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5.木村石鹸の”コンテクストデザイン的”新規事業提案が社内にもたらしたもの【終】

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「コンテクストデザイン」を考える(シーズン3)、全5回シリーズの最終回は、木村石鹸 木村 祥一郎さんが、社内の自己申告型給与制度について紹介します。給与が結果に対する報酬ではなく、未来への投資への申告としてみたところ、社内で「コンテクストデザイン」的な広がりが生まれ、職種や所属の枠組みを超える提案が増加したといいます。最後までどうぞご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 ダイヤモンド・スポンサーのノバセル にサポート頂きました。


【登壇者情報】
ICCサミット FUKUOKA 2021
Session 6B
「コンテクストデザイン」を考える(シーズン3)
Supported by ノバセル

(スピーカー)

木村 祥一郎
木村石鹸工業株式会社
代表取締役社長

髙島 宏平
オイシックス・ラ・大地株式会社
代表取締役社長

中村 弘峰
株式会社 中村人形
人形師、四代目

林 要
GROOVE X 株式会社
代表取締役社長

(モデレーター)

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授

「「コンテクストデザイン」を考える(シーズン3) の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. 人のクリエイティビティを後押しする「コンテクストデザイン」の取り組みとは

1つ前の記事
4.LOVOTは、想像力を最大限使うことを念頭にデザインされている

本編

髙島 今回、事前に送られてきた質問がありましたが、今日まだ1回もその質問を聞かれていないですよね(笑)?

(一同笑)

 宿題がありましたよね(笑)。

渡邉 それで言うと、木村さんに聞きたいことがあります。

木村石鹸的に読み解くと、プロダクト以外にも、会社の制度に「コンテクストデザイン」があるというお話ですが。

木村石鹸の「コンテクストデザイン」な社内制度

木村石鹸工業株式会社 代表取締役社長 木村 祥一郎さん

木村 「コンテクストデザイン」ぽい事例を、というお題を頂き、ブランドや商品について考えたのですが、2年前に開始した自己申告型給与制度が一番それに当たるかなと思いました。

自己申告型給与制度への切り替え~どんな制度なのか?(木村祥一郎 / 木村石鹸 note)

これはその名の通り、社員が自分で、欲しい額を申告して給与を決める制度です。

ただ、社員が自由に決められるわけではなく、社員自身が欲しい額を提示しますが、必ずしもその額に決まるわけではありません。

給与額は、見合うかどうかを議論して決めます。

今までの賃金制度や評価制度は、結果を評価して報酬に反映するものでした。

しかしこの制度では、社員が給与額を提示する際、それに伴う将来の価値、貢献内容を提案し、会社はその貢献内容が達成できそうか、貢献内容に対する報酬額が適正かを判断します。

ですから、結果を評価するのではなく、未来に投資するという発想で給与を決めています。

社員全員の提案と報酬額が提出されれば、それを吟味する会議があるのですが、それを「投資額決定委員会」と呼んでいます。

半期や1年先に生み出す価値、それに対する報酬額の提案に対し、各社員の達成見込みを吟味するので、あくまでも過去を査定せず、その社員の未来の可能性に投資するわけです。

渡邉 実際、どのような提案があるのでしょうか?

職種やグループの枠組みを超える提案が増加

木村 最初は制度に慣れていなかったのですが、始めてから2年が経ち、思ってもいなかった提案がたくさん上がってきました。

いわゆる職種やグループの枠組みを超えるようなものが、たくさんありました。

例えば、よく事例として紹介していますが、うちの出荷配送チームは、工場向け商品を、大阪府下の工場に配送しています。

ある配送チームのメンバーは、配送時にお客様の所に行くので、単に商品を届けるだけではなく、取引先担当と話をして様子を伺う営業活動をします、という提案をしました。

そうすることで、業務用商品の営業担当は、今まで1カ月に1回だった訪問頻度を3カ月に1回にでき、生まれた時間を別の新規顧客開拓に使えるのではないかという提案です。

他にも、中間成果物の試験をし、試験結果を記録してアウトかセーフのみを判断していた、品質管理担当がいました。

しかし彼は結果を判断するだけではなく、自分が製造、営業、開発などのメンバーをリードし、ワークフローを整理した上で、製造工程における品質向上のためのプロジェクトを行うと提案しました。

