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2月13日~14日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、デザイン&イノベーション、フード&ドリンク、2つのアワードのファイナル・ラウンドの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
アワードのファイナルラウンドは、熱烈な審査員体験ツアーと、会場を訪れるオーディエンスたちへ自分たちを紹介し続ける1日半の展示会場の運営を駆け抜けた、デザイン&イノベーションとフード&ドリンク、2つのアワードの関係者たちが集結して最後の決選投票に臨む。
ICCサミットのDAY2最後の時間帯で18時スタート。直前までブースの撤収をしていた担当者たちは初日のキックオフの緊張感を取り戻して最後のステージに臨む。DAY1、DAY2で行われた会場での投票は集計が終わり、各部門賞に入賞した企業が発表されるところからファイナル・ラウンドが始まった。
なお、部門賞と審査員賞は審査員による投票、オーディエンス賞は、会場を訪れたオーディエンスによる投票となっており、企業に重複がある。
デザイン & イノベーション アワードの部門賞 入賞企業
部門賞
・グローバル賞 「サグリ株式会社 坪井 俊輔」
・トレンド賞 「株式会社パワーウェーブ 種田 憲人」
・ソーシャルグット賞 「テクノツール株式会社 島田 真太郎」
・イノベーション賞 「TopoLogic株式会社 佐藤 太紀」
・体験デザイン賞 「株式会社ストリーモ 森 庸太朗」
オーディエンス賞
・「サグリ株式会社 坪井 俊輔」
・「 株式会社Ashirase 千野 歩」
・「 株式会社ストリーモ 森 庸太朗」
審査員賞
・「株式会社パワーウェーブ 種田 憲人」
・「サグリ株式会社 坪井 俊輔」
・「AMI株式会社 小川 晋平」
フード & ドリンク アワードの部門賞 入賞企業
部門賞
・美味しさ賞「パプアニューギニア海産 武藤 北斗」
・ヘルシー賞「のらくら農場 萩原 紀行」
・手軽・便利賞「ふく成 平尾 有希」
・ソーシャルグッド賞「土遊野 河上 めぐみ」
・共感賞「パプアニューギニア海産 武藤 北斗」
オーディエンス賞
・「キャビア王国 鈴木 宏明」
・「パプアニューギニア海産 武藤 北斗」
・「門崎(屋号:格之進) 千葉 祐士」
審査員賞
・「パプアニューギニア海産 武藤 北斗」
・「しょうがのむし 周東 孝一」
・「のらくら農場 萩原 紀行」
ここまでは既報の通りだが、ファイナル・ラウンドはここからドラマがある。各アワードのファイナリストは最後の投票の前に、台本なしの3分スピーチに臨むのだが、ここで審査員たちの心を大きく動かした企業が優勝を飾る。各社のスピーチのハイライトを勝手ながら選んでみたのでご紹介したい。
デザイン & イノベーション入賞7社のスピーチハイライト
「歩くぐらいの速度の体験価値を最大化して、生活を豊かに」
「初めて自転車に乗った日、初めて原付に乗った日など、人によってさまざまな思い出があると思います。自由に行きたいところに行ける、そして行きたい範囲が急激に広がる楽しさ、そういったものを提供したい。
皆さんの旅の中などで楽しかった思い出を思い返してください。それって、予期せぬ出会いだったり、そのときの風や空気だったり、あとはトラブルだったりしませんか? この予期せぬ出会いや発見や気づきの起きるスピードってどれくらいでしたか?
