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「もちはだ®︎」で、世界から「寒い」を無くしたい! ワシオ3代目が提案する、豊かな暮らしへの選択肢【ICC 大阪CRAFTED TOUR レポート#4】

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2020年12月某日、ICC一行は、関西へとオフシーズン恒例の2泊3日CRAFTED TOURへ出かけました。今回訪問したのは、CRAFTEDカタパルトを中心に次回登壇いただく企業を中心に6社です。DAY3の最後に訪問したのは、1955年創業独自の起毛素材「もちはだ®︎」を使用した、機能性インナーや靴下などを作るニットブランドメーカー「ワシオ」です。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


気持ちよく晴れ渡った冬の日、前日まで宿泊していた大阪から、兵庫県加古川にあるニットメーカー「ワシオ」を目指して、一路西へ向かったICC一行。目的地まで近づくと、見えてきました「ワシオ株式会社」の文字が!

オフィス棟らしき建物に入ると、ずらりと並んだ「もちはだ®︎」が私たちを迎えてくれました。

「もちはだ®︎」は、寒さに耐える特別な加工を施した素材を使った衣料品ブランドで、探険家の植村直己も南極行で靴下を使い、最近ではお笑い芸人や、シーズンを先取りして撮影を行なうスタイリスト、巣鴨のお年寄りまで、熱い支持を得ています。

今回お話をうかがったのは、統括部長の鷲尾 岳さんと、社長の鷲尾 吉正さん。

写真左から、社長の鷲尾吉正さん、統括部長の鷲尾 岳さん

今回CRAFTEDカタパルトに登壇する岳さんは、同じく登壇するKAPOK JAPANの深井 喜翔さんや、第1回目のCRAFTEDカタパルトに登壇して3位に入賞した三星グループの岩田 真吾さん、前回登壇のインターナショナルシューズの上田 誠一郎さん、木村石鹸の木村 祥一郎さんともお知り合いで、ICCサミットについてご存知の様子です。

3代目にあたる岳さんは、街からアウトドアまで使えるカジュアルブランドYETINA(イエティナ)をスタートさせ、makuakeのクラウドファンディングで、機能性に加えてファッションにこだわる若い人にもアピールするルームウェアタンクトップを発表しています。いずれも「もちはだ®︎」の高い機能を生かした商品です。

YETINAのホームページより。1サイズ大きいものを作り、熱をかけて縮ませているので目が詰まっていて、防風効果が高いそう

某U社よりも、2倍暖かいというデータもある「もちはだ®︎」、その秘密からお聞きしていきましょう。

「傘のマーク」で商標概念を知り、開発のきっかけに

鷲尾 岳さん「もともとは祖父の代で『鷲尾商店』という個人商店からスタートしています。捨てられた靴下を回収して、つまりB品を繕ったり汚れを落として検品をして、きれいな状態で再度売るということをやっていまして、その中ですごく売れる商品が出てきました。

それが、傘のマークがついたアーノルド・パーマーの靴下でした。

これだけがよく売れるから全部に付けてしまおうということで、勝手に付けて売って、怒られて(笑)、そこで初めて商標という概念を知り、そういうことでものが売れるようになるのだったら、オリジナルのものをやりたいと、その頃から祖父が思うようになりました。

オリジナルのものを作りたいと考えていた時に、靴下を機械を使って編んでいた方が、アナログな機械なので自分たちで改造をして、オリジナルの生地、起毛の生地のプロトタイプのようなものが編んでいました。

編んでいた人は、かかとが付けられないから靴下ができないから商品化できないと言っていたのですが、面白い生地だから商品化したいということで、祖父と組んで、それを実際に商品にしていってというのが『もちはだ』のルーツです。

最初は一番左の一番下のタイツから始まりました」

「もちはだ」はなぜ暖かいのか

靴下を作る丸編みの機械で作っているため、生地は筒型で編み上がっていきます。その筒の太さが上の写真の左側に並んでいるグレーの布。これを切って開いて縫ってさまざまなものを作ります。編む工程と同時に特別な加工を布の片面に施していくのが、ワシオの技術。市場に流通していない特注の機械を使います。

