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ICCカンファレンス CONNECTION 2016 においてaugment5 Inc. 井野 英隆 氏、NOSIGNER株式会社 太刀川 瑛弼 氏、そしてPARTY 中村 洋基 氏の3名と、P&GやDeNAでマーケティングをリードしたBloom&Co.彌野 泰弘 氏をモデレーターとしてお迎えし、「クリエイティブの力で世界を動かす」をテーマに議論しました。4回シリーズ(その4)はこれまでの活動紹介を踏まえ、4名で「クリエイティブとは何か?」や「クリエイティブ・デザイナーをどう見つけるか?」という本質的な問いに迫りました。是非御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。
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登壇者情報
2016年6月25日開催
ICCカンファレンス CONNECTION 2016
Session 2
「クリエイティブの力で世界を動かす」
(スピーカー)
井野 英隆 augment5 Inc. Founder / Film Producer
太刀川 瑛弼 NOSIGNER株式会社 代表取締役
中村 洋基 PARTY Creative Director / Founder
(モデレーター)
彌野 泰弘 株式会社Bloom&Co. 代表取締役
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【前の記事】
【本編】
「クリエティブ」とは何か?
彌野 皆さん、業界では有名なお三方ですけれども、クリエイティブのトーン&マナーが大分違うかなという気がしています。
それぞれのクリエイターの方が、何かを創られるときに意識されていることや、大事にされていることが少しづつ違う気がします。
クリエイティブがそもそもどんなものなのかという話を、先ほども少し話しましたが、それぞれの方々にとっての「クリエイティブ」の定義を聞いてみたいです。
約9年間に渡り、P&G社にて日本、および、海外市場に向けたマーケティング担当。日本、シンガポール、ジュネーブにて、多国籍なチームメンバーとマーケティング戦略の策定・実行の指揮を取る。 2012年1月にDeNAに入社。執行役員 マーケティング本部 本部長として、パフォーマンスフォーカスのテレビCM、デジタルマーケティング、戦略PRなど、クロスメディアでの360°統合マーケティングを推進。手がけたCMの本数はネットサービスだけで100本を超える。 新規サービスのマーケティング視点での開発支援(コンセプト強化、UI/UX強化、集客機能の強化)や、DeNA社のコーポレートブランディングのために、DeNA社のロゴの刷新やグローバル拠点の名称統一、DeNA社のスポーツ事業を活かしたスポーツマーケティングも含め、全社のマーケティング活動を統括。2015年4月に株式会社Bloom & Co.を設立。ナショナルクライアントに加え、スタートアップ企業のマーケティングやブランディングを支援。
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クリエイティブの定義は人によってそれぞれ異なるため、世の中全体を考えると定義がぼやっとしています。ぜひ皆さん、クリエイティブを創る側としての、クリエイティブの定義を伺いたいと思います。
中村 業界によって、定義が全然違うと思います。
太刀川 違いますよね。
中村 たとえば、井野さんのクリエイティブはとてもカッコいいのですが、先ほどクリエイティブは節約だと言及したように、世の中の「大体こんなものだろう」と思っているものを裏切って、めざましい結果を出して、ビジネスの効果を高めることを、クリエイティブだと思っています。
太刀川さんの東京防災は、もともと行政資料が全く面白くないもので、そのありふれたイメージを払拭して「ウチに置いておきたいマニュアル」にした。課題をデザインで解決していると思うんですよね。
彌野 クリエイティブの評価はすごく難しいと思っていて、何が出来たら「いい仕事をした」と思いますか?
例えば、広告で言えば、売上・利益が伸びないとダメだと思うんですよ。ただ、往々にしてバズが起きればいいと思ってしまったり、カッコいいのが出来ればいいと思ってしまったり、場合によって賞がとれたらいいと思ってしまったりすると思います。
「これが達成出来たらいい仕事をした」とそれぞれ思われることがあれば教えて下さい。
太刀川 僕の中で、クリエイティブと自然の中の進化図が似ているものだと思っています。進化の中で生き残っていくのは、基本的には、適者生存ですよね。
だから、プロジェクトごとに、相応しい環境は違うんですよ。井野くんと中村さんのプロジェクトは、相応しい環境が違うけれども、両方とも機能しています。それは生きている周辺の生態系が違うということでもあります。
僕は多分どちらの環境に立つこともあります。ブランディングをする場合は、井野くんのような表現をする場合もあるし、中村さんのようなイノベーションに近いような表現をする場合もあります。
大切なのは、状況に対して、いかに率直に、相応しさを提供出来るかということだと思っています。その率直さと相応しさが果たせたときに、今まで領域があると思われていなかったところに、いきなり相応しい存在が突然生まれて、フィールドや関係が出来る瞬間がある。それに出会えると嬉しくなりますね。
それには、多様な手法、手段があり得ます。テクノロジーにいくことも出来れば、すごくプリミティブな方向にいくことも出来ます。僕は、手段はどっちでもいいという感じのスタンスです。
彌野 井野さんはどうですか?