歩くぐらいの速度や、せいぜい自転車ぐらいの速度ではなかったでしょうか? そういった速度での体験価値を最大化する。立ち止まれる速度から自転車ぐらいの速度、そういったモビリティを開発しようと思って今回の『ストリーモ』というプロダクトを開発しています。
我々のモビリティは、最初は結構シニア層の方、ターゲットにお客様が多いというお話をしました。シニア層の方々もこれで、より行動範囲を広げてもらいたい。もう一度遠くまで自分の行動範囲を広げて地域を活性化したり、生活を豊かにしていただきたい、そんな思いでプロダクトを作っています」
「トポロジカル物質の活用で、技術立国であることを改めて証明していく」
「我々はトポロジカル物質というノーベル賞級の発明を使った革新的な半導体デバイスおよび電子デバイスの開発を行っている企業です。
我々の技術は、大変地味です。手に持っているものが、我々の技術です。何も動かない、ただの板に見えるようなものです。皆さんの製品を作るために買う部品の中に組み込まれるセンサー、中に組み込まれるマイクロチップ、こういったものに使われる基本技術です。
日本は、もともとこういったところが得意でお家芸で、そういった産業構造だと思っております。ただベンチャー界隈では非常に少ないので、それに対するアンチテーゼということも僕らはやっていきたいですし、このデバイスが本当にありとあらゆる工業製品と工業製品を作るありとあらゆる生産設備に当たり前のように入っていく世界を実現したいと思っています。
もともと鉱石ラジオにしか使われていなかった半導体が、いまや皆さんが持つありとあらゆる電子製品に入っています。第二の半導体産業の中核企業として、日本が技術立国であるということを改めて証明するとともに、競争力があることを証明していきたいと思っております。
非常に地味な技術なのでこういった機会は本当に有難いですし、もし興味を持っていただけたら、ものは試しだと思って皆さんの製品に組み込む評価などもさせてください。そういったところから新しい用途が生まれていきます」
「障害の有無にかかわらず、暮らしやすい社会、働きやすい会社を作っていくのは、誰にとっても価値がある」
「本当にソーシャルグッド部門賞しか獲れる可能性は無いなと(笑)、この出場される面々と審査基準を見た時に、この部門賞にかけるしかないと思って、メンバーを選定して企画も練ってきましたので本当に嬉しく思っています。
キックオフのときに、ある日突然皆さんが事故で首から下が動かなくなったらどうしますかと縁起の悪い話をしましたが、本当に人生何が起こるか分かりません。私の姉は生まれつき重い障害があって、4歳のときに突然この世を去りました。それをきっかけに父が作ったのがテクノツールという会社で、母は大学に入り直して特別支援学校の教員として定年までずっと働いていました。
そのおかげでこの舞台に立てているので、あながち悪いことばかりでもないと思うんですが、自分がいつ障害者になるか分からない、誰かにとって大切な人がいつ障害者になるか分からないので、障害の有無や身体の状態にかかわらず、暮らしやすい社会、働きやすい会社を作っていくのは、誰にとっても価値があると思います。
特に働くというところは、本当に社会とつながるきっかけになります。新しい人間関係ができるし、役割や責任も負うことになり、収入を得て働く以外の私生活を充実させることもできます。なので僕らは、働く部分をもっとやっていこうと考えて、2023年に就労支援事業所を創ります。
ここは従来の就労支援事業所では受け入れられないような重度の身体障害のある人たちが、僕らのテックを使いながら、仕事をする。そういうロールモデルをたくさん生み出していこうと思っています。
日本社会にとって人材不足は本当に大きい問題で、2030年には600万人足りなくなるという試算もあります。その差を解消するには彼らのような人材とテックを掛け合わせてやっていくしかないと思うんです。僕らが普段接している人たちは、実は皆さんにとっても貴重な働き手や顧客になるかもしれない。そういう可能性が本当にあると思っています。
今年の夏ぐらいには事務所を開く予定なので、ぜひここにまず遊びに来ていただいて、こういう可能性あるんじゃないかな?みたいなディスカッションをさせていただいて、Co-creationの種を何か一緒に創れたらうれしいなと思っております。お待ちしてます」
