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3. 戦国時代の知恵「茶の湯」が今、世界の価値となる理由

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ICC KYOTO 2025のセッション「「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?」、全5回の③は、茶道家であり起業家であり文化資本研究所代表でもある岩本 涼さんが、「TeaRoom」の事業を、双方あって成立する「高級鮨」と「回転寿司」に例えて解説します。茶の湯をパフォーマンスアートと再定義し、岩本さんが“3,000万円”で販売する茶会とは?ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜 3月5日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。

【登壇者情報】
2025年9月1〜4日開催
ICC KYOTO 2025
Session 10B
「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?
Supported by EVeM

(スピーカー)

石上 賢
丹青社
事業開発センター B-OWND室/プロデューサー

石川 俊祐
KESIKI
代表取締役 CDO

岩本 涼
TeaRoom
代表取締役CEO 

松田 崇弥
ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

(モデレーター)

琴坂 将広
慶應義塾大学
教授(SFC・総合政策)

『「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?』の配信済み記事一覧


産業と文化の根底にある「社会」にフォーカス、TeaRoom岩本 涼さん

岩本 すごく硬い資料を用意してしまったのですが、岩本と申します。

よろしくお願いします。

TeaRoomは、ロゴを載せていないものもありますが、TeaRoomのほか、静岡の農業法人も含め、複数社のグループです。中川政七商店の社外取締役もさせていただいています。

農業、設計、流通、カフェ、研究所、そして今後サロンも含め、色々なことに取り組んでおり、工芸、お茶、文化と、さまざまな領域に展開しています。

相当な時間がかかりましたが、お茶も多くの数量を海外に卸すようになりましたので、事業規模が相当大きくなってきています。

今回のセッションテーマに合わせると、我々が取り組んでいるほぼ全ての産業の事業環境が厳しさを増していると思っています。

事業環境とは市況という意味ではなく、自分たちのプロダクトが正しく評価される社会ではないということです。

仮に高い家具を作っても社会がそれを求めていないとしたら、その背景には、都市化、核家族化が存在しているはずで、都市の賃貸ワンルームマンションに住む場合、家具に投資する動機は生まれにくいですよね。

であれば、古民家でもなんでも自己所有の物件を増やしていこうという発想が生まれるのは、自然な流れだと思います。

1,000万円でも2,000万円でも、30年ローンを払っても、自己所有の物件を持てば、人々の行動は変容します。

こういった人の行動を後押しする社会側のデザインがあまりにも足りていないのではないかと考え、そういう活動も含めTeaRoomを8年続けてきました。

その結果、さまざまな周辺事業ができるようになり、グループ会社が増えている最中です。

琴坂 まず哲学があって、それを実現するために必要な事業を全て自分たちで行おうということですよね。

文化は誰かが保守、運用を主導しなければならない

岩本 例えば、抹茶の国際団体を立ち上げる構想も進めています。

日本の碾茶(抹茶の原料)生産量は年間約5,000トンと言われていますが、その多くは海外に輸出されています。

2024年のニュースですが、中国では、貴茶という会社が、1社で4,000トン作っています。

▶︎貴州省銅仁市は如何にして”中国抹茶之都”になったのか(中国茶情報局)

抹茶は需要超過で追い風が吹いている業界で、各社収益がとても改善しています。川上を掴んでいるプレイヤーは、丸儲けという状態です。

一方、この付加価値は需給バランスが崩れたタイミングだからであり、業界には、安いものを高く売る業者も大量にいます。

日本で5,000トン作っていても中国では1社で4,000トン作るわけなので、やがて価格の暴落が始まり、悪貨が良貨を駆逐する形になります。

輸出によって、我々がその事業を伸ばして儲かったとしても、産業が潰れてしまいます。

それは中長期的には我々の事業環境を厳しくすることにもなるため、信頼のおける品質基準や、教育のための国際機関を作るなどを進めていかなければなりません。

琴坂 抹茶というもの、抹茶を使うという行為そのものについての仕組みを、ご自身で作ろうとしているということですね。

岩本 そうですね、評価基準も含めて作らなくてはいけません。

この取り組みは、公益のための活動なのですが、同時に我々の事業環境を整えることにもなると考えています。

我々が文化資本研究所をつくった理由にもなりますが、新たな文化ができた際に、公共性の高い財に寄せた場合、それは行政が保護する対象になります。

文化は、誰かが保守、保全を主導していかなければいけません。

例えば、花王が銭湯に取り組むとか、サッポロビールが恵比寿という地域を開発するとか。

▶︎【小杉湯原宿×花王】原宿の”街の銭湯”で出会う、「蒸気」に包まれる心地よい時間(My Kao)

