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リテールの勝機はどこにある? ICC最終日、リテール・ワークショップで試みた異業種とのCo-Creation【ICC KYOTO 2019レポート#11】

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9月2日~5日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、最終日の9月5日、リテール・ワークショップのパネル・ディスカッションとラウンドテーブルの模様をお伝えします。D2Cや変わりゆく消費者の嗜好を、セッション11では4会場で23名が登壇し、セッション12のラウンドテーブルでは総勢50人が議論しました。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

4会場でリテールについてディスカッション

ICCサミット最終日のセッション11、B、C、D、F会場は、テーマもそれぞれのセッションが開催されていた。

・Session 11B リユース/シェアリング・ビジネスは消費行動をどう変えていくのか?
・Session 11C 人の集まる魅力的な場を創るための仕掛けとは?
・Session 11D D2Cビジネスはリテールに変革をもたらすのか?
・Session 11F 今後の店舗開発とデジタル戦略はどう進化するのか?

この同時多発セッションでは、各会場でそれぞれのテーマをもとに、変わりゆく消費者の嗜好とその先の予測、施策などを議論していた。C会場を中心に、各会場を覗いてみた。

B会場 リユース/シェアリング・ビジネスは消費行動をどう変えていくのか?

アクティブソナー青木 康時さん、エアークローゼット 天沼 聰さん、ラクサス 児玉 昇司さん、SOU 嵜本 晋輔さんに、モデレーターとしてエトヴォス田岡 敬さんという顔ぶれ。リユース/シェアリングという共通項がありながらも、お互いのサービスに興味津々の登壇者たち。「それはどうやっているの?」と、早速質問が飛び交っている。

C会場 人の集まる魅力的な場を創るための仕掛けとは?

電通 各務 亮さん、JR九州 小池 洋輝さん、favy 高梨 巧さん、BnA 田澤 悠さん、阪急デザインシステムズ 橋本 裕一さん、モデレーターに電通 小田 健児さんが集合しているC会場。

それぞれが持ち寄った「最近おもしろいと思った、人の集まる場所3つとその理由」をもとに、それぞれバックグラウンドや業種業態は異なるものの「場作り」や「場の活かし方」への考え、こだわりが披露されていった。

同じ価値観を持つ人が集まることや人を集めることより、集まっているところに意味合いを与えるほうがよい、常設施設の価値はどう生み出すべきか、気づいていないものにいかに寄り添い、本質を理解して作っていけるか、当事者と思える人をいかに増やすかなど、会場からの質問も含め、話は尽きなかった。

D会場 D2Cビジネスはリテールに変革をもたらすのか?

ネバーセイネバー磐井 友幸さん、中川政七商店 緒方 恵さん、ベースフード 橋本 舜さん、FABRIC TOKYO 森 雄一郎さん、Minimal 山下 貴嗣さんに、JR西日本の舟本 恵さんがモデレーターだ。

リアルな顧客と接する実店舗に加えて、デジタルだからこそ得られる顧客の詳細データがあることと、顧客側も商品の裏側にあるストーリーを知ることができるので、情報はいまや非対称性がない。そうなったときに、D2Cブランドはどう顧客と対峙するのか?

盛り上がった議論から刺激を受け、自分はどんなことに挑戦するかを伝えてディスカッションは終了した。モノづくりやブランドについて語ることが多い登壇者たちが、あえてリテールに絞ったテーマで語る、新鮮なセッションであった。

F会場 今後の店舗開発とデジタル戦略はどう進化するのか?

メルペイ青柳 直樹さん、ビジョナリーホールディングス川添 隆さん、サツドラホールディングス富山 浩樹さん、コメ兵 藤原 義昭さん、嘉穂無線 柳瀬 隆志さん、モデレーターに資さん佐藤 崇史さん。

会場を覗いたときに盛り上がっていたのは、Amazon Goの話題。店舗を構える方々にとっては衝撃的だったが、デジタル戦略を語るにせよ、まずは人材育成が大事だという話になっている。店舗の人たちはひたすらリアルな店と顧客に向き合っており、ICCサミットで当然のように語られているデジタル戦略と接点すらない。

メルペイの青柳さんは、他の登壇企業とのカルチャーギャップに衝撃を受けている。「どこまで店や売上のデータが可視化されているのか?」と問い、「共有していますよ」と皆、答えているが、青柳さんがイメージしているものとは違うように聞こえた。

異業種との雑談から展望するリテールの未来

各会場でのセッションが終わると、各会場の登壇者と、リテール関係者、関心の高い参加者たちがC会場へ集まってきた。ここからリテール・ラウンドテーブルの始まりだ。

ICC小林 雅「4つのセッションで、さまざまな議論があったと思います。それをヒントに、できるだけ異分野の人とCo-Creationしていただければと思っており、ここからのラウンドテーブルではその実験です。目論見が外れるかもしれませんが、ここでの雑談から新しいビジネスを生み出すことに注力いただければと思います。