「いつかこの場にアクセシビリティ賞ができるまで突き進む」
「私たちが1つ軸にしていることがあります。
それはアクセシビリティというものです。視覚障がい者にとってのアクセシビリティは非常に重要で、サービスも、プロダクトも、すべてにおいてアクセシビリティというものを非常に重要視しています。
例えば、私たちは今クラウドファンディングをやっていますが、皆さん目を閉じて振動するデバイスを見たことも触ったことも無く、クラウドファンディングで8万円するものをポチッとするのはたぶん、なかなかしないんじゃないかと思うんですね。
どうすれば彼らに分かっていただけるのか、体験いただけるのか、そういったものを私たちは日々、血眼になってやっています。
どう箱を開けて、どういうところからダウンロードしてもらって使いこなしていくか、実際プロダクトを使うところも、靴に取り付けておけば玄関から普通に行動して、出かけるときにスマホさえ使えればプロダクトが使えるようにデザインできるんじゃないかとか、いろんなことを一気通貫して考えてやっています。
その軸に添って今後広げていくことを大きな強みだと私たちは思っていて、特許も取っています。それでも中国では抜かれていくかもしれない。ただこのアクセシビリティについて蓄積したノウハウは絶対真似ができないと思っています。
それをもって海外に私たちのプロダクトをどんどん出していきたい。市場規模164万人しかいない日本だけではなくて、2億人以上いる世界に届けていくことで社会全体の課題をクリアしていく。そういう目標でやっていますので、いつかここの場にアクセシビリティ賞ができることを祈って突き進んでいきたいなと思っております」
「これからの電動社会にバッテリー充電で対応しきれない領域がある」
「本来今日ここで今拍手を受けるべきは僕ではなくて、技術者だと思っています。うちは大学、豊橋技術科学大学という大学発ベンチャーです。もうその名の通り技術と科学の大学で、ものづくりが大好きなチームです。
このワイヤレス給電の市場の歴史はいろいろあるのですが、今、世界のワイヤレス給電というのは、いかに効率的により大きい電力をワイヤレスで飛ばせるかというのが大きなトピックになっています。
その中で1人の男がそれとは全く違う領域に挑戦し始めて、それではこれからの電動社会に対応しきれない領域があると信じて、そこから15年、ようやくできたのがここでお見せした走りながら給電する技術です。なので本来僕というよりもこの技術を信じ抜いてここまでやってきたこのメンバーが、この拍手を受けるべきだろうなと思っています。
我々の技術の一番のポイントは高周波で電力を送るところです。今まで高周波というのは放送や通信ではよく使われていますが、電力を送る、しかもバスやトラックなどの車に送るぐらいの電力は、あまり考えられていなかった技術です。
それを解決して、大きいバッテリーを積む必要なく動いていける、そんな社会を目指します。これから本当にカーボンニュートラルを目指していくならば必ず必要になってくる技術だと思っています。我々は電気を充電するという概念そのものをなくしていきたいと、信じて目指しています」
「衛星データで世界の農家の所得向上に貢献し、脱炭素社会を牽引するような企業に」
「世界では食糧危機や、気候変動などさまざまな課題があり、それが農業の現場に直結しています。さまざまな弊害を受けて農業生産が思うようにいかない。そういった状況を私は現地で目の当たりにしてきました。
それをなんとかしたいと私は学生の頃より思っていましたが、どうにもできない時期がありました。あるとき私は衛星データというものに出会いました。衛星データは地球上のあらゆる場所を解析することができる、宇宙から降ってくるビッグデータです。
このデータが無償で商用利活用可能であると知ったときに、これは途上国の農業現場を解決できるのではないかと思ったんです。そしてサグリを立ち上げ、途上国の現場にもう一回行きました。すると土壌や肥料に数々の課題があるという声を農家さんから受けました。
