。累計調達額10億円強。Hello Tomorrow Deep Tech Pioneers、 J-Startup TOHOKU選出。
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黒田 拓馬さん 3DCの黒田と申します。
実は先ほどプレゼンされた池上京さん(Planet Savers)は高校、大学の先輩なので、胸を借りるつもりで勝ちたいと思います。よろしくお願いします。
弊社は東北大学発のノーベル賞級の「炭素」を使って電池を進化させることで「脱炭素」するという、「炭素で脱炭素」の会社になっております。
電池の進化における課題とは
電池がカーボンニュートラルの世界においては必要不可欠なデバイスであることはもう間違いないと思いますが、まだまだ進化が必要なデバイスです。
大きく2つの重要な軸があると思っています。
1つは、「電池を小さく軽く」という、これまでと同じ進化です。
モビリティをどんどん電動化していく中で、自動車がEV化されていっているところですが、まだまだ電動化しないといけないものがたくさんあるので、ここはまだまだ進化が続いていくと思います。
一方で、なかなか認知されていない重要な軸として、「エネルギーのインフラになっている」ことがあると思います。
リチウムイオン電池はノートパソコン、スマートフォンといったコンシューマーエレクトロニクスから始まって、今EVという市場に入っています。
海外では再生可能エネルギーとの組み合わせというところで、エネルギー貯蔵も非常に重要なマーケットになっています。
EVもどんどん自動運転化していく中で、ますますモビリティのインフラになっていきます。
インフラになっていくと、電池は劣化してほしくないというニーズがどんどん高まってくるので、電池の寿命が非常に重要なポイントになってきます。
一方、重要な課題として、この「電池を小さく・軽く・早く」と「寿命」という2軸は基本的にトレードオフの関係になっています。
電池を進化させようとすると、材料が進化することがますます必要不可欠になってきていると考えています。
つまるところカーボンニュートラルという地球規模の課題が、電池の進化を待ち望んでいる状況かと思います。
ノーベル賞級の性能を持つ炭素材料を開発
そこに対して我々は、非常に地味、だけど効果的なアプローチをとっています。
既存のリチウムイオン電池の仕組み、製造設備、サプライチェーンをいじらずに電極の中に極々わずかに含まれている炭素を良いものに置き換えることで、電池の種類にもよりますが、電池の性能が1.5~2倍上がることが分かってきて、電池業界では密かなホットトピックスになっています。
炭素とは何かというと、今お渡ししているような黒い粉(※)ですが、実はfullerene、grapheneという材料で、2回ノーベル賞を受賞しています。
▶編集注:プレゼン中に、審査員席にビン入りの炭素材料が配布されました。
カーボンナノチューブも、ノーベル賞候補に毎年挙がる材料です。
この進化は実は0次元の「点」の材料から「線」の材料、「面」の材料ということで、この黒い丸が原子1つ分です。
原子の1つ分の厚みで構造をコントロールして、進化を続けてきました。
そこに対して我々が開発する「Graphene MesoSponge(GMS)」は、同じく原子1つ分の厚みで構造をコントロールしながら、3次元のナノ空間材料にしていくというところで、ノーベル賞級の性能を持っています。
なおかつ炭素として最終形態にかなり近い材料であると認識しています。
アカデミアではグローバルで高い評価
弊社は2022年に設立しました。
私はこの材料(Graphene MesoSponge:GMS)の発明者である西原(洋知)先生は、20年後ノーベル賞を確実に獲ると思っていますが、彼と共同創業しています。
お渡しした材料は3つビンがあると思いますが、一番量が多いものを振っていただくと、いかに軽いか実感いただけるかと思います。
そういった材料を作って事業化しています。
創業2年半ですが、株主はANRI、UntroDはじめ色々な方々に応援いただいて、累計調達額が10.7億円まで到達しています。
これはひとえにこの材料が非常に優れていることの証左かと思いますし、すでに高い評価をグローバルのアカデミアの世界で得ています。
西原先生は錚々たる賞を受賞しており、我々もJ-Startupや海外の賞を頂いています。
論文も昨年(2023年)は9報、うち4報はカバーピクチャに選ばれました。
