ビジネス・ブレイクスルー大学大学院の「アントレプレナーコース」が2016年4月に開講しました。ICCパートナーズ小林雅が担当した「スタートアップ企業のビジネスプラン研究」全12回の映像講義について、許諾を頂きまして書き起し及び編集を行った内容を掲載致します。今回の講義は、 株式会社クラシコム 代表取締役 青木 耕平 氏にゲストスピーカーとしてお話し頂きました。
60分の講義を2回に分けてお届けします。 前半の(その1)はクラシコム社独自の経営哲学と成長ストーリーを語って頂きました。運営する「北欧、暮らしの道具店」の全貌をご覧ください。詳細なKPIデータやクラシコム社の売上高推移など詳細経営のリアルな数字がわかる内容となっております。ぜひご覧ください。
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【登壇者情報】
2016年12月15日収録
ビジネス・ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」
スタートアップ企業のビジネスプラン研究
「クラシコム」
(講師)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
(ゲストスピーカー)
青木 耕平 株式会社クラシコム 代表取締役
1972年 埼玉県生まれ。株式会社クラシコム代表取締役。
2006年、実妹である佐藤と株式会社クラシコム共同創業。単独、共同創業通算で同社で3社目。翌年、賃貸不動産のためのインターネットオークションサイトをリリースするが、一年ほどで撤退。2007年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。現在は、北欧雑貨のEC事業のみならず、オリジナル商品開発販売、広告、出版(リトルプレス発行)事業など多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。
(アシスタント)
小泉 陽以
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「北欧、暮らしの道具店」の全貌
小泉陽以 氏(以下、小泉) ビジネス・ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」スタートアップ企業のビジネスプランのお時間です。
この番組のアシスタントを務めます小泉陽以です。よろしくお願い致します。
こちらはビジネス・ブレイクスルー大学大学院教授、小林雅さんです。
小林さん、よろしくお願い致します。
小林雅 氏(以下、小林) よろしくお願い致します。
小泉 今回はどのような内容になりますでしょうか。
小林 今回は、主にメディア、eコマース(インターネット上の証取引、EC)によってコンシューマー(一般消費者)向けのサービスをされている「クラシコム」さんという会社があるのですが、その社長である青木さんという方にお越しいただきます。
小林 今まで登場された方々というのは、「ベンチャーキャピタルから10億円調達しました」など華々しくやってこられた方だったと思います。
しかし、クラシコムさん、青木さんは面白くて、なんと100%オーナー企業、同族経営なのです。
今どきじゃない……と申しますか、違う系統なのですが独自の進化を遂げている。
かつ、ライフスタイルメディアというカテゴリーに特化した、月間1,000万ページビューを超えるような、成長力のあるサイトになっています。
つまり、外部資本に頼らない、独立した同族経営でもここまで行けるということです。
特にそうした部分でいろいろなヒントがあるのではないかと思い、ゲストとしてお呼びいたしました。
小泉 それでは改めましてゲストをご紹介いたします。
株式会社クラシコム代表取締役の青木耕平さんです。
青木さんよろしくお願い致します。
青木耕平 氏(以下、青木) こちらこそよろしくお願い致します。
小泉 まずは青木さんのプロフィールをご紹介させていただきます。
小泉 青木さんは1972年にお生まれになられまして、株式会社クラシコム代表取締役で、共同創業者でいらっしゃいます。
共同創業者というのは、どういったことでしょうか。
青木 私の会社は、僕と、実の妹の佐藤という者の二人で創業した会社になります。
ですから、もう一人の共同創業者は僕の妹ということです。
小泉 なるほど。そして、2006年9月に株式会社クラシコムを設立され、代表取締役に就任されました。
しかし翌年、賃貸不動産のためのネットオークションサイトをリリースしますが、一年ほどで撤退されます。