なので私は衛星データから土壌分析をすることを通じて、圧倒的に安く、農家さんにその情報を届けようと思ったんです。それを世界中のあらゆる地域に届けていきたい。そう思ったときに、農地の区画が必要でした。しかしそれを農家さんに書いてもらうのはすごく大変なんです。
そこでこの区画を作るためにこれも衛星画像から自動で区画を作る技術を開発しました。農家さんはワンタッチで農地を登録できるようになって、その登録した農地で土壌の分析を得られるようになりました。そして肥料の削減につなげることができています。
グローバルの農家さんを支援する組織と連携をしてタイやインド、そして最近ではアフリカ、ケニアまで進出できています。そしてこの土壌の分析は脱炭素にも資する技術として評価をされています。肥料を削減できると温室効果ガスの削減に貢献でき、それがカーボンクレジットとなって農家さんの新たな収入につながることが分かりました。
例えばインドでは、それが5〜10%の所得を向上させることにつながっています。我々サグリは衛星データ、そしてAIを通じて世界の農業の現場に営農情報を届ける。そして農家さんの所得向上に貢献します。そして脱炭素社会を牽引するような企業になっていきたいと思っております」
「7年前は、周りの医者からできるわけがないと反対された」
「私は7年前に1人で会社を作りました。そのときやったことは、100円ショップでペン立てを買ってきてハサミで切って、そこに電極を入れて普通の聴診器にマイクを入れて、こういうのを作りたいっていうところから始まっています。
まあ当然ですが周りの医者からできるわけがないと、全員から反対されました。その後も少しずつ試作を繰り返して、形を変えたり、素材を変えたり、筐体の素材を変えるだけでも音は変わってしまうんですが……少しずつ試行錯誤して、何百パターンも少しずつ改善してアンプを変えたり、4年目ぐらいでガラッと全部生産から変えるなどもやってきました。
今回ブースでは、服の上から聴診器を当てても音が聞こえるんだと驚いてもらったと思うんですが、実際は肌に直接当てることを推奨しています。でも体験していただきたくて、ブースで脱いでいただくのはなかなか体験してもらえないだろうということで、服の上からやる方法はないかと、直前ながらあのような形にしました。
ディープテック、リアルテックというのはすごく難しいと思います。まずお金がかかります。時間がかかります。そして医療機器となると何より薬機法という制約があって、いろんな縛りがあるんですね。発言できることとかも限られています。ですが、今の私の想いをお話いたします…」
フード & ドリンク アワード6社
「自分の運命を変えてくれたチョウザメの、絶滅する運命を変えたい」
「キャビア王国の国王、鈴木 宏明です。この2日間で皆さんに少しだけキャビアのことだけではなくチョウザメのことについても知っていただけたかなと思っております。
私は約10年前、宮崎に帰ってきました。田舎嫌いの私に居場所はありませんでした。そんな居場所がなくて悩んでいたときに、家業の有限会社鈴木組で私はチョウザメと出会いました。
そしてチョウザメを養殖していくことにだんだんハマっていったんですが、なかなか大変なことが多かったです。しかしそれを乗り越えて作り上げた平家キャビアは、私にいろんな出会いと経験をくれました。それだけではなく私に『キャビアの人』としての居場所をくれる大事な存在となりました。
そんなチョウザメが2022年の7月、絶滅危惧種に認定されました。レッドリストに載り、絶滅への道を一歩一歩歩いていく魚と認定されてしまったんです。チョウザメは私の人生を変えてくれたと思っています。だから私は絶滅するというチョウザメの運命を変えたくてこの事業をやっています。
ここで皆さんとお会いできたのも何かの縁だと思っております。1カ月、いや、1年に1回でもいいです。ぜひ僕のチョウザメやキャビアを食べて、僕と共になくさない社会を作っていただきたいと思います。ご協力よろしくお願いします」
「熟成肉の究極形、牛醬。黒毛和牛の価値を引き上げるためにこれを作った」
「牛醬をなぜ作ったのかというと、社会課題を解決する目的があったんです。
黒毛和牛を育てるのは、種付から含めると40カ月前からやっているんです。で、なおかつ値段を決めるというときは枝肉の状態になって、購買者が競り合って値段が決まっていくので、生産者は値段を決めることはできないんです。