岳さん「だからオリジナリティが高いのですが、オリジナルだからいいという理屈は僕は存在しないと思っていました。

生活をどう豊かにするかという部分や、作ったものが役に立つかどうかというのがポイントだと思っていて、『もちはだ』に関しては、そこがすごく高いレベルであります」

僕は今、会社のビジョンを『世界から寒いをなくしたい』という言葉で言っています。

もちはだは一般的な起毛の生地と違って、単純に保温性というところがずば抜けて高いです。

編む工程と、起毛をかける工程は普通は分かれています。一般的に起毛とは、布を編んだあとに、剣山みたいなもので生地を編む方向と垂直に力をかけて、引っ掻いて糸を切ってけば立たせることですが、うちは、編んでいきながら、編む糸と平行に、糸を切らずに起毛していきます。

起毛(けば立っている)部分が、横向きになっているのが見える

もちはだの生地はパイル編みですが、タオルのようなループになっています。その中に空気をためこんだり、クッション性が高いといった特性があります。

従来の起毛は、ループの部分を切って開くように縦に金属を当てるため、その機能が失われますが、

ワシオ式起毛では、特殊ブラシを当てて、横向きに糸をこすって起毛していきます。だから糸が切れません。そのためパイルの特性を保持しつつ、空気がたまるので温かいのです」

もちはだの生地をほどいて、糸がつながっているかどうか見せていただきました。

1本につながっています! 糸の約8割部分がつながっており、力をかけて引っ張っても切れません。日常着の布の構造と同程度の強度があるそうです。

外気と体の間に、ループの中・起毛の中という温かい空気の2層を作る『もちはだ』は、某U社のもっとも暖かいとされる商品よりも、倍近く暖かいというデータが出ています。逆に暖かさが逃げないので、ウィンタースポーツには向かないほどだとか。

加えてニットの柔らかい着心地で、糸を切っていないことと靴下の編機のため、普通の起毛の生地にない伸縮性が全方向にあります。耐久性もあって、10年くらい着ている人もいるとのことです。

縦横よく伸びます

「寒くてふとんから出られないつらさって、あるんですか?」

岳さん「これを使って今僕がやろうとしていることが『世界から寒いをなくしたい』なのですが、寒いという理由で、ちょっとネガティブな感情が生まれたときに、前向きな選択ができなくなる瞬間が、日常にたくさんあると思っています。

冬の朝、寒いという理由で布団から出られないといいますが、出る・出ないではなく、実はこの後ろ側に、暖かい・寒いという選択肢が隠れていて、寒いを選びたくないという思いのほうが、どちらかというとおそらく強いんですよね。

この寒いという要素が無くなれば、もっとやりたいことがやれるようになるというシーンは、日常にたくさんあるだろうと考えています。

朝、布団から出られるもそうですし、今、ルームウェアタンクトップのクラウドファンディングをやっているのが、今年はみんな家にいる時間が長くなっており、暖房費がすごく高くなっていると思うのです。

タンクトップのクラウド・ファンディングページ

環境に対しての問題もそうですが、暖房とセットになっている『寒い』という課題を解決すれば、暖房を使わなくて済んで、『節約』という選択肢を選べるようになります。

ファッションが好きな人、かつYOHJI YAMAMOTOとか、コムデギャルソンとか、あまり着こまず、シルエットをすごく大事にしたり、薄手の上質な生地の服を着たいという人たちは、冬場に寒さに耐えていたりするわけです。

もしくはそのスタイルを捨てて、暖かい服を着ていたりして、結局ポジティブな選択をできていないと思っています。

今回作ったタンクトップは、上に着る服の選択肢が一番広い服とは何だろう?と思って、インナーとして防寒自体を目的にするのではなくて、自分が生きたいライフスタイルを生きるために、役に立てばいいと思って作っています。

脇に生地がたまると一気に窮屈になりますが、タンクトップなら脇の動きを一切左右しません。かつボディを温めているので、内臓から熱が逃げません。身体というのは構造上、手足、足先から熱を奪わず、お腹の部分を暖めると末端まで暖かいのですが、腹巻を着けるというのは、ファッションを楽しみたい人からすると相反するものです。

いわゆる『吸湿発熱』の下着を着ている方は多いと思います。その仕組みをすごく簡単に言うと、水素が動く運動エネルギーを熱エネルギーに変えています。

『吸湿発熱』は、水素が吸着しやすい繊維を限りなく面を広く作っていて、身体から出る蒸気を吸着して熱エネルギーに変えた後は、水分を残した湿った布になります。かつ、それが気化するときには熱エネルギーを奪うので寒くなります。