この「撤退」というのは、どういった経緯でしょうか。
青木 これは、賃貸不動産の大家さんと借り手さんが直接に取引できるという、eマーケットプレイス(WEB上の取引所)のサービスを開発して始めたビジネスでした。
そして、資金調達をして、「上場を目指すか」という勢いで始めたのですが、結果は撤退することになりました。
この一番の原因は、僕にまったく力量がなかったということです。
それから、もう一つの原因に時期的なものがあります。その前から少しずつ動いてはいたのですが、ちょうどこれは設立が06年の9月でした。
どういう時期かと言いますと、いわゆるライブドアショックというような頃合いで、いろいろな意味で非常に需要環境が厳しかったということもありました。
ただ、8割5分の原因はまったく僕に力量がなかったということです。
構想をきちんと形にできなかったというところが大きいです。
小泉 クラシコムというお名前はその時のお名前ということですか。
青木 サービス名はまた別にあったのですが、ライフスタイルの領域で、かつインターネットでということで、「クラシ」「コム」という名前をつけました。
小泉 そして、2007年秋より北欧雑貨専門のeコマースサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業されました。
まず不動産をやられてから、そのあとに雑貨屋さんですよね。
なぜ、雑貨屋さんになったのでしょう。
青木 その経緯は、「縁」としか言いようがありません。
まず、たまたま共同創業をした妹に北欧へ行く機会があり、それから「また北欧へ行きたい」とずっと言っていました。
そして、当時、最初の事業に失敗していますから、会社にわずかばかり残ったお金も、もう数か月でなくなってしまうという頃合いでした。
そこで、最後のお金を使って「最初で最後の社員旅行へ行くか」ということで北欧へ行くことになったのです。
すると、そこで出会いや、いろいろな後押しがあって、「ではそういうビジネスをやってみるか」と始めることになったのでした。
あと、もともと資本金を小さく始めておりますけれど、それを食いつぶしてさらに少なくなったところからだったので、非常にコンパクトに始められるものでなくてはならなかった。
つまり、雑貨のeコマースというのは、その頃の僕らにとっては始めやすいビジネスだったということでもあったのです。
小林 これは面白いですよね。
北欧旅行へ行く人は結構いると思うのですが、そこで「雑貨のeコマースをやろう」というふうになるのですから。
青木 最初はただ旅行へ行こうと思っていたのですが、僕も商売人なので、ただお金を使って帰ってくるというのが決まってからだんだん悔しくなってきたのです。
そこで、「何か買って帰ってきたら売れるものとかないだろうか」という、本当にそういうセコい考えでいろいろ聞いていたのです。
すると、たまたまある商材があったので、その時に会社に残っていたお金と個人のカードを全部持って、「とりあえず限度額までそれをいっぱい買って持って帰ってこよう」というようなノリだったのでした。
小林 最初の商材は何だったのですか。
青木 最初は1960年代から70年代くらいまでに生産が終わったブランド物の食器です。
ビンテージの食器という言い方をするのですが、そういうモノをコレクションされている方というのは結構いらっしゃるのです。
そういうモノを現地で買って、こちらで販売するとそれなりの価格差があるので、「交通費くらい取り返せるのではないか」という話をしていました。
それで持って帰って来たというのが、本当に最初のキッカケです。
小林 BBT(ビジネス・ブレイクスルー大学)の学生のみなさん、これです。
旅行へ行ったらとりあえず何か買って来てネットで売る。
そこから始めるわけです。
青木 意識の低い話でおそれいります。
小林 いいえ。とんでもありません。
そこから今に至るというのはすごいです。
小泉 そうですよね。
それから、以降2013年にプレミアムなフード商材の開発、製造を担うKURASHI&Trips株式会社を設立し、代表取締役に就任。
また、2015年にスイーツの開発製造を行うOYATSUYA SUNを共同出資で設立し、取締役に就任されていらっしゃいます。
そして、会社概要を簡単に私からご説明致します。
小泉 創業が2005年9月、資本金が800万円。これは100%オーナー会社です。
本社は東京都国立市。従業員数はグループ会社も含めまして30名。ということです。
小林 国立へ行ったことのある方はわかると思うのですが、駅前には通りがあります。
