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多様で実力派の10組が登壇、ICC KYOTO 2023スタートアップ・カタパルトの成熟

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9月4日~7日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、STUDIO石井 穣さんが優勝を飾ったスタートアップ・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください


 スタートアップ・カタパルトを学校に例えるなら、公立の中学校のような感じだ。学区の中にいるさまざまな人たちが集まってくる。住んでいる家族や職業はさまざまで、生い立ちも背景も違う。受験を経て同質性が高まっていく高校や大学よりも、中学校はバラエティに富んだ人たちが集まる。

 様々な背景を持つ登壇者たちに共通することがあるならば「事業を通して課題を解決する」「既存のものにチャレンジする」という姿勢だろう。そんな10人が、今回もスタートアップ・カタパルトに集まった。

「ICCスタンダード」誕生の背景

 もうひとつ、登壇者だけでなく会場に集まった人たち、もしかしたらライブ配信を見ている人たちもをも結ぶものがあるとしたら、今回プレゼンが始まる前に発表された「ICCスタンダード」だろう。ナビゲーターを務める運営スタッフ3名を紹介したあとの、ICC小林 雅の説明である。

小林「ICCスタンダードは、ともに学び、ともに産業を創るために、全参加者に求められる3つの基本です。

まずは『一生懸命やりきる』。カタパルトは準備も大変、結果も出てしまうので大変ですが、最後までやりきってほしい、努力が報われる場であってほしいと思います。

『挑む人の応援者たれ』、この場にいる人や審査員は、そんな彼らの応援者になってほしい。斜に構えるのではなく、できるだけ大きな拍手や、声をかけることによって、産業や社会は必ず前進すると信じています。傍観者にならず創る人に、創らないのならば応援してほしいというのがICCの強いメッセージです。

『全員対等、全員真剣』、僕らの参加者は下は中学3年生から上は60代までいます。登壇者もスタッフも上下はなくて、全員対等です。前回のゴルフコンペの優勝賞品としてICCサミットの無料の参加券を渡したら、三栄商事の後藤さんは娘さんに渡しました。20代30代で参加している人が多いと思うのですが、中学3年生で参加したら、とても刺激を受けると思いませんか?」

 ICCスタンダードの内容は、今までスタッフが集まった場で語られたりしていて、暗黙の了解としてあったものの、明文化されていなかった。スタッフはボランティアのために流動的で、毎回約3割が入れ替わる。それでも同じ方向を向けるようにと、ベテランスタッフ有志が発起人となり、スタッフのための価値観を言語化しようというのが誕生の背景だ。

 ICCサミットの最終日に「『言語化プロセス』ワークショップ」を開催する言語化のプロ、中村直史さんをお迎えしてサポートいただくなかで、ICC歴の長い登壇者の方々、ユーグレナ/リアルテックファンドの永田 暁彦さん、石川 善樹さん、DIMENSION宮宗 孝光さん、村上臣さんにヒアリングを行い、ICCの核となる考えをスタッフ以外の視点からも眺める作業を行ったという。

 後日その映像を見せてもらったところ、この3つのスタンダードの内容が表現を変えて、何度となく登壇者の方々からも繰り返された。同じように真剣にICCサミットに対峙していることが改めてわかり、スタッフだけのものではなく登壇者や参加者にも通じるものを、という話になった。

 このICCスタンダードの紹介には前夜祭などで披露されたロングバージョンもあり、そこでは彼らの発言も紹介された。

10名の多様な登壇者たち

 会場に戻ろう。スタートアップ・カタパルト登壇者たちの集合時間は午前7時半。登壇が決まってからの練習の日々、昨晩のチャレンジャーズ・ナイトを経て、いよいよ本番に臨む。教育からSDGs、モビリティ、ヘルスケアからメタバースまで、今回も本当に多様なスタートアップが並ぶ。

早朝から揃って会場にやってきたLX DESIGNチーム

 さまざまな背景を持つ中学生たちと例えたが、それでもやはり、選ばれた10人の登壇者たちである。事業の着眼点、プレゼン力、ポテンシャルなど、多数の応募の中から抜きん出た10組で、ただICCサミット歴が浅いだけである。

 彼らが磨き上げた素晴らしいプレゼンは、カタパルトの全編動画で見ていただくこととして、登壇前に話を聞くことのできたチャレンジャーたちの声をお伝えしていこう。どなたも緊張と興奮が混ざり合った表情で、熱心にお話をしてくださった。