井野 そうですね。色々あって、その考え方は常に変わって、そのときしている取り組みや自分の価値観も関係しますが、僕が1番考えているのは、同時代性ですね。
この生きている人たちで、何を残すべきなのか、何を美しいとするのか、何をクリエイティブと定義するのか、ということがすごく大事だと思っています。
僕も目の前のクライアントのニーズに応えるとか、消費者の興味範囲の半歩先を行ってアテンションをとるのもすごく好きなのですが、ネットのビジネスを海外の友人も含めてたくさん設計してきたときに、国内、日本語圏内に留まるビジネスだけでは、今の時代に追いつかないのではないかという危機感がありました。
日本から逆に世界に出せることは何なのかということを考えて、今の取り組みをしています。
彌野 なるほどです。
井野 企業のCMなども作っていますが、あんまり言わないようにしています(笑)。そうすると、そちらばかり求められてしまって、自分がどう見せたいのかというのが分かりにくくなってしまうので、基本的には、先ほどお見せしたような取り組みをしたいと思っています。
こういったプロジェクトは、自治体や日本の企業、クリエイターはいくらでも乗っかってこられるし、海外の監督や俳優さんも、こういう映像を見ると、やっぱり日本で映画を撮りたいという反応があります。
そうなったからといって、自分に直接的にいくら入るという話ではないのですが、日本にとっては、ロケの誘致が成立するだけで何十億円、何百億円という直近の経済効果があります。
加えて、例えば、「ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)」や「ローマの休日」にように映画が成功して世代を超えて残ることで、長期的な文化や地域の資産になり得るということが、長期的なクリエイティブなのではないかと思っています。
なので、日本にアイデンティティーや住居・事業拠点を持っている自分が、今の時代に何をすべきなのかというのをずっと問い続けることがクリエイティブかと思っています。
彌野 とても高尚ですね。僕はかれこれ15年くらいマーケティングの仕事をしていて、その中で、様々なクリエイターさんと仕事をしてきました。その仕事の中で、色々な課題に対して私が分析やら要件定義やらをして、クリエイターの方にオリエンテーションしました。
クリエイターさんからすると、色々と意見があるかもしれないですが、僕は、やはりどんなクリエイターさんにも、好き嫌いや得意・不得意があると思っていて、「こういうトーン&マナーのクリエイティブが得意な人」、「こういう感じのクリエイティブは不得意な人」があると思っています。
井野さんは、息を呑むような圧倒的に質感の高い綺麗なもの、特に自然や人を撮らせたらすごいんだろうな、と思いました。こういう決め付けが、クリエイターさんから嫌われてしまうかもしれないんですが。
中村さんは、ワクワクするようなものが得意な感じがします。
太刀川さんは、可愛いとか綺麗とか、ちょっと持っていたくなるみたいな、物的なモノが得意なのではないかと思いました。
あえてカテゴライスしましたけど、「あのクリエイターさんはいつも四角いデザインである」など、そういうのはありませんか?
