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8. 課題解決の原点は純粋な楽しさと熱量、ディープテックが産業変革の未来を切り拓く【終】

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モデレーター尾原さんは、ビジネス以前の「課題解決そのものに感じる楽しさや悔しさ」こそが、難題に挑むディープテック起業家たちの原動力であると、ここまでの議論を力強く集約。新たなテクノロジーがいかに産業を変革していくかを力強く提示するセッションとなりました。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回500名以上が登壇し、1,200名以上が参加する。そして参加者同士が真剣に議論し、学び合うためのカンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2027は、2027年3月1日〜3月4日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。


【登壇者情報】
2026年3月2〜5日開催
ICC FUKUOKA 2026
Session 11C 最新テクノロジ゙ートレンド゙ 徹底解説(シーズン10) 
Supported by EVeM

(プレゼンター)

清水 映輔
OUI Inc.
代表取締役

スマートフォンに装着して眼科診療を可能にする医療機器「Smart Eye Camera」を開発・提供

田口 昂哉
Helical Fusion
代表取締役CEO

日本独自の「ヘリカル方式」による核融合発電所によって、2030年代に世界に先駆けたフュージョンエネルギー(核融合)の実用化を進めている。

秦 裕貴
AGRIST
代表取締役

ロボット技術やAIなどのテクノロジーで農業課題を解決するスタートアップ

林 正彬
LIFESCAPES
取締役副社長

BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)技術を応用し、脳卒中後の麻痺患者に向けたリハビリテーション医療機器を開発

(モデレーター)

尾原 和啓
IT批評家

『最新テクノロジートレンド 徹底解説(シーズン10)』の配信済み記事一覧


尾原 8分ぐらいで同じようにディスカッションしたいと思います。

脳には可塑性があって、先ほど言われたように脳の部位が損傷された方でも、リハビリの過程で戻るのは割とあるエピソードですが、この領域が実際やれるんじゃないか、やり切ってみようというのは、事例がないから覚悟がいる話だったと思いますが、きっかけは何だったのでしょうか?

慶應義塾大学発のLIFESCAPES

 アカデミアのところまでたどると、慶應義塾大学発のスタートアップで、元々医学部と理工学部で、ハードウェア・ソフトウェアの開発、クリニカル(臨床)への応用に取り組んできました。

ちょうど医工連携が流行っていたというか、注力されていた時でもあったので、そこでものとして作りました。

「人の脳が変わっていく」ということを思うと、脳の病気にも展開できるのではないかと考えて脳卒中の患者さんに適用してみたらうまく麻痺が治ったので、これはすごいということで会社を作って、医療機器としての開発に着手をしていった流れがあります。

尾原 ……何なのでしょう? 医療系スタートアップの特徴なんでしょうかね。

めちゃくちゃエモくていい話だなと思いましたが、林さんも皆さんと同じく淡々と語りますね。

 (笑)

尾原 すごくいい話なのに、なぜそんなに淡々とできるのですか?

 日々仕事をする中で現場に行くと、涙を流す瞬間も多いですよ。

尾原 まあまあ、もちろん別に非人間と言っているわけではないので(笑)。

 (笑)

尾原 結果が出始めると、割とフィードバックが取りやすいとは思うのですが、1周目が結構大変そうに見えるのですよね。

 上市するまではめちゃくちゃ苦労しました。

事業計画が何年遅れたのかみたいなことは恥ずかしくて大きな声で言えないのですが、そういう苦労はたくさんしてきました。

医療業界にいると、承認を取ることがゴールになりがちというのも反省点としてあるのですよね。

そのハードルがすごく高いので、一生懸命乗り越えようとしているうちに、その通過点がいつの間にかゴールになってしまうことは往々にしてあるのですが、それは本当に通過点でしかないので。

今、私たちは販売の入り口に立ったフェーズなので、ちゃんとこれを広めていかなければいけないと思っています。

スケールするまでどうモチベーションを維持するか

尾原 そういう意味では、課題がわかっているけれど模索するみたいなところでいうと、秦さんも最初は吊るすロボットから始まって、ピボットしてピボットしてみたいな感じじゃないですか。

スケールするソリューションを見つけるまでの模索期は、どうやってモチベーションを維持しているのですか?

秦 僕らはある意味、世の中にある技術の組み合わせでなんとなくいけそうだみたいなものは見えている領域ではありますし、あとはいかにうまいこと農業という産業の構造に合わせてやれるかみたいな話なので。

とはいえ、思ったよりも時間がかかりました。

レベルも内容も違いますが、共通しているかもしれないのは、「その課題を何とかしたい」というところからスタートしていることで、それはすごく強いと思います。

尾原 同じく長期間乗り越えるということで、一番長期間なのが田口さんですが。

収益化や事業モデルを考えていると遅くなる

田口 我々は創業する時に決めたのですが、核融合発電所を作り上げることを絶対やる、その前に収益化とか事業モデルとか関係ない、と。

尾原 おお! 後からついてくる、と。

田口 はい。

それをやっていると遅くなるので、核融合発電所をまず作らないといけないのだから、絶対これに全振りしようと最初に決めました。

そうしたらVCがお金を出せないと言ったのですが、お金を出してくれない人とは一緒にできないので、それで、一緒にできる人とやりましょうと言って、決めてやったのですよね。

だから、あと10年ぐらいは、その星に向かって。

尾原 模索期という1周目が見えるまで、林さんも同じ感じですか?