▶︎恵比寿で30年。“ひらめきが生まれるまち”が描く次の未来へ(サッポロ不動産開発)

関わる地域が廃れれば、その企業は成り立ちません。

自分たちがどのブランドに依存していて、そのブランドをどの文化が支えているかを理解し、文化を保守、運用し、自身の事業環境を中長期的に良くしていくという発想が社会に足りていないと思っています。

それで、自らの行う活動自体も研究するべきだと思ったので、研究所(文化資本研究所)を作ったわけです。

松田 すごいですね。

琴坂 なるほど。

私は経営戦略が専門なのですが、それは最先端にある議論です。

利他的に見えるオプションの中で、自社に良いものに寄せる活動を繰り返す、その積み重ねが持続的な競争に最もつながると。

岩本 おっしゃる通りです。

抹茶の国際団体を組成して世界中のトップたちと話していると、全ての情報が集まってきますので、それを活かして出口を作っています。

トップとすそ野の両方があって産業は大きくなる

岩本 私は「鮨(すし)と寿司(ずし)」という事例をよく挙げます、高級鮨と回転寿司ですね。

茶業は、茶道や茶の湯という文化と、ペットボトルという産業に二極化しています。

高級な鮨がなければ回転寿司は成り立っていないし、回転寿司がなければ高級な鮨も成り立っていないはずです。

すきやばし次郎(※世界的に知られる鮨店)がなければ鮨を求める人が多く日本に来ませんし、回転寿司がなければ高級な鮨は今の茶会のようになっているでしょう。

今の茶会とはつまり、敷居が非常に高く、高尚な趣味ごとのようなものということです。

ですから、タッチポイントの多様さと多さ、タッチポイントを横に拡張することと、トップを引き上げる活動は絶対に必要です。

このピラミッドの構造が広がれば広がるほど、産業規模は大きくなります。

ピラミッドの上側をアートやデザイン、権威や体験で伸ばさなければいけないのは絶対です。

一方、出口側のタッチポイントを持つことを諦めてしまうと、一部の方の、ただの高級なお遊びになってしまうので、すそ野をきちんと広げなければ産業として成立しません。

これは、我々が農業も行っている会社だから気づいた視点かもしれません。

我々はひたすら、どちらの部分にも取り組んでいます。

石上 いつもこういう話をしているのですが、僕が取り組んでいる工芸領域で言えば、グランドセイコーのような日本のハイブランドを有する企業の方々と仕事をさせていただいています。

彼らが掲げているのはクラフテッドという概念であり、彼らは工芸を、数千、一万年続いてきた日本のものづくりの象徴としています。

だからこそ彼らは日本発のハイブランドを作ろうとしていると思っていて、価値の根源を歴史に求めると思うのですが、先ほどの例で言うと、我々にとっての高級な鮨は、美術工芸でなければいけないと思います。

でも今、工芸は衰退し消滅の危機にあるので、産業が掲げている価値の根源自体が消え去ってしまう可能性があるのです。

ですから、文化と産業の繋ぎ方をどうデザインしていくか、つまり、価値を高めるプレイヤーと、廃れつつある文化を残したいと思う文化事業者をつなぐアプローチがいくつも必要だと考えています。

琴坂 高級鮨のようなアートがあることで、ビジネスというか、より大きなものが広がっていくという関係性があり、それが本質的な価値の一つではないかということですね。

西洋のルールで茶の湯を定義してみると

岩本 高級な鮨を作ろうと、文化界においてずっと頑張ってきたわけですが、茶人で、英語が話せて意味を伝えられてナラティブが語れてという人材は、業界内に多くありません。

琴坂 なるほど(笑)。

岩本 ハリウッドスターや財閥など世界中のVIPが来た際、案内をしてくれ、お茶会をしてくれなど、私たちに数多く声がかかるのです。

ピラミッドの上の部分を持っていることは、顧客とつながるため、ブランドのストーリーやスタンスを示すため以外にも、通常の産業では触れられない方々を顧客やインフルエンサーとして、産業を広げるサポートをしてもらうためにも役立つと思います。

