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「教えてほしい!グローバル市場の最新動向(インド/イスラエル/ブラジル)」全9回シリーズの(その3)は、イスラエルのハイテクベンチャーへ投資を行うMAGENTA Venture Partners竹内さんによるプレゼンテーションです。マイクロソフト、インテル、アップル等多くのテック企業が開発拠点を置く一方、近隣のアラブ諸国との関係性からビジネス渡航における安全性が気になるイスラエル。2018年から同国で生活する竹内さんが、その実状を生々しく語ります。ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2020年2月18~20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 12E
教えてほしい!グローバル市場の最新動向 (インド/イスラエル/ブラジル)
(ナビゲーター)
三輪 開人
特例認定NPO法人 e-Education
代表
(スピーカー)
蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー
竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner
中山 充
株式会社ブラジル・ベンチャー・キャピタル
代表
濱田 安之
株式会社 農業情報設計社
代表取締役 CEO, ファウンダー
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※ 本セッションは2020年2月に開催されました。その後世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、現在の市場動向は異なる可能性がございます。
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最初の記事
1. シリコンバレーの約2割は“実質インド企業”? インド工科大卒の超秀才たちが創る新たなスタートアップ像
1つ前の記事
2. グローバル企業がインドで行う「イノベーションのアウトソース」とは
本編
竹内 MAGENTA Venture Partnersの竹内です。よろしくお願いします。
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竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner
三井物産(株)企業投資部所属。2004年、同社VC子会社(Mitsui & Co. Venture Partners) 米シリコンバレー拠点立ち上げの為渡米し、現地で米Startup投資業務に従事。2009年に日本帰国後、三井物産の複数部門で自動車・IoT分野の米Startup投資と日本での事業開発に従事。同社経営企画部イノベーション推進室で、全社イノベーション推進体制の企画・推進。2018年11月、イスラエルのStartup投資にFocusしたVC、Magenta Venture Partners設立、Managing Geneal Partnerに就任。現在イスラエルに駐在し、同国Startupへの投資業務に従事。早稲田大学大学院 理工学研究科卒(修士)。ソフトウェア工学専門。
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始めに、この中にイスラエルへ行ったことのある方はいらっしゃいますか? お、一人いらっしゃいますね。
日本でイスラエルの話をすると、たいてい「そもそも行っていい所なのか?」とか「家族に『大丈夫?』と言われた」とかその辺から始まってしまいます。まずは少々時間を割き、ある程度は大丈夫ですよという話を致します。
それから、「イスラエルツアーができればぜひ」と小林さん(ICC代表)がおっしゃっていたので、その際は現地に住んでいる私が喜んでお引き受けしたいと思いますので、ご一考頂ければ幸いです。
私は三井物産所属の人間で、駐在員の立場で2018年の秋からテルアビブの北にあるヘルツェリアという街に住んでおり、家族を呼び寄せて現地で生活しています。
2018年11月にMAGENTA Venture Partnersというファンドを設立し、イスラエルの現地スタートアップへの投資業務に従事しています。
運営会社の株式の半分を三井物産が所有し、残りの半分はこの写真に写っているイスラエル人のプロフェッショナル2名が所有しています。三井物産と個人間の対等合弁の形です。日本人は私ともう1名、三井物産VC子会社の社員が携わっているというオペレーションです。
MAGENTAという社名の由来は、イスラエルの国旗の青と日本の国旗の赤を混ぜた色がマゼンタであることに由来します。イスラエルのハイテクと日本の産業のいい所を結びつけ、新しい価値を世に出していきたいという思いで命名しました。
医薬品分野だけは対象外ですが、それ以外はハイテク全般に幅広く投資しています。
ファンドの資金は三井物産に加えて日本の事業会社からも入れて頂いており、事業会社に対するイスラエルのスタートアップを絡めた新事業開発支援に、かなり力を入れて取り組んでいます。
そのため私共自身はピュア・ファイナンシャルリターンを求めていますが、日本の事業会社は私共にお金を預けることでイスラエルのスタートアップ情報を収集し、そして実際にスタートアップを絡めて事業を作って行くに際して私共のサポートを得られる、という仕組みになっています。
地中海に面した小さく豊かな先進国、イスラエル
竹内 まずイスラエルという国についてですが、この地図の真ん中辺り、エジプトの右にある小国です。
拡大して、日本を同緯度で西にスライドして当てはめますと、サイズ感から見てこのような感じです。
地中海に面した一年中温暖な気候で、商業の中心である人口第二の都市テルアビブは熊本県辺りと同緯度になります。
国土面積は四国とほぼ同じという非常に小さな国です。大半を砂漠が占めており、人が居住できる狭い面積に東京都よりもやや少ない900万人が住んでいます。
1人当たりのGDPは最近日本を超え、非常に豊かな先進国であると言えます。
イスラエルと聞いて皆さんが最初に思い浮かべるのは、このようなイメージかと思います。
これはエルサレムです。
中央にある有名な「嘆きの壁」は古代のイスラエル王国の神殿の名残で、ここがユダヤ教の聖地になっています。
近くに寄ってみますと、このようにしてユダヤ教徒の方々がお祈りを捧げています。
一方先ほどの写真左奥に見えるドーム状の建物は、イスラム教の聖地である「岩のドーム」で、イスラム教の預言者ムハンマドが昇天したとされる場所です。
ここから左へさらに15分ほど歩いた所にキリストが処刑された「聖墳墓教会」があり、キリスト教徒の聖地になっています。
ユダヤ教、イスラム教、キリスト教という各宗教の聖地が、全て徒歩圏内に隣り合わせの状態で位置していることから、色々な難しい問題が起きています。
パレスチナ自治区から飛翔するロケット弾の危険性は?
