「iPhone登場以降は、ポータルサイト自体は、要するにスマホのトップページになりつつある訳ですから、横展開というよりは縦です。先程田中さんが仰った、オリックスでいうところの、一列をダダダダダと変えていくというのは、事業の持って行き方としてはそちらの方にかなりシフトしていますね。だから、「Yahoo!ファイナンス」が強いのだったら、じゃあクレジットカードもやろう、銀行もやろう、FXもやろうというような感じで、縦ですね。eコマースもモール型をやったら、アスクルさんと一緒にAmazon型もやって、それも決済もきちんとやって、という風に。いわゆる大きな事業体の王道のやり方になりつつあるかなと思います。」
トップリーダーが「新しい成長分野を創る経営とは何か」の議論(その1)を是非ご覧ください。
登壇者情報 2016年3月24日開催 ICCカンファレンス TOKYO 2016 Session 5A 「新しい成長分野を創る経営とは何か」 (スピーカー) 川鍋 一朗 日本交通株式会社 代表取締役会長 川邊 健太郎 ヤフー株式会社 副社長執行役員 最高執行責任者 田中 良和 グリー株式会社 代表取締役会長兼社長 (モデレーター) 岡島 悦子 株式会社プロノバ 代表取締役社長
岡島悦子氏(以下、岡島) 皆さん、こんにちは。
岡島 今回のテーマが、「新しい成長分野を創る経営とは何か」ということで、この3名に色々と伺ってみたいと思います。
どんどん世の中の先が分からなくなっていて、グリーさんも最初は何の仕事をされていたのか分からなくなってしまうくらい、皆さんビジネスのメインもかなりピボット(方向転換)されていてきているという状況ではないかと思います。
岡島 悦子 株式会社プロノバ 代表取締役社長 経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。成長ステージに合致した経営チーム組成のための「経営チーム診断/開発コンサルティングサービス」を提供。年間200人の経営者の「経営×人材」領域のディスカッション・パートナーとして従事し、経営者、キャピタリスト等から高く評価されている。専門領域はリーダーシップ、ダイバーシティ、キャリア。破壊的イノベーション創出を目指し、共創環境を整備するためのリーダーシップ論など、組織開発課題に関する先進的な提言を行う。著書、講演も多数で、G1サミット等のカンファレンスでは、モデレーター、スピーカーとして常に活躍。 三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。アステラス製薬株式会社 社外取締役、株式会社丸井グループ 社外取締役、ランサーズ株式会社 社外取締役、株式会社セプテーニ・ホールディングス 社外取締役。ダボス会議運営の世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出される。
ビジネスモデルと言われるものもとてもサイクルが速くなり、20年ももたないようなことが多い中で、皆さんインターネット業界に長くいらしたり、それから(日本交通の)川鍋さんのところは、タクシー会社というレガシーのビジネスから…
川鍋一朗氏(以下、川鍋) 創業88年ですから。(笑)
岡島 社歴88年という。(笑)
川鍋 このビジネスモデルに感謝ですよ。
岡島 すごいですよね。そこから、今インターネットの世界と融合されていくというような話だと思うんです。
今日は皆さんに、ぜひリアルに色々と伺っていきたいと思っています。
テーマが「新しい成長分野を創る経営とは何か」ですので、皆さんが新しい成長分野を創られる破壊的イノベーションのようなことも含めて、経営者として事業を創られる時に、どんなことを考えていらっしゃるのかを伺っていきたいと思います。
ここにアジェンダを出させて頂いたのですが、これを行ったり来たりしながら、皆で議論していけたらと思います。
まず、今、皆さんが新しい成長分野という面でどのようなことを手がけていらっしゃるのかについて、グリー株式会社の田中さんから伺っていけたらと思います。
横からもどんどんコメントを頂ければと思います。よろしくお願いします。
田中良和氏(以下、田中) グリーの田中です。よろしくお願いします。
もともとソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)から始まって、今グリーではモバイルゲーム事業をやっています。
