ビジネス・ブレイクスルー大学大学院の「アントレプレナーコース」が2016年4月に開講しました。ICCパートナーズ小林雅が担当した「スタートアップ企業のビジネスプラン研究」全12回の映像講義について、許諾を頂きまして書き起し及び編集を行った内容を掲載致します。今回の講義は、株式会社スペースマーケット 代表取締役 重松 大輔 氏にゲストスピーカーとしてお話し頂きました。60分の講義を5回に分けてお届けします。
(その5)は、ピッチコンテストで無類の強さを誇った重松さんに、スタートアップに必要なPR術とプレゼンテーション術についてお話し頂きました。PRやピッチに悩むベンチャー経営者必見の内容です。是非ご覧ください。
登壇者情報
2015年12月11日収録
ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」
スタートアップ企業のビジネスプラン研究
「スペースマーケット」
(講師)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
(ゲストスピーカー)
重松 大輔
株式会社スペースマーケット 代表取締役
(アシスタント)
小泉 陽以
その1はこちらをご覧ください:「大企業の先が見える人生が怖かった」 スペースマーケット重松氏のNTT時代と創業秘話
その2はこちらをご覧ください:「Yコンビネーターの注目サービスをすごく研究していた」スペースマーケット重松氏が語るビジネス・アイデアの見つけ方
その3はこちらをご覧ください:ユニークな有休スペースを宝の山に変えるスペースマーケットのビジネスモデル
その4はこちらをご覧ください:「スペース×コンテンツ」は新しい価値を生み出す
小泉 それから、スタートアップにおけるPRやプレゼンテーションのお話に移りましょう。
小林 受講生の方はスペースマーケットを見てこう思ったのではないでしょうか。
「空きスペースを貸し借りする」というアイディアは誰でも考えるアイディアでしょう。
それがいろいろなものに広がっているだけです。
ですから、聞いている人でも「俺、こういうことを考えていたのだよ」と言う人は結構いると思うのです。
しかし、実際にやるとなるとスピード感などが非常に重要になってくるのですがPRやマーケティングになります。
ですから、スタートアップでは特にですけれども、PR、マーケティングを社長自らやっていくというのが非常に重要です。
私は広報の経験がありません……などと言っている場合ではありません。
それを「やる」というところが非常に素晴らしいと思いまして、そこのお話を伺いたいと思っております。
スタートアップのPR術
小泉 まずは、スタートアップのPRの基本です。
重松 基本は、やはりメディアは、時流とかトレンドを捉えた社会的な問題とかそういうものがなければ取り上げる理由がない、というところです。
だから、必ず時流を捉えた問題を入れてほしい。
スペースマーケットの場合は、今はそれこそ民泊だったり、あとは自治体の持っている空きスペースで空き家問題とか、シェアリングエコノミーとか、地方創生とか、いろいろな問題を盛り込んでいるわけです。
ですから、わりと取り上げやすい。
小林 一般的な大手企業で行きますと、たとえばトヨタの記者会見であれば呼べば来ると思うのです。
トヨタの新発表というのであれば、聞いてみたいと思いますから。
しかし、スタートアップであればそうはいかない。
お金を払えばテレビCMでも打てるわけですが、スタートアップはお金もない。
重松 知名度もない。
小林 ですから、取り上げられる、ピックアップされる、ということが非常に重要になってきます。
そして、そのピックアップというのは、ニュースのネタ、つまり社会問題とリンクしていなければならないということですね。
重松 はい。これは絶対にです。
自分のビジネスが何の社会問題に対応したものなのかというのは、必ず意識すると良いでしょう。
次の、地上戦から空中戦へということなのですが、いきなりみなさん「テレビに取り上げられるにはどうすれば良いですか」とご相談されることが多いのです。
しかし、いきなりテレビに取り上げられることは、まずないです。
よほど悪いことをすれば取り上げられますけれど、まずない。
ではどこから行くのかと言いますと、たとえばビジネスの交流会などで少しプレゼンさせてもらうとか、あとはピッチコンテストとか、そうしたリアルの場、地上戦を大事にして、積み上げて行く。
