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e-Education三輪 開人さんの悲願達成! ダッカでバングラ版ICC、Society Co-Creationを見た

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2022年11月12日にバングラデシュ・ダッカで開催された“バングラデシュ版ICCサミット”Society Co-Creation。ICCのYouTubeチャンネルでも歴代最高の再生回数を誇るe-Education三輪 開人さんの発案で開催したこのイベントの模様についてレポートします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


e-Education三輪 開人さんは、少なくとも5年前から「ICCサミットを、バングラデシュで開催したい」と公言していた。2022年11月現在、再生回数120万回に迫るこのプレゼンでもすでにそう語っている。

その経緯はプレゼンを見ていただくのが一番早いが、三輪さんの普通ではないところは開催に向けた本気度だ。ICC代表の小林 雅が初めて出会ったときには既に力量のあるプレゼンターであり、意義ある教育事業をダッカで行っていたが、やると決めたときのやり込み方が半端ではない。

2017年4月、バングラデシュから一時帰国した三輪さんはICCオフィスのランチに訪れて「運営スタッフとなり、カンファレンスの運営を学びたい」と言い、皆を驚かせた。カタパルト・グランプリの優勝者で、日本とバングラデシュを行き来する多忙な身。いかに時間を捻出するというのか?

2018年4月3日のランチの様子

それからの三輪さんは、すべてを吸収したいという貪欲な姿勢とやりこみ力で、スタッフ間の投票によって決まるMVPにも輝きながら、運営チームの一員として活躍した。カタパルト登壇の経験を生かして、登壇者をサポートもした。そして2019年の夏、ついに2020年の4月にバングラデシュ版ICCサミットを開催すると告げた。

「いくらかかるんだ」と、ICC小林 雅は早々に尋ねていたと思う。自らも一人でカンファレンスを立ち上げた身。小林はその場ですぐにスポンサーとして出資することを決めた。三輪さんはカンファレンスの名前はICCにちなんで、Society Co-Creationとしたいと思っていると打ち明けた。

そして2020年の2月、運営スタッフとしての仕事をやりきり、4月にバングラデシュでカンファレンスを開催するはずだった。

しかしそれからの2年、世界が止まってしまったことはご存知のとおり。三輪さんの計画も、三輪さんがやるなら応援に行きたい!と航空券を買っていた運営スタッフの仲間たちのチケットもすべて宙に浮いた。

それから2年、開催を翌日に迎えた三輪さんの様子は、尋常ではなかった。

ICC一同を迎えてくれた三輪さんやe-Educationの皆さんと

バンコク経由で到着したICC一行は、空港からの道中で目にした車線のない、突然舗装が途切れて土がむき出しになる道路、廃墟かと思いきや建設中の建物、屋根がついただけの商店、行き交う人々の姿に少なからずカルチャーショックを受けている。しかし三輪さんの頭は翌日のカンファレンスのことでいっぱいの様子だった。

会場準備にICCスタッフも参加

一行が到着した日は金曜日で、イスラム教にとっては「お祈りの日」だという。バングラデシュの休日は金曜日と土曜日。こちらの週末を返上してカンファレンスの開催を行う。運営スタッフは、e-Educationがタッグを組む現地法人BacBonの社員の方々。誰1人としてカンファレンスを運営したことはおろか、見たこともない。

会場案内も兼ねて、私達はスタッフ向けの全体ガイダンスを見せてもらうことにした。ちなみに現地でのコミュニケーション言語はすべて英語である。

会場に入り口はいくつあるか、こちら版カタパルトの優勝賞品は何かなどをクイズ形式で説明

会場は円卓と椅子が用意されていて、330人が来場予定だという。ICCサミットの運営さながらにマニュアルが用意されているが、詳細な情報を詰め込むとかえって混乱するということでマニュアルは簡略化されたもので、それを皆、これから読むという雰囲気だった。

バングラ版カタパルト「RISING SUN」のマニュアル。入場者のネームカードに名前は入っていない

会場は1会場のみで、カタパルトを含むセッションは朝9時から5つが予定されている。運営スタッフたちは受付テーブルに布をかけたり、来場者リストを見ていたりしているが、それがどうあればスムーズにできるのか、おそらく誰も想像できないだろう。

夜はICC一行とわずかな日本人参加者のために、ビュッフェのディナーが設けられたが、三輪さんはICC一行に「助けてほしい」と声をかけた。

受付、司会、”オペ卓”と私達が呼んでいる壇上で投影する映像やスライドを担う役割について、偶然ながら、今回はICC運営チームから4人、荒木 珠里亜さん、田中 真樺さん、千葉 祐大さん、濱田 凛さんという経験のあるメンバーが駆けつけている。彼らに各パートでサポートに入ってもらいたいということで、食事の後に再び私たちは会場へ戻って準備を手伝った。