「ソーシャルの力で、限られた人だけが利益を得られる世界を変える」

金融のバックグラウンドは全く無いというWoodstockの河本さん

 まずは、現在の生活に欠かせないほど入り込んだ、スターバックスやアマゾン、ネットフリックスといったアメリカの大企業にスマホアプリで気軽に少額から投資をスタートでき、資産を増やせる仕組みを作っているWoodstockの河本 太輔さんから。

「皆さんあまりに業界が違うので、どう評価されるんだろうか?と思いつつも、こうやって同じように頑張っている人たちを見て僕らも刺激を受けながら、僕らのビジネスの魅力を少しでも会場にいる皆さんに伝えることができればいいなと思っています。

僕らはtoCのビジネスやっていて、今日ここに来てくださってるような意識の高い方々にまず使って欲しいです」

そもそもなぜこの事業に着目したのか。

「この仕事をする前はTwitter(現在のX)で働いていて、日本のいろいろな産業がソーシャルの力によって変わってきてるのを目の当たりにして、ソーシャルの持つ力ってすごいなと思ったんです。特に閉じていた世界をパブリックにするのがソーシャルの強さだと思う。投資なんて特にそうなんですよ。

こっそり教え合うとか、限られた人だけが利益を得られるような、そんな世界を変えていかないといけない、そこを変えられるのはソーシャルなんじゃないかって思うんです」

業界出身でないがゆえの型破りなアプローチは、いままで投資に縁のなかった人たちを引き付けている。

「面白いんですけど、Woodstockのアプリ自体もユーザーの皆さんと一緒に作っていく感じなんです。タイムラインがあって、そこでこれを直してとか、この銘柄を買いたいとか、皆さんいろいろ言ってくれるんです。それでバグを直していったり、今日も僕のプレゼンをユーザーの皆さんがビューイングパーティーしてくれていて、見てくれるんです。

そんな金融サービス、なかなか無いじゃないですか。企業とお客さんがみんな一緒になって、ムーブメントを作っていく。初心者も、プロもみんな一緒になって、そこで会話しながら学んで一歩ずつ進んでいく、そんなサービスになればいいなと」

 Green Carbon 大北 潤さんは、7月にICCオフィスで開催された「カタパルト必勝ワークショップ」で、プレゼンに対する考えが変わったという。前夜のチャレンジャーズナイトでは、プレゼンも事業の中の1つだと考えるようになったと語っていた。

農家のカーボンクレジット創出について説明する大北さん

「7月のカタパルト必勝ワークショップは熱い場で、皆さんの事業にかける想いを聞いて、もっと自分のプレゼンを良くしないといけないということを学びました。

前職はESGコンサルティングの出身で、上場企業向けにコンサルティングをした時に、環境に対してカーボンニュートラルにできない企業さんがほとんどだったんです。それで、コンサルするだけではなくて、実際に削減できるサービスを提供したいなと思い起業しました」

たとえば航空会社など温室効果ガスを減らすことが難しい大企業がある一方、農家はちょっとした工夫で削減が可能で、その削減量を農家から買うことで、大企業は排出量を相殺していくことができる。農家にとっては新たな事業を増やさずに副収入となる。

それが進まない現状、そんなに申請は難しいのかと聞くと「主体が農家さんの場合は、ほぼ100%難しいと思う」とのこと。よくできた仕組みが、なかなか進まないのには理由がある。大北さんたちのような事業がカタパルトに出ることは、課題を伝えるということでも意味があるのだ。

“なりたい自分”になれるポジティブな世界を創る

1人で黙々と練習を続けるリオさん

「白がラッキーカラーみたい」と微笑むXANARIO(ザナリオ)さんは上から下まで全身白でキメている。

前夜の「チャレンジャーズ・ナイト」で話をしたときは、「声が枯れるぐらい練習してきたので、120%の力でぶちかましてきます! この想いを言葉とラップにのせて届けたいと思いますので、ぜひ皆さん、胸に受け止めてくださいお願いします!」とMC風に言い放った。あのあとどう過ごしたのか。

「ちょっとだけ練習して、温泉に入ってから眠り、朝は4時半に起きました。1時間走って30分ストレッチして30分筋トレをするという、もう5~6年以上一度も欠かしたことがない2時間のモーニングルーティングがありまして、それが大変でした。

