Webのユーザー・インタフェース改善を簡単に実現する「Kaizen Platform」を運営するKaizen Platform, Inc.の須藤さん、ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドの倉橋さんのお二人と、「無印良品」のMUJI passport など担当している良品計画 CMT(Chief Marketing Technologist)の濱野さんをお招きし、「今後のマーケティング・テクノロジーとは?」をテーマに議論しました。
(その2は)マーケティング・ソリューションが進化する時代において、機械では代替できない、人間が行うべきマーケティングというものが本質的にどのようなものなのか、議論頂きました。ぜひご覧ください。
登壇者情報 2016年3月24日開催 ICCカンファレンス TOKYO 2016 Session 4E 今後のマーケティング・テクノロジーとは? (スピーカー) 須藤 憲司 Kaizen Platform, Inc. Co-founder & CEO 倉橋 健太 株式会社プレイド 代表取締役社長 濱野 幸介 株式会社良品計画 CMT
その1はこちらをご覧ください:「テクノロジーが溶け込む」マーケティングの未来とは?
司会 今お話を聞いていて、すごく面白いなと思ったことが、テクノロジーが当然進化はしていくけれども、テクノロジーが溶けないと、本物ではないということです。
新しいテクノロジーが出てくると、そのテクノロジーを使った新しい試みが出てくるけれども、それが非常に不自然で、うまくいかなくなるということですね。
ただ、先ほどのカリスマ店長の話のように、本来リアルにあったモデルが、テクノロジーが見えない状況でしっかり実現できると、初めてそれが本物になっていく感じがします。
ようやく、インターネット革命が起きて、そういうものが出てくるフェーズになってきたのかな、と気がしています。
濱野 そうですね、その感覚は全くその通りだと思いますね。
だから、ある意味人の感覚に戻っているという感覚を覚える人もいるかもしれません。ネットとリアルな感覚が色々な境界線が溶けているなという気がしているんですね。
例えば、アメリカの「Instacart(インスタカート)」は、ショッパーと呼ばれる人たちが、Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)でお買い物した際に、代わりに届けてくれるなんていうサービスです。
じゃあ、無印良品の場合だとショッパーがファンの人になる可能性もあるわけですよね。結局それは何を言っているかというと、お店で働いている人たちとお客さま、ファンという境界も溶かし始めるということですね。
ネットとリアルだけではなくて、色々なモノの境界線を溶かすものは色々とあるのではないかと思いますね。
須藤 マーケティングもテクノロジーも手段だから、何らかの目的がある訳ですよね。
濱野 そうですね。例えば、既にリアルタイムにマッチングが出来る技術はあるので、無印良品版Instacartの実現はきっと出来るという話ですよね。でも重要なのは、その実現によって、顧客体験をどう変えたいのか?という目的が事前にあることですよね。
司会 さきほどの109も、今のテクノロジーレベルでは、嘘くさいものしか出来ず、デジタル化するのは無理でも、VRといった新しい技術を使うことで研ぎ澄まされれば、いつか出来るようになる時代が来るかもしれないということですよね。
須藤 僕はね、今すでにそうなっているのではないかと思っています。
C CHANNEL(シーチャンネル)でも、動画でも、Snapchatでも、Instagramでもいいのですが、あれは109といった実店舗の体験が少し置き換わりはじめているように見えるんですよね。
マーケティングもテクノロジーもどっちでもいいんですけど、人は人とコミュニケーションしたいというニーズをずっと持っていて、買い物も実はそうですね。
モノを通じてニーズが満たされていますが、結局のところ、人は人にしか興味がないから、その間をどうやって埋めていくかという方法論について、議論していると考えればいいと思いますね。
倉橋 少し違うかもしれないですけど、僕らのサービスで面白い事例があります。
よく接客の施策で言うと、ナビゲートしたり悩みに答えたり、クーポンをいいタイミングであげるというのが出てきやすいのですが、挨拶というのをやってみているんですよね。