カーボンの一番歴史ある学会に「Carbon」という名の学会があります。
学会の一番栄誉あるPlenary Speakerとして、2010年にノーベル物理学賞を受賞したAndre Geim先生の次に西原先生が登壇しましたので、アカデミア、少なくともカーボンの世界では知らない人はいない材料になっています。
高性能と低コストを両立する革新的炭素材料「GMS」
GMSの何が革新的なのか、本当は2時間ぐらいお話ししたいのですが、すごく絞って2個にしました。
まず性能とコストについてお話しします。
GMSの特徴は、化学的に劣化しにくく、機械的に柔軟であり、リッチなナノ細孔を持っていることです。
何のことかよく分からないと思いますので、1つだけ動画を持ってきました。
すごくマニアックですが、電子顕微鏡という非常に拡大できる顕微鏡の中で炭素を押しつぶしています。
炭素は炭なので、普通は硬くてもろいのですが、原子1層で構造を作ると実は柔らかいのです。
押すとこのように簡単に潰れます。
ナノサイズでこのように構造がつぶれる材料はなかなかないです。
さらに重要なこととして、力を解放するとふわっと戻ってくるので、繰り返し構造を変形できます。
これは炭素以外も含めて、世の中にほぼない材料かと思います。
GMSは電池の充電速度の向上×長寿命化に貢献できる
これがなぜ電池によいのか。
私はこのGMSという材料を時代の寵児となる材料だと思っています。
電池の進化を極々シンプルに分けると、4つになるかと思います。
とにかくぎゅうぎゅう物理的に詰める「高密度化」。
電気的にぎゅうぎゅう詰める「高電圧化」。
「新しい材料を適用」するのですが、新しい材料はすごく膨張しやすい材料が多いです。
あとは「電池を大きくする」、ここも圧縮、膨張が非常に大きな課題になってきます。
これらは今までの炭素材料では解決できませんでしたが、我々の材料は「リッチなナノ空間」と「科学的に劣化しにくいこと」、先ほどの「柔らかさ」という3つの特性があり課題を解決できます。
充電速度の向上、長寿命化に貢献できる材料になっています。
これはコンセプトだけではなく、すでに第三者機関によって実際にリチウムイオン電池を組み上げて性能が上がることを実証しています。
コストを抑え量産工場を設計中
次に、製造コストです。
導電助剤はタイヤのゴムに使われている「カーボンブラック」という材料から今まさに進化していて、「カーボンナノチューブ」が市場にすごく出てきて、松竹梅と並んでいます。
我々の材料は、松にあたる「単層カーボンナノチューブ」と同等の性能が出るのですが、論文ベースのプロセスだとコストも同等でした。
これに対してプロセスの大幅な革新をして、竹にあたるカーボンナノチューブとcomparableな(匹敵する)ところまでコストが下がってきました。
ラボから1,000倍のkgスケールのパイロット工場をすでに立ち上げ、さらに1,000倍のtスケールの量産工場の設計が最終段階まで来ています。
グローバルのトップ企業を含む20社以上が採用を検討
トラクションとしては、すでに20社以上が検討しています。
うち6社は電池のグローバルシェアトップ10ですので、非常に重要なお客様の検討が進んでいて、想定以上のかなり良いフィードバックが返ってきている状況です。
市場としてはすごく小さく見えるかもしれませんが、リチウムイオン電池の普及に伴い、2030年には導電助剤単独で8,000億円ぐらいの市場規模があると考えています。
カーボンブラックからカーボンナノチューブにちょうど入れ替わるところでしたが、カーボンナノチューブは日本で非常に長らく研究されていました。
しかし結局事業化したのは海外の国で、スタートアップがすごく引っ張っていて、時価総額も1,000億円を超えてきています。
我々のGMSはまだカーボンナノチューブほど認知されていません。今の段階で面で事業を量産化し、いち早くグローバルに展開し、材料をリプレースしていってユニコーンになりたいと思っています。
もう一度日本からリチウムイオン電池の発展を
最後に、リチウムイオン電池は、実は1991年にソニーが世界で初めて商業化しました。
一方で、今ほとんど日本のプレゼンスがない状況です。
リチウムイオン電池の発展を、もう一度日本から起こしていきたいと思い取り組んでいます。
ありがとうございました。
(終)
編集チーム:小林 雅/原口 史帆/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成/小林 弘美