そこで最初に興味を持つのは、WEBメディアなのです。
そして、WEBメディアの人は、わりとハードルが低いので興味を持ったら書いてくれます。
それからWEBでだんだん話題になってくると、次は紙に行くのです。
紙というのは、それこそ日経ビジネスとか、ダイアモンド、それから新聞などですね。
そういうものに出るようになると、講演会の話が来たりとか、勉強会の話が来たりしてきます。
ある程度そういうものをやって、紙などにも出てくるようになると、テレビの人たちは結構紙メディアを読んでいるのです。
雑誌を読んだり、新聞を読んだりしていますので、そこでテレビに出られるようになる。
そして、テレビに一回出ると、これがぐるぐる回ってくる。
いろいろな話がどんどん回ってくるのです。
小泉 次は「絵」を意識した商品設計ということですが。
重松 はい。やはりソーシャルの時代ですから、自分のサービスのどの絵がシェアされるかということを考えて商品を設計されるのがよろしいかなと思っています。
我々の場合は、やはりユニークなスペースです。
野球場の写真や船の写真がドーンとあったりすると、何だろうと思ってみなさん興味を持っていただけるのです。
そして、他のメディアなどでも、そうした写真を出したがるわけです。
その写真がシェアされる。そういうシェアされる写真をOGPといいます。
それが何なのかということは、常に考えられるべきではないかと思います。
小泉 では、5番目の継続的なソーシャル発信というのはどうでしょう。
重松 そうですね。今は、ソーシャル発信しない経営者というのはよろしくありません。
特に投資家などは必ず見ていますから、やはり常に発信をすることが大切です。
しかし、これがまた難しくて、会社の話や、自分たちのサービスの話ばかりをしていても、「面白みのない人たちだね」というふうになってしまいます。
ここに、たとえば経営者が興味を持っている分野のニュースだったり入ってくると良いでしょう。
私の場合、わりと新サービスとか、元々ラグビーをやっていたので最近はラグビーネタが多いです。
(ラグビー日本代表監督の)エディさんの話とかですね。
そして、たまに家族の話を少し入れたりもする。
小林 これは結構重要なところです。
この4番目の大手企業や自治体とのアライアンスの話になるのですが、定期的にネタがなければならないのです。
そして、自治体と言っても腐るほどありますでしょう。
市区町村単位で行くと何個あるのですか、という話です。
特に福岡市、千葉市、横須賀市あたりがそうなのですが、結構インターネット系のスタートアップと連携するのが好きなのです。
そういうところはだいたい若手の市長がやっているから、先進性のアピールになるのですね。
だから、自治体としてもアピールをしたいからメディアを呼んでくる。
そこで社会性というか、メディアにて「お堅い組織がこんな新しいことをやっているよ」というふうになるのです。
それでメディアに取り上げられることが多くなる。
これが定期的に重なってくると、ソーシャルの話に重なってくるというのが、基本スタイルですね。
小泉 続きまして、プレゼンの肝に行きたいのですが、まずは精神編ということでお願いします。
スタートアップのプレゼンテーション術(精神編)
重松 これは精神編です。
重松 やはり、照れてはダメだと思います。
結構イイワケをする人が多いのです。
「時間が短いのでうまく伝えられるか分からないですが始めます」とか。
つまり、どれだけ真剣にやれるかが大事なのです。
それから、ハングリースピリットですね。
これがあれば、「この経営者は本気で伝えようとしているな」というのが伝わると思います。
あと、ラストワンマイルを詰めきるというのがあるのですが、それはこういうことです。
やはり、プレゼンやピッチイベントでは、ギリギリまで考えていると、「このフォントをもう少し大きくした方がいいな」とか「ここに音楽が入った方がより分かりやすい」とか、聴衆のターゲットが少し高年齢の人が多いのであれば、「この言葉はちょっと難しすぎるな」とか思うのです。
私もいまだにギリギリまで変えたりするのですが、それがまたさらにフワッと伸びて、よりレベルの上がったものに仕上がることに繋がるので、やられるといいのではないかと思っております。
小林 まさにこのギラギラ感が良いのです。
