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倒産しない組織に、どうやって自律を生み出すか。湯﨑さんが就任直後に打ち出した「県民起点・現場主義・成果思考」という3つの視座は、ビジネスの常識を行政に持ち込む挑戦でした。管理職研修での対立、人事制度への落とし込み、表彰によるベストプラクティスの共有——10年に渡る組織変革のリアルな格闘を語ります。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回500名以上が登壇し、1,200名以上が参加する。そして参加者同士が真剣に議論し、学び合うためのカンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2026は、2026年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。
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【登壇者情報】
2026年3月2〜5日開催
ICC FUKUOKA 2026
Session 10E
特別企画 起業家・経営者から県知事になる
Supported by EVeM
(スピーカー)
湯﨑 英彦
広島県
前知事
(モデレーター)
三浦 崇宏
The Breakthrough Company GO
代表取締役
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▶『特別企画 起業家・経営者から県知事になる』の配信済み記事一覧
「3つの視座」は県庁の仕事の基礎
湯﨑 行政組織では、頑張らなくても給料は変わらないし、県民の皆さんが困っていてもお金は入ってくるわけです。
県のサービスが悪いから税金は払いませんと言うと、最終的には逮捕されてしまうわけです。
そういう世界なので、自己規律が働かないシステムになっているのです。
だからポイントとして、組織にいかに自己規律を働かせるかがものすごく大事です。
そういう意味で、就任後の第一声として、「3つの視座」について伝えました。
▶3つの視座(広島県)
三浦 3つの視座。
湯﨑 それは何かと言うと、真の「県民起点」の徹底、「現場主義」、「予算思考から成果思考への転換」です。
三浦 まさに、ビジネスの世界の発想を取り入れたということですね。

湯﨑 そうです、カスタマーファーストですね。
三浦 カスタマーファーストであり、現場でプロダクトのPDCAを回すことであり。
湯﨑 そして成果を出す。
これは先ほど別のセッションでもお話ししましたが、それをベースに、ミッションステートメントを職員に作ってもらったのです。
ミッションや信念で自律することを徹底しないと、すごく堕落しがちになるので、その点がやはり一番違います。
ただ、企業でも同じことは起こりますよね。
共通はしているのですが、力が働くメカニズムが全然違うので、より厳しく、ミッションや何のためにやるのか、これは本当に県民のためになっているのかを問う必要があります。
県民起点について話すと、分かっているような顔をした職員が、「そんなことは、前からしていますよ」と言うわけです。
でも、よくよく話を聞いて、「なぜこれをしているのか?」と聞くと、「前の部長がこう言っていたから……」とか。
三浦 (笑)
湯﨑 そういう事例が、山ほどあるのです。
会社でもありますけどね。
時間軸、対立軸がある中で「県民起点」を徹底させる難しさ
湯﨑 あと、県民起点と簡単に言うけれど、県民とは誰かと聞くと、みんな「うっ」となるわけです。
県民と一口に言っても、いろいろあるわけで。
特に行政の場合、いろんな利害があって、ある人の利益はある人の損失になることがあります。
例えば、典型的な例だと、広島市の真ん中に高速道路を通すためにトンネルを造るとなった時、それが住宅街の下を通ると。
トンネルは、みんなが利益を得るわけですが……。

