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ICC KYOTO 2025のセッション「「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?」、全5回の最終回は、会場から寄せられた「アートビジネス関連における最適なKGI/KPIの設定とは?」をテーマに議論します。セッションを締めくくるのは、「改めて、アートとデザインの本質的な価値とは?」という問いです。多様な視点から導きだされた答えとは?最後までぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜 3月5日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。
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【登壇者情報】
2025年9月1〜4日開催
ICC KYOTO 2025
Session 10B
「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?
Supported by EVeM
(スピーカー)
石上 賢
丹青社
事業開発センター B-OWND室/プロデューサー
石川 俊祐
KESIKI
代表取締役 CDO
岩本 涼
TeaRoom
代表取締役CEO
松田 崇弥
ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO
(モデレーター)
琴坂 将広
慶應義塾大学
教授(SFC・総合政策)
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▶『「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?』の配信済み記事一覧
琴坂 最後にストレートに、この問いに立ち返るのが良いのではないかと思います。

今回のセッションでは、「アート」と「デザイン」がビジネスに与える本質的な価値とは何か?と問われています。
これを、残り15分ほどで問いたいと思います。
同時に会場の皆さんは、Q&Aに多く質問が投稿されているので、これが聞きたいという質問があればLike、もしくは新規に質問の投稿をお願いします。
スピーカーの皆さん、これまでの議論をふまえ、何が一番の価値だと思われますか?
アートやデザインは人間を理解するサイエンス

石川 これは個人的な考えですが、私はイギリスで教育を受けたので、アートやデザインがビジネスに価値を与えるというよりも、つまり、付帯価値というよりもそのものが価値であるということを国が推し進めている気がしています。
国策として、クリエイティブ業界は金融業界の次に大きなビジネスであるとしています。
私は昔、パナソニックでインハウスデザインの仕事をしていました。
大量生産をするため、軽くて安いものを作る、つまりプラスチックで製品を作るのです。
一方、Appleは職人技のように、アルミを削って作ります。
どちらも同じラップトップですが、一貫した美の概念、アート性やデザイン性を持たせることで人の行動変容が起きることがよく分かっているのです。
例えば家電量販店で物を買う時は、価格とディスカウントを考えて足を運ぶのです。
ポイントがつくか、どれくらい安く買えるか、他社比較をして、機能的に良い物をできるだけ安く買おうというマインドです。
でもジュエリーショップに行く際は、高い物を買おうとして行くわけです。
Appleが行ったのは、この行動を喚起することです。
彼らは人間のことをよく理解していると思いますし、アートやデザインは人間を理解するサイエンスなのだと思います。
イギリスもフランスもそのことをよく理解しています。
アートやデザインがビジネスにどんな価値を与えるのか、については、人は余白のあるよく分からないものにお金を払うということで、そのことがビジネスを利益の大きいものにしうるということだと思いますが、それにはお金がかかるし、一貫して取り組む必要があります。
例えば、店舗にもお金をかけないと、卸はやりやすいチャネルである量販店で売ろうとします。
アートやデザインを学んだスティーブ・ジョブズのような経営者がいると、アートやデザインを重視する意思決定が可能になるのではないでしょうか。
ビジネスに寄せすぎるとアートではなくなる
琴坂 この質問は今の話に関連すると思うのですが、「アートビジネス関連における最適なKGI/KPIの設定とは?」

今おっしゃったように、アートやデザインは必ず何かしらの価値を提供するのですが、数値にしにくい、その影響がすぐには表れないので、どう評価すべきかという疑問がわくのだと思います。
この質問はLikeを3つ集めています。

石上 ビジネスに与える価値という最初の質問に戻って、このテーマ自体をひっくり返すような話をしますが……。
僕は、目的と手段だけの話だと思っています。
アートや文化は目的で、ビジネスは手段だと思います。
例えば、日本やヨーロッパ、アフリカのアイデンティティを考えた時、思い浮かぶのは全て、アートや文化、デザインだと思います。
建築ももちろんアートやデザインの領域ですし、日本であれば浮世絵もそうかもしれません。
アイデンティティと直結しているので、ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』の結論は、虚構を信じこめたからホモ・サピエンスは生き残った、地球上を支配できたというものです。
虚構を信じこませる方法論はアートやデザインにおいてたくさんありますが、人間が人間たる所以みたいなものがあると思っています。
だからこそ、森ビルの森(稔)さんや、「経済は文化の僕(しもべ)である」と言ったベネッセの福武(總一郎)さんがいます。
ビジネスにアートを寄せすぎると、アートではなくなっていくと思います。

琴坂 本質的な価値とか、直接貢献するにはとか考えてしまうと、アートにつながらなくなるということですね。
石上 しかも、短期すぎます。
僕も会社を経営しているのでもちろん数字は見ていますが、今、KPI、KGI、LTVなどは1年、長くても7、8年だと思います。
でも《モナ・リザ》のLTVを考えると、500年とかそういう次元です。
琴坂 まさにエジプトのピラミッドみたいですね(笑)。
石上 レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)がKPIやKGIを考えていたかと言うと、そうではないですよね。
琴坂 そもそもこの発想自体がまずい(笑)。
石上 だからアートが発展してきたし、今のビジネスもそこに依存していると思っています。
僕は、そういう考えを持っています。
アートによって競争できない軸が作られる
岩本 私は伝統文化と言われる世界にも関わっているのですが、文化という言葉を発した時に想起されるのは、能、狂言、茶の湯といった代表的な分野に限定されることも多いと思います。
アートは定義ができないと先ほどおっしゃっていましたが(Part.1参照)、アートも、絵画というより、発想の仕方というか、どの時代性、歴史性、個人性で点を打つかを体系的に整理するためのツールであり、自分たちのポジショニングを把握するものだと捉える方がより有効だと思います。
アートやデザイン、文化の本質的な価値はと問われていますが、どういう時代に生きていて、何を目指しているかなど、アートで考えうる発想から自社を理解することが、ポジショニング面で価値になっていますし、そのポジションにいることで我々はお茶を適正な価格で売れています。
それは、「なぜ我々からお茶を買っていただくのか」という理由が明確になっているからです。
なぜその会社と取引するのかを正しく伝える論理や情緒を形成するのが、アートなのではないかという気がしています。