いつもは5時半起きなんですよ。今日は7時半に来ないといけなかったので、それをさらに1時間前倒しして…それが結構激しかったですね。でも無事終えたので完璧です。バチバチに整ってます。温泉行ってサウナまで行ってたんで、バチバチです。その代わり朝ごはんは食べてないですけど、大丈夫です」

リハーサルも全力投球のリオさんは、出し惜しみない声量でプレゼンしたあと「音小さくないですか?」と言っていた。まるでこれからライブをと言わんばかりの勢いだった。

「ここをライブ会場に変えます。

そして、みんなが“なりたい自分”になれるもう1つの世界を創りたいというメッセージを伝えます」

冒頭はラップ、最後は審査員のアバターをプレゼンで登場させ、会場を沸かせた

そんなリオさんが“なりたい自分”とは?

「僕は、国作りがしたいですね。子どものころから街を作る、島を作る、国を作ると言っていて。王国を作るというよりも、みんなが“なりたい自分”になれるポジティブな世界を創りたいと思っていて、僕はなんかその建国の1人でいいんですよ」

とはいえ爽やかな笑顔は王子のような雰囲気。そう伝えると首を横に振りこう答えた。

「旗振り役なんです。大事でしょ? 今日もガッツで行きます!」

「CO2を最も排出している鉄鋼業。脱炭素の本質的な課題解決を伝えたい」

カタパルトは二度目の登壇、EVERSTEEL 田島さん

 EVERSTEEL 田島 圭二郎さんは前回Honda Xceleratorカタパルトに登壇し、今回は舞台を変えての再挑戦となる。鉄鋼業に入ったきっかけを聞くと、環境課題に取り組みたいと思ったからだそうだ。

「はい、そうなんです。業界がニッチ過ぎて、鉄鋼業の実態を一般の人はほとんどご存知ないですよね。今日は皆さんにそれを知ってもらうことが、何より一番にお伝えできればなと思ってます」

はたから見ると、鉄は枯渇している資源というイメージがなく、回収して溶かして固めればリサイクルできるのではと思っていたが、なぜ田島さんが課題を感じたのか聞いてみると……。

「もともと環境課題をやりたくて、CO2を一番出してる産業はどこなのかを見てみたら、鉄鋼業が一番だったので、それが理由で選びました。

鉄を造るのに電気で溶かす場合に非常に高温にしないといけないですし、鉄鉱石や天然資源を使って鉄を造る時にさらに大量にCO2が出ます。それをなんとか解決していきたいと思ったんです。

リサイクルならば、鉄鉱石から鉄を造る場合と比べてCO2が約70%減らせます。だからスクラップを溶かしてリサイクルをしていきたいのですが、不純物が入ったり、そもそも原料のスクラップの中にいろんなものが混じるので、画像認識でそれを適切に検出して、素材をきれいにする促進をします。

これだけ脱炭素が叫ばれている時代ではありますけれど、実態としてCO2を多く排出している産業の皆さんに意識はなくて、どうしても表面的なブランドや、ポジショントークで脱炭素を語られることも。本質的な脱炭素を目指していくことを、プレゼンを通じて一部でも知っていただければと思っています」

勝負だけでなく、お互いの良さを引き出し、学び合う

 2回目といえば、TURINGの青木 俊介さんも田島さんと同じく、Honda Xceleratorカタパルトを経ての挑戦。今回は特に何を伝えたいと思っているのか。

大きな夢を公言し、日本の製造業を盛り上げたいと語る青木さん

「車を作りたいと思うし、テスラ(米国のEV自動車メーカー)を超える会社を作ろうと創業した、大きい夢と大きい挑戦をする会社で、人も集まってきています。そんな会社のいいところをみんなに見てもらえたらなと思っています。

会社を創業した思いもそうですが、私は製造業やものづくりを盛り上げたいと思っています。

昨晩のチャレンジャーズ・ナイトや、今も待ち時間に他の登壇者の方と喋ってみて、いろいろな方法で産業というか、社会を盛り上げたいなと思う人がいるのは、単純に面白いなあと思いました。

多分このカタパルトって、言い方が正しいか分からないですけど、ただ勝負を決めるというよりも、ずんだ餅と焼き鳥と寿司を集めて、どれが美味しいかみたいなみたいな戦い。人によるかもしれないし、その日の味付けにもよるかもしれないし、もしかしたら去年は美味しくなかったけど、今年は美味しいとかあるんじゃないかな……。