田中 良和 グリー株式会社 代表取締役会長兼社長 1999年、日本大学法学部を卒業後、ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社(現:ソネット株式会社)を経て、2000年2月、楽天株式会社に入社。2004年2月に個人の趣味としてGREEを開発。同年10月、楽天株式会社を退社。同年12月、グリー株式会社を設立し、代表取締役に就任。2014年9月、代表取締役会長兼社長に就任。
モバイルゲームには、現在社員が約1,000人おり、海外でもゲーム開発をしているのですが、それとは別に、広い意味での生活関連産業をやっていこうと考えています。
グリーでは5年前頃から投資事業等もしてきたのですが、振り返ると、全体で営業利益が約800億円出ている時期がありました。
恐らく正味で約1,000億円の利益が出て、200億円くらいの損があり、合算して800億円だったと思っています。
自分にとっては別にお金が全てというわけではないのですが、やはり、1,000億円くらい利益が出るような事業ドメインを創出していかないと、事業としてはしょうもないという風に思っていました。
でも、やはり1,000億円 儲かりそうなものが全くないので非常に悩みました。
そして自分で考えた結果、やはり広い意味での生活産業関連というのは、日本においてはまだまだ大きなチャンスがあるのではないかなということで、この分野を掘り下げようと現在チャレンジしているところです。
岡島 例えば、現在、リノベーションや保育なども手がけられていますが、こういったビジネスには時間がかかりますよね。
田中 そうですね。この数年間で、ここにもいらっしゃいますけれど、UBERとAirbnbに衝撃を受けて勉強させていただいたなというのは感じています。
UBERが「タクシー会社」であるということに衝撃を受けましたね。
やはりインターネット業界では、「検索エンジン」や「OS」を創ることが最初だと思っていたのですが、いきなりタクシー会社がすごいと言われ始めて、「どうなってるんだ、これ!?」と。
川邊 健太郎氏(以下、川邊) 時価総額 1兆円とかね。
田中 そうですよね。
そういった意味では、インターネット業界の定義が変わってきているというのを受け入れて進んでいく必要があるなと感じました。
むしろその方がアイディアを広げやすいというのが、今のメインストリームだと考え直したんです。
生活関連産業というのはいいな、と思いました。
ただ、5年前にUBERがスタートした時点では、仮に「これはすごい(サービスだよ)」と言われていても、僕は恐らく「そんなにすごくはないよ、タクシーを呼ぶというだけだよ」と思っていたと思うんでですよ。
正直、今の人からすると「これ、本当にすごいのかな?」と思われるような、そんなビジネスをやらなければと思ってやっています。
先日のセッションでもお会いしたのですが、僕も@cosme(アットコスメ)の吉松さんと、学生の頃から知り合いなんですよ。
まだ吉松さんが会社を創られる前で、@cosmeの企画書を作られるのを見ながら、学生ならではの視点でああだこうだと言わせていただいたのを覚えています。
それから20年くらいかけて、今、活躍されいる訳ですよね。
最近話題になったクックパッドについても、佐野さんが会社を始められるかどうかぐらいの時から知っていまして、レシピサイトをされるとお聞きした時には、この人は何を言ってるんだ、と思った記憶があります。
川邊 (クックパッドの佐野さんは)慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの近くで、ずっとされてたのですよね。
田中 忘れもしない、「有限会社コイン」という会社をされていました。
やはり生活関連産業というのは、成功するまでに時間がかかるんですよね。
岡島 よほどそういう領域が好きではないと続けられませんよね。
それこそ雨が降るまでずっと雨乞いするように、ずっと追い続ける感じですよね。
田中 さらにカカクコムも始めのしょうもなさでいうと、忘れもしないホームページがあって…
岡島 今日はディスり系?(笑)
田中 いや、逆に、そこから始まってここまで来たことについて、すごい実体験があるんですよね。
僕もあのようなビジネスが基本的に好きだったのですが、やはり短期間でベンチャーを成長させるために、「これではないな」と思って今のビジネスを選んでやっていたんです。
でも、今、ロングレンジでもう一度勝負できるような財務体力もあることを考えると、あのようなビジネスをロングレンジでやって勝ち残っていくということも、まだまだ自分にはできるのではないかなと思っているところです。
岡島 あとで戻って来たいな、と思うのですが、川邊さんはいかがですか?