中村 デザインで言うと、僕はほぼほぼこだわっていないです。求められるものによって、全部違います。
なぜなら、「ブランドがトンマナを規定する」からです。
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中村 洋基
PARTY
Creative Director / Founder
1979年生まれ。株式会社電通に入社後、初期はバナー広告で大量の作品をつくっていたが、その後、インタラクティブキャンペーンを主として手がけるテクニカルディレクターとして活躍。2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。代表作に、「SLAM DUNK 10 days after」、サントリー「集中リゲイン」、地上波テレビとスマートフォンを連動させた「MAKE TV」、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」の全デジタルキャンペーン、「しずかったー」、涼宮ハルヒの憂鬱「Haruhi Hunting」、SCRAP、バーグハンバーグバーグとの共同企画「こんな男は絶対モテる!」など。広告以外にも、リアル脱出ゲームのデジタルプロジェクト「REGAME」、バスキュールとPARTYによるART&CODE スクール「BAPA」の中核メンバーとして参加。吉本興業の映像メディア「YNN」、トヨタのコンセプトカー「FV2」「FCV PLUS」のライブ演出なども手がける。国内外250以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。TOKYO FMのラジオ「澤本・権八のすぐに終わりますから。」毎週ゲストパーソナリティ。
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CMがわかりやすいでしょうか。お菓子とか、グッドデザイン賞をとったWHILLなどブランドがあって、それぞれにパーセプション、消費者が受け取ってもらいたい感覚がちがいますよね。
スコーンはスコーンらしく。カレーメシとか、ユニークなCMだからユニークな商品に見えますよね。「そういう風に見せたい」んですよね。「その商品がある、マックス気持ちいい状態」を見せるのがセオリーです。
持ってもらいたいパーセプションの中の最大値、更に言い換えると、それを食べている瞬間のように、それを享受している瞬間の快感度が最高潮になっている状態を表しているのが、ブランドというモノだと思っています。デザインは、そのために千変万化であるべきです。
太刀川さんの東京防災のプロジェクトを見てすごくいいなと思ったのは、既存の、「東京都が送ってくる防災マニュアル」のパーセプションを完全に超えていますよね。
デザインで出来ることの価値は、そういうところにあるのではないかなと思います。
太刀川 モノを創る前に、どうなりたいか?という問いがありますよね。
例えば、マーケティングの場合は、「売りたい」ということかもしれないけれども、その問い掛けの部分がもっと大きくてもいいな、といつも思うんですよ。企業というフレームワークは、もっと大きいことが出来るのではないか?と感じます。
売るためじゃなくて、売ったものがどう社会を良くするのか。そういう風に、「その問いで本当にあっているのか?」とか、「その問いは少し矮小じゃないか?」と問いを続けると、「もっとこうなれるかもしれない」というところに行き着くんですよね。
デザインは、イチから考えること、創ることが出来るから、「こうなれるのではないか?」を、時には具現化することも出来るわけですよね。
僕も、中村さん達の成田空港のプロジェクトはすごく好きです。ターミナル同士が遠いというコンディションへの解決方法として、そこを走っているときに、ただの点と点の移動がつまらないものにならず、割と楽しめる移動になることを提案するのは、「サイン設計をして下さい」という問いを超えていますよね。
それがひょっとしたら、もっと踏み込んでいったら、何がしかの健康やスポーツみたいな領域と繋げられたり、あるいは、空港で待ち時間のレジャーみたいなものに発展したりするかもしれないですよね。
そうやって、問いを大きくしていった先に、企業の利益を超えて、社会的利益に行き着くことがあるんですよ。そこに行けた時に、自分の利益も叶えられていて売れているけれども、それ以上に、そのデザインによって助かった人がたくさんいるよね、という状態にすることは可能だと思っています。
僕は、その拡大の部分がすごく肝だと思っているので、その点で、先ほどの井野くんの話にとても共感します。
「残したいものは何だっけ?」「それが残るためには、どうしたらいいんだっけ?」という問いは、青臭いけど、本当にちゃんと考えるべきだし、しかも、クリエイティブで考えるというのは、「じゃあ、どうしたらそれはカタチになるの?」に向き合うことなので、クリエイティブの面白いところだと思います。
要するに、「夢を叶えるために、必死になるとどうなるのか?」に取り組んでいるという要素がクリエイティブにはあるんですよね。
「無印良品」はベストプラクティス
彌野 クリエイター目線で、クリエイティブのことをすごくよく分かっている会社はどこですか?日本企業は、技術や改善は強いが、一般的にクリエイティブやデザインが弱いと言われていますので。
日本企業の中でもクリエイティブをすごくよく理解して、クリエイターと上手く恊働している会社と、上手く恊働していない会社に分かれると思うんですよね。
太刀川 MUJI(無印良品)はすごいと思いますけどね。
彌野 どうしてすごいと思いますか?
