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なぜ倫理観を失ったメディアが出てくるのか?【F17-1A #2】

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「メディアは今後どう進化するのか? クオリティ・信頼性はどうあるべきか?」【F17-1A】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!8回シリーズ(その2)は、メディアの倫理観についてDeNA社のWELQ問題をケーススタディに考えました。是非とも御覧ください。

ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年2月21日・22日・23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 1A
メディアは今後どう進化するのか? クオリティ・信頼性はどうあるべきか?

(スピーカー)

江幡 哲也
株式会社オールアバウト
代表取締役社長兼CEO
オールアバウトグループ代表

瀬尾 傑
講談社
第一事業戦略部長 兼 デジタルソリューション部担当部長

藤村 厚夫
スマートニュース株式会社
シニア・ヴァイス・プレジデント 執行役員 メディア事業開発担当

古田 大輔
バズフィード・ジャパン
創刊編集長

(モデレーター)

後藤 直義
株式会社ニューズピックス
企業産業チーム 記者

「メディアは今後どう進化するのか?」の配信済み記事一覧

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最初の記事
【新】メディアの進化と信頼性を徹底議論!【F17-1A #1】

本編

後藤 皆さま、よろしくお願いします。

メディアの信頼性ということで、去年(2016年)11月からやや語りつくされた感もありますが、DeNAのキュレーションサイトの問題について、メディアの運営者としてどのように受け止めたか、本音を聞いてみたいと思います。

私も取材しましたけれど、月に億単位の稼ぎを上げている非常に有望な媒体だったんですが、先日減損で、価値がゼロになったと決算で発表されました。

DeNAがキュレーション事業で38億円の減損処理、事業再開について「決まっていることはない」

それぞれの受け止めをお聞かせください。

取材をしていたバズフィードの古田さんからお願いします。

古田 ちょうど日曜日にこの件に関して論評というかかなり長い記事を書いたんですけど、読まれた方はどれぐらいいますか?

DeNA問題で問うべきは「ネットの信頼性」じゃない 現代のメディアのあり方だ

先ほど語りつくされたとおっしゃっていましたが、僕は語りつくされていないと思っていました。

一番大切な論点整理ができていなかったのではないかと思っています。そもそもDeNAさんがされていたパレット構想、キュレーションメディア構想のどこが問題なのかについて、何でもかんでも悪いというような大雑把な批判や指摘が多かったと思い、記事を書きました。

まず大切なこととして3つ言いたかったのですが、1つ目はキュレーションという手法自体は悪ではなく、インターネットの時代においてごく一般的な手法であるし、それを否定するべきではない。

2つ目は、何が問題だったのかと言うと、ごく基本的な記事の信頼性や著作権の問題が焦点だったわけです。

だからこそ、DeNAさんだけではなく他のメディアも次々と記事を消したりしていましたよね。

DeNAさんが目立ってしまいましたけど、実はその陰で多くのメディアの方が記事を消していた。

なおかつ、まだ記事を消してすらいないところもいっぱいあります。

そんな中で、信頼性と著作権をきちんと見つめ直せていなかったのではないかと。

3つ目は、これをインターネットメディアの問題と捉えるのは間違っていて、新聞や雑誌、テレビでも今どきウェブ媒体を持っていないところはほとんどありません。

そういう意味ではすべてインターネットメディアとも言えますし、紙媒体では一切そういう問題はないのかというと、今 世の中を騒がしている問題やワセダクロニクルさんが書いている問題(※ワセダクロニクル「シリーズ 買われた記事」)もあります。

▶編集注:ワセダクロニクル(Waseda Chronicle)は早稲田大学ジャーナリズム研究所が運営する調査報道メディア。

著作権と信頼性の観点で問題のあるコンテンツは紙媒体でも出てきたわけで、メディア全体の問題として捉え直さないといけないのではないかと思います。

テクノロジーが生み出すモラルハザード

後藤 藤村さん、続々と消えていったメディアがあるというお話でしたけど、スマートニュースの立場からは、そうした状況がよく見えるのではないですか?

藤村 我々は比較的早い段階で、たとえばWELQさんは最初から取り扱わないと決めていましたので、結果的にはそういう姿を見ることはありませんでした。

色々と論点がある中で、特にテクノロジーがメディアにどう関わるのかというのが自分たちの事業に引き寄せてとても重要だと思っています。

我々は、テクノロジーがメディアあるいはメディアの産業構造に対して決定的にある種の革新を起こす、あるいは活性化する力を持っているというふうに信じて止まないわけです。

しかし、今回の事案や、さらに広げてアメリカの大統領選で生じたことを考えると、テクノロジーとメディアの関係について思い切った議論が必要ではないかと思いました。

テクノロジーがある種のモラルハザードを生み出す構造が現状あります。

また、広告主は自分がどのサイトに広告を出しているかわからないけどコンバージョンすればよかったり、メディアもどんな広告が自分のところに載るかわからないけどお金が入ってくればよかったりするような構造もぐるぐる回っています。

その結果、いつの間にかどんなコンテンツであろうとビジネスであれば皆がハッピーみたいな事態が起きているのだとすると、テクノロジーが生み出しているモラルハザードという観点については、思いきった議論が必要なのではないかなと思います。

フェイスブックも先日新しいマニフェストを発表しましたし、グーグルも様々な試みをされていると思います。

スマートニュースはコンテンツの品質に関してどのようなことができるのか、もう一歩踏み込んでどんな研究がされるべきなのかというのは社内でも起きている議論で、僕はとても大切に思っています。