例えば、最初に「会員登録をしてくれて有難うございます」や「うちはこういうサービスなんです」といった挨拶が表示されます。その方が次回来訪した際には、「いらっしゃいませ、この前は有難うございました」と表示されます。これを言うだけで、滞在時間中の購入確率が20~30%上がります。
ウェブに無機質な存在が出てきている中で、コミュニケーションとして消費者の方が捉えているかどうかは別なのですが、ある種の対話が、バーチャルでも知人ではないけれども、売り手と発生することで、人の消費行動が変わるのが、目に見えて出てきています。
ある種、無駄なマーケティングなのかもしれないのですが、ただ、そういうものが出てくると、もう少し温かみがある、人の存在を感じられるようなウェブにはなってくるのではないかと思います。多分リアルでも同じなのかなと感じます。
濱野 多分ビジュアルマーチャンダイジングも、先ほどの話も空気感のことだと思うので、ありだと思いますね。
あとは普及するかとか、それをみんな使うのかという議論がありますね。
須藤 ボットは斬新だと思っています。
例えば、出会い系のアプリで、サクラがいますよね。あれが、全部ボットになる可能性もあり得ますよね。考えただけで、ゾッとします。「この会話の相手は、男かな女かな?」という疑問ではなくて、「これは人間かな?」という疑問が湧くわけです。
倉橋 画面の世界に没入すると、それでも信じてしまいそうですよね。
須藤 あり得ますね。寂しさの解消すらも、テクノロジー相手になって来るわけですよね。
司会 どこかの時点で、それでもいいとされる時代が絶対来るのではないかという気がします。
須藤 そうですね。恋愛ゲームも、別にAIではないですが、同じようなことですよね。
濱野 没入していきますよね(笑)。
須藤 単純に自分との掛け合いで、ストーリーに没入していくという話ですよね。
人と人とがつながることに対する価値というのは変わらないと、むしろ高くなっていると思っています。だから、安くできたり効率よくできたりということがあればあるほど、人と人とがつながる価値に比重が移ってくるのではないかと思いますね。
テクノロジーはマーケティングをどのように変えるのか?
司会 皆さんに質問したいことがあります。
先ほど濱野さんが、マーケティングテクノロジーへの考え方として、デジタルが人々の間で普及されたので、それに対応するという側面と、リアルにあることを手段としてテクノロジーを使うことで効率化する側面があるという2つを指摘されていました。
テクノロジーによって、マーケティング自体のやり方がイノベーティブに変わって全く新しいものになるということは、あり得るのでしょうか?
濱野 例えば、これから先のことを考えたときに、今年VR/ARがすごく展開されていますが、みんなが使っている状態になったときに、それを通じて買い物するのが一般的に受け入れられることになれば、買い方そのものが、がらっと変わる可能性はなくはないですよね。
どれだけ受け入れられるかという程度の問題はあると思います。
先ほど須藤さんがおっしゃっていましたけど、現状はコミュニケーションのチャネルの部分がソーシャルがメインになっています。人とつながっていたいという根源的な欲求、承認欲求なのか自己実現欲求なのかがあるからだな、と。
2016年現在では、やっぱりモノを物流としてネットストアでも届けないといけないし、実際お店で体験するというのが主流ですが、これからは変わる可能性はあると思っています。
須藤 僕も、実は変わることがいっぱいあると思っている方です。
この前の囲碁のAIの話は、面白いですよね。何が面白いかというと、僕は囲碁のことはよくわからないのですが、解説の人が面白い(笑)。
(一同笑)
須藤 みんな結果が出る前は、「人間が優勢ですね」と言っていて、いざ終わってみると負けた訳です。しかも、結構な負け方をしました。
要は、機械が、人間の気づいている範囲外のルールなりセオリーなりを見つけたという話ですよね。一方で、あれはまさに学習能力ですよね。人が到達できないところに、機械の方が先に到達したということかもしれないと思いました。
ただ、前提となるルールとか問いを考える行為はある訳ですよね。なので、囲碁のルールが変わったら、機械にもう一回学習させる必要があります。
濱野 機械による発見はあり得ますよね。
「こういう風な商品で、こういう反応や傾向が生じていて、実はこういう商品を次に出すと、よく売れるのではないでしょうか?」というアラートで出してくれるのは、ある程度はすごく理想的です。