教育からメタバースまで、いろいろあるじゃないですか。いろいろな食べ方とか側面があると思うので、なんかお互いの良さが引きだせる、学び合うセッションになれたらなと思います。

車は産業自体が大きいので、それを忘れちゃいけないと思っています。車、自動車メーカーを作るって難しいことだけど、それができたら社会にとって非常に大きなインパクトがあるし、外貨を稼ぐ手段でもある。

製品や今作っているものなど、今日はあまり外で話してない話をします。社員のみんなが、会社が好きでやってくれている人たちが作ってきたものをここで見せて、反応を見て変更を加えてみるのもありだし、今日はそういう場にもしてみたい。ここには、アドバイスをくれる人がいるから」

上質の日本酒の味わいはアメリカ人にも必ず伝わるはず

 大きな夢といえば、Tipssyの伊藤 元気さんも大きな夢に挑んでいる。アメリカで上質な日本酒の美味しさを伝え、楽しんでもらうという夢だ。

登壇者最後の10番目にプレゼン。試飲として日本酒も審査員席に配られた

「おとといアメリカから飛んで来ているので、すごい時差ボケで厳しいですけど、優勝するつもりで練習してきているので、全力でやりたいと思います。

寿司や日本食がもう一般的になっていて、『SAKE』という単語自体もすでに認知されている状況です。海外の市場としては、アメリカの市場も中国と同じぐらい大きい。でも味わって楽しむ日本酒という理解がまだされていなくて、ウォッカみたいに一気飲みするような雰囲気の飲み物だと思われている。

レストランで出されている、バケツサイズの業務用のクオリティの低い日本酒が、電子レンジで温められて出されるというのが、”HOT SAKE”として一般認知されているんです。なので、吟醸酒とか美味しいものは、ほとんどの人が飲んだことないんですよね。

美味しいものはアメリカ人もやはり飲んだら分かるし、寿司やラーメンなどの今のトレンドを見ていると、アメリカ人が味がわからないのではなくて、美味しいものをしっかりと説明して届ければファンになる、というのが実感として僕は向こうに住んでいてあるので、それを日本酒でやりたいんです。

クオリティが非常に高くて、長い歴史の中で文化として洗練されてきた、日本の伝統産業としての日本酒が海外でしっかりと需要があるというのを、証明したいなと思っています!」

ウェブ制作の作業自動化で、アウトプットの質を高める

 STUDIO(スタジオ)の石井 穣さんは、ICCのウェブサイトを題材に、プレゼン中のデモでいかに感覚的にデザイン制作できるか、ウェブとモバイルの両方を並行して作業できるかを見せた。登壇前のインタビューで予告されていたことだが、実際に見てここまでできるのかと驚いた。

チャットでイメージを伝えると、そのイメージがデザインに反映される「STUDIO AI」

STUDIOのことは、以前から運営スタッフの間でも評判になっていて、ノーコードで簡単にかっこいいサイトが作れると評判だった。石井さんは元々ウェブデザイナーだったという。

「デザインもやるし、コーディングもやっていたのですが、二度手間じゃないですか。デザインを一通り作ってから、また一からコーディングみたいなのが面倒くさいというか、嫌だなと思っていたので、デザインしたらそのまま公開できるようにと、自分が欲しいものを作ったのがきっかけです。

以前もスタートアップをやっていて、共同創業者的な感じでマーケなどもしていました。だからただ言われたものをデザインするのではなく、何がビジネスにとって必要かを考える視点もありました。ビジネス的にもデザイナー的にもいいものをという両面からできたんです。

確かにICCのサイトは、WordPressで作ってますよね? 今日はちょっとSTUDIOと一緒にICCのサイトをデザインしていくので、お楽しみに……(笑)」

誰でも簡単にウェブサイトが作れるようになると、何が可能となるのか。

「サイト制作でコードの壁があったものがノーコードでとっぱらわれて、より多くの人が使えるようになるし、デザイナーもより効率的にレイアウトできるようになるので、アウトプットの質が高まります。作業は全部自動化したいなと思っています。

現状のSTUDIOはノーコードが強みですが、今回プレゼンで発表するのはSTUDIO AIといって、指示をするだけで、デザインをやっていく道具みたいなものです。デザイナーに指示をするような感じで実装できます」