対象にもよるのですが、起業家とか投資家、いわゆる起業家を評価する先輩がいたりする時に、「彼は真面目にギラギラしていて見どころがあるな」というのが伝わってくるのです。
そして、だいたい大企業や大手企業でプレゼンする時は、ほぼ真剣にやることなどないのです。
だいたい根回ししていますから。
重松 ええ、やっていました。
小林 すると、発表するのは報告でしょう。
それ一発で決まるわけではない。
対して、普通のベンチャーのイベントは、根回しなどないのです。
というか、させてくれない。
「誰ですか、あなたは」という話になります。
だから、その場で一発決めなければならない。
そして、その場で決めるというのは、内容もそうですし、サービスもそうですが、起業家としての「人」です。
人としての魅力です。
目立ち方には、ギラギラしているとか、目が違うとか、声が大きいとか、服装が面白いとか、いろいろな目立ち方があるのですが、本質的には人が面白い、魅力的だというところで目立たなければなりません。
変に髪の毛を茶色くするとかではなくて、目の輝きで勝負するというのが非常に大切ですね。
スタートアップのプレゼンテーション術(テクニック編)
小泉 続いて、プレゼンの肝、テクニック編に移ります。
重松 はい。テクニック編です。
重松 まずは、声はやはり大きい方が良いです。
あとは、抑揚を付けること。
意外とみなさん平坦にやってしまう。
あとは身振り手振りをジャパネットの高田さんのように大げさにする。
それから視線の置き方が、たとえば会場が広ければ政治家のようにちゃんとみんなを見ているような感じにするべきです。
小林 1カメ、2カメ、3カメを意識したりですね。
重松 はい。あとは1ペーパー、1メッセージですね。
それから写真を多用する。
やはり、写真は視覚でどんどん入ってくるので、写真のインパクトはすごく良いと思っています。
あと、5番目のホッケースティック効果というのは、プレゼンの最後の方が盛り上がって行く感じのことです。
つまり、トーンダウンしてしまうと「あれ」というふうになってしまうので、最後「こういう世界を目指します」というふうに上がっていく感じというのが、テクニック的に大切だということです。
そして、良いと言われている人のプレゼンの動画をいろいろ見た方が良いです。
やはり、良いプレゼンというのは、テンポなどがありますから、そこを身体に染み込ませると良いのではないかと思っています。
小林 今は、TEDなど非常に身近な存在になってきていますので、良いと言われているプレゼンを見るのは大事です。
あとは、自分が好きなプレゼンですね。
このスタイルが良いと気に入ったものを見るのが非常に重要だと思います。
それから、自分のプレゼンしている動画を撮影して練習するのが一番良いですね。
重松 ああ、そうですね。
小林 本番の撮影もそうなのですが、練習の時に、部下や仲間に見てもらうとか、その動画を撮ってもらうとか、非常に重要ですね。
重松 人に見てもらうというのも良いですね。
小林 すると、意外に結構早口だな、というようなことがあるのです。
言っていることがわからないとか。
また、自分で分かり切っていることだから、つい説明しないとか、そういうことはよくあるのです。
ですが、相手に伝わってこそのコミュニケーションだと思うので、だいたい伝えたい対象に近い人から意見をもらうと、非常に良いでしょう。
小泉 では続いて行きましょう。
重松 はい。「社会の文脈」はPRのところと同じです。
何の社会の問題を解決するのか。
世の中の何の「不」なのか、ということを出すのが大事です。
あとは商品のリリーススケジュールも、ピッチ大会などを意識して作り込んだりしていました。
本当に、私のサービスは、ピッチに出る時にはある程度盛り上がっているというスケジュール設計で、1カ月前にリリースをしたりしておりました。
それから、キャッチフレーズですね。
一言でいえば何なのかというところです。
それは対象者によっても違うのですが、私は経営者や投資家が多い時には「AirbnbのBtoB版」とお話をしていました。
小林 ここで、社会の文脈というのは非常に重要です。
社会の文脈、ムーブメント、つまり絵になって複数人がやっているというのが重要なのですね。
重松 はい。ですから、一社だけではダメなのです。
複数で取り上げられる。
我々の場合は、駐車場マッチングのakippaさんと必ず一緒に取り上げられるのです。