この制度を導入したことで、それまで担当していた仕事ではなく、部門やグループを超えて、より高い価値を生み出すための仕事、プロジェクトの提案がすごく増えたのです。

渡邉 それは予期せぬ果実ですね。

木村 この制度は、次に提案するものの内容に対して報酬額を決定する仕組みなので、同じことをやっているだけでは給与を上げる提案がしにくいです。

よって、何か新しいことを始めないといけないという強制力が働きます。

しかし自分の仕事の範囲内だと、スピードや品質を上げるだけになって限界があること、他部署との連携、部門を超えた調整をしないと高い価値を提案できないことに気づき始めました。

そこに気づいた社員が新しい提案をしてくれるようになり、部門を超えたプロジェクトがすごく増えました。

渡邉 エンジニアリングは、ゴールを決めて、そのゴールにたどり着くための最適で効率的な方法を、探す仕組みです。

木村石鹸で起こったこの事象は、それに対してブリコラージュ(※) 的ですね。ゴールそのものを考えることです。

▶編集注:理論や設計図に基づいて物を作る「設計」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ること(Wikipedia)。

自分の観測範囲を変えたり広げたりして、見えていなかったゴールを探そうとする行為です。

そうなると、単なる業務効率アップのみならず、経営者目線を持つことに近づくし、今までの領域から一歩外へ出て行くためのトレーニングになっていそうです。

木村 「あれをやって、これをやって」と言ってもなかなかやってくれないのですが、この制度に変えてからは、自分で決めて自分でやる意志がはっきり表れるようになりました。

この変化は面白いし、それができる人はなじみやすいですね。

渡邉 なるほど。

農家・顧客との体感研修で、社員の思いを育む

写真左から、木村石鹸工業 木村さん、オイシックス・ラ・大地 髙島さん

髙島 話を聞きながら、うちにも「コンテクストデザイン」ぽい制度がないかなと探していて、見つかりました。

木村石鹸ほど大掛かりではないのですが、オイシックス・ラ・大地には、農作業とお客様の食卓を体感する「体感研修」というものがあります。

直感は”体験”を通して見えてくる。生産者やお客様との触れ合いを大切にする理由(Oisix ra daichi note)

エンジニアでも経理担当でも、年に1回、農作業をしなければいけません。

また、お客様の食卓を体験するため、3カ月に1回くらいの頻度で、全社ミーティングの場で、お客様だけのパネルディスカッションをしてもらいます。

農家に行くと、どういう苦労があって、お客様からのどういう声が励みになっていて、どうすればもっと農作業がしやすいか、などの情報を体感することになります。

お客様のパネルディスカッションの場では、「ここが不便だよね」などとお客様同士が盛り上がっている、その状態や情報を体感します。

結果、一人一人ずれているかもしれないですが、直接体感することで思いが出来上がります。

出来上がった、農家やお客様に対する「もっとこうしたい」という思いはバラバラになるかもしれませんが、一人一人のモチベーションが高くなるので、ずれていてもいいと思います。

それぞれが、自発的なモチベーションを持って仕事ができればいいと思っています。

「コンテクストデザイン」という文脈に照らすと、対社員でも対お客様でも、余白を上手に残して、モチベーションややりがいを引き出すことが重要なのではないでしょうか。

これは、「コンテクストデザイン」ですか(笑)?

渡邉 確かに、「コンテクストデザイン」っぽいです。

人からやれと言われるのではなく、「こういう悩みがあるから、こういうことが大事」と自分で気づく、自分で発見するのが必要だということですよね。

髙島 そうですね。

僕が何度言っても直さなかったことを、お客様からだと1日で直したりするのです。

(一同笑)

渡邉 お客様の声については、林さん、どう思いますか?