パラメーターは分からないけれども、解析の結果として、これが次に来るという風に出ているよ」というのが出てきたら、それはもちろん面白いと思います。いつそういう時代がやって来るかという問題だけですね。
須藤 問題の答えを出すのは、もしかしたら、人間ではなくて機械の方が得意なのかもしれないですが、問題の問題、何が問題なのかを設定するというのは、相変わらず人間の役割ではないかと思います。
機械がそれをやると、人間も違う考え方をし出すのではないでしょうか。なので、マーケティングの方法論が変わる可能性はありますよね。
マーケティングも、問題設定のマーケティングもあれば、問題解決のマーケティングもあるので、問題解決のマーケティングは、機械が得意になる可能性は全然あると思うんですよね。運用型広告などは機械の方が得意になると思います。
倉橋 より人間がやるべきことが単純に、明確になっていく流れは変わらないと思いますね。
須藤 そう思います。その際に、コンテンツや自分たちの会社のフィロソフィーをソリッドにしていかないと、差が出てきますよね。
司会 そうすると、人間の役割が、やはり人が本来のやるべきこと、やれることに近づくのでしょうか?
濱野 (人間の役割は)選ぶ、ということではないかなと思います。
もしかしたら、勝率的には、機械に合わせた方が勝つ可能性はあるのですが、なぜ無印良品が今リマーケティングをやめているかというと、今のロジックだとポリシーに合わないからなんですよね。
そういうのは人間でないと判断できないという印象が、まだあります。いくつか出されている可能性のある解の中から、自分たちのセンシングで選ぶ行為は人間でないと出来ないかなと思います。
須藤 囲碁の人間とAIの戦いも、勝ち負けでは、AIが勝つことはすでに出来るのですが、今度は勝ち方や負け方の工夫に比重が移るかもしれないですね。見ていると、ドラマを感じてしまいます(笑)。
(一同笑)
須藤 あれ自体が、壮大なエンターテイメントストーリーですよね。囲碁のことを全然知らない人が、面白いと思えるぐらいのコンテンツだと思います。
マーケティングとテクノロジーの話も同様で、売上の増減、お客さんが来るか来ないの分析を通じて、お客さんの来る理由やお客さんが選ばない背景まで分かるのかどうか。
濱野 なぜ来ないかですね。
倉橋 結果よりも、そこに至るまでのプロセスに関して、もう少しテクノロジーが出来ることがあるんじゃないかなと思いますね。
感情を動かすのは、システムだけでは難しい気がしています。例えとして正しいか分からないですが、例えば、朝に頼んだものが夜には届くのは、最初の体験として圧倒的な感動を呼ぶと思います。
ただ、これを繰り返しているだけでは、慣れてきてしまいます。なくてはならないものにはなるけれども、感動を伴いません。買ったという結論は一緒でも、プロセスの価値は全く異なるのかなと思っています。
なので、先ほどお話に出ていた、人が介在することによってアドオンされる価値に対して、もう少しテクノロジーが発揮しやすい環境になっていき、一部をAIが担うという話だろうと思っています。
須藤 僕は色々な想像をしています。例えば、ベネッセの赤ペン先生はあの手書き感が最高ですよね。ですが、あれすらも、将来的にAIとロボットが赤ペン先生となって、赤を入れて返送されてくるのかなと想像します。
濱野 最近衝撃を受けたのが、イースターエッグをレゴのマインドストームを使って、デコレーションする光景です(笑)。
須藤 本当ですか(笑)。それは嫌な感じですね。
濱野 赤ペン先生も、赤ペン先生ロボットが、認識して書くことはあり得ますよね。
須藤 手書きではなくなるかもしれないですね。紙が画面になった瞬間に、あれはもう使わないですよね。
濱野 iPadで即時添削するみたいなのは既にありますよね。
須藤 やっていますね。
司会 正解が即時にわかるみたいな話になっちゃいますよね。
濱野 フィードバックがかかって、よりよいものをすぐに出すことはありかもしれないですが…。
須藤 だから、コミュニティが大事ですね。
濱野 これからコミュニティは必ず大事になると思います。
無印良品のファンだけではなく、関わっている色々な人を含めて、コミュニティをどう創ってつながっていくか。自然とコミュニティからコンテンツが生み出されるのではないかと思いますね。
須藤 コミュニティを創るには、先ほどのフィロソフィーがないと創れないですよね。コミュニティから生み出されるものは、コンテンツとして面白いと思います。連帯感や空気感、人が集まっている感じが価値があるのではないかと思っています。
人を中心としたコミュニティが大切
司会 聴衆の方から、何か質問はありますか?