太刀川 MUJIのすごいところは、いくつかの側面にまたがってあります。
1つは消費者に対して、一つ一つのソリューションをかなり高いクオリティーで提供しているのですが、プロダクトデザインのディレクションと、グラフィックデザインやブランディングのディレクションを、それぞれデザイン・ディレクターが10年前から担当しています。
その前は、田中一光さんという人がやっていて、今は、深澤直人さんと原研哉さんがやっているのですが、実は二人の旗印のもと、MUJIのプロダクトは、世界中の相当優秀なプロダクトデザイナーが関わっているんですよね。もちろんインハウスのデザイナーも優秀な方が多いです。
そのようにクリエイティブ・コングロマリットを作って、そこから世界中で1番いいアウトプットが生み出せるように最適化しながら、しかもかなり安い値段に調整しながら、経営出来ているというのは、すごいことです。
そこまでだったら、「すごくいいブランド」なんですけど、最近本当にすごいなと思うことがあります。
彼らは近年、自分たちがモノを売っているときに、それをどうしたら社会的価値に還元していくかということにかなり意識的です。
例えば、最近「諸国良品」といって田舎のモノを置く取り組みをしています。秋田のMUJIに行くと、秋田のモノが売っていたり、あるいは、村の物産品をブラッシュアップする指導をしながら、MUJIに供給出来るクオリティーにしようという活動をしていたり。
他には、使用されているオーガニックコットンの比率も、去年まで20%だったのが、今年ぐらいから70%程度になっています。それを、1枚990円のTシャツで出来ているというのは、ちょっと異常なくらいすごいことだと思います。
新しい変化のきっかけを得ることにも意識的ですね。「Found MUJI」という別のチャンネルを持つことで、未来の商品開発のときにパートナーになりそうな人と試作したり、新しい可能性を模索するチャネルを作っていこうという取り組みもあります。そういうことが、企業体として出来ています。
彌野 デザインという定義自体が広いですよね。値付けまでデザインのひとつとして捉えられているという。
中村さんは、どんな企業が上手くクリエイティブを活かせている、仕事がしやすいと思いますか?
中村 そうですね。その前に話していて思ったのは、先ほどまでクリエイティブの定義の話をしていましたが、登壇者の3人の間で全然違うことが分かりました。僕はどちらかというと、コミュニケーションや仕組みで物事の課題を解決しようとしているんですよ。
太刀川さんは、デザインによって解決しているので、使う武器が違うと感じます。井野さんでいうと、もっとも修行僧のように振り切っている状態というか、作られた動画を見ても、右脳的に「本当に素晴らしい」「秋田は素晴らしい」「行きたい」と連呼される感じがします。これ自体がツールとなって、世界に届けられて見てもらう、使ってもらうという立ち位置にいます。
全員、使う武器や手法が異なるのだけれど、「クリエイティブ」とおおくくりに壇上に上がっているのは、面白いと思いました。
太刀川 たしかに、登壇者の間で、微妙にグラデーションを感じています(笑)。
井野 いい並びになっていますね。
中村 takramの田川さんとよく話すのは、スタートアップは、ビジネスとテクノロジーに長けた方がいるけど、コミュニケーション、僕はコミュニケーション≒デザインとして捉えているのですが、そこまで備えている会社があまりないということです。
参考記事:「ビジネス」「テクノロジー」「デザイン」の三要素の結合からイノベーションが生まれる
そういう観点で言うと、LINEのスタンプはすごいですね。コミュニケーションが世の中に存在する限り、一生ビジネスがなくならないですよね。あれは、非常にヤバイ発明だと思いますね。
コミュニケーションの間に、1個新しいモノを創れるだけで、それだけで経営を継続していける莫大な力を持っていますよね。
そういうことがやれれば、カッコいいなと思っています。
彌野 LINEのスタンプは、最初に日本が作って、その後、ステッカーという形で海外でも使われ始めていますよね。
今回のテーマが、「デザインで世界を変える」という話ですけど、世界を変えたな、あるいは変えそうだなと思うデザインの事例はありますか?
