【NEW】ICC サミット FUKUOKA 2025 開催情報詳しくはこちら

7. なぜ量が質に転化するのか、論文から読み取るビジネスへの学び

新着記事を公式LINEでお知らせしています。友だち申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! YouTubeチャンネルの登録はこちらから!

「大人の教養シリーズ『読書』〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)」、全10回シリーズの(その7)は、「More Is Different」についての解説です。ミクロからマクロになると、なぜ世界が変わるのか。その考えがなぜビジネスへのヒントとなるのか。巨匠もAIも量によって質を突破している側面があるといいます。思考への刺激が続く議論をぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティング様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年2月15〜18日開催
ICCサミット FUKUOKA 2021
Session 11E
大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

朝倉 祐介
シニフィアン株式会社
共同代表

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)グローバルデータ統括部 ディレクター

関 厳
株式会社リブ・コンサルティング
代表取締役

(ホスト)

嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員/株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授

大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)


連載を最初から読みたい方はこちら

最初の記事
1.シーズン3突入! 経営者が自らの読書を語り、影響を受けた一冊を語る

1つ前の記事
6. 楽天 北川さんがビジネスマンに読んでほしい名著論文「More Is Different」

本編

北川 前パートでは、ミクロとマクロでは全然世界が違うのだと論破した、フィリップ・アンダーソンの「More Is Different」についてお話ししました。

セル(細胞)を理解できたところで、人間を理解できない。

人間1人を理解したところで、社会を理解できない。

なぜこれがそんなに不思議かというと、簡単に言えば、普通に考えると、水の分子が1個の時と10個の時、何が違うのでしょうか?

「ただ10倍になっただけではないか?」と。

それを繰り返したら、水ができるのですが、いきなり氷や水蒸気もできます。

10倍にしたところで、いやそんなに変わるわけないじゃないか、僕らが10人集まったところで、1人と10人はそんなに違いがないじゃないかというのが物理学者の考え方でしたが、そこに何があるのか?ということです。

こんなにも違いますよというものが、次から次へと出てきてノーベル賞になりました。

皆さんご存じのように、我々のすべてを司っている半導体はノーベル賞を獲りまくっています。

半導体の温故知新(5)――ノーベル賞を受賞した半導体デバイスは実用的か:津田建二の技術解説コラム【歴史編】 – EDN Japan

僕たちが子どもの頃、ハードドライブのメモリの価格が高かったのを覚えていますか?

2007年頃に価格が劇的に一気に下がったのです。

なぜ下がったのかは、giant magnetoresistance(巨大磁気抵抗)といわれるノーベル賞の仕事に依っています。

ノーベル物理学賞、「ハードディスク大革命」をもたらした独仏2研究者に AFPBB News(2007年10月10日)

かつ、今本当にこれが実現したら、ノーベル賞が獲りまくれる「超伝導」という物質があります。

これは電気抵抗ゼロで電気を流せるので、全く熱の無駄がありません。すごく低い温度では実現されており、2回ほどノーベル賞につながっていますが、未だに我々の生きている室温では実現されておらず、物理学者の夢となっています。

ノーベル物理学賞に米の研究者3人 超伝導など原理解明 – 朝日新聞デジタル asahi.com(2016年10月5日)

物質、同じ原子を集めただけなのに、こんなにいろいろなものができるのは、まさに「More Is Different」の証拠だと言ったのが、フィリップ・アンダーソンです。

量を10倍、10倍にしていくと、先ほど言ったように超伝導化するような感じで、いきなり質的に違うものがパーンと出てくるのですが、それをこの理論物理学者はすごく深く理解していて、数学的に捉えることができています。

計算量を10倍にして人間に勝利した「AlphaGo」

楽天株式会社 常務執行役員CDO グローバルデータ統括部 ディレクター 北川 拓也さん

北川 最近、ますます重要なコンセプトになってきたのが、「AlphaGo(アルファ碁)」です。

AlphaGoに、なぜそんなにびっくりしたのかというと、囲碁棋士に勝ったからです。

進化を遂げた囲碁AI「AlphaGo」の勝利に、人工知能の未来を見た:『WIRED』US版リポート(WIRED)