新しいジャーナル誕生の兆し

瀬尾 古田さんがおっしゃったように、DeNAの事件では、コピペ、著作権の問題とフェイクニュースの問題というネットニュースが抱える課題が露呈したと思います。

しかし一方で記者会見を見て感じたのは、ネットメディアにとって前向きな点です。バズフィードやTechCrunchなどのネットメディアがファクトを以て追及し、新聞やテレビといったレガシーメディアをリードしていた。この点が、これまでの会見と違うなという印象を受けました。

DeNAの問題は、社内で著作権を無視する仕組みのようなものをオーソライズして組織的にやっているという社内文書を、記者会見でネットメディアの記者が突き付けたことで、企業のガバナンス問題に広がったと思います。

そういう意味では、あの記者会見は、改めて取材することの大切さ、表面に出ている情報以外の、簡単に言えばネットで検索しても出てこない情報を足や人脈の中で探していく取材の重要性を突き付けました。

同時に、それはネットメディアかレガシーメディアに関係なく、むしろネットメディアがレガシーメディアを超えている部分があることを示した。その新しい動きを感じました。

日経新聞や他の新聞社が「(経営者は)辞めるんですか?辞めないんですか?」みたいな責任問題だけを追及をしていたけれど、そういう古い文脈ではないところで新しいメディアが新しいジャーナルを作ろうとしている兆しがありました。

医療や健康問題に関して言えば、レガシーメディアがつねに極めて信頼性が高い情報を作っているかと言うと必ずしもそうではない。

たとえば、「ガンと闘うな」というような専門家の間でも意見がわかれる記事もある。「多様な取材をかさねることによって、全体的なバランスをとっているんだ」という言い分もあるけれど、実際にはどうでしょうか。残念ながら専門家から批判をあびるような記事もあります。

情報を発信するということは常にビジネスとして情報を売るという部分と、役に立つ情報を必要としている人に届けたいという思いとの間のバランスを意識する、そしてときには葛藤をかかえることになります。

でもこの葛藤はメディアのビジネスだけ、ジャーナリズムの現場だけかと言えばそうではない。あらゆる企業でそういう部分があるわけです。

改めて企業における社会性、公共性をどう企業文化の中に位置づけていくのか。

守安さん(株式会社ディー・エヌ・エー 守安 功 代表取締役社長兼CEO)とお話しすると、極めて聡明であり、とても社会性の高い方です。ご自身の理想を目指してやっている方だと感じます。しかし、そういう人の経営する企業が、あのようになってしまう。

社会性や公共性をどのように企業文化の中に落とし込んでいくのか、どういう仕組みでエコシステムやビジネスモデルに落とし込んでいけるかというのは、メディアだけでなく企業経営にとって大きな課題だなと感じました。

WELQ問題の論点整理

江幡 我々は実は似たようなメディア構造で、2000年から、ある種先駆者的なやり方をやってきていて、色々なところで話す機会が多くあるのでスライドを使います。

WELQ問題を整理をすると、1つはコンテンツのクオリティの話です。

WELQが医療情報に関して根拠のないものを大量生成したというもので、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)とか景表法(不当景品類及び不当表示防止法。景品表示法)の違反があるのではないかという具体的な話です。

もう1つが、コンテンツの作り方で、クラウドソーサーを使って、マニュアルに応じて大量に「パクリ」を推進した、著作権法違反ですね。

色々な解釈はあるものの、この2つは完全に法律違反というシンプルな話だと思います。

3つ目はグーグルハックの話ですが、キュレーションは悪くないと僕らも思っていますし、グーグルの上位に表示させるよう努力することは良い話です。

オールアバウトは2001年2月にローンチして、グーグルが一番最初に日本で提携した企業で、検索を極める企業とコンテンツを一生懸命作る企業でマッチアップして一緒に伸びてきました。

当時はSEOという言葉もなかったですが、上位に表示するノウハウはアメリカのパートナーのアバウトドットコムとグーグルの関係の中から知っており、サーチの上位にコンテンツを出していくということを一緒に作っていきましたので、全然悪い話ではないと思います。

現在も科学的な編集方針、テーマの立て方、記事タイトルの作り方も行っています。

WELQさんの場合、要はスライドの1番、2番にあるコンテンツをここで出してしまったというのが悪い。

最後は、瀬尾さんがおっしゃったように、企業姿勢の問題ではないかと思っています。

メディアなのかプラットフォームなのかという話で、プラットフォームですから責任持ちませんので発信者に直接言ってくださいと平気で言う企業もあるわけですよね。

我々は少なくとも立ち上げの頃からこういう状態になることは予測していたので、メディアとしてコンテンツに責任を持つということに矜持を持ってやっていくということを決めていました。

その文化を浸透させていますし、そこにかけるコストをできるだけ最小化するにはどうしたらいいかということを苦心してやってきていますので、そういうところはしっかりやっていかないといけないのかなと思います。

あれ以来、特に大手企業の上の方の中で「インターネットのメディアはダメだよね」という発言が多くなっていて、広告を辞めると言われたことが何度かありました。

ですが、きちんと整理をして、分けていただきたいと痛切に思っています。

(続)

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続きは メディアの信頼性を問う-「新聞だから」「課金メディアだから」は通用しない をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸

【編集部コメント】

テクノロジーの光と影といいますが、メディアにもここまでテクノロジーが溶け込んだからこそ、多くの問題が噴出しているのだと藤村さんのお話しを読んで考えさせられます。フェイクニュースなどのも、SNSなどのテクノロジーインフラが情報流通の土台になった現代だからこそ起きる問題ですね(榎戸)

続編もご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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