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「歴史から学ぶ『帝国の作り方』(シーズン2) 」全9回シリーズの(その5)は、前パートから続く「考え方が古い企業の問題とは何か」の議論の続きで、第一次世界大戦で破れた帝国のその後の対応を考察します。大敗を喫しても独自の方法で復活した、その道のりとは? そこから企業経営が学べることとは? ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティング様にサポート頂きました。
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【登壇者情報】
2021年2月15〜18日開催
ICCサミット FUKUOKA 2021
Session 6A
歴史から学ぶ「帝国の作り方」(シーズン2)
Supported by
リブ・コンサルティング
(メイン・スピーカー)
深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役
(スピーカー)
宇佐美 進典
株式会社CARTA HOLDINGS 代表取締役会長 / 株式会社VOYAGE GROUP 代表取締役社長兼CEO
奥野 慎太郎
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
マネージング パートナー
北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)グローバルデータ統括部 ディレクター
山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長
(モデレーター)
琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)
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▶「歴史から学ぶ『帝国の作り方』(シーズン2) 」の配信済み記事一覧
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最初の記事
1.シーズン2は「生き残る帝国」から、事業やビジネスに活かせる学びを徹底議論
1つ前の記事
4. 新しい概念に対して構造的に弱かった「ダイバーシティ&インクルージョン」の帝国
本編
写真左からCOTEN 深井さん、CARTA HOLDINGS / VOYAGE GROUP 宇佐美さん
深井 今日僕が言いたいのは、これです。
我々は企業について論じる際、えてしてマインドの問題だと思っていないでしょうか?
新しい変化についていけないのは、「経営者の考え方が古いのではないか?」とかよく言ったりしますが、僕が、歴史を勉強していて感じるのは、「構造の問題」が大きいのではないかということです。
企業、組織ごとに、歩んできた系譜や成功理由があります。
しかし、成功理由がそのまま失敗理由に転換するという、外的要因の変化があり得ます。
「第一次世界大戦後、何が起こったか」について少しだけご説明して、その時に、中にいる人がどうすれば良かったのかについて、皆さんと考えていきたいと思います。
構造的に、「国民国家モデル」の適用が難しかった国は、どうすれば良かったのか? もしくはどうしたのか。
これについて、議論をしたいと思っています。
パターン①適用できるサイズまで縮小
深井 それらの国々が実際にどうしたかについては、歴史上、2つのパターンがありました。
1つ目のパターンとしては、いったん「国民国家モデル」を適用できるサイズになるまで縮小しました。
琴坂 切り捨てざるを得なかったのかもしれないですね。
深井 例えば、オスマン帝国は広大な領土を持っていましたが、第一次世界大戦を経て「死に体」となりました。
「死に体」になったところで、ケマル・アタテュルク(1881~1938)という英雄が現れ、何とかして持ちこたえさせ、トルコ人と呼べるレベルの最小単位にまで切り詰め、トルコ共和国として生き残りました。
それから100年ほど経ち、トルコは伸びています。
琴坂 企業でいう、“shrink to grow”、「選択と集中」と似ていますね。
北川 新しいですね、あまり聞いたことがないです(笑)。
奥野 勝てる事業に絞って縮めていこうということですね。
写真左から、ベイン・アンド・カンパニー奥野さん、楽天 北川さん、HAiK 山内さん
北川 コンサル業界では、そういう考え方もあるのですか?
奥野 あります、あります。
たまたま、他が全て負けてしまったという状況もあるのでしょうが、勝てる事業のみにして立て直すこともあります。
祖業ではなくても、ヤドカリのように別事業に移り、小さくなっていくこともあります。
事業には正しいサイズというものがありますからね。
北川 東芝はそのパターンですか?
