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「歴史に残るクリエイティビティは、当時の最先端技術とつながっている」アーティスト土佐 尚子さんが考える、アートとイノベーションの密接な関係

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今回ICCサミットに投入する新企画、セッション10C「新しい価値を創造しよう!『アート・イノベーション〜リーダーに必要なアート力を身につける』(90分拡大版)」。このセッションにメインスピーカーとして登壇するアーティストで 京都大学大学院総合生存学館 アートイノベーション産学共同講座 教授の土佐尚子さんの実験室のある京都大学を訪れました。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください


「アート・イノベーション」に登壇する土佐尚子さん

土佐尚子さんは、アート&テクノロジー研究の工学博士。最新の科学技術を駆使して作品を制作するアーティスト兼研究者です。カタパルトにご応募くださったたHARTiの吉田勇也さんから「サウンド オブ 生花」(※)というビデオアート作品を創る土佐さんについて、ご紹介いただきました。まずは作品について、動画でご覧ください。

「日本はダサいと思っていた」 領域を横断する、あるメディアアーティストの挑戦(CINRA.NET) 作品や「サウンド オブ 生花」が生まれた背景について解説。

「サウンド オブ 生け花」は、鮮やかな色彩の絵の具・オイルなどの粘性液体に音の振動を与えることによって、各種の色が融合しつつ飛び上がる様を2000フレーム/秒の高速度カメラで撮影したビデオアート。液体の動きが、自然が作り出す生け花のように見えるため、そうネーミングされています。

最近では、テレビ番組の企画で松岡修造の「熱い声援」を「サウンド オブ 生花」で表現しています。

東京五輪で“声援”をアートに NYタイムズスクエアも彩った「サウンド・オブ・生花」(テレビ朝日)
オリンピック出場選手たちが“情熱を形に変える”サウンド・オブ・パッションに挑戦!

土佐さんは、1985年に制作した映像作品「An Expression」でニューヨーク近代美術館の企画展で認められて以降、アメリカをベースに国際的に活躍。マサチューセッツ工科大学(MIT)での研究、勤務を経て、2005年は京都に拠点を移し、現在は京都大学大学院総合生存学館  アートイノベーション産学共同講座を担当しています。

▶新旧含む映像作品はこちらで見ることができます。
naoko tosa(youtube channel)
土佐尚子ハイスピードカメラ作品紹介
土佐尚子ガラスの生け花作品紹介

国際的に活躍するアーティスト・研究者であり、京大の教授でもあり、ICCとしては非常に興味を惹かれたものの、土佐さんは、そもそもICCサミットもご存知ないと思われ、まずは私たちの活動についてご理解いただくべく、土曜日の京都大学の実験室を訪ねました。

ヘリコプターの格納庫のような土佐さんの実験室

企業とコラボレーションをする理由

ICCサミットの「ともに学び、ともに産業を創る。」という理念の話や、ICCサミットのプログラム、どんな人達が何を期待して参加するのかというところをご説明したところ、土佐さんは5分とたたず、二つ返事で快諾いただきました。