その通り沿いにある、非常に明るく素敵なオフィスです。
小泉 出資は一切誰からもしてもらっていないということですか。
青木 そうですね。同族のみということになっています。
小泉 妹さんと半分くらいずつ出資されているのですか。
青木 妹はたぶん20%くらいで、7割方僕が持っていて、あとは父が10%持っています。
小林 同族経営ですね。
青木 同族経営です。
小泉 そうですね。こういう経営の仕方もあるのですか。
小林 あるのです。
日本の中小企業――と言うと表現がよくないですが――ほとんどそうなのではないでしょうか。
だいたいが同族というか、ほぼ身内というような会社は多いと思いますよ。
飲食店などはほぼそうでしょう。
ですから、飲食店をやっているようなものです。と言うのも、兄妹で創業するビジネスというと、そんなにないと思うのです。
青木 リーマンブラザーズとかブルックスブラザーズとか◯◯ブラザーズみたいな会社名ってわりとありますし、日本でも創業者のファミリーネームを冠した大手企業はたくさんありますよね。いまは大きくなっている企業もやはり結構そういうファミリーで始まることの方が、歴史の観点から見ればたくさんあります。
また、ヨーロッパでも特にドイツなどでは、逆にそういうところが元気で今の経済の状況があるとよく言われています。
逆に言うと、日本のほとんどの会社は外から出資など受けていませんからね。
「フィットする暮らし、つくろう。」
小泉 それでは早速ですが、青木さんから「ミッション、ヴィジョンについて」というお話を伺いたいと思います。
青木 ミッション、ヴィジョンというほど仰々しいものではないのですが、我々のやらんとすることを一言でいうと、「フィットする暮らし、つくろう。」という言葉になります。
青木 このように、社外にも社内にも説明をしています。
フィットする暮らしというのは少し曖昧な言葉ですが、簡単に言えば自分のモノサシで「いいなあ」と思える暮らしをつくろうということです。
そして、そういう暮らしを作れる土台となる会社づくりをしようということで「フィットする暮らし、つくろう。」と説明をしているのです。
ただ、一言で「フィットする暮らし、つくろう。」と言うのは簡単ですし、聞こえも非常に良いわけですが、一方で厳しい現実社会というものがありますでしょう。
その中で「自分たちが気持ち良く、自分らしく暮らせるための土台になる会社をつくろう」と言ったところで、非常に競争も激しいとか、社会の変化もとても激しいという中でそれができるかと言うと、そう簡単なことではない。
それがここでは矢印で表していますが、現実とのギャップのようなものだと思うのです。
青木 ですから、このギャップを埋めていくための事業を構築しなければならない。
我々としては、その上で生活していく人がフィットする暮らしのできる会社になるためには、少なくとも自由、平和、希望という三つの資質を、その会社が持っていなければならないと思っています。
青木 「自由」というのは、「他者から支配されない力」のことです。
資本関係や契約関係によって、自分たちのやりたいと思うことができないとか、あるいはやりたくないことをしなければならないという状況にあれば、そこで働く人たちがフィットする暮らしをするのは難しいでしょう。
「平和」というのは、「ユニーク(独自)なポジションを持てている」ということです。
ユニークなポジションで商売をしていると、そんなに本質から外れた価格競争とか新製品の開発競争といったことに巻き込まれないで済む。
本質的な価値をコツコツと追及して行けるような、ユニークなポジションをつくらなければならない。
「希望」というのは、「今日よりは明日、今年よりは来年、着実に良くなっていくとみんなが信じて働ける事業をつくらなければならない」ということです。
通信販売というビジネス自体が、基本的にはやればやるほど顧客リストが増えていき、こちらからアプローチできるお客さんが増えていくビジネスです。
認知度もあがっていきます。
基本的には、真面目にやっていれば、需要環境は経年していくほど良くなっていくビジネスなのです。
ですから、今年すごく儲かるけれど来年はわからない……ということではなくて、ゆっくりではあるけれども着実に積み上がって行くビジネスに集中しようということです。
そういった会社をつくろうと考えております。
そして、当然、そういう会社を作るためには、しっかりとした事業活動による収益を上げていかなければならないということになります。
青木 そこで上げた収益を、より自由になるように、より平和になるように、より希望のある状況になるように投資をして行くということで会社をつくって行きましょう、と言っております。