40カ月も愛情をかけて育てたものが、最後自分で値段をつけることができない。この課題を解決するために1999年に格之進は創業しました。創業当時から1頭買いで、すべてを使うという前提で商品を開発してきました。そして、このお肉がどこまで普通のものと違うのか、それを立証するために熟成肉というものを20数年前から開発してきました。
その中で熟成肉の究極の形がこの牛醬です。熟成肉になるとアミノ酸が増えるとよく聞きますね。この牛醬は、原料の状態から牛醬になるとアミノ酸値が約30倍に増えます。人間にとって必須栄養素といわれるアミノ酸が効率良く摂取できるので、美味しいだけじゃなくて健康にもとても貢献する商品だと思っています。
この商品はお肉の、黒毛和牛の価値を引き上げるためにとても必要なものです。そしてこの黒毛和牛で作った調味料、これをこの日本を代表する共創コミュニティのICCから世界に食文化を発信する、そんなことにチャレンジしております。ぜひ皆さん、応援よろしくお願いします」
「農家としての私を育ててくれていたのは、食べてくれている皆さんだった」
「ソーシャルグッド賞、ありがとうございます。とても感動しています。農業を始めて、ずっと私は食べ物を育てて人の力になりたい、私は人の支えになっていると思って生きてきたんですけれど、農家としての私を育ててくれていたのは、ずっと食べてくれている人、皆さんだったんですね。今回もそう思いました。
99:1というのが、日本の現状にあります。今の日本では100人いたら99人が食べる人で、1人が作る人という農業人口の割合。そしてその1人の平均年齢は約68歳。私は13年前にその世界に入りました。
99:1なんだから全部1人でできるようにならなきゃいけない。そう思って里山で、両親のもとで農業を始めました。でもなかなか農業って思うようにいかずに、自然相手に、思うようにならないけれど1人で頑張る。
もう1つ、農業の現場に入って一番感じたことは命を育てて、命を育てるあったかい仕事かと思って入ったら、養鶏を山奥でやってるんですけれど、畜産農家は鶏を育てて、その生き物の命を、命の長さを決めて、人間の先頭になって、立って、他の命に手をかける。命を奪って生きる仕事っていう現場に触れたんですね。
それで、すごく99:1で1人だという孤独感と、そして罪悪感が、だんだんつのっていきました。だから私はもしかしたら分かる人だけが分かってくれればいいと、壁を作り始めていました。
農場見学会というのを両親の代からずっとやっていて、ある親子が来て鶏を絞める体験会の中で、実際に目の前で見せようとしたら、親御さんが、子どもがその瞬間を見たら、から揚げが美味しく食べられなくなっちゃうかもしれないから、止めておきますと言われました。
食べることと命をいただくっていうことがこんなに離れてしまっているのか。ショックでした。
でもそこで私に救いの手を差し伸べてくれたのは、あるシェフでした。絞めた鶏を使って料理の一品にして出してくれて、それを食べたお客さんが見に来て、生きてる子たちに『この子たちの命をいただきました、ありがとう』と言ってくれました。
私は人と大地の絆を結んで、命のつながりを伝えるために農業をやっています。その命のつながりを体感してもらいたいとこれからも思っているので、ぜひ一度里山にいらしてください」
「子どもを授かったからこそ未来につなげる、サステナブルな水産業を」
「真鯛とトラフグの養殖を行っている創業63年の会社で、祖父の代から養殖業を営んでおります。祖父と父がずっとやってきた伝統ある養殖技術をもとに、今までは育てるプロでしたが、これをいろんな方に届けたい、でも離島だとなかなか届けるのに新鮮な状態で届けるのが難しいという課題がありました。
そこで私たちが最新のテクノロジーを取り入れて、遠い世界まで届けられるようにした魚を今回皆様にご試食いただきました。美味しさを伝えられるように頑張ってお話をさせていただきました。
私は実は三途の川を渡る手前のところまでいったことがあります。これからの未来につなげていくために、現在私たちの地域で激減している水産業をサステナブルな水産業にするために、こちら、今開発したFiresh®という新商品を、世界の子どもたち、未来を担う子どもたちに届けていきたいと思っています。
