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「お茶の文化を強い産業に」という決意を見た、ICC最終日のCo-Creation茶会

 2月19日〜22日の4日間にわたって開催されたICC FUKUOKA 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、最終日の2月22日、福岡は大濠公園の日本庭園 茶室・茶会館で開催された、Co-Creation 茶会の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


ICCサミット最終日の恒例となった、TeaRoom / 文化資本研究所の岩本 涼さんによるお茶席、ICC茶会。それが今回Co-Creation 茶会と名前を変えてバージョンアップ。毎回ご参加いただく常連のメンバーに加えて初めて参加する方々、最終日はソーシャルグッド・カタパルトがあり参加をためらいがちの関係者を集めたソーシャルグッド茶会など、朝から夕方まで合計6席が設けられた。

会場となった大濠公園の日本庭園 茶室・茶会館

亭主となる岩本 涼さんは、今回でICCサミット4回目の参加。この茶会の開催も4回目となる。アワードなどの審査員も務める一方で、今回はクラフテッド・カタパルトにも挑戦し、3位に入賞した。

お茶の産業をつなぎ、「文化資本」によって世界を豊かにすることを目指す「文化資本研究所 / TeaRoom」(ICC FUKUOKA 2024)


岩本 涼 /岩本 宗涼
株式会社TeaRoom 代表取締役CEO/
一般社団法人文化資本研究所 代表理事/茶道裏千家準教授 

1997年生まれ。幼少期より裏千家で茶道経験を積み裏千家より茶名を拝命、岩本宗涼(準教授)としても活動。21歳で株式会社TeaRoomを創業。静岡県本山地域の日本茶工場を承継し、農地所有適格法人の株式会社THE CRAFT FARMを設立。お茶の生産から販売までを一貫して担う垂直統合モデルで、国内外で新たな需要創造を展開。世界を変える30歳未満30人の日本人「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」や「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」への選出、ダボス会議グローバルシェイパーズのメンバーなど、グローバルでの様々な実績を持つ他、株式会社中川政七商店の社外取締役、一般社団法人文化資本研究所を設立し代表理事を務める。

岩本さんは「毎回、共創をテーマに茶会をやっていますが、テーマ設定は本当にすごく難しい……」と言いつつ、ICCサミット最終日にいつも、参加者たちが自ら考えたくなるような問いを投げかける。今回の茶会の模様と終了後の岩本さんのインタビューをお送りしよう。

ソーシャルグッド茶会に出席したICC代表の小林 雅と

気の流れを整える初座

茶会というと、少々かしこまったもの、敷居が高いというイメージがあるが、岩本さんの催す茶会は違う。伝統的な手順を踏みつつ、現代の要素を取り入れて再解釈というと現代にアップデートといいたくなるが、インプットが現代、装置が伝統で、今も昔も変わらないものに想いを馳せるという印象だ。

岩本さんは1997年生まれで裏千家より茶名を授かり、若くして準教授となり(参考サイト:裏千家許状・資格について )、茶人として、またカルチャー・アントレプレナーとして国内外で精力的な活動を行っている。この茶会の少し前には、マイアミのアートフェアで工芸を用いた茶会席を設けた。

型にとらわれない茶席はICCサミットの参加者にぴったりで、今回はSAKE AWARDでもおなじみ住吉酒販の庄島 健泰さんが手掛けるTENSHUDOとタッグを組み、茶碗だけではなく酒碗も使った茶会となった。茶会の終わりには、大濠公園にあるTENSHUDO店舗に足を向けた参加者も多かった。

TeaRoomの文化事業部のメンバーが参加者を迎え、集まった人たちのさまざまな方向を向いた”気の流れを整える”というのが初座のねらい。ここでお腹を温める温かい料理を少しいただいて、お酒を酌み交わして、集まった人たちの気持ちが一体になるように揃えて、後座の岩本さんが待つ茶室へと移る。

先のマイアミの茶会では、文化と表裏一体のアートをどう捉えるのか、どう表現したらいいのかという課題が出てきて、今回の茶会のテーマは、それを一緒に考え、紐解いてみようということなのだという。

室内にもそれにつながるようなものが配されており、床の間には大きな雪達磨の足元に小さな黒い千鳥がいる掛け軸、棚の上には今年の干支、龍の小さな置物がさりげなく置かれている。どちらも愛らしいが、それだけでない意味が込められていることは明らか。