席は自由に座ってもらって構いませんし、議論がつまらなかったら、移動してください。ビジネスの世界は競争原理です!」

かくして、参加者たちは8つのテーブルに分散して座った。前セッションからの議論を続けている人、知っている顔を見つけて座る人など4人〜8人ぐらいのグループとなって、自己紹介が始まっている。

何を話すかは自由だが、何を話したかを各テーブルから発表する。ICC小林が発表者を各テーブルから指名していくなかで、この日、サツドラの富山さんと電通の各務さんが誕生日であることが判明。会場は「おめでとう」の拍手ですっかり和やかな雰囲気になった。

ディスカッションがスタート

「店に入るのは気持ちを高める体験。でも財布を開くとそれが下がる」と緒方さん

デベロッパーの役割は今やキュレーションだが「ブランドを探すのが大変」と苦労も

4人で各々の課題解決をディスカッション

ベースフード橋本さんやエアクローゼット天沼さんは「注文がまだFaxで来る」とのこと

「アートの中に滞在するBnAは、プロダクトアウトではないのか」と議論中

「シェフは料理以外のタスク管理がとにかく苦手」と飲食店の課題について盛り上がる

百貨店、駅ビルと商業施設が多めのテーブル。同席したそれ以外の業種にはビジネスチャンス!?

「女性が男性にプレゼントする需要があって、デート来店が熱い」と森さん

各テーブルからディスカッションの内容発表

テーブル1:JR西日本 舟本 恵さん

「消費者のニーズが細分化、多様化していて、今までのように市場を広い面で抑える、画一的なマーケティング、網をバーっと投げるようなのはできにくくなっているので、パーソナライズ指向にいく方向に、デジタル、テクノロジーの後押しでD2Cが台頭する流れになっているのだろうと思います。

もうひとつあった議論は、消費者のニーズはもともと多様化していたけれど、そこに情報伝達が細かくスピーディになったので、全体の多様性が顕在化したのではないかという考え方。

変化も早くなってきて、プロダクトを作っている途中で次のニーズが変化している。そのくらい早いです。

予定調和で正解を出すよりも、まずやってみてフィードバックする、細かなニーズに対応していくほうがいいとか、理想はパーソナライゼーションだけど、価値観の切り口で束にできるんじゃないかとか、様々な話が出ました」

テーブル2:JR九州 小池 洋輝さん

「まずは、林さんのパルコ名古屋に、FABRIC TOKYO森さんが出店されるということで……」

固く手を握り合ってポーズ

「D2Cがリアル店舗に求めるものはなにか、新しいスキームを考えていこうという話になりました。FABRIC TOKYOさんは、丸井グループとも資本業務提携を結んで、出店を加速させています。リアルと組みたいD2Cもあるということです。

FABRIC TOKYOの店舗は顧客のタッチポイントで、採寸しているだけで、売上予算はないわけです。箱(施設)側としては、いくら家賃収入を得るか、いくら売上を取れるかと考えてしまい、今までのスキームを崩していくことができません。我々は逆に、売上を取れないことを問題だと思ってしまいます。

店舗に関しては、最近では、イヤホンをつけたままで店に入ってくる”接客されたくない問題”などもあります。

FABRIC TOKYOさんは男性向けの商品を展開していますが、女性の購入者が増えていて、ギフトとしての売上が伸びているという話も新鮮でした」

テーブル3:Minimal山下 貴嗣さん

「ロイヤルカスタマーをどう作るか?という話をしていました。

たとえば資さんうどんでは、どうロイヤルカスタマーを特定するかより、単価で推定して、その回転率をどう高めるかで、トランザクションを傷つけないことが大事だといいます。

ホテルなのでお客さんの単価が高いBnAは、お客さんとどれだけ密にコミュニケーションをとるか、何を求めているかで信頼をつむいでいます。

ブランド品と骨董品を売りに来る人は違うといいます。同じように、高額商品と低額商品では、売り方が違うし、ロイヤルカスタマーの定義、育て方も違うということでした」

テーブル4:菅原工芸硝子 菅原 裕輔さん

「同じテーブルになった、のぞみの藤田さんが運営する『SAKE SPRING』という日本酒の試飲イベントでは、100人くらいが集まるといいます。

その場では日本酒を売っていますが、気に入って買って帰っても、ネット販売がないので、その先がつながらないのがもったいないなと思います。あとは、リアルな店舗でもっとできることがあるんじゃないかという話をしていました」

テーブル5:ヤプリ 庵原 保文さん

「無駄なものをどんどん増やしていきたいという話になりました。

人は今、リアルなものを求めていると思います。阪急は販売フロアを減らしてイベントフロアが繁盛しているし、力を入れています。伊勢丹もそうしていきたいとのことです。それにバイヤーに予算を渡して、世界を飛び回らせて買付するという無駄な遊びに力を入れていくとのことです。