プレゼンでは、言葉の指示で文字のフォントやサイズが変わったり、動画が入ったりと、“アフター生成AI”を感じさせる進化版STUDIOが紹介された。落ち着いた物腰に、プレゼンは慣れているかと思いきや、こういったコンテスト形式のものは初めてだという。

STUDIOはスタートアップというには、すでにユーザーがいて、確立されたブランドにも思えると伝えたところ、石井さんは冗談めかしてこう答えた。

「まだまだ全然これからって感じです。まだやりたいことの二合目、三合目くらい。登っていくだけですが、その先は急なので、滑落するかも(笑)」

悪性度の高いがん細胞を早期発見、治療できる病気に

 セルクラウド中島 謙一郎さんは、血液から全身のがんのリスクがわかる画期的な検査を開発した。血液1滴でがんがわかるとして騒動になったアメリカのスタートアップがあったが、当然ながら全くの別物で、5分の採血で、悪性度の高いがん細胞を直接補足する。

「今までの早期のリスクがん診断は、日本でも、遺伝子検査とか、尿検査とか唾液検査とか、血液検査とかもいろいろあったんですが、がんの間接的な傾向値を見るだけでした。こんな遺伝子が多い人が多いはずだとか、こんな因子が増えている人が多いなど、統計的な傾向を見て、リスクが高いか低いかをアバウトに表示するだけでした。

がんには2種類あって、上皮性のがん細胞と間葉系のがん細胞がある。最初は悪性度が低い上皮性のがん細胞で、それは血管に漏れ出しても自己の免疫ですぐに消されたりして、あまり怖くない。それが上皮間葉転換を起こして間葉系のがん細胞になると、浸潤とか転移の高い能力を持つ、悪性度が高いがんです。

がんは、大きくなる過程で、血管とがん細胞を繋ぐ新生血管を作ります。それを通して血管から酸素や糖分などを吸収して大きくなっていきます。その管を通してがん細胞が血中に漏れ出していきます。

僕たちの検査は、その血中に漏れ出した間葉系のがん細胞だけを特定して捕捉することを可能にしました。それが出たら、全身のどこかにもうすでに浸潤・転移を起こしているがんがある、もしくは今からまさに起こそうとしている性質を持ち出したがんがあるっていうことがわかるんです。

従来の傾向値を計る検査とは一線を画した画期的な概念です。毎年やっていればその瞬間を捉えられるので、基本的には早期のがんが発見できます」

目指すのは健康診断のオプションメニューや基本の検査として入ることだそうだ。本番のプレゼンでは、同僚たちをがんで亡くしたことが語られた。

「簡単なリスク検査ではなく、本当に全身くまなく検査しようと思ったら時間も1日以上、費用も30万近くかかってしまう。脳は脳でMRI、肺はCT、胃は胃カメラ、大腸は大腸カメラでなど、がんって部位ごとなんですよ。だから5~6年ぶりに胃カメラをやろうかみたいな感じになっちゃう。

5分の採血なら毎年できますよね。がんを発見できる機会が圧倒的に増えて、早期発見、早期治療できる。発見されたら、部位を特定して治療すればいいのです。脳梗塞とか、心筋梗塞はいきなり来るので難しいけれど、がんは早期発見さえできれば治る病気です。本当に、がんで苦しんで、悲しむ世界をなくしたいんです」

次世代に、カッコいい大人が人生かけて挑戦する姿を見せたい

セルクラウドの中島さんと談笑するLX DESIGN金谷さん

 教員免許がなくとも、社会人経験、人生経験豊富な大人を子どもたちの「先生」として迎える『複業先生』のサービスを提供するLX DESIGNの金谷 智さんは、この場の雰囲気を楽しんでいる様子だ。前夜から同期の登壇者たちと語り合い、親交を深めていた。隣席の中島さんとも楽しそうに話をしている。

「僕は今日この場に皆さんと一緒に来られていることが何より嬉しい。創業5年目ですけど、チームのみんなとオンラインで聞いてくれる予定の複業先生の登録者コミュニティの方達が世界中からスタンバって中継を待っていただいていて、すごく感動していました。