水墨画は白く大きな雪だるまの足元に小さな黒い千鳥がいる、というところがポイントらしい。陰陽、白と黒、その意味とは? しばし頭を巡らせる参加者たち。正解というのはおそらくなく幾通りも解釈はあるが、これが目の前に今ある理由とは? そんな謎解きゲームが茶会では静かに進行する。

この席で正客(お客様の代表)を務めたHENNGEの汾陽 祥太さんは茶道の心得があり、同席者たちにさまざまな解説を担当してくださった。亭主に向けて返杯もし、これで6席目という亭主はほろ酔い気味。ちなみにこの客と亭主が酒を酌み交わすことも「千鳥」と言う。

参加者には前夜にSAKE AWARDの審査員を務めたhaccobaの佐藤 太亮さんやLOOOF丸谷 篤史さんもいる。加えてデザインでの角谷 淳さん、Helpfeel澤田 智希さん、スパークル福留 秀基さん、丸井グループ竹下 萌さんという顔ぶれ。亭主の、こういう席では歌や季語の一節をという言葉で、福留さんが歌を披露してくださることになった。

朗々とした声で歌われたのは「荒城の月」。「春 高楼の 花の宴 めぐる盃 かげさして…」という、まさにこの席にぴったりの曲だ。春の気配のある日本庭園に目をやりながら、参加者たちから拍手が起こった。

お酒で体が温まり、歌と会話で心も温まって、岩本さんの待つ茶室へ一行は移動した。

「これなんぞ」「アートとはなんぞ」を考えてみる

「今回はTENSHUDOの庄島さんとコラボレーション、Co-Creationしようということで、酒碗を活用させていただくお茶会の形式になっております。のちほど軸などもお話しさせていただきますので、まずは濃茶でおもてなしを」

和装のためかいつもの気さくな様子よりも少しかしこまった雰囲気だが、岩本さんは一行に足を崩すことを勧め、いつの間に聞いたのだろうか、初座での歌を「ご祝儀をいただいたとみんな喜んでおりました」と伝えた。

「通常のお茶事ですと、4時間のもてなしで懐石料理とお酒を頂いて、酩酊状態のまま庭に出ます。庭でキセルを嗜み休憩をし、ドラの合図でお茶室に戻るとこの濃茶が振る舞われるという流れになります。

特に濃茶にはカフェインが多く入っているため、空腹のまま飲んでしまうと、胃が痛くなってしまいますから、この濃いお茶を飲むために料理をいただくんですね。お茶を一服いただくための会ということで、茶懐石と言われたのです。

お茶を経験されてる方はよくご存知かもしれないですが、お茶室というのはハードは変わらずいつも同じなので、ソフトウェアによってその体験を書き換えます。

そのソフトウェアを定義するものというのがお床でございます。日本の建築だと、こういった奥まった空間があって、そこに何を掛けるかによって、その体験が明確に変わります。

例えば大きな花を掛ければその季節になりますし、例えばお軸を掛ければそのお軸のテーマになるということで、本日のメインテーマがこのお軸にあることです。上は円相、禅の修行で円の中の自分を見て鏡として、自分は何者なのかと問いかけることを禅の修行ではよくやります。自分は何を考えているのかと、問いを投げかけるという存在でございます。

紫聖雪窓筆 「円相 是什

下に書かれている言葉は中国語だと『这是什麼』、『これなんぞ』と日本語では読まれております。これは何だ?ということなんですけれども、今回お出ししているこの酒碗は、アートの単価がついています。通常アート作品というのは作家ものです。

一方で、これは工芸じゃないのか?と言われます。アートと工芸は要するに、これはアートなのか、もしくは道具、ツールなのかということがよく問われるわけですね。

この酒碗は、茶碗を参考に作家が作っています。お茶碗の作家がおちょこにならないように、その2つの間を作るということをやっていて絶妙な大きさです。茶碗かおちょこか、2つの対立する概念が調和した姿であろうと思うんですけれども、ではこれは何なのか?というのを、ぜひ皆さんに考えていただきたいということでございます。

12月にマイアミに伺っておりまして、茶会をしました。俳優のウィル・スミスさんらがいらっしゃる、本当に世界のVIPが多数溢れる会でした。

その会の時に、たまたま出会ったUberのドライバーの方が面白いことをおっしゃっていました。2つ携帯を置いていて、1つは仮想通貨のトレーディング、もう1つはUberのアプリでした。よく見たら結構ゼロが並んでいるので、うまくやってるなと思ったんですね。マイアミは仮想通貨への税金がないそうです。