質問者 非常に面白く聞かせて頂きました。
マーケティングが人の心を扱っていくものだとすると、会社としても、一法人を人とみなして、どういった会社の色を出していくのかに、マーケティングの今後の肝があるのではないかと聞きながら思っていました。
そういう方向性に良品計画さん以外の会社が、しっかり向かっていっているのかが疑問です。Kaizen Platformさんが提供されているA/Bテストなども、僕の個人的な印象では、効率化の目的で使っている会社が多いのではないかと思っています。
須藤 例えば、Kaizen Platformのマーケティングをどうやっているかという話をします。
僕らは、従業員のリモートワークをすごく促進しています。それはどうしてかというと、自分たちが、クラウドソースを主軸にしているからなんですよね。要は、リモートワークです。
リモートワークを通じて、家族をすごく大事にするというのを推進しています。家族が病気になったとしたら、家族以上に大事な仕事が、この会社に存在しないなら、すぐ帰って下さい、と伝えています。
会社では、創立記念パーティーやクリスマスパーティーを必ず年2回やっていて、社員の家族を呼んでいます。お子さまがいっぱい来るので、会社のTシャツを配って、みんなでたくさん遊びます。
社員の家族から「子どもがお父さんの会社は楽しい、お父さんの会社に行くのをすごく楽しみにしています」という声を耳にします。
そして、子どもたちがKaizen Platformというロゴが入っているTシャツを、幼稚園や小学校で着るらしいんですよ。
その結果、何が起きたかというと、「なんの会社か分からないけど、お父さんの会社のTシャツを幼稚園に着てくる子がいるのを見て、いい会社だと思った」と言って発注してくれた会社が、2社もいるんです。
質問者 すごいですね。
濱野 よく分かります。
須藤 そもそもは、別にそんなことを期待してやっていることではありません。ですが、これぞマーケティングだと思うんですよね。
濱野 個人的な見解ですが、無印良品の一番のパワーは誰かというと、やはり自社のスタッフなんですよね。
自社の本部・店舗のスタッフが真ん中にいて、その周りに無印良品のファンでいて下さる人がいて、ファンの方に無印良品はいいよとオススメされた人がいて、というコミュニティなんです。
なので、その真ん中にいる従業員が重要だというのは納得感ありますね。
須藤 そうなんですよ。だから、僕らは効率化の手段というのは、方法論の一つだと思っていて、実際は、人と人の話が肝要なんですよね。
僕らのお客さんも、僕らのクラウドとチームになっていて、この人と会いたいだったり、この人と電話会議して話していると楽しいだったり、とか。
リモートワークをやっているとすごく分かるのですが、会社の中の人か、会社の外の人か、はっきりいって、境界が溶けているんですよね。
だから、僕も会社に行くと、知らない人が結構いるんですよね。
(一同笑)
須藤 新入社員もいるし、業務委託や派遣もいます。「そうなんだ、よろしくね」と言っています。
一同に「初めまして」と電話会議をして、リアルに会った時に「よろしくね」と話して、そうしていると、誰が社員だとか気にならなくなってくるんですよね。「どうも、どうも」という感覚で、社員もお客さんも変わらず、「どうも、どうも」という関係性で、内外関係なく仕事を進めています。
何が言いたいかというと、効率化はやっぱり手段なんですよね。僕は、効率化が目的になるとお面白くなくて、それが手段となって何かが起きるのですが、実際に起きている体験は、意外とウェットなものなんだと思っています。
濱野 全部の会社が同じ方向性に向かっているとは思いません。ですが、企業のフィロソフィーや色を大事にしている会社は、ちゃんと存在しているという認識です。
