ビジネス・ブレイクスルー大学大学院の「アントレプレナーコース」が2016年4月に開講しました。ICCパートナーズ小林雅が担当した「スタートアップ企業のビジネスプラン研究」全12回の映像講義について、許諾を頂きまして書き起し及び編集を行った内容を掲載致します。今回の講義は、ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介氏にゲストスピーカーとしてお話し頂きました。60分の講義を6回に分けてお届けします。
(その4)は、誰もプログラミングが出来なかった状態から、ライフイズテックがどのようにカリキュラムを作っていったか、飛躍のストーリーをお話し頂きました。様々な企業とのコラボレーションにもご注目頂きつつ、是非ご覧ください。
登壇者情報
ビジネス・ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」
スタートアップ企業のビジネスプラン研究
「ライフイズテック」
(講師)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
(ゲストスピーカー)
水野 雄介
ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO
(アシスタント)
小泉 陽以
その1はこちらをご覧ください:「IT界のディズニーランド」中高生向けIT教育を変えるライフイズテック水野氏の挑戦【BBT-LIT #1】
その2はこちらをご覧ください:ライフイズテックの創業秘話-幻に終わった職業体験グランプリ【BBT-LIT #2】
その3はこちらをご覧ください:ライフイズテック、中高生向けITキャンプの誕生-契機となったスタンフォード視察【BBT-LIT #3】
ITキャンプ、ゼロからのスタート
水野 「やっぱりこのプログラムは必要だから、自分たちでやろう」ということで、自分たちでカリキュラムを作って、人を集めて、大学を集めていきました。
小泉 ゼロからスタートするのは大変なことだと思います。
水野 そうですね。この間、「ROOKIES(ルーキーズ)」という映画をたまたま見て、その中で彼らが言っていたのが、「俺らって幸せだよな、夢と仲間がいて幸せだよな」という言葉なのですが、本質を突いていると感じました。
僕らもお金は全く無かったのですが、やりたい教育があって、3人の友達と起業できて、支援して下さる方もいらっしゃって、少しずつだけれども進んでいるという感覚がありましたね。
小林 ちなみに契約が上手くいかず、ゼロからスタートすることになったと言っていましたが、カリキュラムはどのくらいの期間で出来たのでしょうか?
水野 カリキュラムを作るのは1年くらいかかりました。大人向けにプログラミング教育をしている会社さんに会いに行って、「僕らは中高生向けにやりたいのですが、カリキュラムを貸して下さい」と伝えたら、承諾して下さいました。
大人向けのカリキュラムは少し難しい内容だったのですが、そもそも教師としてやっていた仕事は、物理の難しい法則を簡単な形で子どもたちに教えることなので、中学生の女の子がどうしたらiPhoneのアプリを簡単に楽しく学べるのかを考えて、自分たちでカリキュラムを作ってみました。
当時、早稲田高校で週3回教えていたので、その子たちに参加してもらうワークショップを何回か開催しながら、カリキュラムを改善していきました。
自分がプログラミングできなかったからこそできたカリキュラム
小林 水野さんは当時プログラミングが出来たのですか?
水野 出来なかったです。全くのIT音痴で、iPhoneも初めて買ったし、Facebookもやっと始めたところで、「ブラウザって何?」という状態でした。
小林 3人の創業メンバーの中で、プログラミング出来る人はいましたか?
水野 1人もいなかったです。
小林 すごいですね。逆にそれが良かったのかもしれないですね。自分が学びたいように、カリキュラムを作れますよね。
水野 そうですね。自分たちだったら、どういう風に教えてもらうのが楽しいかというのを考えていましたね。
小泉 ご自身もカリキュラムを作りながら、勉強されたのですね。
水野 そうですね。「電卓はどうやって作るんだろう?」とか言いながらやっていましたね。
小林 いいですね、「どベンチャー」という感じですね。
小泉 それでは、創業して1年間は、資金300万円で、つないでいらっしゃったのでしょうか?
水野 300万円は、最初のアメリカの旅行で100万円位かかってしまって、残りは3ヶ月位で無くなってしまいましたね。
そこからは、とりあえず3日間だけ働いて50万円稼いで来るというところで働いて、その30万円を会社に入れて、20万円で生活するという感じでつないでいました。
先ほどもお見せしましたが、これが広尾の8畳のオフィスで初めて開催した3人のキャンプの写真です。
最初にポスターを作って早稲田高校の掲示板に貼ってもらったのですが、これがその写真ですね。
その後、キャンプを初めてやって、急に広尾学園さんとのキャンプが決まって、広尾学園で参加者の募集をかけたら、100人来てくれることになりました。
そのときに、メンターである大学生が5人位しかいなかったので、「やばい、足りない。100人教えるには、20人必要だから研修をやらなきゃ」ということで研修をやりました。
この写真は、恵比寿にオフィスを引っ越して3人でシェアハウスをして、リビングをオフィスにしていたのですが、そこで大学生の研修をしている様子ですね。
ボランティアではなく、対価を払うメンターを集める
小林 よく20人来ましたね。
水野 そうですね、頑張って集めましたね。Twitterやmixiを通して、「こういうのに興味ないですか?」と声を掛けていましたね。
小泉 メンターさんは、基本的にボランティアなのでしょうか?