そして、そういう収益を上げるためには、やはり信頼と愛着を持ってもらわなければならない。
青木 社会から「やっぱりあの会社があるのは良いね」と思ってもらっていないと、そういうことはできないので、そこはしっかりやって行こうという話になります。
これらは、どちらかと言うと社内向けで「なぜ僕たちは仕事をするのか」ということを表す図でした。
小泉 自由、平和、希望というと、なんだか良いですね。
小林 良いですよね。わかりやすいでしょう。
みなさんおそらく、自由に働きたいとか、平和……というか平和に生きたいとか、希望を持って生きたいとか、そういうことは思いますでしょう。
やはりそういったものの「ありよう」というか、それらを実現するという意味で、同族経営に限らず「自分たちがコントロールする会社でやる」というのは、非常に良いと思います。
そして、事業活動における収益だとか、社会からの信頼というのは、たとえばオーナー会社という意味ではサントリーなどは、まさにこういう感じがしますね。
他の会社と比べてサントリーというのは、伊右衛門をはじめとして文化を伝えている感じがするし、少し違いますでしょう。
お茶なのだけれど、お茶とは違う、文化を伝えているとか、そういうところがある。
クラシコムにも同じような匂いがあります。
同族経営、オーナー経営らしさが滲み出る考え方で、私は大好きなのです。
青木 「世界を変える」というような話ではなくて恐縮なのですが。
小泉 小林さん、会社のヴィジョンのつくり方としてはいかがでしょうか。
小林 ヴィジョンというのはいくつかつくり方、考え方があります。
ヴィジョンと言ったり、コンセプトと言ったりします。
そして、今のは事業コンセプトに近い。
やはり、一言で「何を目指すのか」を言い表すのは非常に重要です。
「フィットする暮らし、つくろう。」というのは、「フィットする」を除いて「暮らしをつくろう」でも良いと思うのですが、生活に何か関わるものをやって行こうということだと思います。
そういう身近なところでお客さんが何となく想像ができる。
自分たちのお客さんはこういう人たちだね、と。
たとえば、主婦の方向けに雑貨でライフスタイルを提供して、良いモノを知ってもらおうというふうになる。
そして、「そのために我々はやるのだ」ということをコンセプトとして伝え、考えるということは非常に重要だと思います。
具体的に何を提供するのかというのはマーチャンダイジングとか、そういう話になってきますが、まずは「一言でいうと何か」というコンセプトをつくることが重要です。
また、「世界を変えよう」とか「宇宙制覇」とか、そういうヴィジョンと言ったり夢と言ったりするものは、コンセプトとは別に持っていても良いと思います。
ただ、受講生の方は、まず事業のコンセプトをつくることから始めた方が、わかりやすいのではないでしょうか。
「北欧、暮らしの道具店」の概要
小泉 それでは具体的にどのようなことをされているか、事業概要についてご説明お願い致します。
青木 我々は基本的に、「北欧、暮らしの道具店」というECサイトを運営する会社です。
青木 ECサイトのことをよく「ネットショップ」という言い方をすることがあると思います。
ECサイトの本質というのは、決済システムとCMS(コンテンツマネジメントシステム)の組み合わせであり、たとえばそれを「ネット上のお店」と表現することが一般的なのかもしれません。
ただ、我々としては、カートボタンのついた雑誌のようなものをつくろう、と言っております。
何かあらかじめ決まった買物の用事のある人に来ていただいて、欲しいモノを探して買ってもらう……というよりは、ちょうど雑誌のように、ちょっとヒマな時間をつぶすために遊びに来ていただいて楽しんでいただく中で、たまたま欲しいものに出会い、そしてその欲しいモノはだいたい買えるというサイトだと考えていただくとわかりやすいと思います。
そういった建て付けになっていますので、マネタイズとしては物販を中心にやっております。
また、今年(2015年)の7月からかなり大きなトラフィックもいただくようになったので、そこを広告事業で別途マネタイズしていこうということも開始をしております。
それから、ECサイトとして一つ特徴的なのは、スマートフォンからのアクセスと売上が割合として大きいというところです。
楽天さんなどでは、発表されている情報を見ると、ようやくその半分を超えてきたような状況だと思います。
しかし、我々の場合は今85%近くがスマートフォンからのアクセスで、売上は70%以上スマートフォンからいただいているという状況です。