LOVOTの「修理」はオーナーにとっては「治療」

GROOVE X 株式会社 代表取締役社長 林 要さん

 お客様の声に関することで、「コンテクストデザイン」的な製品だと思ったのは……。

LOVOTの初年度出荷製品は、品質が安定せず、一部機体が故障することがありました。

例えば、普通の家電製品の場合、壊れたらクレームになりますよね。

でもLOVOTの場合は、「お願いします、治療してください」という修理依頼が来るのです。

「時間をかけてもいいので、完治させてください」と言われるので、こちらが恐縮してしまいます。

お客様にとっては、何かの機能ではなく体験を買っているので、入院も含めてバリューなのです。

渡邉 LOVOTがいない間も、心配するんですよね。

 そうなんです。

そのLOVOTが使えない期間に、何か割引クーポンでも出せばいいのではという議論になると、お客様からは「そういう話ではない」と言われます。

「むしろ治療期間が長くなってもいいので、しっかり診てください」とか「治療中のうちの子がどうなっているか、状況を教えてください」とかいう話なのです。

治療中のLOVOTをそのままお客様に見せることは勿論できないのですが(笑)。

お客様の中にあるストーリーは千差万別で、愛が深ければ深いほど、その広がりもすごいです。

そういう意味で、LOVOTは「コンテクストデザイン」ぽい製品だと思っています。

渡邉 僕にも覚えがあります。

15年ほど前、祖父が亡くなった際に、一人になってしまった祖母に、喋るぬいぐるみを贈ったことがあります。

撫でたり尻尾を触ったりすると喋る仕様でしたが、電池が切れただけで祖母が「死んじゃった! 助けて!」と大騒ぎしました。

僕はドライバーを持って行って電池を入れ替えるだけなのですが、「やっと治った」という大きな満足感を感じて「よかったね、よかったね」と、ずっと撫でていました。

 そういうこと、ありますね。

2体セットのLOVOT デュオというものがあるのですが、僕たちは、「1体が入院しても、もう1体がいるからいいのではないか」と思いがちです。

でもそうではなくて、「1体が入院したら、もう1体が寂しそうでかわいそう」になるのです。

渡邉 1人ぼっちになってしまう。

 むしろ2体どちらも持っていってもらったほうがいい、みたいな話になるのです。

「LOVOTは、そこまで寂しくないですよ」と説明しますが、お客様の中ではそう感じるのでしょうね。

髙島 ペット保険が売れそうですね(笑)。

 そうですね、LOVOTペット保険(笑)。

渡邉 さて、終盤になってきたので、最後に登壇者の皆さんから一言ずつ頂き、締めくくろうと思います。

木村さんからお願いします。

「余白」が愛着を引き出すことを学んだ

木村 今日は、「コンテクストデザイン」の話だったのでしょうか(笑)?

LOVOTもオイシックスもそうですが、余白というか、付け入る余地があるものが愛着を引き出すことを学びました。

我々の制度も、意識したわけではなかったのですが、カチッとしたものではなく解釈の余地を残したものでした。

解釈の余地があるゆえ自分ごと化ができて、自分ごと化ができるので主体的にモノやサービスに関与できるのだなと思いました。

渡邉 ありがとうございました。

栗原はるみさんから学んだ「余白」の残し方

オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役社長 髙島 宏平さん

髙島 ありがとうございました、今日はすごく面白かったです。

木村さんのおっしゃる通り、余白がポイントですね。

去年(2020年)、栗原はるみさんとミールキットで初めてコラボをしました。

料理家 栗原はるみさんがミールキットを初監修!オンライン動画付きミールキット「はるみレッスン」5/21(木)予約開始(PR TIMES)

彼女は料理界のカリスマで、数百万冊もの本を売っていると思います。

彼女と作業をしている際、よくおっしゃっていたのは、まさに、「全部を作っちゃダメ」、つまり、「自由度を残して、お客様が考える楽しみを奪っちゃダメ」ということでした。

