ICC KYOTO 2024 Digital Transformation(DX) CATAPULTに登壇いただき、見事優勝に輝いた、Malme 高取 佑さんのプレゼンテーション動画【数千枚の設計図を3Dデータ化、土木業界DXで技術継承と効率化に挑む「Malme(マルメ)」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは Saleshub です。
▶【速報】土木設計を紙図面から3Dモデルへ。職人技のDXで業界をアップデートする「Malme(マルメ)」がDXカタパルト優勝!(ICC KYOTO 2024)
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【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2A
Digital Transformation(DX) CATAPULT
Sponsored by Saleshub
高取 佑
Malme
代表取締役
公式HP | 公式X | 個人X
1986年生まれ、佐賀県出身。九州大学大学院修了。2011年に建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツに新卒入社し、ODA(開発途上国支援)のコンサルタントとして、東南・中央アジアを中心に現地政府の政策立案支援や、日系企業の海外展開支援などに従事。2018年にドローンベンチャーのテラドローンに入社。基幹事業の技術責任者として、利益管理や組織マネジメント等に従事。在任中の2年間で売上向上と利益率改善に着手し、事業単体の黒字化を達成。その後は、大手営業や採用も兼務。2021年2月にMalme(マルメ)を設立し、代表取締役に就任。人手不足や技術継承問題が深刻な土木建設業界において、伝統的な土木技術と最先端のデジタル技術を繋ぐためにDX支援を展開している。趣味はテニスで、三度の飯よりテニスが好き。学生時代には365日テニスコートに出没していたのが今でも自慢。
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高取 佑さん 土木設計を自動化するプラットフォームを作っている、Malme(マルメ)と申します。
よろしくお願いいたします。
今日は会場の皆さんに、 土木業界で起こっていることを少しでも深く知ってもらいたいと思って、来ました。
私たちMalmeは、「ドボクをアップデートする」をミッションに集まった、土木技術者によるスタートアップです。
土木は、橋や道路、トンネル、鉄道といった、私たちの街を囲むインフラを作っている業界です。
土木工事の現場では、緻密な設計計算に基づいて、職人が毎日毎日積み上げて、インフラ構造物を作り上げていきます。
数千枚の紙図面を1つの3Dデータに
私たちMalmeは、そんな土木業界に、2Dの紙図面から3D化する「BIM(Building Information Modeling)」というサービスを提供しています。
現場では数千枚、多い時は数万枚の紙図面が散乱しているのですが、これをまとめて1つの3Dデータにしてお客様にお返ししています。
2Dだった紙図面が3Dで可視化されることで、現場の安全性や生産効率が上がるサービスを提供しています。
お客様は120社で、今期の売上は5億円を目指しています。
大ピンチの土木業界にカムバックして起業
私は代表の高取と申します。
新卒で土木業界に入り、ITベンチャーを経てMalmeを作りました。
一度は土木業界を離れた人間なのですが、外から見て土木業界が本当にまずいなと思い、どうにかしたいという思いからカムバック、起業しました。
土木業界は何がピンチなのか。
端的に言うと「インフラの老朽化」です。
もう少し過激に表現すると、間もなくインフラが壊れはじめるかもしれない。
これを今日、皆さんに知っていただきたいのです。
高速道路、橋、港湾…高度成長期に造ったインフラが一斉に老朽化
例えば高速道路も、造られてからもう60年が経っています。
本当にボロボロです。
今すぐメンテナンスが必要なのですが、きちんと行うには、膨大なヒト、カネ、モノが必要なのです。
この状況は、道路だけではないのです。
土木インフラは色んな分野で、同じ状況が起きています。
そもそも日本は高度成長期に一斉に造ったという背景があり、今、そのほとんどが老朽化しています。
法定的にもう耐えられないとされてもおかしくないものが、日本列島にあふれている状況なのです。
インフラ改修が停滞する理由
ですが、インフラの更新はなかなか進まないのです、それはなぜなのか。
いくつか理由があります。
まずは、「人材不足」。
建設業界には、他の業界に比べて、めちゃくちゃ人が少ないのです。
そして、「労働時間問題」。
ただでさえ働いている業界ですが、ちょうど今年(2024年)から残業時間の規制が厳しくなり、 働き方の改革が求められるようになってしまいました。
▶建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制(厚生労働省)