▶東芝が10月に新中計、事業再編視野 非上場提案も検討(ロイター 2021年5月14日)
奥野 東芝は色々な出来事があって、ああなったと思います。
GE(General Electric Company)が良い例だと思います。
小さくなったり、大きくなったり、リサイズを繰り返していますよね。
▶米GE、航空機リース事業を売却 かつての花形部門が終焉(CNN.co.jp 2021年3月11日)
▶GE、成長と株主価値の創造に向けポートフォリオを集中(GE 2018年6月29日)
北川 ああ、確かにそうですね。
深井 オスマン帝国がそのパターンでして、オーストリア=ハプスブルク帝国も同じパターンです。
彼らも色々な民族を包含していましたが、ドイツ語を話す人に国民を限定して、小さくしました。
でもドイツ人もドイツ語を話すので、ヒトラーが台頭した際、オーストリアは一度ドイツになるのです。
琴坂 どちらかというと、このパターンは「追い込まれ系」ですよね。
深井 はい、めちゃくちゃ追い込まれています。
琴坂 1つ目のオスマン帝国やオーストリア=ハプスブルク帝国は、利益率がどんどん下がっていって、切り売りしないと倒産するような状態ですよね。
深井 面白いのは、オスマン帝国もオーストリア=ハプスブルク帝国も、第一次世界大戦時、新しいシステムが適用できないながらも、頑張って伸びようとしていました。
けれどもそれができなくて、縮小を余儀なくされたという形ですね。
琴坂 2つ目のソ連や中国は、うまくいっていなかったことで社会に不満が蓄積し、体制が大きく変わってしまったということですよね。
植民地争奪の時代背景
CARTA HOLDINGS 代表取締役会長 / VOYAGE GROUP 代表取締役社長兼CEO 宇佐美 進典さん
宇佐美 オスマン帝国やオーストリア=ハプスブルク帝国は縮小する際、内向きの議論をしているので、外にある植民地を取ろうと考えるのは難しかったのでしょうか?
深井 いえ、取ろうとしていました。
しかし当時の勝ち筋は1つしかなくて、なるべく早く取ること、つまり早い者勝ちでした。
そしてそれに遅れた国は、近代化が非常に難しくなります。
ですから、日本が近代化したのは、ものすごい奇跡なのです。
琴坂 そのロジックを、もう少し詳しくお話し頂けますか?
なぜその当時の国家は、植民地を取らないと勝てないゲームの中にいたのでしょうか?
深井 まず、マーケットの原理です。
琴坂 規模の経済(※)ですね。
▶編集注:事業の規模が拡大するほど、コストが下がって利益が増え、競争上有利となること。
深井 そして植民地をいいように扱うので、リソース確保ができました。
リソースを確保した国に、リソースの少ない国は勝てません。
今で言うと、資本力が高いところに低いところは勝てないのと同じ考え方ですね。しかも資本を持つことがそのまま資本の増加につながります。
琴坂 例えば同じ市場で戦う競合同士だと、大きくなればなるほどアカウントロックインが行われ、サービスが良くなり、セールスが上がる。
だから、できるだけ早く陣取りゲームをする必要があるということですね。
深井 その通りです。
植民地にできる国は限られているので、それらを早く獲得するために各国が強気になっていった結果、第一次世界大戦が起こったというのが大きな流れです。
北川 時代によって、何を取れば力を拡大できるか違ってきますよね。
深井 違いますね。
北川 この時代だと領土で、今の時代だと、それはネットワークエフェクト(※)ですから、人の時間を取れれば取れるほど力が強くなるという世界観ですよね。
▶編集注:サービスや製品の利用者が増えるほど、優位性や価値が高まること。
深井 そうですね。
この時代のアドバンテージはビジネス的な権益なので、今とあまり変わりません。
石油などのリソースも、良い例です。
パターン②「国民国家モデルではないもの」を無理やり適用
琴坂 他に答えはないのでしょうか? 今回、どうすれば良かったのかという話の前に、これら2つのパターンがあったということですが。
深井 答えはないのですが(笑)、僕は2つ目のパターン「適用するシステムの種類を変えた」に面白い示唆があると思っています。
皆さん、今それぞれの国がどうなっているかを想像してみてください。
結果的に、2つ目のパターンだった国は、1回負けたけれど今は強いのです。
琴坂 確かに!