三浦 ほとんどの県民の皆さんにとってはありがたいが…。
湯﨑 そう、でもトンネルの直上に住む皆さんにとっては、非常に邪魔な物ですよね。
どちらも県民ですので、なぜトンネルを優先するのかという意見が出るのです。
この例は、非常に分かりやすいですよね。
でも、その利害関係が分かりにくいこともすごくあります。
その時、なぜ一方を選ぶのか、何がベネフィットになって何が損失になるのかを、本当に徹底的に考える必要があります。
さらに、時間軸の問題もあります。
将来の県民がベネフィットを得る場合もあります。
三浦 確かに、ある地域と別の地域、マイノリティとマジョリティ、女性と男性などがありますが、現在の県民と未来の県民というパターンもありますね。
湯﨑 今行われている消費税の議論は、典型的にそのパターンです。
消費税を減税するとしたときに、将来、増税あるいは借金をしないで今の減税分が賄える余力があるのであれば、僕は減税ではなく、今ある借金を返すことに充てた方がいいと思うのです。
なぜなら、借金を返す機会を先延ばしして、捨てているからで、それだと将来の国民が困るからです。
つまり、時間軸の話もありますし、現在においてもいろんな対立軸があるので、「真の県民起点を徹底する」というのは、簡単な話ではないのです。
三浦 真の県民起点という言葉の解釈だけでも、議論が終わらなさそうですよね。
湯﨑 そうなんです。
「未来と現在の調整」が本当の意味での政治
湯﨑 これはもう、管理職研修などで大議論をするのですが、そういうことを徹底して考えて自律しなければいけないというのが、民間との大きな違いです。
民間の場合、最終的には売上や利益という、すごく分かりやすい値で出てきます。
行政の場合、例えば、虐待防止施策と道路を造ることのどちらのベネフィットが大きいかと言われても、比較が難しいので、徹底的に考えなければいけないのです。
それが大きな違いですね。
三浦 徹底的に考えるということの中に、未来視点が入ってくるというのも、ものすごく大きいですね。
今年度のP/L(損益計算書)だけを見るのではなく、10年後、20年後、あるいは100年後に地域に生まれる方々のことまで考えたとき、今すべきことは一体何かを、毎回トレードオフで判断していかなければいけないと。

湯﨑 その通りです。
だから、広島県のミッションは、結構長々書いてありますが、ポイントを言うと、地域の価値を高めるということなのです。
▶安心・誇り・挑戦 ひろしまビジョン(広島県)
地域の価値を高めるというのは、将来の価値を現在においても考えるということなので、当然、将来の価値を無視するわけにはいかないです。
でも、長い時間軸の中で行うことであり、今の県民とコンフリクトを起こすこともあります。
例えば、再生可能エネルギーは国の政策ですが、今、我々は平均的に月に2,000円前後を、その費用(再生可能エネルギー発電促進賦課金)として払っています。
▶再生可能エネルギー発電促進賦課金(新電力ネット)
2,000円前後だからいいですよね、あまり文句は言わないと思います。
でも仮に、温暖化防止のために月に30,000円かかるとなると、みんな「え?」と言いますよね。
この、未来と現在の調整がまさに、本当の意味での政治なのです。
誰かがそれをリードして、判断して進めていかなければいけない。
行政にはそういう面があり、それが民間企業とは違う点で、面白いところかなと思います。
10年を要した現場の行動変容

三浦 あらゆる意味で、利益の調整を図るということですよね。
すごく面白いなと思ったのが、結果が出なくても、大きな問題にならない組織という点です。
組織が大きくなっていくにつれ、当然、危機感や自律視点、つまり自分で自分のクオリティを律する視点がなくなっていくわけですよね。
そういうものがないことが常態化していた組織に、3つの視座を持ち込む。
概念としてすごく理解できるのですが、現場の方々をどう統制して、サービスクオリティやプロダクトクオリティを向上させなければいけないという姿勢に変えることができたのでしょうか?
湯﨑 それにはやはり、10年くらいかかりましたね。
三浦 10年。
湯﨑 それはもう、あらゆる方策を使うのですが、例えば人事制度の中に組み入れるとか、広島県職員の行動理念を毎朝唱和するとか、あるいはディスカッションをするとか、表彰をするとか、僕が何か挨拶する際に必ず入れ込むとか。
とにかく、いろんなレベルで、いろんな形で浸透させました。
三浦 概念を評価制度に落とし込むことは、すごく重要だと思います。
それと、やはりトップの日常の行動にも、すごく影響を受けるのでしょうね。
湯﨑 それはありますね。
誰かが何かをしている時に、本当にそれでいいのかと感じることがある場合は、しっかりと指摘をしました。
そういう中で、幹部のみんなもだんだん染まっていきました。
でも、やはり時間はかかるし、50代くらいの人は言っても変わらないのです。
三浦 なかなか簡単には。
湯﨑 ですので、そういう人たちが卒業するのを待たないといけないのです。
三浦 なるほど、天動説・地動説みたいな(ガラリと変わる)感じですね。
湯﨑 そうそう。
管理職研修での対立
湯﨑 管理職研修で「行動理念唱和なんてしても意味ないです」と言われることもありました。
三浦 腹が立ちますね。
湯﨑 腹が立ちますが、それは理解していないだけだからいいのです。
じゃあどうするのかと聞くと、「県が信頼を得るためには、県職員がボランティアとしてフィールドに出ることだ」と言うのです。
それはいいのですが……。
三浦 それはいいが。
湯﨑 「ボランティアはいいけど、本業をいい加減にしていたら、信頼も何もあったものではない」と言うと、「いや、ボランティアです」と言うわけですよ。
三浦 凝り固まってしまっているわけですね。
湯﨑 そうですね、本当にもう石のようになっているから、これはダメだと思って。
もうこの管理職はクビにしてくれと人事に言うと、慌ててしまって、「いやいや、できません」と。
三浦 クビにするというのは、それこそ会社より難しいのではないですか?
湯﨑 難しいです。
人事はもうすごく大慌てなわけですが、中間管理職がそのバリューを実践しないというのは……。