そのドライバーが『俺、アートいっぱい持ってるんだよ』『君たちアートフェア行くんでしょ?』みたいな話をしていて、『なぜ持ってるの?』と言ったら、仮想通貨は上下がありすぎるから、いいところで売ってアートを買う、でもアートを飾る家には住んでいないから、そのまま倉庫に預けるんだといいます。

『俺の友達もみんな持ってるよ』と言っていて、アートを安定資産として持つ市場が誕生しているのかと驚きました。アートバーゼルとかアートフェアの時にみんなで買いに行って、それをそのままどこにも飾ることなく倉庫に置いておくらしいんですね。

本来アートは社会に問いを投げかけるものであり、未来を創造し、今の現状に対するアンチテーゼを表明するものだったと思うんですが、それが安定資産となった。そのときに、これは本来アートなのか?ということを毎回問われてしまうなとすごく思って、それを考えながら日本に帰ってきました。

お茶碗や酒碗は日常の生活に落とし込まれたツールです。『このお酒、美味しいな』とか、『どういう風に食べてみようかな?』『物と対話してみようかな』、そういった感覚を持ちながら使うことで、自分を成長させてくれます。そういったツールとしてもし存在するならば、これはもはやアートなんじゃないかという結論に至りました。

それをまさにカタパルトでプレゼンテーションさせて頂いたわけですけれども、どういうふうに今後考えれば、日本の工芸や、身の回りにあるものが価値あるものとして世界に出ていけるのかという視点でもう1回物事を見ていただくとすごく面白いなと思って、今回は『これ何ぞ』ということを1つのテーマとしています。

分かりやすい伏線としては、今回お菓子が全部まるまるとしています。先程の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、今お出ししている真盛豆(しんせいまめ)という豆。教科書に載っている一番有名なお茶会で、北野大茶湯というのがありました。そこで千利休が豊臣 秀吉にお出ししたお菓子です」

名所・旧跡 北野大茶会跡(京都観光Navi)

初座の薯蕷饅頭と、後座の黒豆にきなこと蜜をまぶし、青のりをかけた秀吉好みのお菓子

そういえば初座の雪だるまも丸く、その黒目がまるまるとしていた。最初の部屋に入っていたときから「これなんぞ」の問いは始まっていたというわけである。ただ体験するだけでも面白いのだが、茶会は張り巡らされた伏線を見つけていけると更に面白い。

そこでは知的な会話をしなければいけないような印象もあるが、近況やトレンドの話など、何を話題にしてもいい。岩本さんは話題をICCサミットの参加者向けに関連づけるだけでなく、あえて話を俗っぽい方に傾けたり、そのなかから問いを引き抜いたり、茶道具の話をしたりする。

思うに、何の話であれ、それをいかに自分と結びつけたり、自分なりの問いや答えを考えるかが、この中では求められる。膝を突き合わせ語りながら、自分にも向き合える。これが茶室、茶会の持つ力なのだろうか。

この日のビッグクエスチョン「これ何ぞ」を頭に浮かべながら、洞窟のような暗く狭い茶室から出てみると、外の景色が入る前とは違って見えるのが不思議である。

茶会を体験した参加者たちの感想

終了後に談笑する佐藤さん(写真左から2人目)
HENGEの汾陽さん

haccobaの佐藤さんは、福島でクラフトサケを造っている。酒碗で体験した茶会には、さまざまに思うところがあったようだ。

「お話の中に自分たちの酒造りに通ずるものが結構ありました。精神性のようなところは、日本の昔のものを表現したいところがあったりして、そういう意識を学ぶところがすごくあって……本当に、そんな意識を持ちながら造りたいなと思いました。いい体験でした」

参加者をリードする正客を務めた汾陽さんは、ICC茶会のレギュラーメンバー。茶会に初参加の人たちが疑問を感じそうなところで、いつも説明やサポートをしてくださっている。

「今回は、これなんぞ?ということで。これなんぞ、我なんぞ、今回のICC総括として次につなげて、みなさんもビジネスにつなげていってくださるのではないかと期待しています」

そんな汾陽さんにとってICCとはなんぞ。

「学び、共生、お互いを高め合う場であると思っています。『場』ですかね」

過去の茶会での話から、さまざまな席に出席している経験が伺われるが、毎回ICC最終日はこれを楽しみに来てくださっているそうだ。

「素晴らしい会だと思います。また次の京都も楽しみにしています!」

茶会を終えた岩本さんに聞く

「カタパルトにも出場させて頂いて、有形のものだけじゃなくて、無形の体験や、その裏側にある思想を、どうしたら評価していただけるような社会になるかを、一生懸命お話をさせていただきました。