川邊 今日は、午前中に孫(正義)さんとニケシュ(ニケシュ・アローラ)さんとミーティングだったんですね。
岡島 濃いですよね。(笑)
田中 濃すぎる。(笑)
川邊 1〜2時間議論して、午後は今度はニケシュさんだけとのミーティングでした。
岡島 それも濃い。(笑)
川邊 喧々諤々されている最中に、私はツイッターのリアルタイム中継で、クックパッドの株主総会の中継をひたすら見ていまして。
段々こちらの方が面白くなってきて、少し会議を聞いていなかったら、孫さんに突然「お前どう思う?」と言われて、頭の中が真っ白になりました。
川邊 健太郎 ヤフー株式会社 副社長執行役員 最高執行責任者 1974年10月19日生 東京都出身 青山学院大学法学部卒(1998年) 1995年 在学中に電脳隊を設立、99年に代表取締役社長 1999年 ピー・アイ・エム株式会社設立 2000年8月 ヤフー株式会社と電脳隊、ピー・アイ・エムの合併に伴い、ヤフー株式会社入社、「Yahoo!モバイル」担当プロデューサー 2003年 社会貢献事業担当プロデューサー(モバイル兼任) 2006年2月 Yahoo! JAPAN10周年記念非営利事業として「Yahoo!みんなの政治」を立ち上げ 2007年 メディア事業部に異動、「Yahoo!ニュース」、「Yahoo!ニュース トピックス」などの責任者 2009年5月 株式会社GyaO(現在、株式会社GYAO)代表取締役社長 2012年4月 ヤフー株式会社 最高執行責任者(COO) 執行役員 兼 メディア事業統括本部長 7月 副社長 COO 兼 メディアサービスカンパニー長 2013年4月 副社長 COO 2014年6月 取締役副社長 COO 常務執行役員 2015年6月 現職に就任
耳には新規事業の話などは入ってきているんですよね。
耳に入ってきた単語をどうにかこうにか思い出して言ったら、全然的外れなことを言ってたらしくてですね。
この話をつかみに持ってこようと思ったら、あまりつかめてないということが分かっているのですけれども。
(会場笑)
川邊 日々そういった感じで、皆で新規事業の話をしてますよ。
岡島 今手がけてられている新規事業というか、新しい分野について少しお話して頂けますか。
川邊 新規事業というか、自社の成長分野につなげるという意味においては、この最近2つのことをしました。
直近では、スマートフォン版「Yahoo! JAPAN」トップページのインターフェースをタイムライン型にして、そこにインフィード広告を入れるということをしました。
ゲーム系以外で、スマートフォンで上手くいっている会社、つまりある程度の利益を上げている会社というのは、世界を見渡してもFacebookだけなんですよね。
Facebookがやったやり方を素直に真似して、タイムライン型のUIにして、インフィード広告を入れて、ターゲティングをかけて、広告の単価を上げるというアプローチをこの2年くらいかけてやってきました。
それがある程度形になってきており、新たな成長のイニシアチブと捉えています。
もう一つは、皆さんご存知の通り、「eコマース革命」ですね。
3年前に始めた時には、投資家の方からは馬鹿だと言われたわけですよ。
でも、我々としては、やはりとにかく日本のeコマース市場をもっと大きくしたい、あわよくば「Yahoo!ショッピング」の流通総額を現時点の3位から1位にしたいという思いの中で頑張ってやってきました。
その成果が今出つつあり、恐らく未来の収益につながるのではないかと予測しています。
お陰様でもう20年も事業をやっています。全くの新規事業というよりは、そのように色々な事業をリニューアルしていくことで、更に収益を創り出していきたいと思っています。
岡島 新しい収益の創り方でしょうか。
川邊 そうですね。