そして、今日一番伝えたいこと、「技術継承問題」です。
この業界のベテラン技術者は平均65歳と言われており、彼らはもうすぐ一線を退きます。
技術を受け継ぐ若手が圧倒的に足りていません。
このままだと、老朽化したインフラを直すための技術が継承されないまま日本からなくなってしまう…今、そういう状況なのです。
解決の鍵は「膨大な設計プロセスの負担を減らすこと」
この問題に対し、土木業界を代表するスタートアップとして何ができるか、我々は設立から3年半、考えてきました。
その結果、たどり着いた一つの解決の鍵は、 膨大な設計プロセスの負担を減らすことです。
数千ページにわたる図面と計算書を紙とExcelで作成
土木設計は、施工、ものづくりをする前に図面を作って、施工現場のメンバーに提供するプロセスです。
このプロセスは未だに、紙とExcelで行っています。
この作業が過去30年間、変わっていません。
土木設計はどう行われているのか、ちょっと見てみましょう。
ここにドキュメントがあります。
このように計算書や図面が作られます。
膨大なページ量があるのでスクロールダウンをしていくのですが、見てください、今、1,500ページ目です。
一つひとつが、計算書や図面であり、技術者がきちんと思いを込めて、紙とExcelを駆使して作ったものが、合計3,500ページにもなります。
これが、1つの橋を造る際に行われる土木設計プロセスです。
恥ずかしながら、未だにこんなことを行っているのです。
熟練技術者の技術継承が困難
ですが、これはめちゃくちゃ難しい作業です。
これを行うには、ベテランの、緻密な匠のワザが必要です。
ベテランの勘所を駆使し、どんな失敗があってもおかしくない想定で、できる限りミスを避けるように、色々な壁を乗り越えて行われるのが土木設計です。
ですから、簡単にはいきません。
若手にこのプロセスを伝えようとしても、なかなかうまく伝えられず、結果としてベテランの、熟練技術者が自分で手を動かしている。
この状況が続いているので、技術継承もなかなか進まず、人手も足りなくなってくる。
これが、今の日本の土木業界の現状です。
これに対して、ベテランの「匠のワザ」と僕らの強み「BIM」をうまく掛け合わせれば、何かしら価値が生まれるのではないかと考えたのがきっかけで、我々のソリューションが生まれました。
3Dベースのウェブアプリで直感的な設計を実現
改めてご紹介します、弊社のプロダクトは「Structural Engine」と申します。
私たちが強みとしているBIMと、最近盛り上がっているAIを掛け合わせて、ベテランの技を後輩に継承させるプロダクトです。
先ほど見ていただいた、紙とExcelと比べてください。
Googleマップのようなウェブアプリケーション上で、直感的にインフラ設計ができる世界を、僕らは創りたいと思っています。
これまでは、ベテランの方が頭の中で行っていた緻密な作業を、若手でも視覚的に、簡単に、分かりやすい形で行える未来を、僕らは創りたいと考えています。
価値としては、ユーザーはこれを使うことで、75日かかっていた作業を3日で終わらせられます。
400万円かかっていたものが、50万円で済みます。
こういったメリットを、お客様は期待できます。
このStructural Engineは、ウェブ上でSaaSとして提供しています。
ですから、ウェブ上のお客様とのトランザクションデータをAIが学習し、設計の自動化、効率化をどんどん進める仕組みになっています。
18社が有料β版を契約
トラクションです。
現在は18社、ARRにして1,000万円ほどの契約を頂いています。
僕らがやりたいと思っている土木設計の自動化は壮大な思想なのですが、その未来が必要だと賛同してくれるお客様が多いのです。
だからこそ、まだ小さい機能しかありませんが、何とか立ち上がっている状況です。
このプロダクトが現場に浸透すれば、紙であふれていた現場が効率化され、ベテランと若手技術者のコラボレーションも促せます。
これによって、僕らが課題だと感じていた人手不足と技術継承を解決する、これが、Malmeが作りたい世界です。
2兆円の土木設計市場の効率化にチャレンジ
それを達成するためのチームが整っています。
僕らには、土木またはITを知っている技術者が集まったプロフェッショナルチームがいます。
彼らは日夜、このプロダクトの開発に向き合っています。
土木設計の市場は2兆円と言われていますが、この2兆円の紙とExcelのプロセスをいかに効率化できるかが、僕らのチャレンジです。
当面はARR 100億円のプロダクトないしサービスを目指して、研究開発を進めています。
いまこそ「本気の建設DX」を
最後になりますが、私達の生活の安心と安全を築いているのは、間違いなく、我々土木業界だと思っています。
皆さんの「あたり前の生活」を支えている自負があります。
ただ、僕らは本当にまずいのです。
人手不足に現場は疲弊しています。
いまこそ「本気の建設DX」が必要だと思っています。
土木をアップデートします、応援よろしくお願いします。
ありがとうございました。
(終)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成