奇跡的に子どもを授かったからこそ未来につながる、子どもたちに残せるものを小さな島から届けたくて、商品をご用意しました。いろんな形でたくさんの方に知っていただきたいです」
「食べ物を苦しみながら作らない。何をするか自分で決めるのは、人間にとってパワーになる」
「2日間本当にありがとうございました。たくさんの方に食べていただき、めちゃくちゃほめていただいて、もうそれだけで今まで頑張ってきたかいがあったなと思いました。それと同時に35年以上この会社は続いているんですが、パプアニューギニア一本、彼らに感謝しかないとつくづく思いました。
彼らが続けてくれるからこそ、僕らはこうやって食べることができるし販売することができる。彼らの顔がなんか思い浮かびました。一緒に船に乗ったときに、俺らのエビは世界一なんだって本当に自信を持って言っていて、頑張って売っていこうと思いました。
好きなときに来て働くという僕らの働き方について、たくさんの方から質問と共感の声をいただきました。今は自慢していますけども、実は昔は監視カメラを付けて縛ってこそが工場だと思っていました。悪気があったわけでもなくて、工場にとってはそれが一番いいと思い、会社のために、なんなら従業員のためにと思ってやっていました。
でも東日本大震災で被災してすべてが流されて、僕はなんで生きてるんだろう、なんで働いてるんだろうと真剣に悩むぐらいに考えて、その結果行き着いたのが、やっぱり僕らは生きていく中で苦しみあって生きていくのでは駄目だということです。
自分が経営者として何をやっていくかを考えたら、従業員の人たちと苦しまずに、一緒に、人間を作るこの食べ物をどうやって作っていったらいいか考えるようにしました。
そしてフリースケジュールや、嫌いな仕事をしないというやり方、一見むちゃくちゃのように聞こえるんですが、これは自分ですべてを決めるっていうことなんです。何をするかを自分で決めていくことは、人間にとってすごくパワーになります。
いつの間にか僕の周りに障害を持っている人たちが一緒に働くようになっていました。それを目指していたわけじゃなくて、働きやすいことを目指したら、そういうふうになっていたんです。組織はしなやかで本当に強い。これは僕らが食べ物を扱ってるからという、誇りを持ってます。
その誇りを今回、審査員の皆さんも一緒に、出展した皆さんも、そしてICCのスタッフの皆さんと本当に共感できたと思っています。この想いを大事にこれからも生きていきたいと思っています」
「土の設計次第で、野菜の味も、働く人の環境も変わる」
「今回はにんじんのジュースと3種類のスープをお持ちさせていただいたんですけども、これを売りたいってわけじゃなくて……土の設計の可能性をお伝えしたいことに、さっき気づきました!
(会場笑)
いろいろ味付けをしなくてもちゃんと土を設計すると、野菜の味が濃く出る。雨が降らなかったりして、今(2023年2月)は天候がきついんですよ。そのときに土の中に鉄分がきちっとバランス良くあると、土の奥深くまで根が張るんです。人間と同じで鉄分には赤血球、ヘモグロビン、酸素を運ぶ力があるので、無酸素の地中まで根が伸びる力がつきます。
逆に長雨のときに肥料が流されて地下水までいくと、地下水が富栄養化します。でも根が深く張るとそれをキャッチするチャンスが増えます。植物が根から根酸(こんさん)を出して土のミネラルを溶かして、野菜のほうに送ります。この根酸が豊かに分泌するような土の設計をすれば、ミネラル豊かな野菜が採れます。
いんげんの土壌に酒粕を組み込むと、すごい鈴なりになりました。いんげんの収穫は人によってスピード差があって、遅い人はだんだんつらくなってきます。遅くなるのは、いんげんを探す時間がかかるからですが、鈴なりになると一視野の中にたくさんあるので、迷う時間がなくなって収穫スピードがめちゃくちゃ上がるんです。
ピーマンには酒粕プラス亜鉛を強化しました。亜鉛は生殖能力を司り、人間の場合は男性の不妊になると亜鉛剤を処方されると思います。ピーマンも一緒で、花も実もたくさんつきます。そうすると1つの木からたくさん採れるので、炎天下のピーマン収穫がすごく楽になる。