いよいよ開催当日

ホテルの部屋からダッカの市街地を見下ろす

いよいよ開催当日。開幕する前に、三輪さんはすでに泣いていた。

それはユーグレナの出雲 充さんが夜を徹してほとんど寝ずに会場に駆けつけた時と、ICC小林が開催をねぎらった時で、涙が止まらなくなってしまったという。

しかし最初のセッションが始まる前の開幕の挨拶で、BacBon代表のマヒーンさんと登壇して行ったスピーチは、いつもの三輪さんらしく力強いものだった。

「今日は本当に特別な日です。

覚えていますか? 2016年、忘れもしないダッカ事件が起こりました。犠牲者のうちの1人は、僕が非常に親しい人でした。

バングラデシュ テロ、日本人7人死亡 伊9人含め20人犠牲(日本経済新聞 2016年7月3日)

そんなことが起こったため、日本の人たちはみんな私に、もう決してバングラデシュに行くなと言いました。

でも、そんなことはできませんでした。この国を愛しているし、この国の人たちを愛している。だからどうしても戻ってきたかったのです。

そして2017年、ついに戻ってくることができました。そのときに僕の友達や、ここにいるマヒーン、e-Educationの生徒たちがみんな僕を待っていてくれて、迎えてくれて、泣いていたのです。

これがバングラデシュの力ではないですか? 

これを日本の人たちに伝えたい。それがこのカンファレンス実現への旅を始めた理由です」

1会場、4セッション、1カタパルト

それから始まったカンファレンスは、初開催にして非常に盛り上がったものになったのではないだろうか。すべてのセッションで日本とバングラデシュのスピーカーがともに登壇し、両国でのビジネスなど、熱心な議論が交わされた。

モデレーターを務めた一橋大学教授の米倉 誠一郎さん
ユーグレナ出雲さんはこの朝、マレーシア経由で到着

最初のセッション「The Powe of Co-Creation and Social Innovation」で登壇した出雲さん、米倉さんはバングラデシュとの絆を感じる語りで喝采を浴び、登壇後のふたりは参加者たちに取り囲まれて記念撮影と名刺交換の嵐となった。

出雲さんの登壇は過去に何度も観ているが、出雲さんをはじめとする日本人たちがこの国にかける想いを聞くことは、いつも以上に説得力があり、この地を見たあとでは改めて凄みを感じた。何と意義のある事業をやっているのだろうか。このセッション終了後、出雲さんは現地の要人との予定があり、足早に会場を後にした。

セッション2「Real Partnership Beyond Border」では三輪さんがモデレーターとして登壇し、バングラデシュのスタートアップや起業家たちに、国境を越えてビジネスを展開する先輩を紹介。この翌日に工場見学にうかがったマザーハウスの工場長を務めるマムーンさん(下写真左)も、山口 絵理子さんとの出会いを語った。

その他セッションのテーマとパネラーはプログラムをご覧いただきたいが、アジアの最貧国2位(現在1位はネパール)のバングラデシュで、小学校を中退したにも関わらずバングラデシュ最高学府の教授となり、2016年まで中央銀行総裁を務めたアティウル・ラーマンさんなど、サクセスストーリーを体現したロールモデルが数多く登壇した。

印象的だったのは、そのアティウルさんのセッション4での発言で「Co-Creationしよう。個人で動いても大きな課題が解決しないのは、コロナの時期に私たちも痛感して学んだはず。連携しよう」というメッセージ。どのセッションでも、一人では大きなことはなし得ないという発言があったが、レジェンドともいえる人物の呼びかけに、会場は大きな拍手で応えた。

バングラ版カタパルト「RISING SUN」

この日、最後のセッションは、8人のプレゼンターが優勝を目指して事業プレゼンを競う「RISING SUN」。ICCサミットのカタパルト同様、三輪さんはこの日に向けてプレゼン練習を請け負い、スライドの改善なども含め、プレゼンターたちをサポートをしてきたそうだ。

ICCのカタパルトなら、過去の映像を見たりして雰囲気を掴むことができる。運営スタッフも登壇にあたって様々なサポートをすることができる。しかし今回は皆が初めてのため、セッションの開始にあたり、プレゼンターは壇上に集まるように呼びかけられた。

セッション開始前に集まって登壇のリハーサルや、個々のPC接続やスライドチェックはない。三輪さんが登壇者に向かって手順の説明をしている背後で、モニターの映像が次々に入れ替わる。どうやらそれが本番前のPCチェックのようだ。