琴坂 経営戦略の研究においても、歴史や伝統が持続的な競争になるのではないかという議論が起きています。
答えの一つが、歴史や伝統は、他者では容易に模倣できない、競争ができない軸を作っているということで、アートもこれに近いのではないかと思っています。
別の軸は立てられるかもしれないけれど、そのロジックは否定できないものとして存在していると思います。
それが全ての出発点になると、そもそも競争しなくていいという状況につながるのではないでしょうか。
岩本 海外でお茶を流通させるにあたり、海外のVIPや財閥の方々に日本に来てもらって、お茶でおもてなしをします。
まずは無言で茶会をして、その後に背景や考えについてご説明を差し上げます。
「世界では今も戦争が起きている、日常に根ざしたこの茶一服は、世界を平和にするための試みであること、これは日本の戦国時代という不安定な時代にできた儀式であること」などをお伝えします。
自然災害の多いこの日本に生きることを選んで、産業を育み、その思想を体現するものとして抹茶がある、という点についても共有しています。その上で、こうした考えを受け入れるかどうかは各人に委ねています。
実際には、多くの方が私たちの考えに共感してくださいます。
トップの方が理解を示してくださることで、価格についても過度な交渉になることはありません。
我々が提示した価格に正当性があれば、その価値は無理なくご理解いただけます。
戦い方がユニークであれば価格は落ちない
石川 分かりやすく、圧倒的なオリジナリティがあるからではないでしょうか。
個人的に感じていることですが、デジタルによって均一な、それなりの価値やビジネスはすごく増えています。
家具で言うと、世界中に職人はほとんどいません。
実は、デンマークにもいません。
ほぼ全て量産化されており、NC(数値制御)で削られていますが、ストーリーだけが残っています。
日本のオリジナリティとして残っているのが職人や手仕事で、それはアートでありデザインであり、他国が真似することも奪うこともできない文化資産です。
エルメスの面白いところは、店に行っても商品がほとんどない点です。
日本の経営者で、それを良しとする人はほとんどいないと思います。

松田 確かに。
石川 在庫がないと言うと、めちゃくちゃ怒られます。
でもエルメスもロレックスも、店に在庫がなくて、他店舗ならあるかもしれませんと、さらっと言われるのです。
琴坂 さらっと言いますよね。
石川 戦い方がユニークなので価格も落ちない、職人が作るので、時間がかかるし作れる個数も限られている。
職人の平均年齢は30代でほぼ女性のようですが、訓練もしています。
経営者や後継に対しても、質を理解するために、職人訓練を何年かするはずです。
そこから、根の強いブランドを作り、それについて堂々と説明できるようにするという流れなので、すごく戦略的だと思います。
最後に、アートとデザインの本質的な価値を一言で
琴坂 ありがとうございます。
あっという間に、残り3分となりました。
私は毎回最後に、一言でまとめてとお願いしています。
本当に一言で、30秒くらいで、これまでの議論とご自身の主張も含めて、アートとデザインの本質的な価値について伝えるとすると、どういう表現をされるかを、アーティスティックにお願いしようかなと(笑)。

岩本 「思想は知恵の相対」という言葉を私は使っています。
ある風土の中で生きるための生存反応として、思想ができると考えています。
例えば、水資源が限られた砂漠地帯だから、イスラム教の教えの一つとして、喉の乾きを促すアルコールを禁じる規範ができるなど、厳しい環境も含め、その風土で人間が豊かに生きようとする努力の過程で生まれる知恵が思想となり、後世につながれている。
それはもしかしたら統治に使われるかもしれないし、宗教や政治になるかもしれません。
という前提で考えているので、それぞれの会社が、時代や国を含めたこの風土で生き延びるために蓄積すべきものを考えさせてくれる視点ではないかと思いました。
松田 私は本当にシンプルに、「ワクワクできること」(笑)。
琴坂 (笑)
松田 だってデザインが良い会社で働きたいし、デザインが良いものに囲まれたいし。
それによってモチベーションや生産性が上がるので、アートとデザインは潜在的なモチベーションを作っているものではないかと思いました。
石川 悩みましたが、今の時代、宗教もだんだん崩れてきていて、拠り所がない気がしています。
本物で揺るぎないこと、根があること、一貫性があることで、ブランドが拠り所として、生活の中に入ってくることが起きるのではないかと。
その価値が価格に反映されると、自然に、定価でも物を買うようになる。
ブランド化するのが大事なのではないかと、個人的に思っています。

石上 一言で言うと、「意味の見出し方、解釈力」だと思います。
アートは問題提起であり、デザインは課題解決だとよく分けられますが、「≒」だと思っていて、まとめると「解釈力」だと思います。
ビジネスにおいても、全く違う領域をつなぐことについてAIによる推論もされていると思いますが、人間だからできる解釈の仕方を学べば、付加価値が生まれるのではないでしょうか。
人類は、誕生してからアートやデザインに取り組んでいるはずなので、その結晶を学ぶことが絶対に活かされると思います。
琴坂 ありがとうございます。
ちょうど時間通りで、このセッションを終えたいと思います。
皆様、遅くまでありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成