それまでは「囲碁はAIには解けない」と言われ続けたのです。

なぜ解けたことにこんなに僕たちが驚いたかというと、単純に言えば、計算量を10倍にすることを繰り返しただけだったからです。

渡邉 へえー。

北川 変な話じゃないですか? 「あれ?」みたいな。

「人間に勝つということは、質的にも全然違うよね?」と。

「パソコンを10台並べただけで、いきなり変わったの?」という話なのですね。

実はAlphaGoは、そういう話なのです。

簡単に言うと、量を増やしただけで、いきなり質的に違いが出て、開発したディープマインド社があんなにすごいと言われるようになったのです。

でも今も昔も超単純化して言うと、「パソコンの台数を増やしているだけ」なのです。

巨匠もAIも量によって質を突破

渡邉 ピカソでもダヴィンチでも、後世に残る偉大な作品を残した人は、名作を生み出した時期に駄作もたくさん作っているらしいです。ある時期に大量にアウトプットしていると幾つかが残る可能性があって、量によって質を突破する。どこかで共通しているかもしれませんね。

北川 そうですね。そういう論文もあって、「Science of Science(科学の科学)」という論文があります。

Science of Science(AAAS)

科学の論文がどのように出るかを科学した論文があります。

渡邉 気になる! メモります(笑)。

北川 「Science of Science」も、皆さんぜひ読んでください。

同じようにGPT-3といわれるAIに驚いたのは、人を超えるAIが次々と出てきているからです。

会話からコードまで: マイクロソフト、GPT-3 による初の製品向け機能を発表(Microsoft)

「10倍」をばかにしてはいけない

北川 人を超えるAIが次々と出てきている根源は、しつこいですけれども、「10倍にしただけ」だったのです。

フィリップ・アンダーソンが理論的になぜ量を増やすことが質的な違いにつながるのか論文にしましたが(Part.6参照)、皆さん、「10倍」をあなどったり、ばかにしてはいけません。

まさに、2万冊ある本屋さんと20万冊ある本屋さんとでは、「10倍なだけだろう」と思うかもしれませんが、おそらく経験が全然違うのだと思います。

 (感心して)ああ、そこを全然考えていなかった。

でも、いい話ですね。

北川 これは僕たちの今の経営の話に関しても、何をやる時にも、本当にばかになりません。

渡邉 これも同じ話ですか?

北川 はい。この話は割愛しますけれども。

渡邉 すごい。とにかく熱意も合わせて、めちゃくちゃ何かにあてられた感じがします。

北川 ありがとうございます。これはビジネスマンに伝えたかった名著中の名著ですね。

渡邉 関さん、いかがでしょう?

株式会社リブ・コンサルティング 代表取締役 関 厳さん

 確かに量が質に転化するという話はありますが、10倍違うとビジネスの勝ち方も違うし、全く構造が変わるというのは感覚的には分かりますが、理屈として質が違うと言われると、もう開き直れるというか、気持ち良くなってきますね。

北川 物理の世界で「相転移」(物質がある一つの相から他の相へ変化すること)と言いますが、面白いことに10の23乗原子が集まる時と原子が1個しかない時では、対称性が一方に破れます。

すごく面白いのですが、この世界は右と左が同等な気がしますよね。

アトムをたくさん集めると、いきなり右利きだけになったりするのです。

だから質が変わるのです。

対称性が破られるわけはないと思っていたのに、いきなり対称性が破られるので、質が一気に変わってしまうという事象が起こります。

人間もポピュリズムに走るとか、お金がすごく大事になってくると、人数が集まると別にそういうつもりがなかったのに、一気に対称性が破れてうわーっと片方に寄ってしまいます。

これは「自発的対称性の破れ」といわれ、おそらく過去30年のノーベル物理学賞のかなり多くの根本にこの考え方があります。

居心地のいい真空の話 ~ 自発的対称性の破れとは ~(KEK)

 今日来て良かった。

(一同笑)

渡邉 熱い。これを踏まえた上で、我々一人ひとりのOSがアップデートした感じがありますので、このアップデートした感じで、続きの議論に入っていければと思います。

(続)

次の記事を読みたい方はこちら

続きは 8.シニフィアン朝倉さんの行動を変えた3冊の雑誌 をご覧ください。

新着記事を公式LINEでお知らせしています。友だち申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! YouTubeチャンネルの登録はこちらから!

編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

更新情報はFacebookページのフォローをお願い致します。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!