そうした意味では、メディアとして、雑誌のように使っていただくというのはよりスマートフォンと親和性のある使い方なので、そうした使い方をご提案していることが、スマートフォンからのご利用を促進しているという一つの特徴に繋がっているのだと思っております。
小林 雑誌的なメディアという点では、とりわけ写真に特徴があるので、スマートフォンで見て、ヒマつぶしというわけではありませんが、「面白そうだ」と読んで行くパターンに繋がっていくわけです。
小泉 そういう意味では、eコマースのサイトというと「お買物」というイメージがありますけれど、そことは全然違う土俵ということなのでしょうか。
青木 そうです。要するに、スマートフォンを見た時に、「パズドラやろうかな」「FACEBOOK見ようかな」という選択肢の中で「それとも北欧、暮らしの道具店見ようかな」と選んでいただけるかどうか、と考えています。
やはりお買物の用事のある時だけにしか想起していただけないと、来ていただく頻度というのは圧倒的に少なくなるわけですけれど、N=3000(名)くらいのアンケートをしてみると「週1回以上は来る」と答える割合が95%ぐらい、「毎日来る」と答える割合が65%というぐらい、高頻度に来ていただいております。
これはやはり、お店だと思うとなかなかそうはいきません。
小林 愛着と言いますか、ユーザーの心の中に存在しているサービスというか、まさに絆のある良いサービスだと思います。
面白いのは、「暮らしの道具店」と販売所と言っているのに、雑誌であるということです。
この矛盾みたいなところも面白いのですよね。
青木 実は、ここにはすごくこだわってやっています。
と言うのも、お客さんにはお店だと思っていてもらいたいのです。
ですが、結果使い方がメディアのようになっていて欲しい。
なぜかと言うと、人は、モノは店から買いたいと思うものだからです。
言い換えるとオーソリティ(権威)から買いたい。
ですから、やはりトップは店長であるべきだし、一応「お店だよ」という建て付けで見せていきたいというのはあるのです。
そこは頑なに変えていません。
小泉 これは2007年に開業されてからずっとこういう形でやっていらっしゃるのですか。
青木 そういうわけではありませんでした。
最初は割と普通の「雑貨のネットショップ」というような形で始めました。
2007年に開業して、「カートボタンのついた雑誌のようなものをつくろう」というふうに決めたのが2010年の末ほどです。
そして、実際にそれを着手し始めたのは2012年くらいからという具合です。
サイトはだいたいこのような感じです。
青木 これがトップページになります。
そして、この右側の方にメニューバーのようなものがありますでしょう。
ネットショップですと、ここが一番ホットゾーンですから、販売に繋がるものを最優先にということになります。
しかし、僕らの場合は、一番上が「読み物」ということであまり販売に関係のないコンテンツ類のリンクが貼ってあります。
この一番上の、「新着順に読む」というところをクリックすると、
青木 一日平均で5、6記事くらい投稿される、あまり商品と関係ない、読んで楽しめるコンテンツを提供しているページが出てきます。
小泉 ボタンの配置が、まずは読み物というのは、やはり買ってもらうよりは最初に読んでもらうという考え方なのですか。
青木 そうです。ウチのコンバージョン・レートをざっくり言うと、千人くらい来ると4人くらい買うという具合なのです。
すると、このサイトに来る996人の人は買わないわけです。
そして、サイトの価値を最大化するということを考えれば、996人の人にとって最も使いやすいサイトにするべきだということが基本的な考えにあり、このような形になっているのです。
小林 普通の考え方というのは、コンバージョン・レートを上げようとするのです。
つまり、訪問してくれた人の中で、買ってくれる人の割合を増やそうとする。
すると、商品ばかりが並んでいて、雑貨などではサイトごとに大して変わらなくなる。
そして、そういう特徴のないサイトは、結果として訪問者が減っていく。
このようなパラドックスがあります。
青木さんの考え方は、たくさん来てくれてそのうちちょっとでも勝ってくれたら総額での売上というのは大きくなるというものです。
僕も青木さんを知るキッカケというのは、そうした記事を読んでいて、「なるほど、こういう人がいるのだな」という発見からだったのです。
青木 そして実際の記事というのが、たとえば、ある映画のシーンで作られていた食べ物を作ってみたとか、たわいもないけれど暮らしの中で読むとちょっと楽しくなるような記事をたくさん作っております。