土佐 尚子
アーティスト
京都大学大学院総合生存学館 アートイノベーション産学共同講座 教授

福岡市生まれ。アート&テクノロジー研究にて工学博士(東京大学)。最新の科学技術を駆使して作品を制作するアーティスト兼研究者。1985 年に制作した当時のタブーを打ち破った映像作品「An Expression」が、ニューヨーク近代美術館でNew Video Japanという企画展に選出、同館に収蔵され、国際的に活躍するアーティストになる。武蔵野美術大学、国際基礎基盤研究所ATRでアート&テクノロジー研究を進めた後、バウハウスの影響を受けたマサチューセッツ工科大学建築学科Center for Advanced Visual Studies (現Art, Culture and Technology )で、2002〜2004 年のFellow Artistに選出された。MITに3年間勤めた後、2005年から京都大学でアート、カルチャー&テクノロジー領域の作品・研究を推進している。最新の書籍は、Cross-Cultural Computing: An Artist’s Journey (出版社:Springer UK) 。2012年韓国麗水万博では、230m x 30m のメインストリートでアジアはひとつというテーマで四神旗という映像作品を提供。2015年には、京都府の琳派400年事業で京都国立博物館の外壁に能舞台を見立て、土佐琳派プロジェクションを行なった。2016年度文化庁文化交流使を務め8カ国10都市を訪問した。2017年にはNYのTimes Square ビルボード60台以上を1ヶ月間使って、自然に潜む美を先端技術を使って発見したSound of Ikebanaを上映し、文化外交を務めた。企業との共同研究は、フランステレコム、株式会社ニコン、キャノン株式会社、三菱電機株式会社、ソニー株式会社、凸版印刷などがある。

土佐研究室 NAOKO TOSA Artworks

ICC小林 雅「今まで開催したアート系のセッションも非常に好評を得ているのですが、概念的な話をしています。だからといって、作品を展示しただけで人が集まるわけではない。話とともに、具体的なものが出たほうがいいのかなという気がしています」

土佐さん「それはいいですね。実物を出すと特定的になってしまうから、今まではあえてそれを避けて、概念的にやっているのかなと思いました」

ICC小林 「吉田さんからの話で、企業とコラボレーションなどされていると聞きました。自分のビジネスに直結するアートを、一緒に考えるというふうにできたらいいのではと思っています」

土佐さん「さまざまな切り口があります。京大でのアートイノベーション講座は、モノづくりもありますが、サービスや人材育成という面が実は大きいです。

アートと、ビジネスや経済をつなげようとして、みんな模索しています。

大きな企業ほどやりたいけれど、自分たちではなかなか変われないので、外から新しい考え方や、アイデアがほしいと思っています。

それを大学の中で講座として持って、いろいろやりながら連携することによってシーズが育っていきます。

我々としても、京大の中で論文書いて作品作って終わりではなく、外側で実現していくことができます」

すでに凸版印刷と3年越しのプロジェクトや、さまざまな規模で数社と研究や、プロジェクトを進めているそうです。課長研修、部長研修として1年をかけてコア人材の育成をしているところは、ワークショップやフィールドワークなども定期的に開催しているといいます。

アートとビジネスの先に、産業振興があった

「サウンド オブ 生花」の写真集を手に。序文は京大総長の山極寿一さんが書いている

アーティストである土佐さんが、表現としての作品だけでなく、なぜ企業との研究を推進するのでしょう。企業とは、現代でいうところの芸術家のパトロンなのでしょうか? もしそうならば、企業が出資するメリット、ねらいはどこにあるのでしょうか?

土佐さんの研究者としてのバックグラウンドであるMITは、言わずと知れたテクノロジーでは最高峰といわれる大学。アートとテクノロジー、そして産業とは、一見別分野で棲み分けているように思えますが、MITのルーツと歴史には、密接な関係があるといいます。

土佐さん「私が籍を置いたMITは、バウハウス(※)の時代の人たちが作った研究所です。

▶編集注:ドイツに1919年開校、芸術と技術の新たな統合を目指した教育機関。「すべての造形活動の最終目標は建築」とし、建築界の巨匠や名だたる芸術家が教授として参加した。1933年に閉校したが、今もなお世界的に強い影響力をもつ。
「バウハウス」とは何か?「宣言」からの歴史と建築や作品を紹介(TRANS.Biz)

アーティストは室内で絵を描くだけでなく、建築からアーバンライフ、都市計画など、ビジネスにもっとアートがつながっていくべきというのが、バウハウスでした。

そしてバウハウスの時代には、産業振興がありました。

そういう流れでアートを考えるということをもっと言うべきだし、伝えたいのです」

企業、産業とのつながりが見えてきました。それならばテクノロジーの側面は、どのようなつながりがあるのでしょうか?