三浦 一番問題ですよね。
組織の中で結節点になるべきマネージャーが理念に反する行動を取ることは、一番シンプルな、組織が壊れる要因です。
想像するだけで、すごく嫌です。
湯﨑 許せないと思って、相当指導をしたら、その人は最終的に変わってくれて。
三浦 変わってくれたのですか?
湯﨑 理解してくれて、変わってくれました。
三浦 ボランティア以外もやることになりましたか?
湯﨑 そうですね。後から聞くと、改心して、行動理念をきちんと実践していましたと聞いて、ああ良かったなと思いました。
表彰やベストプラクティス共有がもたらした効果
三浦 50代の、なかなか変わろうとすることがない、斜に構えたことを「しゃにかま」と僕らは呼ぶのですが、しゃにかまなマネージャーを、湯﨑さんはどうやって変えたのですか?
湯﨑 ちなみに、(スティック型の)「カニカマ」を最初に作ったのは広島なのですが。
▶かに風味蒲鉾「フィッシュスチック」誕生秘話(大崎水産)
三浦 知らないですよ(笑)!
(会場笑)
勉強になります(笑)。一つひとつ、細かいところで、やはり地元をPRされますね。
現場を忘れないリーダーの姿勢ですね!
湯﨑 身についているのですよ、営業なので。
三浦 皆さん、カニカマは広島生まれなので、メモっておいてくださいね。
湯﨑 知っておいてくださいね。
で、何でしたっけ(笑)?

三浦 (笑)。
その50代のしゃにかまをどう変えたのでしょう?
湯﨑 徹底して伝えていくことと、分かりやすい事例を伝えたり、表彰したりですね。
表彰されると、やはり結構みんな嬉しいらしいのです。
その表彰事例、いわゆるベストプラクティスは、もちろん共有します。
ある意味(そのベストプラクティスも)、当たり前のことですよね、でも当たり前と思っていることでも実践できていないのです。
会社でもありますよね、カスタマーファーストと言いながら全然そうではないことをする、みたいな。
やはり徹底していくと、「意外と、こんなことなんだ」と理解してくれます。
確かに実行していなかったけれど、よく考えると当たり前のことだったという場合が多いのです。
皆さん、悪い人ではないですし、基本的には、パブリックマインドが強い人たちが働いているので、だんだん変わっていきます。
まあ、30年も続けていたら固着して、ゴムもなかなか伸びなくなってしまうので、難しい人もいます。
100%は無理ですが、特に若い人、まだ階級が低い人が変わっていって、次の世代を担う人を育てる感じで作っていくという感じです。
三浦 めちゃくちゃ面白いお話ですね。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成