創業当時1人で起業したときは想像できなかった、こんな未来になって嬉しいなっていう、そんな気持ちです。

いろいろな大企業から新規事業としてこういったことをしたいとご相談いただくんですけど、結局いろいろ検討した結果、実現できないことが多かったんです。別にそれはそれでいいのですが、僕にとっては、やる理由がありました。

例えば教育委員会をゼロから話をしていくとか、学校の先生方と信頼関係をどう作っていくとか。やり始めると途方もないなと思うんですけど、やらない理由もまた無いなっていう感じで、そんな5年間でした。

現在の複業先生は、テック系の会社に所属している方たちから地域のプレイヤー、伝統工芸の作家さんたち、ソーシャルセクターの方たち、海外在住で日本に帰国できないけれど、日本の教育のために貢献をしたいとか、属性、年代、バックグラウンドはバラバラなんですが、地域の教育のために尽くしたいというその一点だけが共通しています」

そこまで話したところで、気迫あふれるXANAのリオさんのリハーサルの音声が会話を遮った。

リハーサル中のリオさん

(リオさん発言「皆さん、このICCの会場、すでにXANAの中にあります! この先には無限の可能性を持つ未来が広がっているんです。皆さんぜひ一緒に誰もがなりたい自分になれる、そして自己実現ができる、新しい居場所、理想郷を共に創りにいきませんか? ……音量小さくないですか? 」)

ステージを見て「大きい!(笑)」と返答した金谷さんは、

「皆さん素晴らしいので、全員複業先生やっていただきたい! 次世代にこういうカッコいい大人が人生かけてチャレンジしてるのを見せていきたい、そう思ってやってます。リオさんもすごくカッコいい。ああいう人が学校の中にいたらいいじゃないですか」

と目を輝かせている。このフラットなスタンスが、従来の学校に窮屈さを感じている子どもたちの居場所を作っているようだ。

「普段学校に行っていなくても『複業先生の授業のある日だけ学校に行きます』という子どもたちがいるんです。それをある意味救いとか、心の支えにして生きている。こんな風に生きてていいんだっていう、ある意味で許しとか承認みたいなものを、その出会いから受け取っているんです。

もちろん学校の先生も素晴らしいです。その人からかけてもらう『大丈夫だよ』という言葉とか、『あなたは最高』というのも大事です。でも先生ではない全然違った立場の大人からもあったらいいですよね。

複業先生登録者の中に、台湾から参加してくれているラグビーのワールドカップの通訳をしている人がいて、彼女は学生時代、学校に行けない、行くのは得意じゃないと、海外に逃げるように移住した。その中でわかったことは、こんなにいろんな生き方があって、当時はあんなに苦しんで考えていたけれど、学校だけがすべてじゃなかったことがわかったという話をしてくれたんです」

力強くプレゼンをする金谷さん

狭い世界のなかで今、苦しんでいる子どもたちだけでなく、複業先生たちの心も、業務過多といわれている教育現場も救っているに違いない。

「『孤独の解消』という言葉を使っていて、子どもたちに僕らは尽くすつもりで創業したのですが、それだけではなくて、関わる大人たちにとっても繋がり合ったりとか誰かのために自分の経験が還元されて喜ばれるというのは、そんな尊い世界観ってないじゃないですか。

それをみんなで創っていける。学校教育をある意味、場としてその機会を分かち合いたいなと思っています。まだシェアで行くと1%。たった1%だから伸びしろしかない。今日この裏にも授業を受けて人生変わるのを待ってる子たちがいるわけで、そういう子たちのために頑張りたいなと思います」

多様な登壇者と同様、多様な審査員たち

 すべてのプレゼンが終わり、このカタパルトのスポンサー企業であるノバセル田部 正樹さんのプレゼンが終わり、投票の集計が進む間は、審査員がプレゼンを聞いた感想を語る。35名の審査員たちは産業を牽引するトップランナーたちで、今回の10名に負けず劣らず、多様な価値観や判断基準に基づいた感想を述べた。

リブ・コンサルティング 権田 和士さん「XANAさんはワークショップのときに使っていたスライドを、1枚も使っていないんじゃないかというくらい入れ替えたうえで、プレゼンを整えてきたのに驚きました!」

ジェネシア・ベンチャーズ 田島 聡一さん「全般的にレベルが高くて感動しましたが、とくにTURINGさん。日本はハードウェアが強いけれどソフトウェアが出てきたらマーケットすべてを取られてしまうというのが、まさにその通りだと思っていて、もう1回、日本発で世界を獲りに行くというチャレンジはすごく素敵だと思いました。