深井 彼らがしたのは、「国民国家モデルではないモデル」を無理やり適用するということでした。
「国民国家モデル」が大事で、それ以外に勝ち筋がないと思われていた時代、彼らも「国民国家モデル」を適用しようとしますが、失敗して負けます。
負けててんやわんやになって、新しいモデルが出てきたのです。
ロシア帝国も清帝国も、誰がロシア人か、誰が中国人かという定義ができませんでした。
しかし、「僕たちはみんな、共産主義を信奉している。これでまとまろう」と考えたというわけです。
山内 2つ目のパターンについて補足させて頂くと、彼らの思想は共産主義なので、今で言うと、「DXじゃなくてCXだ!」と叫んだという感じなんです。
今でこそ僕らは、共産主義の国がうまくいかなかったことを知っていますが、当時は最先端の思想だったわけで、日本を含め、あらゆる国のインテリが飛びつきました。
東大など大学には、共産主義の思想を持つ先生が多かったですよね。
琴坂 確かに「国民国家モデル」がもたらした、負の側面に対するアンチテーゼとして共産主義が振る舞って……。
深井 その通りです。
共産主義から「帝国モデル」への回帰で復活
山内 もう1つの特徴は、第一次世界大戦の参戦国のうち、1人当たりのGDPが低いのがロシア帝国や中国です。
中国はもともと豊かでしたが、産業革命が起こらなかったので、下がっていきました。
ロシア帝国は、ドイツやイギリス、フランスに比べて1人当たりのGDPが低かった結果、革命(1917年のロシア革命)が起きました。
深井 そうですね。
琴坂 時代をスキップし、その先にあるスタンダードを採用して、捲土重来(一度失敗した後に勢力を上げ、全力で巻き返してくるという意)を待つということですね。
深井 さらに興味深いことに、ソ連と中国は、共産主義を適用することによって、再び帝国モデルに戻っているのです。
つまり、自分の持っていた強みを適用できなくなったので、新しい概念を持ってきて、もともと持っていた強みに回帰したということです。
琴坂 深いですねえ!
深井 結果、100年後には、ロシアと中国はすごく強くなったのです。
北川 でも中国は、ガチガチの共産主義を採用した時は、あまり強くなかったですよね。
それを若干ゆるめて、資本主義をちょっと取り入れてみたり。
深井 彼らの中で、トライ&エラーがあったのだと思います。
でも、一旦ガチガチの共産主義に固めない限り、初動は取れなかったと思っています。
北川 中国という国家におけるコアは、今は何なのでしょうか?
共産党であるのは間違いないですが、共産主義かと言われると、クエスチョンマークが浮かびます。
深井 帝国に回帰したということはつまり、主義を掲げながらも主義という概念を使っていないわけです。
イデオロギーでまとまっているように見せかけていても、その実は帝政だということです。
現代の帝政に回帰しているということです。
奥野 中国では中国人が、ロシアもロシア人がコアになっているということですよね。
深井 そうです。
歴史を見るとこういう結果なのですが、実際にどうすれば良かったのかというのは分からないのです(笑)。
(一同笑)
まさにこれをみんなで議論できればと思っています。
では、現代の企業はどうすべきか?
琴坂 経営学の面から、議論しましょう。
企業を新しく作り直す際、変革が構造的にできるマインドセットをインストールするのが重要だと言われます。
つまり、固く変わらないというマインドセットではなく、チェンジマインドセットです。
変わることがビルトインされたコーポレートカルチャー、ルーティンを設計することで、このような対立が起こらないようにするということですね。
なかなか難しいのですよね。
深井 難しいでしょうね。
琴坂 ちなみに、奥野さんからも熱いチャートが来ていますので、解説をお願いできますか?
(続)
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続きは 6. ベイン奥野さんが解説、現代の企業の「海洋帝国」「大陸帝国」経営 をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成/大塚 幸
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