テクノロジー抜きには語れない偉大なアート

土佐さん「この世界は自然の中にある世界。『サウンド オブ 生花』も自然界の中に実在しているものなのに、肉眼では見ることができず、先端技術でないと見えませんよね?」

上の映像を観ていただくとわかると思いますが、これが目の前で行われていることが信じられないような、むしろ、テクノロジーが発展した今だからこそ可視化できた、日本の伝統芸術である生け花の再発見ともいえます。

土佐さん「市民権が得られるからこれをアートと言っているだけですが、アートは、いわゆる可視化をしているものです。見えないものを発見していくというのは、新しい感じもします。

それがイノベーティブであり、新しい価値を生んでいる。アートイノベーションだなと思うのです」

「本当に価値のある仕事をしてきた人は、その当時の最先端技術を使っていた」と、土佐さんは語ります。

土佐さん「たとえば、エジプトのピラミッド、奈良の大仏。絶対に当時の先端技術を使っていたと思います」

ICC小林「最近、スペインでガウディの建築を観てきました」

土佐さん「ガウディの作品もそうですね。あれで観光収入になるとは考えないで作っている。そこがアーティストの価値なのです。でも、アーティスト自身はそれをあまり語りません。

私はたまたま、バウハウスやアート&テクノロジーの方面に行ったので、そういうことが見えてきました。

本当に重要なことや、まだ言われていない価値の創造、創造の起源といったところから考えていくのが重要です。

物事には原理があります。すぐ使えるものではありませんが、それとクリエイティビティは物凄くつながっています。

IPS細胞の山中伸弥教授の発見も原理です。セレンディピティなどと切り取って出しがちですが、原理の発見は、クリエイティビティとつながっています。

つなげて考えること、それを知っておくことが、会社を経営するときも重要だと思います」

経営者の仕事とは、まさに新たな価値を創造すること。その原理の考え方、極め方をアーティストの視点から伝えていただけるセッションとなりそうです。「最近はSDGsとアートをつなげて何かできないかという相談も」といいますが、単につなげるだけではなく、さまざまな切り口があるそうです。

アートと企業の出会いで新たな価値創造を

「サウンド オブ 生花」の製作現場。防音の壁とビニールシートで覆われている

土佐さんの「サウンド オブ 生花」は、松岡修造のスポーツ”応援”番組で紹介され、元レスリング選手の吉田沙保里さんや、卓球の張本智和さん、スケートボードの五輪予選で連勝している13歳の岡本碧優さんの声がアート作品となって放映されました。

土佐さん「アーティストは企業に依らず、今までになかったもの、インターネットで探しても出てこない、シーズを見つけるのが1番重要です。

私は、テレビ局の人たちと会うまで『サウンド オブ 生花』とスポーツの融合など、考えられませんでした。

そうやってシーズを提示し、新しいものと合体することによって、新しい価値創造ができるのです」

当日は、モデレーターに電通の各務亮さんや、スピーカーにDrone Fund千葉功太郎さん、リバネスの丸幸弘さんを迎えて、そんな作品や事例などを紹介していただく予定です。

この顔合わせにワクワクする理由、またICCサミットのDAY3の新・雑談シリーズに登壇が決まった理由は、登壇についての話が終わって、世の中を賑わせていたカルロス・ゴーン会見の話題になったときでした。

HARTi吉田さんと、土佐さんの作品「トルソー」を観る

土佐さん「いくつもパスポートを持って、3、4ヶ国語話せるというのもキーポイントで、これからそういう時代になってくると思います。

そのあとは、いろいろな人が定住民ではなくなり、遊牧民になる。インターネットの世界では、すでにそうなっていますよね。

今は現実の中で、会議に出ているのに他の場所にいるようにパラレルになっている、パラレル社会じゃないですか。

次は量子力学が発達して、私たちの体がそこに行くと思うんです。

私たちの意識も今は直線的に動いていますが、ひょっとしてパラレルに別の世界、別の意識があるかもしれない」

世間を騒がせる世の中から、人間を考察し、未来を展望し、想像力を刺激されている様子は、まさにアーティストそのものですが、僭越ながら土佐さんが特別だと感じたのは、ICC小林に向かっても「◯◯はどう思いますか?」といろいろな質問をしていたところです。