リニューアルしていく度にマーケットを大きくしていくことを心がけています。
更に、リーディングカンパニーであるという自覚を持って、マーケット自体をとにかく大きくして、後に続く方たちの中核的存在になれたらいいなと思いながら、新しいことを仕掛けているつもりです。
岡島 ありがとうございます。
後ほどもう少しお話をお聞きしたいと思っています。
そして、事業ドメインという観点からは川鍋さんは異色とも言えるかもしれませんね。
川鍋さんが、今手がけられていることはどのようなことでしょうか、
お立場も少し変わられていると思うのですが。
川鍋 そうですね。
振り返ると、成長を目指さなければならないという風に思ったのが、まず5年前のことでした。
成長以前の生き残り競争の世界からスタートし、なおかつ産業自体が日本で104年目、弊社は88年目で3代目だ、と。とりあえず潰さないというのが第一目標で、持続することを意識していました。
川鍋 一朗 日本交通株式会社 代表取締役会長 JapanTaxi株式会社 代表取締役社長 1970年生まれ。1993年慶應義塾大学経済学部卒業。1997年ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院MBA取得。同年9月マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社を経て2000年1月日本交通㈱に入社。2005年8月代表取締役社長、2015年10月代表取締役会長に就任。三代目として『黒タク』『陣痛タクシー』『キッズタクシー』『サポートタクシー』『観光タクシー』導入や『日本交通タクシー配車』『全国タクシー』アプリ開発など改革を進め、日本交通グループとして約5200台の国内最大手のハイヤー・タクシー会社を牽引。2013年6月に全国ハイヤー・タクシー協会の副会長、2014年5月東京ハイヤー・タクシー協会の会長に就任。
5年前にCCCの増田さんに言われたんです。
「川鍋くん、君はオーソドックスにやっていて素晴らしいけれども、やはり成長しなければならないのでは?」と。
それではっとして、「企業とは成長するものなんだ」と思ったのです。
それまでは、前年割れではなかったらOK、という感覚だったんですよね。
それが、2010年に増田さんに刺激を受けてやらなければと思い、いくつかやり始めた中の1つがアプリなのです。
その他の事業もできるのではないかと思い、介護等もやりましたが、その1年で頓挫しましたね。
それから、本命のキッズタクシーにも取り組みました。
そのアプリだけスルスルと上手くいったんですよね。
その辺からなんですよ。
UBERに刺激を受けたから始めたわけでなく、やはり純粋にお客さまを呼べるサービスを創りたいと思いました。
いい運転手さんといいタクシーを選びたいよねというところから、電話がかかりやすくするするように等、色々と考えた結果、アプリがあるよねということになりまして、それがスタートだったんですよね。
そして、気づけばまさにUBERがずどーんと(巨頭に)なっていて、青天の霹靂とはこのことですね。
異星人襲来といった感じです。
これは、もう日本人として、というか地球人として進化しなければならないという感覚で。
それで、どこまで進化できるんだろうか、と自分自身で人体実験中ですよね。
ですから、成長イコール新たな分野をやるなんていう発想は毛頭なくて、とにかく自分のいる領域から、どれだけ派生できるか、成長できるか、というのがスタートの目線なんですよ。
でも、最近衝撃を受けられたことがあるんですよね。去年12月から宇佐美さんの会社であるVOYAGEの社外取締役をさせて頂いていて、「あっなるほど、ベンチャーってこうなんだ」と、やはり衝撃を受けました。
「FinTech研究所を設立します」と取締役会議で言われて、ああ、そうなんだと。