太刀川 すごくベタな例ですけど、例えば、テスラですね。
あれは、電気自動車化を推進するということなのですが、彼らが狙っているのは、車をホームエレクトロニクスのハブにしてしまおうということだとすると、いま発電を研究しているはずなんですよね。
最近、羽を使わない風力発電の特許が出されて、ボディーブレードみたいな感じで振動する板なのですが、それにすると、風力発電の効率が3倍くらいに上がるらしいです。
そういうモノが家に実装されていて、それで充電されている車があって、その車があるところが、逆説的にエネルギーハブになって、家になっているという転換をやろうとしている。だから今、彼らは車の次の商品としてホームバッテリーを売ろうとしています。
要するに、彼らはそれによってオフグリッド化をするわけですよ。世界のオフグリッド化を車という形で進めましょうということです。
これはイノベーションも出来ていますし、フューチャービジョンも出来ています。新しい車を発表したら、一瞬で35万台規模の予約が入ったという報道がありましたが、クリエイティブの力でビッグビジネスの変化が推進されている事例だと思って、すごいことが起きていると感じています。
中村 そうですね、テスラはやばいですね。ModelXの発表会を見て、「今時ガルウィング(カモメの翼類似形状のドアの開閉方式)かよ」と思いましたが、あれは狭小な駐車場を真面目に考えた大発明で、おそろしく狭いところに駐車していても、ドアが大きく開く設計なんですよね。
そういった細かい点でもイノベーションを起こしているのかと思いました。あと「ソフトウェアアップデートで自動運転が出来るようになりました」と発表していて、この会社はすごいなと思います。
彌野 それは誰がやっているのでしょうか?イーロン・マスクがすごいのか、抱えているデザイナーがすごいのか、組織のプロセスがデザイン起点なのがすごいのか。何が違うのでしょうか?
太刀川 例えば、僕の知人が、インデックスというアウォードを、デンマークで主催しているのですが、基本的に社会起業的デザインが集まるアウォードです。10年くらいやっていて、結構盛り上がって来ています。
そういうところで共通して観察出来るのは、デザイナーとテック系CEO間の境界が溶けて来ていて、どっちともつかないという感じになっているのと、映画のディレクター体制のようになっていることです。
要するに、スティーブ・ジョブズが分かりやすいですけど、映画のディレクターのような立場で、求めるクオリティーを実装出来る人を雇用していくんですよね。なので、こういうタイプの経営者はデザインディレクターと人事を兼ねていると言っていいと思います。
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中の2006年にデザインファームNOSIGNERを創業。現在、NOSIGNER株式会社代表取締役。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価されており、Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献。 University of Saint Joseph / Department of Design 客員教授 慶応義塾大学SDM 非常勤講師 法政大学工学部建築学科 非常勤講師
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ツリー状の構造の中で、ある種の「ここに関しては君がベストだ」という信頼関係がそれぞれの領域にあって、全体が1つの人格として機能している在り方です。要するに、それぞれのパートで「その人がそこにいる」ことによって、有機的に成立している組織ですね。
これは、年功序列や年次制を採用していたら、実現出来ない在り方です。
PARTYも、中だけで内製することもあるでしょうし、外とコラボレーションすることもあるでしょうけど、そういうクリエイティブディレクター的な体制を経営者が学ぶと、とても面白いのでは?と思いますけどね。
中村 言われてみれば、そうですね。太刀川さんがおっしゃった通りで、ハード、ソフトのエンジニアやCTOが、「こういうことをやりたい」というビジョンを持つ人と距離が近いというのは、ポイントだと思っています。
ウチにも内製チームがいて、かなり自主開発にリソースを割いています。
もしかしたら、私たちで言う自主開発のノリの延長で、テスラは進めているのかもしれないですよね。と考えると、買うのは怖いですけど、面白いですよね。そちらの方がイノベーションを起こせるという時代になり得るのだとすると。
井野さんの、あの映像クオリティーは、完全に内製ですか?