それはまるで自分のOSに、違う変数を入れてみることで、何が起きるか期待しているような、子どものような好奇心に満ちているように見えました。

そんな土佐さんに、メルティンMMIの粕谷 昌宏さん、ソラコム玉川 憲さん、Drone Fund千葉さん、モデレーターに日本マイクロソフト西脇 資哲さんの新・雑談シリーズ「テクノロジーはどこまで進化するのか?」に、私たち聴衆はついていけるのでしょうか? 乞うご期待!です。

打ち合わせが終了すると、スタジオの巨大なLEDスクリーンが気になっていた私たちに、土佐さんは作品の映像を投影して見せてくださいました。シンガポールや京都国立博物館でのプロジェクション・マッピングはさらにすごかったと思いますが、迫りくるような大迫力でした。

◆ ◆ ◆

京都生活も長くなり、人間国宝や家元につながりができた土佐さんは、先に出てきた企業の人材育成のグループワークで、知られざる京都のディープスポット訪問や、工房を尋ねるなどもしていいるそうです。人を精神的に豊かにすることで、研修を受ける前と受けた後では、ビジネスプランが驚くほど変わる人もいるそうです。

そんなつながりのひとつで、土佐さんの作品が奉納されているという、京都の建仁寺を取材後に訪ねてみました。

入ってすぐの「風神雷神図屏風」の両脇に奉納されている土佐さんの作品

「雲の上の山水」 筆で書かず、デジタル加工した航空写真で山水画を表現している

「静寂」 この角度で生きている木に、スランプ時期の土佐さんは生きる力をもらったそう

CGも使った浮かんで見える枝の作品「静寂」は、建仁寺の今はなきシンボルをモチーフとした作品です。

約200年にもわたって何代もの住職が大切に育ててきた枝が、ある年の積雪でとうとう折れてしまい、枯れてしまいました。しかしこの作品が、在りし日の枝と知った現住職さんは大喜びしたといいます。

建仁寺といえば「風神雷神図屏風」。ほとんどの観光客がそれを目当てに建仁寺を訪れますが、「なぜこれがその横に飾られているか、何の説明もないから分からないかも」と、土佐さんは笑います。

その由来を知らなかったアーティストが、題材に特別な意味を発見し、テクノロジーとクリエイティビティをもって表現した作品が生まれる。建仁寺はその作品を発見して、過去と再会し、大切な場所に飾る。

見学すると、はじめは古来の神話の世界と、極めて現代的なCGの作品を一緒に飾る、お寺の意図に戸惑うほど違和感があります。

しかし、これを一緒に飾る意味を考えさせられ、そこに大切な意味が込められていることは察せられますし、新旧合わせて包容する意思を感じる、建仁寺の考えや価値観すら伝わってくるものです。改めて、アーティストのパワーと、その作品が触発する可能性を感じずにはいられません。そんな土佐さんの作品は、大阪歌舞伎座跡地「ホテルロイヤルクラシック大阪」エントランスでも観ることができます。

その詳しい解説、プレゼンテーションは、セッション10C「新しい価値を創造しよう!『アート・イノベーション〜リーダーに必要なアート力を身につける』、セッション 11A 新・雑談シリーズ「テクノロジーはどこまで進化するのか?」を、どうぞお楽しみに。土佐さん、ご紹介いただいたHARTiの吉田さん、どうもありがとうございました!

▶2020年2月の登壇セッションレポートを追加しました。こちらも合わせてぜひご覧ください。
経営者よ、表現者たれ!なぜイノベーションにはアートが必須なのか?【ICC FUKUOKA 2020レポート】

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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