小泉 これを毎日アップされているのですか。
青木 そうですね。ウィーク・デイは日に5記事から6記事くらいの投稿をしています。
休日は予約配信で1記事でるか出ないかという感じですが。
小泉 そして、商品もつくっていらっしゃる。
青木 仕入れて売るということを中心にやっているのですが、自分たちでモノをつくるということも数年前から始めていまして、その中で代表的なものがこれです。
青木 KURASHI&Trips株式会社という会社をつくり、手作りのジャムを工房構えて本当に作っているのです。
たまに僕も手伝っております。
これは月間3,000個くらい、本当に職人が工房で作って、実際に出荷しています。
小泉 これはジャムを最初に売っていて、会社にしたのですか。
それとも、会社をつくろうと言ってから出し始めたのでしょうか。
青木 下の方に「Produced by Yoko Furuta」と書いてあるのですが、古田陽子さんというジャムの作家さんというのがいらっしゃます。
彼女はもともと料理家さんでもあるので、我々の社員食堂というのをやっておりまして、そこの料理を作ってくださっていた方なのです。
その方の作ってくださるジャムが非常においしいということがありました。
最初に少し売ってみると、お客さんからも人気があった。
ですから、「この10倍くらい作ってくださいませんか」と言ったのですが、「いや、無理です」と言われたので、では一緒に会社をつくりましょうということになり、生産体制を築いて工房で増産するという形になりました。
小泉 そして、もう一つ会社をつくられていますね。
青木 OYATSUYA SUN株式会社というのですが、これも経緯としては非常に似通っております。
まず、我々のコンテンツの中で、お菓子作りとか、コーヒーの淹れ方とかというコンテンツをご提供いただいていた「おやつ屋さん」という小さなお店をやられている方がいらっしゃいました。
そして、この方たちが作ったケーキを販売するということをやったのですが、これが45分くらいで何百個も売れるということになってしまって、お客さんにお叱りを受けることがありました。
つまり、「あるというメールを着信してすぐに来たのに、ないじゃないか」というお叱りです。
すると、やはりもっと広く紹介していくためには単独で増産するのは難しいということだったので、ならば我々がメジャーで出資をさせていただいて、グループ会社という形でご一緒させていただくことで量を作れる体制を作るということになりました。
今、こちらの方も月間3,000個ほど作って売っています。
それでも、一週間に一回5、6百個だすと半日くらいで売れてしまうので、まだまだ生産体制が追い付いていないという感じです。
これは、クラシコムの会社の中ではやらず、別会社にされた理由は何なのでしょう。
青木 まず、これは会計的な話になりますが、たぶん事業部会計というような管理会計をする体制があれば社内でうまくそれを配賦するということができたのでしょうが、そういうリソースが社内にありませんでした。
会社を分けてしまえば必然的にその事業ごとの収益が明確になる。
このことが一つです。
それから、経緯でご説明したとおり、それぞれ事業主体がもともとあって、その人たちがやっていたビジネスにどちらかというと出資する形で立ち上がっている話なので、その人たちに一定経営者としてのコミットメントを持ってもらうという意味でも、別会社にしているということです。
小林 やはりこういうところは面白いですね。
それぞれ独立性を持たせて会社を分けている。
こういうことは非常に良い取り組みだと思います。
小泉 そして、このような商品も作っていらっしゃる。
青木 こちらはKURASHI&Trips PUBLISHINGというブランド名で、本当にアパレルから文房具から生活雑貨から、いろいろなものを作って販売をしています。
やはりこれも、ジャムとかおやつ屋さんの取り組みと非常に似通っています。
イラストレーターさんや、木工作家さん、陶芸家の方、あるいはデザイナーさんといった、外で何かコンテンツを持っている方と組んで商品を作って、それをパブリッシングしてゆく。
ですから、我々としては「新しい出版の形だ」と言っているのですが、そんな形でモノづくりをしています。
なので、だいたい今売上の10%強くらいが自社開発商品という構成比になってきています。
小林 それは良いことです。
やはり、自分たちでつくったものが完売するというのは嬉しいですものね。
青木 めちゃくちゃ嬉しいですよ。