XANAさんは『XANA教』という宗教があったら思わず入ってしまいそうな、強烈なものを感じました(笑)」

DIMENSION 宮宗 孝光さん「2〜3年前はSaaS系サービスが多かったですが、そこから多様になってきたという印象です。私は今回、Green CarbonやEVERSTEELなど、新しくてスケールが大きいところに投票しました」

ユーグレナ / リアルテックファンド 永田 暁彦さん「ここ最近で一番感動して、本当に参加してよかったと思いました。事前に各社のウェブサイトを見ていたときは、Robofull、Green Carbon、TURINGあたりに投票するかなと思っていました。

プレゼンを見る前は、Woodstockのキャット・ストリートにいる若者が1,000円投資とかどうでもいいと、投票に一番遠いと思っていたのですが、二重丸をつけました。

その理由は2つあって、まず非常によく準備されて構築されたプレゼンは、何の興味もなかった者でさえ引き付ける、ファンにしてしまうというのを、このプレゼンで体感したんです。自分の心が大きく動かされたという体験に感動しました。

たとえばテクノロジーや社会課題を訴える人は、そこを磨くことで自分たちの可能性や方向性をもっと伝えられることを再認識しました。

もうひとつ、Woodstockさんは何が社会にいいのかをプレゼンで言わなかったんですよね。まるで小説の終わりのように、自分で考える幅を作ってくれて、それがめちゃくちゃよかった。それでむしろこの人たちが経済的リテラシーを手に入れたときの未来を想像できたんです。

今はソーシャルグッドがあふれていますが、いかに人の心を動かすのかというところで、こういうやり方もある、伝え方が変化するタイミングなのかもと思いました」

Strategy Partners 西口 一希さん「僕はマイノリティかもしれませんが、Tipssyさんが良かったです。純粋にマーケットサイズ、習慣性、継続性、伸びしろが、プレゼンで言っていたマーケットサイズより1桁違うんじゃないかと思います。

ロクシタン在籍時代に、投資家グループで日本酒マーケットというプロジェクトがあったんです。そのときに日本発じゃ無理だとか、通販と物販の両方をやらなければとか、コミュニティづくり、和食と組み合わせも重要とか、足りないものがたくさんあった。それが全部抑えられてるなと、自分のやりたかったことが全部押さえられているので、二重丸をつけました」

セプテーニ・ホールディングス 佐藤 光紀さん「冒頭の『複業先生』で心を撃ち抜かれまして、その後の採点が大変でした(笑)。皆さんがおっしゃるように後半のプレゼンターにかけて印象が変わってきて、トラクションも含め大きな課題を解決する方がどんどん出てきた。

EVERSTEEL、STUDIO、Tipssyに投票しました。ローカルの課題だけでなく、パッションで世界の課題を解決するというところにまっすぐ向き合っている起業家のスケールを感じました。

そういう起業家が生み出されるには、教育が変わることが大事です。それで最初に立ち返りまして、ここに登壇されているような方々が10倍、100倍、1,000倍生まれていくための、教育現場の改革に向き合っている『複業先生』に二重丸をつけました。でも皆さん本当に素晴らしかったです」

接戦だった今回のスタートアップ・カタパルト

【速報】“直感的“と”プロが満足“を両立!ノーコードWebデザイン制作を可能にする「STUDIO」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2023)

 全体のレベルが高く多様だった今回のスタートアップ・カタパルト。上の速報にある通り、1位〜4位までは1〜2点差と僅差で、5位のXANAも20点得票と票は割れた。圧倒的上位がいると3位以降は10点台のことが多いが、今回は審査員にとってもし烈な争いだったようだ。

しかし順位は決まり、石井さんが優勝を飾った。驚くべきことは、総取りの優勝賞品提供企業のなかで、NstockNewsPicksUPSIDERエッグフォワードが、すでにSTUDIOのユーザーであったこと。スタートアップにとって、すでに重宝されているサービスであることが垣間見えた。

優勝後の石井さんに登壇の感想を聞いた。

「嬉しいです。今回のためにAIのデモの動画を作り、直前まで動画の編集をしていたので、作り込んだ甲斐があったなって思います。ピッチも最初緊張していたんですが、やる前のほうが緊張していて、始まったらもうあとは楽しんでやりきるだけだなと思ったので楽しめました。