一方、『もちはだ』はご説明したとおり、暖かい空気の層を作ります。『吸湿発熱』の最上級のものより約2倍暖かく、冬にファッションも楽しめます。

分厚く見えますが、着る枚数が減るため結局薄着になるのだとか

僕の場合は、小さい頃から『もちはだ』が隣にあったので、冬は寒いから嫌だとか、寒いことを理由に何かをしないということは、思い返しても無いんです。

僕は中国の天津で働いていたのですが、天津はそれなりに寒い地域で、1人だけすごく薄着なので、周りの人から『お前、大丈夫か?』と言われましたが、誰よりも暖かそうにしていました(笑)。

色々な人に出会うと、『冬は家を出るのが、ちょっとつらいよね』とか、『朝、ふとんから出るのがつらい』という話を初めて聞く感じなんです。『そんなつらさ、あるんですか?』みたいな(笑)。

そういうのを聞いていると、そこにずっと抵抗が無くずっと生きてきた自分と、そこに抵抗を感じている人たちは、やはり冬に対するイメージが全然違います。

偉そうなのですが、寒いから冬が嫌いと言っている人たちが、すごくもったいないです。それを解決したらめちゃめちゃ楽しいし、冬は遊びにも気兼ねなく行けるし、雪が降ったらできることはたくさんあります。

とにかく、やりたいことをやれないほうに引っ張っていく力を、僕は色々なシーンで無くしてていきたいと思っています。『もちはだ』というものがうちの会社にあったので、『世界から寒いをなくしたい』という目的を持って、今やっているという感じです」

その温かさから、冬に撮影する春のドラマのロケなどで、スタイリストにも大人気。真冬に春服を着て撮影する俳優さんたちは、下にもちはだを着ているというわけです。『アメトーーク!』で千原ジュニアさんが、「伝説のインナー」と呼んだのも、じつはこの『もちはだ』なのです。

「もちはだ」を編む機械が並ぶ工場へ

たっぷりお話をうかがったあとは、「もちはだ」の生地を作っている現場の工場を見せていただきました。

ずらっと機械が並んでいます。靴下を編む機械が元のためか、どれもそんなに大きくありません。

これが「もちはだ」の織機。チューブが挿し込まれている中で、起毛の加工が行なわれていますが、その様子は非公開。繊維を特殊なブラシで摩擦してけばだてながら、チューブで吸い取っているため埃がふわふわ舞うようなことはありません。

※非公開部分について、画像加工をしています

糸が上から入り、編まれた生地が下へ向かって下りていきます。

袖口など、継ぎ目がなくて、途中からゴムが入っているようなこんな生地がありますよね。

そういった編み方の変更は、織機の裏側で制御しています。この工場にはコンピューターが1台も入っていないのだそう。

機械のメンテや改善は自分たちで行っており、別に熔接スペースもあります。機械は1台1台異なっているため、違う機械でも同様の理想的な起毛を実現するために、職人が試行錯誤しながら工夫するそう。

起毛加工は、ニット生地をしっかり張りきった状態で作業することから、伸びた生地を蒸気を当てて、乾燥機にかけて適正なサイズに戻す工程が必要です。縫製工場や生地の納品の前に行なうそうです。

出荷のための作業中

1970年に誕生し、さまざまな人を暖めてきた「もちはだ」を、豊かな暮らしや人生のためににさらに活用してほしいと願う鷲尾さん。釣りのユーチュバーとコラボしたり(※)、某有名アウトドアブランドのインナーの素材提供も行っており、昨今キャンプブームにもぴったりハマってきそうです。

プロアングラー村岡昌憲×もちはだ コラボ 2018(もちはだ)

おみやげとして、靴下をいただいて帰りましたが、これが本当に暖かいものを巻いているような感覚でびっくりしました。冷え性の方にはぜひ試してみてほしいです。これを胴体に着たら、分厚いセーターなど上に着られないかもしれません。

鷲尾さんは、2月17日のCRAFTEDカタパルトに登壇する予定です。当日はライブ中継も予定していますので、ぜひご覧ください。取材を受け入れてくださった鷲尾 岳さん、鷲尾 吉正さん、見学させていただいた工場、オフィスのみなさま、どうもありがとうございました。以上、現場から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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