ですから、そこはもう束になって、お互い融通し合ったりしております。
小泉 いい具合に回っているということですね。
小林 少し前に女子のプロゴルフが流行っていた時期がありましたね。
今も流行っているのかもしれませんが、その時に子どもがゴルフをやっているという場面がメディアに取り上げられていました。
これは、一人の子がやっているというのではなく、複数の子たちがやっていたからです。
複数がやっていると「トレンド」と捉えられるというところがあるのです。
重松 五郎丸ポーズもそうですね。
子どもが五郎丸ポーズをやっていて、新橋のサラリーマンも五郎丸ポーズをやっていれば、そういう絵が取り上げられる。
小林 いろいろなアングルでみんなが五郎丸ポーズをやっているということですね。
小泉 続いて、最後の資料へいきましょう。
重松 たくさんの人に見てもらってフィードバックをもらうというのは、先ほども小林さんがおっしゃっていましたが、一番大事です。
あとは、みなさん意外と、僕もそうなのですが、変なプライドがあるのですね。
ちょっと恥ずかしいとか。
ですが、これはもう徹底的に指摘をしてもらってやった方が良いです。
いろいろな人に受け入れられるプレゼンというのが実は大事だったりしますから。
小林 これは結構重要なことです。
先ほどイイワケをする人の話が出ましたが、これはセルフハンディキャッピングなどと言います。
「時間が短い」とか、「勉強してないからテストができない」とか、当たり前と言ったら当たり前なのですが、そういうイイワケをしてしまう。
あとは、ピッチコンテストそのものに出ることについて躊躇する人も結構いるのです。
「出て、マイナス評価を受けたらどうしよう」とか「俺はそんなところへ出る器ではない」とか「そんなレベルの低いところへ出ている場合ではない」と言う。
でも、それはイイワケなのです。
別に、全部出て、圧勝すれば良い話でしょう。
しかし、何となくそういうものに出ることに躊躇する人は、意外に多いように思われます。
小泉 では、最後にまとめを、小林さんにお願いします。
小林 重松さんのスペースマーケットというアイディアそのものは、結構誰でも考えそうなアイディアです。
ですが、それを実行に移す上で何をやってきたかというのが、非常にヒントになるのではないかと思っています。
初めは30半ばで創業して、知り合い伝手に180件の物件の掲載を獲得したというところから始まりました。
いろいろとピッチコンテストに出て、PRへ繋げていくというのが、非常にうまくいったように思われます。
やはり、黙って掲載しても、誰も使いません。また、使っているシーンもサイトだけ見ていても分かりませんでしょう。
ですから、誰でも良いのですが、重松さんが直接話しているとか、プレゼンで「こんなふうに使っているのです」ということを少しでも言って人に伝われば、その経営者が「じゃあ鎌倉の古民家でも使ってみよう」となって実績ができる。
そして、その実績ができると、「古民家で会議をやっているシーン」という絵ができるわけです。
その人が会議している写真が特集され、それがまた話題になるというサイクルですね。
ですから、ちょっとした実績を積み上げて行き、それを絵にして、多くの人と共有していくということが、非常にうまく行っている事例かと思います。
みなさんスタートアップの時に、「メディアに出る」とビジネスプランに書くかもしれませんが、実際メディアに出るというのはこういうことなのだ……というのが、今回よく分かったのではないでしょうか。
小泉 ありがとうございました。
さて、お送りしておりました、ビジネス・ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」スタートアップ企業のビジネスプランは、いかがでしたでしょうか。
今回はゲストに株式会社スペースマーケット代表取締役の重松大輔さんにお越しいただきました。
重松さん、小林さん、ありがとうございました。
重松 ありがとうございました。
小林 ありがとうございました。
(終)
【編集部コメント】
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/城山 ゆかり/戸田 秀成
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