皆さん真剣に聴いてくれて、サービスをお披露目するいい機会だったなと思います。

優勝商品の贈呈企業が皆さん使ってくださっているのは、仕込みじゃないかと思いましたが(笑)、嬉しかったです。フィードバックをたくさんもらいました」

石井さんは、この日の夕方のSession5E「BRUSHUP(ブラッシュアップ) シーズン5」の登壇を控えている。4位に入賞したTURING青木さんとともに登壇し、事業や経営面について、審査員を務めた5人のアドバイザーたちと議論をする予定だ。

「このカタパルトに集中していたので、これから相談事項を含めたスライドを作らないと」

石井さんが優勝を伝えたいのは、これからもっと成長していくフェーズにあるチームだと言い、これをきっかけにどんどん大きくなっていきたいと声に力を込めた。登壇前はまだ事業は2〜3合目、ここからが急勾配になると言っていたが、優勝が少しでも成長の励みになればと思う。

 7月のプレゼンリハーサルのワークショップでメンターを務めた1人、アニマルスピリッツの朝倉 祐介さんは、今日のプレゼンを見て「あの時からすごく内容が変わって、明らかに分かりやすくなり、事業の魅力がストレートに伝わるようになった。ちゃんと試行錯誤を繰り返すことで、こんなにクオリティが良くなるのかと本当にやる意味がある」と感慨深げだ。

恒例!ICC KYOTO 2023の登壇者大集合「カタパルト必勝ワークショップ&公開リハーサル」

カタパルト全体については、他の審査員も述べていたように、登壇者たちの事業が多様であったことが印象に残っているという。

「もちろん事業の一つひとつがとても魅力的だし、プレゼンテーションも本当にレベルが高いですが、それはICCのカタパルトである以上もう当たり前。今回それ以上に感じたのが、本当にいろんな事業があるということです。

ウェブに完結した事業もあれば、よりリアルのオペレーションに紐づいたシリアスな事業まで本当に幅広くて、最終的には審査員がどういう問題意識や興味関心があるか、そういう意味で審査員も非常に試されている企画だと思いました。

優勝したSTUDIOのようにウェブで完結するウェブサービスが、2023年の今、これだけ高評価を受けるのは、むしろ新しいというか、珍しいんじゃないかなと思いました。評価を裏打ちするような利便性や使い勝手の良さ、価値があったからこそだと思えますし、その点で本当にグローバルにスケールし得るプロダクトだと強く関心を持っています。

ものすごく残酷なシステムで、審査員は4社しか選べない。当たり前ですが、みんな強い想いを持って本当に価値のある事業をやっている人たちですから、本当は全部マルを付けたい。非常にもどかしい思いをしながら、心を鬼にして選んでいて、審査員も毎回試されていると思いながら臨んでいます」

 登壇者と審査員、メンターとメンティーが真剣に向き合い、ともに刺激を与え合いながら「より上」を目指す。その真剣な場がありながら、さまざまな事業が並びあう多様性があり、忖度がなく、常識にとらわれない挑戦への称賛があり、応援がある。この場はある意味、スタートアップにとってユートピアを実現しようとしているのではないかと思える。

今回、登壇者たちに話を聞いて新鮮だったのは、「勝負だけでなく、学び合いたい」「素晴らしい皆さんと一緒に登壇できて嬉しい」という言葉を聞いたこと。今まではあまりの緊張感のためか、登壇の前にそういった発言を聞くことがなかった。

ユーグレナの永田さんも「伝え方が変わるタイミングかも」と発言していたが、登壇者の意識に変化が生まれているように思われた。余裕というか、自信というか、より腹を据えた当事者意識が高まっているような印象だ。

今回生まれた「ICCスタンダード」を軸にして、時代の空気を吸いながら、これから私たちの真剣さ、挑戦、応援がどこへ向かうのかはまだ未知の世界だ。しかし、さまざまな分野でよりよい未来を創る志を持つ人たちはここに大勢いて、挑戦者の気概で満ちている。

私たちは一生懸命挑戦する人たちを決して笑わない。どんなに多様な分野であろうと、それに優劣はない。必死にやりきる挑戦者たれ、挑戦者の応援者たれ。未来を創る当事者は私たちだ。それに賛同いただけるなら、ぜひ次回もこの場所に集まってほしい。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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