それもすぐに終わると、いよいよ「RISING SUN」が始まった。

マイクを握って、緊張の感じられる人もいたが、それよりも自分を伝えたい、事業を伝えたいという気迫がどのプレゼンターからも伝わってきた。

返しモニターに持ち時間のカウントダウンを表示。これもオペ卓の仕事

バングラなまりの英語は早口に聞こえるが、それに加えてマシンガントーク。実績の数字も含めて、とにかく早口で喋りまくる。後から三輪さんに聞いたところによると、スライドにも情報を詰め込んでいたそうで、1/10くらい削ったのが本番時のスライドだったそうだが、それでも多く感じられるものもあった。

コロナで活性化したフリーランスエンジニア向けプラットフォームを国際的に展開する「Airwrk」。バングラデシュには英語が堪能な人が多い
AIを活用したマーケットでのシェア拡大をサポートする「Intelligent Machines」。すでにユニリーバなどで大きな実績あり
農業の生産性向上とリソース活用の課題を解決するアグリテックの「Ipage」。働き手はいても農業の課題は万国共通と感じる
女性が医療やヘルスケアの情報にアクセスしにくい課題をオンラインで解決する「Lilac」。宗教的な問題も感じずにはいられない
病院にかかるのがまず大変というバングラデシュでオンライン薬局を展開する「MedEasy」。日本とは違う背景だが、ほぼ同時期に同じ仕組みが始まっている
今年に入ってシリコンバレーからの投資実績もあるゴーストキッチンの「Onnow」。常に道路は渋滞状態のダッカ、デリバリーをどう設定しているのだろうか
職人の手作業で、女性が特別な機会に着る美しいドレスを作る「SABAH KHAN」。クラフテッド・カタパルトに出たら優勝しそうな印象
オンラインでのピアラーニングプラットフォーム「Sohopathi」。すでに80万人以上の学生と教師が登録している

お国柄というか、文化の違いを感じたのは、仲間や知り合いと思しき人達が、登壇者に向かって応援の歓声を上げていたこと。そしてプレゼンが終わると誰よりも熱い拍手を送っていた。

喜ぶIpageのMashrurさん

バングラデシュと日本からの審査員による投票で、順位は同率2位が3名(Intelligent Machines、Lilac、Sohopathi)、優勝はアグリテックのIpageとなった。優勝者には、100万タカ(11月28日のレートで約134万円)が贈られ、サプライズとして、優勝以外の登壇者にも10万タカが贈られた。

最後の記念撮影で。ついICCポーズをとる三輪さん

あとで聞いたことによると、この「RISING SUN」が始まる前に三輪さんは「1位はもう決まっているんだろう、誰なのか教えてくれよ」と聞かれたそうである。現地ではいわゆる“出来レース”が多く、こういったコンペティションにおいてもすでに順位は決まっているものなのだそうだ。

そういう場所で、三輪さんは公平な競争、投票が行われることに意義を感じて企画をした。優勝は筆者にとっても、三輪さんに感想を聞いても想定外ということで一致したが、それは文化の違いなのか、視点の違いなのかはわからない。しかし、誰かの声ではなく極めて民主的に、この場で優勝が決まったことは驚きをもって受け入れられたそうだ。

ICCサミットとの違い

このバングラ版ICCサミット、行ってみて驚いたのは、女性の参加者の多さである。イスラム社会は男性優位というのが信じられないくらい、民族衣装で美しく着飾った女性参加者が多かった。社会的にはスタートアップや、起業というのはこれからという状況で、これだけ女性が参加するというのは現地のe-Educationで働く日本人スタッフも驚いたようだ。

女性がヒジャブ姿で挙手することは少し前まで文化的・社会的に難しかったそうだ

セッションでの質疑応答も女性が積極的に挙手しているのが目立った。

「女性をエンパワーするプロダクトを作っているが、どうやって日本に紹介すればいいか?」

「日本とビジネスをする上で、どんなスキルや努力をしてギャップを埋めればいいか?」

「先進国への劣等感を、どう克服すればいいのか?」

などなど、この率直さはスピード感を生むだろうなと思わせる質問が多かった。なお参加者の年齢層は20〜40代といったところ。学生も全体の1/4ほどいて、学生は無料で参加することができた。

モニター前にいるスタッフは、セッション時間終了をステージにアピール中

映像授業を配信するe-Educationの強みを活かしたものと思われるが、会場のステージ横と後方には大きなモニターが設置されており、議論するスピーカーたちが大きく映し出されていた。細長い会場だったため、後方に座っていてもスピーカーの表情を見ることができた。