竹内 あともう1つ、イスラエルでどうしても避けて通れないのが安全性の話です。
自らの居住区に閉じ込められたパレスチナ自治区の人々が抗議の意味を込めて手製のロケット弾を頻繁に飛ばしている現状があり、時々イスラエル国内に着弾してしまう事件も起きています。
イスラエルでは、このロケット弾の発射・着弾状態を共有するためのソーシャルアプリが存在し、イスラエルの住民はこのアプリでロケット弾が自宅の近くに落ちてきた等の情報を共有しています。
ただ、この手製のロケット弾を作る人たちの資金には限りがあり、実際このロケット弾の先端には弾頭・爆弾は入っていません。
金属が地面に当たった衝撃による運動エネルギーで爆発しているように見えるだけの話で、直撃しない限り大した被害はありません。
ですので、実際に道を歩いていて頭に直撃したり、着弾した破片が刺さったりしない限り死ぬこともありません。
迎撃率9割のミサイル防空システム「アイアンドーム」
過去数年間この仕事をやっていますが、ロケット弾は頻繁に飛んで来ているものの「死者が出た」とはほぼ聞いたことがありません。
イスラエルへの来訪に不安を感じる方は、まずはここを押さえておいて頂きたいです。
また、イスラエルはアイアンドームと呼ばれる非常に優秀な迎撃ミサイルシステムを持っています。
これは飛翔してくるロケット弾を約9割の精度で打ち落とすと言われており、仮にイスラエルにロケットが飛んで来ても、大半は無害化されます。
三輪 これ誰もががツッコミを入れたいと思うのですが、残りの1割はどうなるのでしょうか?
竹内 1割は落ちてくるのですが、アイアンドームは発射された瞬間の軌道を測定して、それが市街地に落ちるかもしくは人のいない畑などに落ちるかを瞬時に計算します。
そして、人がいない所に落ちると判断した場合は、迎撃ミサイル節約の観点からそのまま見過ごす機能も備えています。
ですので、イメージするよりずっと安全だということを強調出来ればと思います。
尚、このアイアンドームを運用する為の統合ITプラットフォームも自国のスタートアップ企業が開発しており、リアルタイムIoTプラットフォームとして商品化しています。
あと空からではなく陸から攻められて刺されたりテロを仕掛けられたりするのではないかと心配されるかと思います。
しかし、今はパレスチナ自治区とイスラエルの間には高さ7〜8メートルもあるコンクリートの分離壁が整備され、それによりここ数年はトラックやバスの爆発テロ事件等も一切なくなりました。
普通に生活している限りは全く安全な先進国ですので、ぜひ来て頂きたいと思います。
テルアビブはヨーロッパ観光客の人気リゾート地
竹内 日常生活についてですが、これはテルアビブのビーチです。
海外の有名なホテルが立ち並んでおり、ヨーローパの方々がバカンスに来る地中海沿いのリゾート地でもあります。
これはテルアビブから北へ15分ほど行ったヘルツェリアという街にあるホテルで、私の自宅はここから徒歩5分の環境にあります。
南に行きますとエイラットという紅海沿いの都市があり、ここの海は透明度が世界随一ということでダイバーの聖地のようになっています。
一方、テルアビブのビーチから内陸へ向かいますと風景は一変し、このような高層ビルが立ち並ぶ都会の景観が広がっています。
マイクロソフト、インテル、アップル…多くのテック企業が開発拠点を置く
竹内 これは竣工直前のマイクロソフトの大規模R&Dセンターです。
インテルは1974年からイスラエルに開発拠点を設けており、IBMが最初に採用したマイクロプロセッサーの開発もここでやっていますし、ペンティアムもセントリーノの開発もイスラエルの開発拠点が主要な貢献をしています。
インテルのマイルストーンとなるようなR&Dは実はイスラエルが拠点となっています。1万数千人ものイスラエル人社員を雇用しているインテルは、実は隠れたイスラエル企業だとも言われています。
アップルも研究開発拠点をイスラエルに持ち、後ほどお話ししますが、結構色々な買収を行っています。
USBメモリから点滴灌漑まで、イスラエル発の多様な技術
竹内 他にもイスラエル発の有名な技術として、M-SystemsのUSBメモリやチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズのファイアーウォール、Kinect(キネクト)のジェスチャーセンサーや、インテルが1兆5,000億円で買収したモービルアイなどが挙げられます。モービルアイの製品は、例えば日産の自動運転/ADAS用のカメラとして採用されています。