それを進めていこうとする人たちが、マーケターの中に結構いますし、特にデジタルに精通しているほど、進めようとしている人が多いという感覚はありますね。
須藤 逆にそれで差別化しなければ、差別化できないとみんな思っているからですね。
マーケティング・ソリューションはつまらなくなりがち
質問者 もう1ついいでしょうか?少しずれてしまうと思うのですが、そうなってきたときに、やはりそのマーケティング自体に、汎用性がなくなって、それぞれの会社でコスト、リソースが必要になってきますよね。
そうなったときに、マーケティング・ソリューションを提供している会社としては、効率が悪くなってしまうと思うのですが、そこはどう考えていますか?
須藤 効率が悪いものは、高く売ればいいという話ですね。
質問者 今後提供していく可能性はあるということなんでしょうか?
須藤 いや、再現性がないと、ソリューションとしてはダメですよね(笑)。
(一同笑)
須藤 再現できればいいのですが…ビジネスとしては、再現性がすごく重要だと思うので、特にマーケティング・ソリューションをやっている会社からすると、再現しないとダメです。
更に言うと、汎用性がないときついです。そうすると、つまらなくなりがちです。マーケティング・ソリューションを提供する会社として、あるまじき発言をするのですが、つまらないです(笑)。
(一同笑)
濱野 あるまじきですね(笑)。
須藤 いや、だからこそ、面白いマーケティングをしなければならないし、自分たちが面白くやらないといけないし、熱狂していないとダメだと思うんですよね。
濱野 買う側の立場から言えば、出来るだけ自動化できるところは、自動化しなければいけないと思います。なぜなら、対応しないといけないメニューの数がものすごく増えていますし、やらなければいけない手も増えていて、関係しなければいけない部署も増えてます。
オムニチャネルというと、裏のバックエンドも全部絡んできます。だから、極力自動化できるところは自動化していかないといけません。
一方で、注力するところはやはり注力するように、重点をかけていきます。すごく基本的なのですが、必要かなと思いますね。
須藤 そうですね。A/Bテスト自体は、別に誰にでも出来るんですよね。誰がやるか、が重要で、それを売っています。ここで言うのも変ですが、A/Bテスト自体には差なんか大してありませんということですね(笑)。
(一同笑)
須藤 道具は何でも選べばいいのではないかなと思います。ですが、誰がやるかが重要です。誰とやるか、誰がやるかは、差が出ます。それは、しっかりやらないとダメですね。
司会 そろそろお時間になりました。テーマはマーケティング・テクノロジーで面白いお話を伺えました。
須藤 素晴らしいですね。一度も逸脱しないで、1時間が終わりましたね(笑)。
(一同笑)
今後のマーケティング・テクノロジーの方向性
司会 マーケティング・テクノロジーと聞くと、横文字やアルファベットが話の中で登場しそうですが、今回の対談は、マーケティングは、今後より人の心に近づいていくということが大きなテーマになっていたかと思います。非常に面白いと感じました。
最後に、今後のマーケティング・テクノロジーの方向性は何ですか、と質問が来たときに、どういう風に答えられるのかを、ぜひまとめの言葉をして頂きたいと思います。
では、濱野さんからいきますか。
濱野 最初ですか(笑)。
須藤 誰かが始めないとですね(笑)。
濱野 端的に、より個人を理解した上で、人が担うべきことを明確にしながら、テクノロジーをツールとして上手に使っていくのではないかなと思います。
それは、どういうことかというと、多くの接点がデジタル化され、人の性格や足跡のようなデータが多く可視化されてきています。加えて、アルゴリズムが改善されAIの有効な利用法も色々と登場しています。センサーなどのデータも含めて解析していくことになると、おそらくより顧客の理解が進むようになると思っています。