こんな感じで土の設計は、味とか栄養価もあるんですけども、労働環境にも影響を与えることができる。僕らは植物工場のような最新鋭のテクノロジーじゃないんですけども、普通の路地の畑でこういうことができる可能性をずっと磨いてきて、これからも磨いていきたいと思います」
「一つひとつの反応がとてもうれしかった」
入賞・ファイナルラウンドの受賞結果は上のスピーチで合わせて紹介したが、ここまで熱いスピーチ13人が続くと、むしろ審査員のほうが圧倒されてしまったのではないだろうか。
投票用紙が回収され、ファイナル・ラウンド最後の集計が終わって発表された結果は既報の通り。
▶【速報】「デザイン & イノベーション アワード」のグランプリはAI搭載の進化した聴診器で医療革新を起こす「AMI」(ICC FUKUOKA 2023)
▶【速報】「フード & ドリンク アワード」グランプリは、土の設計からこだわった、高栄養価な野菜づくりを実現する「のらくら農場」!(ICC FUKUOKA 2023)
各グランプリが発表されると、AMIの小川さんは感情が高ぶった様子で語った。同日、リアルテック・カタパルトに登壇したが無冠。しかしついに完成した「超聴診器」を初めて体験してもらうという記念すべき場でグランプリを獲得したことに、心を動かされているようだ。
小川さん「実はブースを出して皆さんに触ってもらうというのは今回初めてでして、どんな反応をもらえるのかドキドキしていました。実際にスピーカーから自分の心音を聴いてもらったりして、心電はとか、このウェブ心電図ってこうやってみるんですねとかという一つひとつの反応がとてもうれしかったです。
ディープテックは3つ難しいことがあります。時間がかかる、お金もかかる、あとはやっぱり触ってもらわないと良さが伝わらないというのがあります。
スライドとかでこういうのが作れますとか、こういう感じで頑張りますと言ってもなかなか伝わらない中で、あんなふうに実際触ってもらって感想や質問を聞いて、それに対してコミュニケーションを取ることができ、それこそがCo-Creation、このICCの場だなというのを改めて思いました」
実は最後のスピーチ後半、小川さんは起業家としての情熱、信念、開発にかけるこだわりを熱く語った。それは専門家にしかわからない領域の内容だったが、薬機法などが厳しく、ここで紹介することはできない。
ただ伝わったことは、テクノロジーがあれば、人の命はもっと救えるということ。そのために小川さんたちは今回展示した「超聴診器」について、もっともっと研究開発を進めていくということだった。たった1人で始めた挑戦と、仲間と一緒に7年かけて完成させたその努力に、会場は惜しみない拍手を送った。
フード&ドリンクの優勝は、誰がグランプリとなっても驚かなかったが、のらくら農場の萩原 紀行さん。萩原さんは本当に驚いた様子で、感想を求められて笑いを誘った。
萩原さん「本当にありがとうございます。ここに来た意義をさっき気づいたのに、あの、本当にすみません、ありがとうございます(笑)。
今回、同じ食に関わる人たちと、仲良くなれたのが一番収穫かなと思います。皆さんの心意気を見ていると、ニーズって何だろうなとか思うんですよね。
大人が買うんですけど、そこにあまり子どもの意思は入ってない。そうするとなんかあんまりニーズに従うっていうよりは、関わる大人が勝手にこっちのほうがいいだろうと思って、仕事をしていくしかないのかなと思ってます。魂ある作り手の方と出会えたのが本当に一番の財産でした。本当にありがとうございます」
最後は時間いっぱいになって駆け足になったところもあったが、ファイナルラウンドが終わったあとの映像インタビューでは、グランプリの2組から、落ち着いてコメントを聞くことができた。
小川さん「アワード会場で、ブースのパネルの設計から、ここに何を置こうとか、椅子を置いて体験してもらおうとか、服の上から体験してもらったらどうだろうかとか、いろんなことを話し合いました。少しでもいい体験をしてもらって、共創の場にふさわしいブースにしようということでチームで頑張ってきました。
本当にチームでとれた優勝だと思うので、いつも以上に、1人でピッチとかで獲った以上に嬉しいです」
のらくら農場の萩原さんも驚きから落ち着いて、「土の設計」に込められた意味や、参加したいきさつを語ってくださった。