水野 メンターは、アルバイトという形でバイト代をお支払いしています。
創業時に、そもそもNPOにするか会社にするかで迷ったことがあったのですが、会社でやろうと思ったのは、NPOのワークショップを見ていると自己満足に陥りがちな所が多いと思ったことが理由です。
そうではなくて、お金を頂いて提供するサービスというのは、価格以上の価値を出すのが大事だと思うので、ちゃんとプロフェッショナルとしての事業を運営したいと思いました。
大学生も最初はボランティアでも出来るかもしれないですが、それが継続的にやるとすると、いい人たちは残らないと思ったので、プロフェッショナルに出来る人たちをちゃんと集めて、その人たちに教えてもらうことにしました。
これは、お金がないので、自分たちでポスターを巻いて、学校に送付する作業をしている様子です。
大事なのは、コミュニティを創ること
少しずつ事業が成長してきて、これは目黒のオフィスで、社員が10人くらいになったときですね。
その後、これはいまの白金のオフィスで、20人くらいですね。
小泉 皆さん、Tシャツのユニフォームなのですね。
小林 カラフルですね。メンターの方も子どもも、みんな着ていますよね。
水野 子どもも着ています。メンターと全く同じTシャツを参加時に、自分な好きな色を選ぶところからスタートします。一体感の醸成のためですね。
小林 すごく楽しそうなんですよね。休み時間も、キャンパスの芝生のあるところで遊んでいますよね。
プログラミングをしている所は見てはいないのですが、外で仲良さそうに遊んでいる様子は見たことがあって、楽しそうだな~と思いました。
水野 参加者の全員が全員、ITが好きという理由で参加している訳ではなくて、何となく楽しそうだから来ている子もいます。
つまり、逆に言えば、キャンプが嫌いになってしまうと、ITも嫌いになってしまう可能性があるんですよね。
なので、まず大事なのは、学ぶモチベーションが育まれる場所、コミュニティを創ることだと思っています。
キャンプ自体を好きになってもらって、「自分はこの場所にいていいんだ」というように、自分の存在価値を認めてくれる場所や新しく自分を表現出来る場所であることを感じてもらった上で、スキルを学んでもらうという順番ですね。
それが学びのモチベーションを創出するには必要ですね。
ライフイズテックのビジネスモデル
小泉 参加者の学生さんは皆さん自分で来たいということで来ている方なのか、あるいは、親から言われて来たという方もいらっしゃるのでしょうか?
水野 参加者の半分位は、「夏休みにゲームばかりやっているなら、ゲームを自分で作って来なさい」みたいな調子で、親御さんに言われて来ているようですね。
たしかに、1人でゲームをやっているのであれば、先輩や他の仲間と一緒にゲームを作る方が、「消費者から生産者へ」という意味では、生産的ですよね。
残りの半分位の参加者は、いまリピート率が50%位なのですが、口コミで友達を連れて参加してくれて、何度もキャンプに参加してくれる人がいますね。
小泉 いいですね。
小林 楽しいのでしょうね。
水野 これがビジネスモデルです。僕らはいま8割をB to C、2割をB to Bでやっています。
B to Cでは、キャンプやスクールをやっているのですが、ディズニーランドやキッザニアをモチーフにしたビジネスモデルを組んでいます。
ディズニーランドやキッザニアは、参加者から1日7,000円の代金を支払ってもらって、かつ、アトラクションごとに協賛がついていますよね。そういうモデルが出来ればと思っています。
2割は企業さんで、採用やプロモーションの予算から頂いています。例えば、スクエア・エニックスさんと一緒に、ドラクエキャンプというのを企画して、ゲームが好きな子たちを集めて、ゲームについて学ぶというキャンプを開催しました。
様々なコラボレーション
これは、Code Girls(コードガールズ)という女の子向けの企画です。女子大生が女子中高生を教えようということで、クックパッドさんと一緒に開催しました。参加者はエプロンを付けているのですが、プログラミングは可愛いというメッセージでやりました。
他には、吉本興業さんと一緒にやったり、
初音ミクさんとやったり、
Googleさんと市の問題を解決しようというのをやったりしています。
僕らは大学生がすごく大事なので、大学生にはLife is Tech! Leadersという形で、中学生・高校生を導くITリーダーを創ろうというプログラムを開催しています。
各社さんから協賛を頂いて開催しているのですが、各社さんからすると、技術力があってコミュニケーション能力がある子は人材として欲しいんですよね。
ですが、大学1年生から企業独自で囲って育成するというコストは抱えられないので、大学3年生からか、大学院生からしか採用出来ません。
僕らが、大学1年生からを対象として、学生に対して研修をしていい子たちを集めて、そこから企業に入社すればペイするということで、企業さんから年間でプロジェクトフィーを頂いて、学生に対する研修を実施しています。メンターの大学生から、企業に入社していく仕組みも出来てきていますね。
小泉 B to Cだけではなくて、B to Bも上手に活用されているのですね。
小林 企業側もプログラミングが出来る人材を求めているのですが、中途採用はやっぱり難しいんですね。そういった点で、ドラフトのように育成の段階から採用したい、あるいは接点を持ちたいという企業が多いので、企業のニーズとマッチしているモデルですよね。
水野 そうですね。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/藤田 温乃
続きは 世界に広がるITキャンプ-ライフイズテック水野氏が語る”転機の資金調達” をご覧ください。
【編集部コメント】
続編(その5)では、中高生からITのヒーローを生み出す「ITドラフト会議」と、世界展開に伴う資金調達についてお話し頂きました。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。
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