小泉 ちなみに、このKURASHI&Trips PUBLISHINGの方も、KURASHI&Tripsという会社を作られているのですか。
青木 このKURASHI&Tripsという商標自体は、実はクラシコムが所有しています。
ですから、この事業自体はクラシコムでやっております。
あとは、出版物の制作などもやっております。
青木 今、お買物をしていただいたお客様に16ページくらいの隔月で発行しているリトルプレス2冊を差し上げております。
これはいくらのお買物であっても必ず最新号を差し上げています。
そういう形で、大体1号あたり2万数千部発行し、配布をします。
そして、バックナンバーを販売しており、だいたい過去のバックナンバーが毎月2、3千部ずつ売れるというような状況になっています。
小泉 バックナンバーもお客さんの方から「ください」というお話があったのですか。
青木 そうです。最初は純粋に販促品として出していたのですが、バックナンバーを売ってくださいという話があったのです。
ただ、通信販売というのは細かいモノを入荷したり出荷したりするのはコスト高になるので、ちょっとどうかな、という思いはありました。
しかし、実際ご要望が強かったのでサービスのつもりでやり、モノ好きな人が100人、200人くらい買ってくれるかな、と思って始めたのです。
すると、いきなり初月から2千冊売れてびっくりしたという経緯でした。
小林 雑誌が欲しくなるのです。また、雑誌を作りたくなるのですよね。
青木 そうですね。
小林 ネットのメディアでショップをやっていると、おそらくほとんどの方が雑誌を作りたくなると思うのです。
まさにそういう良い事例だと思います。
小泉 そして、広告事業もされていらっしゃる。
青木 はい。今年の7月からです。
サイトにたくさんの訪問者に来ていただいておりますが、先ほども申し上げたとおり、千人くらいのうちに4人しか買わない。
逆に言うと、1,000人のうち4人しかマネタイズできていないということなのです。
他の996人の方は来てくださっているというだけなので、その「来てくださっている」ということだけをもってマネタイズする方法を持たなければならない。
そういったところから、広告事業をやろうと数年前から考えておりました。
そして、今年の7月から、主に記事広告の販売ということをやっております。
青木 これまで良品計画さんとか、キャノンさんとか、キリンさんというところからタイアップ記事のご出稿をいただいております。
これは、今一番新しく立ち上げていて、僕個人としても一番一生懸命やっている仕事です。
小泉 企業さんのところへ営業に行かれて「出しませんか」というお話をされるのですか。
青木 そうです。ですが、ほとんどこちらからお声かけする前に、向こうからお声かけいただいたところにご案内へ行って決まってゆくという感じです。
小林 あまり営業しなくても売れるというのが、すごいのです。
青木 向こうの担当者の方にお客様がいらっしゃることがほとんどなのです。
ですから、どちらかというとBtoBというよりは、BtoCで、お客様の別のことでお役に立つようなお仕事をするというイメージでやらせていただくことが多い。
基本的に、向こう側の担当者にあまりウチを知ってる人がいない……ということはないようにお仕事をさせていただくということを心がけております。
「北欧、暮らしの道具店」の成長
小泉 続きまして、数字的な部分をお話いただきたいのですが。
青木 これは単純に2010年頃からの月次ページ・ビューをざっと並べたものです。
青木 だいたい今年の3月くらいから月次で1千万ページ・ビュー辺りをうろうろしております。
ライフスタイル系のメディアとしては、もちろんより大きなPVを集めているところもありますが、かなり大きな方かと思っています。
小泉 そうですよね。これは本当に大きく伸びているのですが、理由は分かっていらっしゃるのですか。
青木 はい。やはり、今僕らのいわゆるトラフィックの流入経路の40%以上はソーシャルメディアになっております。
スマートフォンの時代になっていますので、かつてのようにブックマークをブラウザに残していてそこから来るとか、あるいは検索から来るというのは、全体の構成比からするとだんだん少なくなっています。
そして、やはり我々の配信しているコンテンツがソーシャルメディア上でたくさん拡散して、それ経由でお客様がたくさん来てくれているということが非常に多くなっております。
青木 我々の運用しているFACEBOOKページのファン数が現状32万近くあるとか、今一番ホットなのはインスタグラムなのですが、そこが今25万くらいになってきている。