その他会場で目立ったこととしては、バングラデシュの人たちは、みんな写真撮影が大好き。その国民性を踏まえたものか、ホワイエにはロゴを背景にしたフォトブースが設けられており、ひっきりなしに撮影会が行われていた。一緒に撮ろうと話しかけられることも多々あり、私たちの姿はいろんなバングラデシュの方の写真に収まっているはずだ。

セッションが終わると、観客がどっと押し寄せて話をしようとするのも熱意が感じられた。毎回ステージ周りに人だかりができ、その中心となっているのは登壇者たち。現地の言葉のため内容はわからなかったが、楽しげに話したあとは写真撮影が行われていた。

ICCスタッフも大活躍! スタッフMVPへのサポートも

我らが誇るICC運営スタッフの活躍も忘れてはならない。千葉さんは準備日に受付リストを学生と一般客を分けて受付をスムーズにし、田中さんとe-Education職員でもある坂井さんは、学生に対する複雑なオペレーションをさばききった。

最前列に座った荒木さんは、ピンチヒッターで司会初挑戦というパリスさんを助けながら、セッションの会場運営をSlack経由でさまざまにサポートし、濱田さんは現地スタッフとタッグを組み、前日の夜、初めて触った現地の機材でオペ卓業務をやりきった。

後日、これもICCと同様に運営スタッフの相互投票で行われたMVP投票では、濱田さんと一緒にオペ卓を担当したディプトさんが特別賞を受賞した。トラブルの多い機材を二人で四苦八苦して操り、食事の時間も惜しんで運営に集中した結果、賞をもらったことが、彼にとってどんなに嬉しいことだったかこの投稿から伝わってくる。

投稿には、濱田さんの助けがなければ達成できなかったことや、感謝が伝えられている。これもまた、日本とバングラデシュのCo-Creationであり、お互いにとって忘れられない経験になったのではないかと思う。

運営で一つになったスタッフたち

一連のプログラムが終了し、おそろいのスタッフポロシャツを着た運営メンバーたちは、フォトブースの前で笑顔がこぼれていた。

e-Educationで現在、ダッカにインターンとして滞在しているユキナさんによると「普段はバラバラのチームで働いているのですが、みんなでイベントを作ってこの集合写真を撮ったときに一体感を感じました」とのこと。この感じ、ICCサミットの運営スタッフ打ち上げで、みんなで記念撮影するときと全く同じだ。

スタッフ一同で記念撮影。e-Educationからは卒業生や近郊のミャンマーから駆けつけたスタッフも

おしゃれな女性メンバーからは、次は「RISING SUN」に登壇したSABAH KAHNでユニフォームを、などという声も上がったそうで、初めてのカンファレンス運営は「大変」よりも「楽しさ」が勝ったようだ。三輪さんが意図したCo-Creationは、確実に次の種を蒔いたようである。

▶カンファレンスを追った映像ドキュメンタリーはこちら

SCCもう1人の立役者、マヒーンさんの話

三輪さんと並んでこのカンファレンスの立役者のもう1人、マヒーンさんに開催終了後に話を聞いた。実は前夜のディナーのときに話を途中までしたのだが、「緊張しすぎて頭痛がしてきました。続きは明日に」とのことで、開催者としてのプレッシャーを感じているようだった。

BacBonという企業の経営者であり、e-Educationの現地パートナーでもあるマヒーンさんは、ダッカ大学在学中に三輪さんと出会った。ICCが掲げるCo-Creationに大きく賛同し、ICCのYouTubeチャンネルはおろか、代表の小林 雅のFacebook投稿を逐一見ているという小林ファンでもある。

BacBonマヒーンさんのオフィスで

「僕のストーリーをシェアしたいんだ」と、マヒーンさんは語り始めた。

「僕が高校生のとき、親は農民でとても貧しかったのですが、とにかく大学に行きたかったんです。ダッカ大学は、日本でいうと東大・京大レベルで、入試前にに6カ月の特講授業を受ける必要があり、授業料に20万ドルもかかる。家は地方にあったので、ダッカに行くにもお金がかかる。父の月収は100ドルで、とてもではないけれど無理でした。

でも僕には夢と確信があって、今日も登壇したアティウルさんの、貧しい大家族出身でもダッカ大学に入って、中央銀行の総裁になったという話に心動かされて、絶対にダッカ大学に行かなければと思ったんです。

それから叔父の援助を受けながら毎日16時間ぐらい勉強して、78,000人中200人しか合格しない入試で11番目になることができ、大学に行くことができました。ダッカ大学に入学した人が出たのは僕の村から48年ぶりのことでした。