2024年の「SCOPE MIAMI BEACH 2024」では、石上さん方とともに、お茶会自体を、約3,000万円で販売しました。

日本の価値を伝えようとした時、ロジックがきちんとあれば評価してくれる海外の方はいらっしゃいます。

ですので、ロジックをきちんと組んで、西洋のルールに乗ることも必要だと思っています。

ほぼ全ての市場が西洋のルールで動いているので、その中で価値を高めていくことを行う必要があります。

一方、ルネサンスのタイミングを鑑みると、西洋のルールは400年かけて作られているわけなので、茶の湯も450年ほどの歴史がありますが、それを国際ルールにしていくのには時間がかかります。

時間がかかるからと言って西洋のルールを無視するのは良くないと思うので、西洋の価値基準の中でも評価される文脈を作ることが、論点の一つとして重要な気がします。

石上 3,000万円で売っているのですが……。

松田 3,000万円ってすごいですよね!?

石上 茶の湯を、パフォーマンスアートであり、インスタレーションアートであるという再定義をしたのです。

琴坂 なるほど、相手のルールに乗ったわけですね。

石上 例えば、本物のバナナを壁に貼り付けて何億円もの価値にしたマウリツィオ・カテランという……。

(一同笑)

カテランの“バナナ”が約9.6億円で落札。中国コレクターの手に(美術手帖)

松田 確か9億円以上でしたよね。

石上 アートは、概念の戦いでもあり、しかも歴史性を求めます。

茶の湯はルネサンスと同じくらいの時期から存在しているなどの背景を作り、これはパフォーマンスアート、インスタレーションアートであると定義するのです。

すると、それが響いた方には高額で買っていただけるという不思議なマーケットなのです。

琴坂 最初は3,000万円でも、2、3億円になる可能性もあるゲームに参加できるということですよね?

石上 そうですね、あえて多くを作らない、供給を制限するゲームです。

そうすると、原則として価格は上がりますよね。

2人以上がそれを求めれば、価格は上がりますよね。

本当に欲しいと思ってくれる、価値があると信じてくれる人を増やす戦いをずっとしています。

琴坂 日本だけではなく世界で戦うのも、一つのやり方ということですね。

個人性、時代性、歴史性における茶の湯の価値

岩本 この茶の湯の販売は石上さんと一緒に取り組んでいるので、個人性、時代性、歴史性の「なぜ」についてはしっかりと着目しています。

茶の湯は、千利休(1522〜1591)が生み、体系化したものです。

でもあの時代、千利休の先輩に当たる村田 珠光(1423~1502)や丿貫(へちかん、生没年不詳)など、茶人はたくさん出ていたのです。

なぜたくさん出てきたかと言うと、時代が大きく変化したからだと思います。

例えば、生成AIの技術革新が起これば生成AIを扱うベンチャーが生まれるので、技術や思想など時代が変化しなければ、その上に成り立つものは出てきません。

松岡 正剛(1944~2024)さんは「フラジャイル」という言葉をよく使うのですが、日本は脆い国です。

自然などの風土条件は良くないし、プレートの影響で大地震が頻繁に起こります。

戦国時代は人災と天災が重なった時代だと解釈すると、明日がない可能性が高い時代なので、日常性を重んじるようになるわけです。

もし今ミサイルが飛んできたら、我々は全員、すぐに家族に電話すると思います。

つまり、有事になればなるほど、日常の価値は高くなるのです。

あの時代、喫茶という行為が茶の湯になったのではないかと考えています。

お茶は、一千何百年前から日本に入ってきたわけですが、なぜか450年前に茶の湯という形で顕在化しました。

そうなったのは時代背景ゆえだったのではないかと考えています。

もともと、世界の自然災害があった中で、今は人為的なものが要因の地球環境変動によって海面上昇、火事、ハリケーンも起こるようになりました。

加えて、今の時代では、戦争つまり人災が起き、天災も国際的なイシューになっているので、戦国時代にそれを耐え抜く戦略や知恵として生まれた茶の湯という装置が、今、世界にとっての価値となるのではないかと我々は考えています。

琴坂 それを海外のアートコレクターの1人か2人が1億円で買うとなれば、価値が1億円になるわけですね。

岩本 おっしゃる通りです。

琴坂 なるほど、すごいゲームですね。ありがとうございます。

(続)

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式Xをぜひご覧ください!
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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