その辺りの導線がここ数年急速に伸びているということが、トラフィック全体が大きくなっていることの一つの要因だと思っております。
小泉 小林さん、すごい数ですよね。
小林 そうですね。やはりエンゲージメントと書いてありますが、お客さんとの繋がり、絆のようなものを端的に表す指標でしょう。
特に写真を中心とするので、インスタグラムのような写真投稿サイト、共有サイトとの親和性も非常に良い。
また、ライフスタイルというようなものは、インスタグラムが特に重視している部分があります。
そういった投稿するようなメディアが多く出てきたということが、クラシコムさんのビジネスにとっては非常に追い風であったというところだと思います。
小泉 続いて、直近の売上高推移を見て行きましょう。
青木 大体、創業以来、年間1.7倍弱くらい平均で売上の増加をしているという形になります。
これはどちらかと言うと1.7倍以下に抑え込むという形で、極端な成長をしてオペレーションが崩壊しないように気を付けております。
直前期が8.6億円。そして、今期は13.5億円くらいを見込んでおります。
ただ、すでに4か月くらい経っていて、第二四半期の真ん中辺りなのですが、今までだいたい1.8倍くらいで伸びてしまっているので、これから少し抑えこまないと危ないかなという感じはしています。
小泉 私が思うには、売上というものは大きければ大きいほど良いような気がしてしまうのですが、それをあえて抑えていらっしゃるということですか。
青木 一つの理由は、ウチが創業以来、18時の定時以降働いてはいけないというルールのある会社で、残業ができないからです。
すると不確定要素的に突然仕事が増えるということに対して、会社として対応ができないので、売上の平準化というものが必要になります。
つまり、予定通り平準で売上が立たないと対応ができない会社だということもあって、予想外に売れてしまうことの方が、予想外に売れないことよりも、怖いのです。
ですから、基本的にはこちらで安定的に対応できる受注になるように、どちらかと言えば受注をコントロールしているところはあります。
小泉 それでこんなにグラフが美しいのですね。
青木 ええ。きちんきちんとコントロールしているというところはあります。
小林 素晴らしいですね。
小泉 素晴らしいです。
小林 すると計画が立てやすいでしょう。
青木 はい。そうですね。
小林 成長のコントロールができるというのは、計画が立てやすいのです。
仕事の平準化ができるということですから。
あとは、エンゲージメントが高いということもあるので、ファンがいますので、固定的に買っていくという人が必ずいる。
そのように、どんどん積みあがっていくというビジネスになっていますから、非常に素晴らしいと思いますね。
青木 そのようにできる理由は、非常に予測がしやすいビジネスだというのが、おっしゃる通りだと思います。
小泉 今後もこのように計画的に、徐々に伸ばしていくおつもりですか。
青木 はい。やはりECというのは、よくあるWEBサービスと違って最終的にはモノと人が動くビジネスなので、たとえば一年で100倍になるなどというのは無理なのです。
物理的に無理。
やはりその成長に合った出荷能力のある物流センターをつくり、それに対応できる倉庫の要員の練度を上げ、カスタマーサービスの人員を増やし、というふうに一つずつ準備をしなければ売上を増やせないからです。
それができる範囲内での成長に抑え込んでいかないと、ちょっと難しいのです。
小林 たまたま私が、エルメスという高級ブランドの日本の代表をされていた斎藤さんという方のお話を聞いた時のことです。
これは『エスプリ思考』という本があって、そこにも出てくることです。
クラシコムの考えは結構エルメスと近いものがあります。
エルメスにはバーキンなどありますね。
あれは職人さんが作っていて、作れば作るほど売れるはずなのですが、抑えているらしいです。
逆に言えばレアな価値というのも出る部分もありますが、やはり「職人ができることをしっかり守っていく」ということをやっているのです。
それがお客さんとの絆というか、信頼、一貫性というものになって、強いブランドをつくる、ということをおっしゃっておりました。
青木さんのお話を聞いていて、まさに同じことをインターネット上で展開していると思いました。
(続)
編集チーム:小林 雅/石川 翔太
続きはこちらをご覧ください:『PVから総接触者数へ』パブリッシャーモデルへ進化する「北欧、暮らしの道具店」の挑戦
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