 やはりだいぶ時間軸は長いので、最低でも5年、下手したら10年近くかかります。

医療機器として販売するまでには時間がかかると思いますが、でもそこはやり切るしかないと思います。

尾原 (笑)

田口 それを横に置いてしまったら、多分楽しくもないしという感じですね。

尾原 ああ、なるほど。

ユーザーかニーズが目の前にあれば迷いはない

 例外があるのかわからなくなってきましたが、共通して言えるのが、ユーザーかニーズが確実に目の前にあって、それが強い領域だということです。

尾原 4人ともそうですね。

 そこに迷いというか疑う余地がないというのは、1つある気がします。

マーケティングでなんとかしないといけないという領域ではないような気もするので、「これができればなんとかなる」みたいな、そこのロジックはシンプルだからというのはあるかもしれないです。

 そこは医療業界の良いところで、明らかな大義名分があるというのはありますよね。

尾原 そうですよね。

そこに明確なペインがあって、それを解決するんだという意志があるから、解決方法はいろいろ変わっていくし、そこにたどり着くのは大変だけれども。

清水さんも同じですか?

清水 同じです。

あと、日々診療しているというのが自分は結構大きいかなと思っていて、年間1万人ぐらい患者さんを診ていますが、そうすると課題がどんどん変わってきたり、この時期にこういう病気が流行るということがあります。

今だったらアレルギーが非常に多かったりするので、そういうものがトレンドになるのかなとか、生で感じながらというのが大きかったです。

尾原 日常としてのお医者さんの仕事の中で実際ペインを抱えていらっしゃる方だったり、「もっと早く来てくれれば」というペインの再認識みたいなものがあるから、そこにたどり着く技術はまだ見えなかったとしても、5年単位、10年単位で歩いていくということでしょうかね。

「人生の新しい眺望」を開く

尾原 林さんは1周目を見て、ここからは加速するところが見えてきているフェーズに入っているのですよね。

林 そうですね。いろいろなハードルはありますが、拡販していくと同時に、国内にとどまらず最初からグローバルに出ていかなければいけないと思っています。

それを並行して進めていきますが、我々の「脳を診て脳を治す」というコア技術は、脳卒中以外の領域にも適用できる可能性があります。

運動系の病気、例えば、ジストニアやパーキンソン病、脊髄損傷にも横展開できますし、精神疾患寄りのうつ病などにも横展開でき得る技術でもあります。

5年、10年というタイムラインは必要ですが、それをパイプライン化して複数走らせていくことも、今同時に進めていますね。

尾原 人体だからもちろん人種差や個別性があるけれども、1回、ペインの雛形があれば、世界に同じ課題を持っている人たちもいるし、脳と体の関係みたいなところでも解決するパターンを作っていけるということですね。

 そうですね。ハードウェアは同じで、ソフトウェアだけ入れ替えれば違う作用性を有する医療機器になるので、最初のプロダクトでマーケットを開いていって、ソフトウェアでアップセルしていくみたいなことが、描いているシナリオではあります。

尾原 ちなみに、社名の由縁を教えてください。

 「スケイプス(SCAPES)」は、ランドスケープとか、眺望とか、景色、見晴らしで、それに「ライフ(LIFE)」、人生をつけました。

このテクノロジーを使って、麻痺が改善して社会とつながることで、「人生の新しい眺望」や「見晴らしの良い景色」をもう一度切り開いていくのをお手伝いしたい。

そういう願いを込めてつけています。

尾原 脳卒中の方は、ある種自分の「スケープ」が見えなくなる、それを回復していく道のりを作るという本当に壮大な話で、ありがとうございます。

林 ありがとうございます。

(会場拍手)

課題解決の本質にある純粋な楽しさと熱量を感じたセッション

尾原 2時間近く一気にお話しさせていただきました。

AIがめちゃめちゃ進化して、僕たちの仕事をほとんど置き換えるのではないかとか、日常生活を送っている中ではペインがなくなってきているから、起業家が見るところはなくなっているのではないかみたいな話があります。

しかし改めて思うのは、世の中にはまだまだペインが溢れているということです。

そのペインに対する解決手段がないというところに対して、テクノロジーの力でそれを本当に見つけられるという信念ですよね。

先ほど言ったように、核融合はずっと次の20年はいけると言われながら、いや、でもやはり食らいついてやっていくということだったり、農業の担い手が確実に高齢化していく中でどうするんだということだったり、全然知らなかったのですが、世界の失明と視覚障害の人口が22億人もという話だったりとか。

日本の三大死亡要因である脳卒中から、逆に生き残れてしまうがゆえのリハビリのペインに向き合っていく、それを5年かかってでもやっていく覚悟もすごいなと思いました。

ただ、僕はあんまり美談にしてはいけないと思っていて、秦さんが農業について語っているのを聞いて、他の人が取り組んでいる問題なのに田口さんが嬉々として、「この黄色と青色が並んでいるのは何ですか?」とか「採集って楽しいですよね」とかおっしゃっていたのと同じように、問題を見た時に、「解決できるのだったら解決したい」という気持ちは、すごく楽しいことだと思うのですよね。

2時間近くたっぷり語っていただきましたが、自分がやっていることの楽しさみたいなこともあるし、何よりも清水さんが言うような悔しいという気持ちもあります。

もう一つ大事なのは、社会に定着するためには、本当にそれが儲かるところにつながらないといけないということです。

だから、儲かるためのインセンティブを、インテグレーターとして揃えていくんだという田口さんのアプローチがあり、清水さんのように、ローカルの現地の医師がきちんと儲かって、効率良く自分の専門性を高められる状況を揃えていくというアプローチがあります。

このセッションはテクノロジーのトレンドを語っているのだけれども、実はテクノロジーによってどうやって産業を変えていくのかというところや、その産業の中に集う人が「楽しいからやってしまう。5年かけてでもこの崖を登り切りたくなる」というところが透けて見えてくるセッションだったのではないかと思います。

135分の長丁場でしたけれども、本当に皆さん、ありがとうございました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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