萩原さん「多分医療と栄養学と農業は親和性が高くて、距離が近いはずなのに、結構開いてるんです。それをみんな一緒の同じテーブルについて、これからどうしていくか、今こんな傾向になってるけどっていうのをちゃんと話し合える、そういう社会ができてったらいいと思っています。
できていかないと医療費が減らないし、社会問題を解決するとき、農家が畑に肥料をまくときに、そういうことを意識してやっていくような感じになれたらいいのかなと思ってます。
普段は長野の標高1,000mの八ヶ岳の北のほうで年間で50~60種類ぐらい有機栽培で野菜を作っていて、そこから1人で出てきたんですけど、皆さんちょっとすごすぎて、なんかもうお呼びじゃないかなって思ってたぐらいです(笑)。
本当に今回お誘いいただくまで、すいませんが僕はICCのことを知らなくて、後から意義を知ればいいかなと思って来たのですが、たくさん意義を知ることができました。
最初に聞いたときは、日本一怖いプレゼンの場って聞きました(笑)。真剣じゃないとだめなので、ある意味そうなんですが、特にフードのところは、非常に優しい空気が漂ってたというか、もうスタッフさんから、ブースの生産者さんたちも、みんな気のいい人たちで、居心地が良かったです。
審査してくださる方や試食をしてくださった方も本当に温かい言葉をかけていただいて、普段畑にこもりきりなもんですから、久々にそういう生の声を聞かせていただくことができました。
すごい中山間地で畑はちっちゃいんですけれども、スタッフがみんな若くて本当に一生懸命いつもやってくれてます。あんなに夢中で農業をやってくれてる人達がいるっていうのは、本当になんかこれからの希望だなと思ってます。
スタッフのみんなへメッセージ? びっくりだよ、なんか優勝しちゃったっていうか、いつもありがとう(笑)」
取材が終わると、萩原さんはフード&ドリンクアワードで審査員を務めたわざわざの平田 はる香さんを見つけて手を振った。
平田さんは、今回わざわざでも取引のある萩原さんとパプアニューギニア海産の武藤さん、つまり優勝と準優勝の方々をアワード出展候補に推薦いただいていた。前回のクラフテッド・カタパルトで2位に入賞しており、おそらく萩原さんに「ICCは日本一怖いプレゼンの場」と伝えた人だろう。
平田さん「初めて審査員として参加させていただいたんですけれども、直接生産者の方にお話を伺って、それで食べるということがまず普通はないと思うので、それがすごく魅力的な体験で、面白くて楽しいという気持ちになりました。
2位になった、パプアニューギニア海産の武藤さんも1位ののらくらさんも、ものはもちろん最高な上に思想もそこに乗っている素晴らしい取り組みをされてる方々だったので推薦したんですが、まさかワンツーフィニッシュになるというのは、もうちょっと感動しすぎて、ずっと社内にリアルタイム実況してました(笑)。もうめちゃくちゃ嬉しかったです。
ただものづくりだけでなくて、サスティナブルとか、働き方とか、今の状況、社会の問題意識を持って取り組んでおられるお二人だったら、絶対ICCでいい出会いが生まれるだろうと、まさにCo-creationが生まれるんじゃないかっていうことで推薦させていただきました。
デザイン & イノベーション アワードは、正直時間がなくて見に行くことができなかったので、ファイナル・ラウンドでお話を聴いたんですけれども、3分のスピーチを聴いているだけですごく体感しなかったことを後悔したというか、次は絶対回りたい。こういう人たちが日本の未来とか生活を変えていくんだと実感できて、すごくよかったです」
◆ ◆ ◆
日頃ラボや現場にこもる技術者たち、自然に向き合う生産者たちから、プロダクトの解説を聞き、体験するこの2つのアワード。作るものは異なってもどのカテゴリの出展企業も、社会によりよいソリューション、よりよい未来を作るための挑戦という点で一致していた。
ガーディアン・アワードも含めると3つになったICCアワード。回を重ねても素晴らしい事業者が日本各地から次々と出てくる。次回ICC KYOTO 2023ではさらなるカテゴリ分け、拡大を予定しており、素晴らしい事業を1つでも陽の当たる場所へ、世の中へ伝える舞台を創るための挑戦も続いていく。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成