そしてわかったことは、地元の村にはすごく頭がよくて勤勉なのに、学費が高いために教育を受けられない人たちがいるという現実です。だから地元に戻って、仲間を助けようと決めました。そんなときに当時JICA職員だった三輪さんと出会い、DVDでの教育プログラムを始めました」

三輪さんによると、当時e-Educationに関わり始めていた三輪さんが、ダッカ大学の前で学生に対してアンケートを100人分集めるということをしていて、マヒーンさんはその中で最も熱心にアンケートに回答してくれたため、親しくなったのだという。

「三輪さんは平日はJICAで仕事をしていたので、週末に一緒にDVDを持って夜行の船に乗り、地元に届けるということを続けました。それが始まりです。

そして三輪さんに2013年にJICAを辞めて、e-Educationをやらないかと誘いました。それから約10年で、故郷からは僕以来、20人の学生がダッカ大学に合格しています。これはバングラデシュでは大きな成功だし、多くの人が鼓舞されたストーリーだと言ってくれます。これを続けたいんです。

BacBonも頑張っていますが、大企業や大富豪になるのではなく、地元の人を助け続けたい」

予定を上回り363人の来場者を迎えたSociety Co-Creationの開催を終えて、マヒーンさんの携帯には、イベントへのお礼や、感激のメール、アポの依頼がたくさん届いているという。「RISING SUN」の登壇者の中にはBacBonの競合もいたが、彼らを競争相手とは思わないと断言した。

「君の競合の会社がいるじゃないかと皆言ったけど、Co-Createrだと言い返しました。そういう意識を変えていきたい。それをCo-Createrに変えられたら、このイベントの成功だと思うし、僕自身、そう思えたことがとても大きな学びだった。ICCから大きなものを学んだし、小林さんに来てもらえて本当に嬉しい。ICCのチームの皆にもすごく助けてもらいました」

ご家族と

そしてマヒーンさんは、「いつかスタッフとして、ICCサミットに参加したい」と恥ずかしそうに夢を語った。e-Educationの日本人インターンを家族のように受け入れる彼の家族もまた会場に来ており、娘さんの愛らしい姿に心が和んだ。彼女が大人になる頃には、父親が目指す変化が実現しているかもしれない。

「いつか、小林さんが実現したように、ここで1,000人規模のカンファレンスを開催したい」

賛同者がCo-Createrとなり、新しい産業を創っていく未来を強く描く。マヒーンさんにも、三輪さんと同じく熱狂的な力が感じられた。

Society Co-Creation次回開催へ向けて

Society Co-Creationの打ち上げで、バングラデシュの仲間に2日早い誕生日を祝ってもらったあと、三輪さんは、ダッカからICC一行が経由して帰国するバンコクで合流した。何かに取り憑かれていたような緊張は抜け、表情はいつもの三輪さんに戻っていた。その翌日は一緒にアユタヤを観光したが、三輪さんは向かう道すがら後部座席で死んだように眠っていた。

4つほど寺院を見てから、チャオプラヤー川を見下ろすレストランでランチ。シンハービールで乾杯した。

世界遺産の観光地に来てもこの2人、話すのはカンファレンスのことばかりである。

「あれはプレイベントレベル」(三輪さん:おっしゃるとおりです)

「一同起立して、拍手のセレモニー、なんでやらないのかと思った」(三輪さん:すっかり頭から抜け落ちました)

「またやるつもりなのか」(三輪さん:やる気満々です)

厳し目のツッコミに笑顔で応え続ける三輪さん、よく見ると小林もなんだか嬉しそうにしている。今や安定した運営を続けているICCサミットにも1回目はあり、その時のことを思い出しているのかもしれない。

いかに自分がぶれず、質を上げていくことが新たなCo-Creationを生むかは、図らずも4年となった運営スタッフの経験から三輪さんもいくつも目撃している。

今回のカンファレンスの完成度は、満足には程遠いだろう。しかしSociety Co-Creationはついに立ち上がった。三輪さんもマヒーンさんも、すでに次回のことを考え始めているし、運営に関わったスタッフも、参加した人たちも次を期待している。

貧しい国という現実に絶望せず立ち上がろうとする人たちのパワーと挑戦は、ある程度出来上がった国にはない熱さで非常に刺激的だし、国産エンジニアを量産している状況も夜明け前の雰囲気が感じられる。強い産業を創りたい、日本企業と組みたいという企業もたくさんいる。少しでも興味を持ったなら、ぜひ次回、Society Co-Creationへの参加をお勧めしたい。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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