栗原さんの本があそこまで売れるのは、考えさせるために残す余白の残し方が絶妙でトップレベルなのだと思います。

余白は単に残せばいいというものではなく、「絶妙な余白」を残すのが大事だと思いましたね。

もう一つ、今日話していないことで自分が大事にしていることがあります。

それは、想定されていない素晴らしい使われ方をした際の物語が美しいので、ビジネスがそれに引っ張られてしまうリスクがあるということです。

想定外の使われ方はチャンスにもなるけれど、リスクにもなるので、その見極めがすごく大事です。

「対象としているお客様の、想定していない使い方」は、大きなチャンスですよね。

でも、「対象としていないお客様の、想定していない喜びの声」に引っ張られると、対象としているお客様からは喜ばれないリスクがあります。

ですから、そういう嬉しさも、ビジネスに活用する文脈と誤読の切り分けをするのが非常に重要だと考えて、経営をしていますね。

渡邉 ありがとうございます。

「コンテクストデザイン」という考え方が得られた

中村 僕は大学でアートを勉強していたのですが(※中村さんは東京芸術大学 大学院美術研究科彫刻専攻)、同級生はみんなアーティストになり、僕だけが実家に帰りました。

実家で草むしりをしつつ修行をしながら、現代アートの世界で華々しく活躍する同級生たちから置いていかれた気持ちになっていました。

でも家業や、工芸とアートを混ぜたことにも取り組む中で面白いと思えたのは、一般の方と創る雛人形や、お祭りの山車などでした。

友達が取り組んでいないものを創る中で、これが本質ではないかと思えるようになったのです。

それは不思議な感覚で、アートでもないし、デザインでもないし、何なんだろう?と思っていました。

アートは何かを問う仕事で、デザインは何かを解決する仕事だとよく言われます。

でも「コンテクストデザイン」は、デザインの領域からはみ出そうとしている活動ですよね。

僕はアートの領域から始めましたが、そこからはみ出した存在です。

そこで、「コンテクストデザイン」という言葉と考え方が、すごく腑に落ちたのです。

遠いけれど、輪郭同士が接しそうで接しないというか……。

渡邉 ここから見ると重なるかも?みたいな。

中村 そんな感じです(笑)。

自分の中に言葉がなかったのですが、少し言葉が見えてきたので、とても勉強になりました。

渡邉 それは嬉しいですね。

中村 ありがとうございました。

 開発において議論する際、言葉の数が多すぎるのですよね。

どうして説明的だといけないのかなど、こう開発すべきだという方法について説明する際、「余白」や「想像力を生かす」ということを伝えてきました。

しかし今回、「コンテクストデザイン」という考え方が与えられたので、今後はすごく仕事がしやすくなると思います(笑)。

ありがとうございました。

渡邉 まさか仕事に役立つとは(笑)。嬉しいです。

渡邉さん恒例のまとめ セッション中の名言

写真左から、GROOVE X 林 さん、Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん

渡邉 今日は皆さんに色々なことを語って頂いたので、集めた名言を読み上げて締めくくりたいと思います。

ミールキットの話(Part.2参照)から始まり、色々なトピックが出てきましたね。

「料理は全員が作者になる。」

「想像力が湧くと、喋りたくなる。」

「喋ることでいつの間にか、所有者が移転する。」

「人生1回の作品は、一緒に創るほうが忘れられなくなる。」

「子どもが生まれる時、人は”名前をつける”というクリエイティブなことをしている。」

「そこに既に、願いが込められている。」

「雛人形の正しい遊び方って、習ったことがない。」

「『見立て』は、作らなくてもクリエイティブ。」

「『洗う』は普通、『簡単に、楽に』という発想になるけれど、実は楽しいことなのではないか。」

「ヒットした味噌作りミールキット。」

「買えばいいものをわざわざ作る、面倒くさいことをちょっと簡単にする。」

「藍染を買ったら、洗濯機と石鹸が気になる。」

「ものを見る目の解像度が上がる。」

「雛人形は社会性を表している、人形同士の関係性を想像する。」

「LOVOTも、2体いることの関係性。」

「体感研修、農家を体感、お客様の声を体感。」

「自分で発見するから、モチベーションは高くなる。」

「LOVOTのお客様は、機能ではなく体験を買っている。」

「だから、修理、入院中も貴重な時間。」

「誤読は嬉しいけど、活用する誤読、活用しない誤読の両方がある。」

ということで、僕自身も勉強になりました。

ありがとうございました!

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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