もう一つ出たのは、意識改革についてです。店員さんがデジタル化にならないのは、結局力仕事だからです。頭でっかちになってはいけないと思うし、デジタル試算で10倍売上効果があるといっても、正直ピンとこないのです」

テーブル6:シルタス 小原 一樹さん

「衣類を作っている人が多いテーブルだったので、どうやって選んでもらえるか?という話をしました。お金が得られるのは、売ったときだけです。質の高い、いいものを作っているけれども、普通にはなかなか買ってらもらえません。

質を理解することを、いかに体験に混ぜ込んでいくか? ただ買ってもらうのではなく、たとえば質のいい施設に泊まって、そのアメニティとして着てもらい、気持ちのいい体験の一貫として買ってもらう。体験に対する価値を上げていくことが大事なのではないでしょうか」

テーブル7:サツドラホールディングス 富山 浩樹さん

「二次流通、シェアリング、D2Cなどが集まったテーブルですが、話したことは2つあります。

1つ目は、メルカリやキャッシュレスという社会変容がどうして起きるかということです。

ペイメントが1つだけではなく、集団になると流れが変わり始めました。シェアリングもそうです。最初はラグジュアリーブランドや、百貨店は毛嫌いしていたけれど、お客さんが変わると外圧的に変わっていきます。たとえ競合だったとしても、群になると変えていけることがあります。

レガシー側は、企業の議論やフローに意識が行きがちで、サービス側の視点で現場はこれでは困るとか、社内はどうしたらいいのとか、そういうところで話が進まないのが課題だと感じています。D2Cがこれだけ盛り上がっている理由はそこなのではないかと思います。

2つ目は、買い物や生活体験はどう変わるかということです。未来は、すべてエンタメ化するのでは?という話になりました。

洗剤を買いたいという人はいなくて、むしろみんな洗濯を丸投げしたいのでは?と思います。もし丸投げできる先があれば、そこにサービスが集まってくるのではないでしょうか。

キャッシュレスはより促進されていきます。どうやって信頼されるか、丸投げ先になれるかという戦い方に、変わってくるのではないかと思います」

テーブル8:エトヴォス 田岡 敬さん

「どうやって小売やレストランは生き残るかという話をしていました。いずれも、オペレーションが大変で、なかなか改善に至っていません。

シェフにはこだわりのある人が多く、マインドセットがあって人の言うことを聞きません。一方、ECは出荷で手一杯、小売りもペイメントの方法が増えたりして、オペレーション負荷が高すぎます。

サービスもプロダクトも『何をやらないか』が重要になってきます。FABRIC TOKYOの『買わない店』なら、接客に集中できるし、レストランならワンプライスや飲み放題ならオーダー負荷が下がって、接客が上がります。何がやらないかが大事です。

お客さんを選ぶのも大切です。たとえばドタキャンすると退会させられるとか、Laxusでも、バッグをきれいに使わないと退会させられるとか。提供サービスやプロダクトも制限して、顧客を制限してデジタル化を進めていく」

社会変容を生き抜き、新たな産業を創るために

最初に「実験のラウンドテーブル」と宣言したが、はたしてここから新たなCo-Creationは生まれるのだろうか? 各テーブルの発表への拍手の大きさ評価から、サツドラ冨山さんが全体のまとめを行うことになった。

「モノづくりをして満足しているだけではだめで、そこにはどう続いていくか、デベロップするか、今の新しいアイデア、社会課題解決の仕組みやテクノロジーが必要になってきます。

情熱に加えて、そういったことで企業や人の心を動かしていくというのが、今回のICCサミットでは印象的でした。

業界の壁が壊れていくときに、ここは自分たちが活かせるのではとか、こことくっついたらこうなるのではといったことが、どんどん生まれてきます。逆にそういうことができない企業は、淘汰されていくのだろうと思います。

社会変容が起ころうとしている今、ICCのように『ともに学び、ともに産業を創る。』というのはすごく重要になってくる。こういう場があるのは、改めて素晴らしいと感じる2日半でした」

2セッション続いた「リテール・ワークショップ」、この富山さんの発言の通り、もはや業界やジャンルのトレンドよりも、いかに顧客や社会の課題を解決しながら柔軟に変化・進化していけるかが、企業の運命を大きく左右する。その感覚が共有されていることは、各テーブルの発表の端々から伝わってきた。

次回、2020年2月のICCサミットでも、リテール・ワークショップの開催が予定されている。そのとき各社の新たな試みとしてどのような事例が共有されるのか、いかにアップデートした話になるのか。社会が変容する機会をとらえ、新たな産業の礎を穿つべく、学び合いの場は続いていく。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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