井野 お見せしたのは、同じクリエイターがベースになっています。日本の田舎に入っていくので、いきなり外国人を連れて来たらびっくりされてしまうので、若い人が自主的に旅しに来ました、というようにしか見えないようにしています。
今やっているのは、ディレクターがニューヨークから来ていたり、DP(撮影監督)は中東からいい人を見つけてきて、採用したりしています。
先ほど同時代性と言ったのは、クリエイティブのプロセスからもう1度再編集をかけているということなんですよね。今だったら、国内のプロフェッショナルな集まりで、イベント、建物、映像等のクリエイティブが生み出されていると思うのですが、その枠組みを1度外して、「1番いいインテリアを考えられるのは、フランス人のこの人では?」と思ったら、声を掛けてみるということをしています。
映画は、そういう実験が1番しやすいです。舞台装置を作ってもいいし、音楽を作ってもいいし、短くパイロット版で試してもいいし。アウトプットをしてみて反響を得るのも、デジタルというプラットフォームがあるから、1番データがとりやすいですね。音楽的な指標、ストーリー性、踊りや演劇といった色々な要素で評価のデータをとりやすいので、映像とネットと映像の市場を組み合わせて実験しています。
僕は、今の時代の中で、なるべくクリエイティブのプロセスも再編集してみているという感じですね。
彌野 クリエイティブのディレクションだけされていて、他のメンバーは色々なところからスタッフィングして変えることが出来るということですか?
井野 そうですね。ネットを通じて出会ったり、映画祭での出会いだったりしますね。優秀な人が紹介する人は、当然優秀ですね。それを日本の中だけでやっている時代ではないと思っています。
スティーブ・ジョブズは少し時代が違って、彼らの身内が集まって初期のプロトタイプが出来たからすごくラッキーだと思うんですけど、イーロン・マスクとかマーク・ザッカーバーグが描いているVRは、本当に世界中から、技術者もデザイナーもビジネスサイドを仕掛ける人も、人選していると思うんですよね。国を動かした方がいいのであれば、平気で法律を変えようとして、ロビーイングをしています。
そういうレベルの人が、出来れば日本からも出て来て欲しいですし、元々は、日本がそういうポジションに普通にいられたんですよね。ロビーイングをしなくても、日本人だったら、ということで色々と突破して来たところがあるのですが、今は後手後手に回っている気がしています。
それを一緒にやる仲間を、出来れば日本人でも見つけたいと思っています。今やっていることや発言の一部を切り取られると、業界にすごく下から遠吠えしているようにしか見えないので、1番評価をしてくれるであろうカンヌの映画祭に行って、そこで自分の評価を獲得することに挑戦しています。
どこが良いのか、どこを直したらもっと良いのか、が分かるようであれば、それを自分が日本に持ち帰って、日本の映像作家やシナリオライター、役者などに「こういうこと言われたんだけど、もう少し良いモノにするために挑戦しないか?」と言って改良したいと思っています。
そのために、行ったり来たりしながら、日本で撮ったモノを海外で評価してもらって、また日本に持ち帰って来てというのをやっています。
クリエイティブ・ディレクターの見つけ方
彌野 デザインと一言で呼んでも、かなり広いテーマだなと感じたのですが、時間が迫ってきたので、最後会場からご質問があれば、伺いたいと思います。
質問者1 株式会社Loco Partnersの門奈と申します。Relux(リラックス)という宿泊予約サイトをやっています。
先ほどのCEOとデザインの間で、スタートアップはそこに弱いというお話に関連して、組織の話ですが、クリエイティブディレクターは、外からいい人を探してくるのがいいのか、あるいは、そういう問題意識を持っていれば、中にそういうハブの存在が出来るのかという質問です。
中村 どちらでもいいと思いますし、お声をお掛け頂ければと思います
(会場笑)
例えば、ユニクロは、佐藤可士和さんや、W+K(ワイデン+ケネディ)のJohn C Jay(ジョン・ジェイ)と契約して、ずっとクリエイティブを見てもらっています。それをプロダクトでやっているのが、MUJIだと思います。
中に入れてやってもいいし、定期的にお願いするのもよいと思うのですが、お互いにお金はあんまりないと思うので、お互いが一緒にやる理由が何かが重要ですよね。
自分たちがどういう風に見られたいか、自分たちのブランドや商品がどういう風に見られたいかということに関して、現状の認識と、それに対して理想の在りたい姿というビジョンを一緒に持てたら、外部のチームとも楽しくやっていけるのではないか、と思います。
太刀川 皆さんに質問なのですが、世界一足の速い人を知っていますよね?何となくウサイン・ボルトかなと思いますよね。
では、誰か世界で5番目に足の速い人を知っていますか?