そうなったときに、プロファイルや顧客の好みの推測といった情報が自動的に出てきながらも、やはり人間がそこに介在をして、しっかりした目的のもとで進めていくのが今後なのかな、っていう風に思っています。
倉橋 マーケティングの根本的なところを、人がしっかり見えていないと、そもそも何も始まらないところと思っています。
先ほど、色々な境界線が溶けていくという話があったと思うのですが、バーチャルとリアルもそうですし、おそらくそういったサービスとサービスの境界線が溶けていくだろうなと思っています。
そうなったときに、実際のダイレクトなサービスか、それともそこで得られる体験なのかが、しっかりその人に刺さっていないと、より狭く多様になっていくユーザーのタッチポイントの中で、なかなか継続的な関係性も築けないし、パイをとるのは難しいと思います。
なので、おそらく大きく進んでいく流れや解析の現場から言っても、データが間違いなく人単位での解析になっていくでしょうし。
その大局的に変わらない流れがあると思うので、その上で企業が自分たちの表現をどういう塩梅にするのかは、多分再定義しないと、やがてユーザーが離れていくだろうと思っています。
なので、僕らはそれを選択できる環境を提供したいし、それが大きなベクトルとして、マーケティングが向かう方向性だと考えているので、それを作っていきたいなと思います。
須藤 僕が思っているのは、これまでもこれからも、マーケティングが変わることはない、と思っています。
何かというと、今まで言ってきたことと同じ類のことで人間中心主義ということです。人間に対して何かするのであれば、機械に対して何とかするマーケティングは出るかもしれませんが、結局その先にいるのは人間がいるので、どこまでいっても人間中心主義だろうと思っています。
なので、すごく変わることもないし、これからも昔も今も、何も変わらないのではないかと思っています。こういうことを言うと、商売の邪魔になるのですが、要は、効率化できることの価値、アービトラージは、どんどん下がってしまうので、本当に考えないといけないマーケティングが何かというと、やはり言語化できなかったり、効率化できなかったりする、どこまでいっても考えないといけないことの価値は昔から変わらないと思っています。
人を良くするアイディアと言ったり、結びつけることでのイノベーションと言ったり言い方は様々ですが、その価値は、ずっと変わらずに残ると思います。
司会 差別化が出来る要素というのがどんどん減っていく中で、本当に大事な本質的な価値をより持っていないといけないですよね。無印良品さんのフィロソフィーのようなモノが、本当に最後に残るモノになるということですね。
須藤 そうだと思います。むしろそれは原点回帰ということでもなくて、今でもそれは大事だと思うし、これからも大事だと思うし、これまでも大事だったと思っています。
だから、マーケティング・テクノロジーは多分進化するのですが、その目的は重要度が増している、もしくは、今も昔もこれからも変わらず存在しているのではないでしょうか。
もし、我々はマーケターだと自分をのことを思っている人は、それについて考えないマーケターは、デジタルマーケターだろうがオフラインのマーケターだろうが、生き残れないと思っています。
司会 最後に大変学びのあるまとめの言葉をいただきました。皆さま、素晴らしい対談を有難うございました。
(終)
編集チーム:井上 真吾/小林 雅/藤田 温乃/Froese 祥子/渡辺 裕介
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