茶会に来た方々で私たちの投資家になっていただいた方々も実際いらっしゃいまして、経営陣の皆さんがお稽古を始めたとか、毎回茶会に来てくださる方もいて。ICCを通してそういう方々が増えることは自分たちにとって嬉しく、とてもありがたいです。来てくださる方々がいらっしゃるからこそ、文化は支えられます。

お茶会の一番良い感想は、『何だか良かったな』というものです。自分の道具は何だとか、これはいいでしょ?と見せびらかすよりは、お客さんが『なんて心地良い空間なんだろう』と思ってくださるうちに自然と時間が流れていく、というのが、茶会の亭主側のゴールです。

お茶会の本質はお客様にどれだけ楽しんでいただけるかということ。そのためには自分たちの動作がお客様を驚かせるような動作でなくてはいけませんし、原則としてお客様が心地良いと思ってもらう体験を作らなきゃいけません。マナーや作法というよりは、それを大事に茶会をしつらえております」

茶会を終えた感想を一息にそう語った岩本さん。今回は以前から語っていたクラフテッド・カタパルトへの登壇も果たし、3位に入賞した。ICCサミットで見聞きしたことが、今回の登壇につながったそうだ。

「登壇は、緊張感がやっぱり全然違いましたね。

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お茶の産業をつなぎ、「文化資本」によって世界を豊かにすることを目指す「文化資本研究所 / TeaRoom」... ICC FUKUOKA 2024 クラフテッド・カタパルトに登壇して、3位に入賞した、文化資本研究所 / TeaRoom 岩本 涼さんのプレゼンテーション動画【お茶の産業をつなぎ、「文化資本」によって世界を豊かにすることを目指す「文化資本研究所 / TeaRoom」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

カタパルトに私が今回出たのはなぜかと言いますと、酒のチームや、コーヒーのチームなど様々登壇されてる方々がいらっしゃるなかで、お茶文化のカテゴリは誰もいなかったっていうことが、私の中で、まだまだ自分たちの力不足だなと思うところがあったんです。

酒のチームも全力で声を上げるからこそ、SAKE AWARDが立ち上がったんだと思うんです。そうすると多くの方々が参加をして、『このお酒おいしいじゃん』とか『応援したい』と投資や交流だったり、様々な形で応援がされると思うんですね。

課題というのは発言をしていかないと、伝え続けないと誰もが思う課題にはならないです。

お茶の業界は、そんなに巨大なマーケットではない。GDPが500兆円で、日本国内では約1兆円が上限のマーケットですが、それが課題にあふれていることを伝え続ければ、何かできることがある方々の応援を引き出せると思いますし、その思いを持ってる人間がいることをもっと掲げないと、この業界、産業というのはずっと衰退を続けると思うんです。

私はたまたまICCとご縁があって、このお茶会をさせていただき、関係性を深めさせていただくなかで、文化とお茶を背負う人間として発言をし続けなければならないと思いました。

課題を課題だと声を上げながら、伝えるものをもった方々が群れになって盛り上げていかなきゃいけない。今回お茶で参加しているカネス製茶は、うちの元社員なんです。私たちの会社で働いていた小松(元気)という人間が家業に戻って、それからICCを紹介しています。

でも、私たちが中心にいるかいないかは関係なく、きっかけを持たせていただいた立場として、まさにCo-Creationで産業全体がどうやって作られるかということを改めて思いながら、このお茶や文化の世界の方々をICCに巻き込んでいくということを、これから主体的にしたいと思ってます」

岩本さんは、ICC FUKUOKA 2024を通じて、お茶産業の伝統と文化の課題をより強く印象付けた。過去にもその課題を訴えたプレイヤーはいたが、散発的なものだった。

伝統文化産業は認知度はあっても、窮状を迎えているところが多い。利益や目に見える形ではない価値を伝えることは想像以上に難しいことを、岩本さんは誰よりもよくわかっているはずだ。それでも仲間を集め、流れを作るCo-Creationで逆転に挑戦する。そんな人をICCが応援しないわけにはいかない。

次回、Co-Creation茶会は、新しい会場での開催を予定している。未体験の方にもぜひご参集いただき、ともに語り、考える豊かな時間の価値を知り、「なんだかよかったな」という時間を過ごせることを願っている。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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