「では、FinTechやりまーす!」と言うのを聞いて、「えっ、この会社、何かFinTech系のことをしていたっけ?」「ちょっと待ってよ、事業上の強みとかシナジーとか…」と思って。
「一応、ポイント交換をやっていますから、これも広い意味ではFinTechですから」と言われて、すごくポジティブだと思いました。(笑)
(会場笑)
川邊 事業ドメインはないということですよ。
川鍋 ないですね。
私の感覚で言うと、FinTechのような流行りに乗って失敗したら恥ずかしいと思いがちなんですが、ゼロから平然と創りあげて「FinTech研究所やります!」というノリで、しかもそれを真面目にやっているところに衝撃を受けましたね。
派手さはないけども、オールド産業はもっと頑張らないと、こんな人たちが、こんなレベルの経営をやっているというのが本当にこれはすごいなと。
そういう風に全くドメインのない所にぴょーんっと行ってしまうのに驚いきました。それに対して、我々のようにちょこっと出ているくらいなのはどうなのかなと、今、すごく悩んでいるところです。
岡島 やはり先程も少し後ろで話していたのですが、これはすごく面白いですね。
ついつい、「それって流行りだからといって乗ってしまうのは、カッコ悪いんじゃない?」とか、どこの会社とは言いませんが、経営会議などで「それって儲かるの?」とか「それってスケールするの?」なんて言ってしまうものじゃないですか。
私は、「それって面白いよね」と言った方がいいと思っているのですが、なかなかそう言わずに、やらない理由で潰してしまうようなことが結構ありますね。「コアコンピタンスってあるの?」なんて。
「それ、シナジーがあるんだっけ?」のような話でも煙に巻きやすいじゃないですか。
Yahoo! JAPANとかグリーでは、そういう話はないのですか?
川邊 やはりそうなりがちですよ。
どうしてそういうことを言うのかという理由には、リソースの問題であったり、今やっていることを潰されたくないといった、個人的な事情が色々あるのでしょうけれど。
でも、あるとき(ソフトバンクの)孫さんとそういう話をしていたときに、シナジーなんかの真面目な議論をしたら、孫さんが、「大丈夫だ、シナジーなんて始めから無いから。事業にシナジーなんて無いから」と言い切っていました。(笑)
(会場笑)
岡島 本当にその通りだと思います。
大体、「シナジーがこれくらい出ます」なんて言って、そんなに出た試しはないですよね。
川邊 確かに出た試しがないですよ。
だから、「ですよね」っていう。
それ単体でどこまで大きくなれるかというところから…川鍋さんが仰ったように、活力が組織にあるかどうかですよね。
川鍋 そうなんですよ。
それは、経験も含めて、そういうサイクルを何度も平然とやれるような環境を如何に創るかですよ。
とりあえず新規事業なんてやったことがないので、タクシーの中で議論すると、どうやるんだというところから始まって、空気感が全然違いますよね。
今、そういう成長に向けた土壌開拓がすごく必要だなと思っていますね。
岡島 今のご時世では、イノベーションの種の見つけ方というのがすごく難しくなっているなと思っています。
ノイズも色々あって、流行りみたいなこともありつつ、自分たちは投資家のお金を預かっているなんてこともありつつ、投資家からも色々なことを言われるという中で、現場の人が「これって面白いですよね」と言って持ってくるものをついつい潰しがちです。
私たちもこういう場所にいると、AIだったり、ロボットだったり、シンギュラリティだったり、色々なお話を聴いて、FinTechをやておかなければとか、シェアリングエコノミーをやっておかなければ、という風にザワザワ~っとしたりするじゃないですか。
どうやって、種を見極めていらっしゃるのですか?