メディカル分野では、いわゆる“胃カメラ”の管の挿入なしに消化器の検査が出来るカプセル内視鏡技術があります。
農業分野では、点滴灌漑の技術もイスラエル発です。国土の大半が砂漠という条件と、敵対関係にある近隣国からの農作物輸入が困難であることから農作物を自給する必要に迫られ、非常に少ない水で農業を行う技術が発達しています。よく見かけるミニトマトも、実はイスラエル発です。
このように農業テックもメディカルテックもITも、一通り全て揃っています。
アップルに関しては、アノビット(anobit)というメモリの会社を買収してiPhoneの消費電力を下げたり、リンクス(LinX)という高性能カメラの超小型技術を持つ企業を取り込んだり、また顔認証技術のリアルフェイス(RealFace)を買収して今皆さんが使っているFace IDに利用されたりと、実はiPhoneにはイスラエルのスタートアップが開発した技術がかなり搭載されています。
では、なぜこのような小国がここまで出来るのか、その大きな理由を3つ挙げたいと思います。
イスラエルの強みの源泉は「Culture・Politics・Clusters」
竹内 1つ目は「Culture」です。
イスラエルはまだ設立70年強の若い国で、2,000年前迄この地に住んでいたユダヤ人が世界各地に散らばり、その子孫が帰って築いた国家です。
非常に若い移民の国ということでリスクテークに対して非常に寛容であり、また優秀な人ほど起業する文化的な背景があります。
2つ目は「Politics」です。
人口900万人のイスラエル人は周辺を取り囲む2億人のアラブ人と敵対関係にあり、軍事的に対抗して行く必要があります。その為、国民皆兵制が敷かれており、18歳になると男子は3年弱、女子は2年弱にわたる兵役の義務があります。
理系のトップ数%の優秀な人材は、研究所に入り軍事技術を開発します。900万人が2億人に勝つには技術力しかないということで、技術開発と人材育成に重きを置いています。
そこで生み出した技術を民生移転することにも国が大変力を入れており、安全保障に反しない限りはいくらでもやれ、むしろそれで外貨を稼いで来いといった方針です。
そのような技術をもとに、研究所で共に過ごしたメンバーと共に起業をするケースが非常に多く、これが一つのイノベーションの苗床になっています。
軍事技術の具体的な例としては「無人戦車」があります。文字通り、遠隔地から戦場の戦車を操縦するものです。また、ARグラスを搭載したヘルメットは米軍に採用され、米空軍のF35戦闘機のパイロットの標準装備となっています。
そのARグラス技術からは民生用のARグラスや乗用車搭載用のHUD(Head Up Display)など、数多くのスタートアップが立ち上がっています。
そして3つ目は「Clusters」です。
先ほど見て頂いたテルアビブでは、都市中心部から車で1時間で行ける範囲に大半のスタートアップ、ベンチャーキャピタル(VC)、研究機関、大学、多国籍企業の出先機関が揃っています。
イスラエルで起業すると必要なものは大体周囲に揃っているので、非常にビジネスをしやすい環境です。その点はシリコンバレーと結構似ています。
400社の多国籍企業の大半はアメリカやヨーロッパ諸国の企業ですが、最近日本企業も徐々に増えてきています。
一方、900万人と人口が少ないため国内マーケットはほとんどありません。ですので、イスラエルで起業する人は国内でビジネスをすることはあまり考えておらず、会社設立の段階からグローバル・マーケットを向いています。
シリコンバレーのスタートアップは、例えばアメリカ市場でまずは事業を立ち上げてから日本に進出、というように日本市場は後回しになりがちですが、イスラエルでは最初からターゲットが海外ですので、彼らのプロダクトにFitするようなパートナーやマーケットがあれば、日本が最初の市場になることも十分可能性があるわけです。
日本人としてはシリコンバレーに行くよりもイスラエルに行ったほうが、早い段階から良い会社がつかまえられますよ、とよく申し上げています。
(続)
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続きは 4. ベンチャー投資額は年間9,000億円。軍事技術の民生転換を支えるイスラエルのスタートアップ をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/小林 弘美/蒲生 喜子/戸田 秀成
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