知らないですよね。
要するにどういうことかと言うと、ある想定の範囲を超えない限り、認知って生まれないんです。
先ほど中村さんが、東京防災も認知が生まれたのは、想定の範囲を超えていたからだと言ってくれました。あるいは、井野さんの映像が、意外性があるぐらいのスーパーハイクオリティの映像だったから良いと思っています。
そこそこの映像を撮ることはもはや誰にでも出来る時代に、その想定の範囲をいかに覆すのかということが、クリエイティブを仕事にする人や、クリエイティブな企業をこれから実現していく人たちに常に必要になるんですよね。
想定の範囲内にいる限り、競争には勝てないです。神奈川県で1番足が速い人では全然ダメなんですよね。
とすると、そこに打ち立てるためのリテラシーとか、クオリティーに対する理解とか、そこに対して刺していく角度とか、そういったモノを持っている人が必要になります。それが社内で育つならそれでいいと思います。
だけど、必ずしもそうとは言い切れない。だから、外から見つけてきて、「是非仲間になってくれ」と言う方が早いかもしれないです。それは、「僕らが想像している範囲内ではダメだ」という認識に至ったときに、「誰とどうやるのがベストなのか」と想像した方がいいと思います。
井野 僕は、Loco Partnersさんの状況が分からないのですが、スタートアップの場合は、とにかく数を試してみたらいいと思います。
今の客層や、1年後とか2年後の事業の形について、言葉で表されていたり数字の指標があったりすると思うのですが、ロゴなのかサービスのブランド名なのか、とにかくアイディアのパターンを色々な手段で出して下さい。
クラウドに投げかけるのではなくて、ちゃんと話し合える人とアイディアをたくさん出して、例えば、フランスと日本とニューヨークのデザイナーで、若くて賞を獲っているような人を集めてやってみて、そうしてみると、アイディアの中に、カチッと来るモノがあるんですよね。
「2〜3年後までいけるかも」、「ずっと一緒にやっていけるかも」というアイディアが出てくるので、僕だったら、出てくるまで待ちます。とにかく誰だれとやろうというよりも、その時代で出てくるモノが組み合わせとしてあるから、そこを疎かにしないことがスタートアップの場合はいいと思います。固定のリソースになるとつらい気がします。
太刀川 たしかに、そうかもしれないですね。スピードの問題とクオリティーの問題は、クオリティーを高くしようとすると、時間がかかるので、いつも反比例するところがあります。
目の前で試せるということと、そこそこ速くいいクオリティーに出来るというコンディションが出来たら、新しい領域に投下していくことに対しては、井野さんのやり方の方が、話が早いかもしれないと思いますね。
井野 僕がスタートアップの経営者だったらそうしますし、自分が関わっているスタートアップでもそうやっていますね。
中村 たしかにね。まずは内製で色々やって、課題を見つけて、仮説を立ててみるというのがすごく大事かもしれないですね。
何だか分からないけど外に依頼するということではなくて。僕らはいつもクリエイティブを考えているので、僕らに依頼するのは効率的なんですよね。
例えば、ボーカロイドは、「初音ミク」というデザインを経ないとブレイクしなかったと思います。
あれは、ヤマハの中でああいう初音ミクのようなビジュアルにしよう、ということで生まれたと聞いています。かならずプロに頼んでください、ということではなくて。
太刀川 ボーカロイドの話は分かりやすいですね。あの絵が一定水準以上可愛いことが大事だったわけですよね。
ということは、こんなキャラクターの雰囲気なのではないか?というビジョンが立つまでは、自分たちでプロトタイプを繰り返して、ある程度ビジョンを立てておく。その後は、キャラクターを徹底的に可愛くするために、プロと組む。間違っても、社内でそこそこ描ける漫画好きの人ではダメだということです。
彌野 色んなクリエイターの方がいますし、それぞれのアプローチがあります。クリエイターの方のポートフォリオを見られて、1番しっくり来る方と順番にお話されて、その人と仕事をしたければ、外部でもその人と仕事をするのがいいし、そうでなければ内部のクリエイターと頑張るというのがいいのかなと思います。
今日クリエイティブについて、非常に幅広く、深い話をどうも有難うございました。クリエイティブと言っても、広告的な表現の部分から、プロダクト設計、そして、会社のカルチャーや、クリエイティブの考え方まで伺えて、僕自身にとっても、とても刺激になりました。
時間になりましたので、セッションは以上になります。今日は有難うございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/藤田 温乃
【編集部コメント】
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