田中 方法は2つあるなと思っています。
1つ目は、ボトムアップで皆から提案してもらうことです。
例えば、最近やっているリフォームなんかでも、僕自身がリフォームに全く興味なかったので、そもそもオンラインでリフォームなんか頼む人がいるのかと思ったのですが、そもそもそういったサービスが沢山ありますと聞かされて、衝撃を受けたことがありました。
もう1つは、極端な話、明日会社が全部なくなっても、自分がこれで創業しろと言われても、勝てると思うくらい確信を持てることかどうかだと思っています。
それくらいでないと、上手くいかなくなった時に、それでもやるんだという風に言い切れません。
やはり、これだったらできると思えるものを大切にして残していこう、とは思っています。
先程のシナジーの話の時にすごく思ったんですけれど、僕もグロービスのMBAシリーズとか好きなので、会社を創った時によく読みましたね。
そして会社の強み弱みを分析した結果、強みがゼロだということを発見しまして。(笑)
(会場笑)
田中 人もない、お金もない、知識もない、経験もない。
これはゼロだなっと思って。
マークシートをした結果、ゼロだと分かるっていう。(笑)
岡島 3人だったしね。(笑)
田中 でも、多くのベンチャーや新規事業においては、ゼロから始まっても勝っている会社がたくさんあります。
それから、意外と何とかなるんじゃないかということは逆に分かったので、それでも勝とうとは思っています。
オリックスの宮内さんとお話ししたのですが、オリックスもこの30年ぐらいで劇的に成長しているんですよね。
色々な分野に発展しているので、「これは、どういう順番で進めていらっしゃるんですか?」と尋ねたところ、やはりオセロや将棋のように、1個倒したらその横を倒して、という感じで、まさに強みを生かし切って、同じような業態の川上川下を侵食して大きくしているというお話をされていました。
これはこれである意味、真っ当すぎるほど真っ当な話だなと思いました。隣接領域を侵食して勝った方がいいに決まっているのだけれど、できないからといって諦めている場合ではないと思ってはいます。
岡島 川邊さんのところは、そういう意味では、横へ横へ着実に伸ばしていっておられるのでしょうか?
川邊 そうですね。うちは、シナジーを大事にしていますね。(笑)
(会場笑)
川邊 要するに、孫さんの仰っていることを無視しているということなんですけれど。(笑)
やはりポータルサイトですから、主に検索とニュースが中心になって人が集まって、こういうニーズ、ああいうニーズという風に横展開していっているということですけれども。
iPhone登場以降は、ポータルサイト自体は、要するにスマホのトップページになりつつある訳ですから、横展開というよりは縦です。
先程田中さんが仰った、オリックスでいうところの、一列をダダダダダと変えていくというのは、事業の持って行き方としてはそちらの方にかなりシフトしていますね。
だから、「Yahoo!ファイナンス」が強いのだったら、じゃあクレジットカードもやろう、銀行もやろう、FXもやろうというような感じで、縦ですね。
eコマースもモール型をやったら、アスクルさんと一緒にAmazon型もやって、それも決済もきちんとやって、という風に。いわゆる大きな事業体の王道のやり方になりつつあるかなと思います。
結局、そこで新しいことをやろうと思ったら、先程申し上げた通り、ベンチャーでもNO.1になれる分野はある訳ですよ。
そして、我々も負けることがある訳ですよ。結局、それって一体どういうことなのかなといつも考えています。
つまり、戦略というのは難しい話ではなくて、リソースをどう分配するかというだけの話ですよね。リソース配分の優先順位の決定であるだけで、沢山やっていればやっているほど、リソースは分散している訳ですよ。
だから、新しいところに割けるリソースは大企業のくせに少ない訳ですよ。だから、ベンチャーに負けることもある訳です。
岡島 戦線が広がりすぎる訳ですね。
川邊 そうです。
だから、大企業でもこの分野で絶対勝つと思うのであれば、他のリソースを充てている所をある程度やめて、そこに投入するという風にすれば勝てるかもしれないし、そうしない限り勝てないという、シンプルなことですよ。
(続)
編集チーム:小林 雅/Froese 祥子/藤田 温乃
続きはこちらをご覧ください:イノベーションと既得権益
2016年9月6-7日開催予定のICCカンファレンス KYOTO 2016 「ICC SUMMIT」に本セッションの4名の登壇者が登壇を予定しております。ライブで議論に参加する価値を是非感じてください。
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