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3. Well-beingでいられる岩手で哲学を表現し、ビジネスの規模を東京に求める

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ICC KYOTO 2024のセッション「Well-beingビジネスの今後(シーズン5 )〜日本発世界へ Well-being ビジネスのグローバル化〜」、全5回の③は、松田 文登さんが、東京ディズニーランドと比べても高いという、ヘラルボニーの顧客ロイヤリティについて語った後、起業のきっかけとなった兄・翔太さん、ヘラルボニーが本社を岩手に置く理由にも触れます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは住友生命保険です。


【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 3E
Well-beingビジネスの今後(シーズン5 )〜日本発世界へ Well-being ビジネスのグローバル化〜
Sponsored by 住友生命保険

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

桑原 智隆
経済産業省
イノベーション・環境局 イノベーション創出新事業推進課長

中西 裕子
株式会社資生堂
ブランド価値開発研究所 グループマネージャー

松田 文登
株式会社ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

(モデレーター)

藤本 宏樹
住友生命保険相互会社 常務執行役員兼新規ビジネス企画部長SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者

「Well-beingビジネスの今後(シーズン5 )〜日本発世界へ Well-being ビジネスのグローバル化〜」の配信済み記事一覧


NPSは東京ディズニーランドに比べても高い

松田 最後に、これはヘラルボニーでの話ですが、イギリスの60 Decibelsという会社が独自調査をしてくれて、「56.3」と「2/3」という数字が出ました。

ヘラルボニーはNPS(※) が異常に高くて、めちゃくちゃ面白いということでした。

▶編集注:NPSとは「ネットプロモータースコア」の略で、ベイン・アンド・カンパニーが開発した手法。詳しくは、ICC KYOTO 2017の記事「ネット・プロモーター・スコア(NPS®)を活用して顧客ロイヤリティを定量化する」を是非ご覧ください。

これは開示されている他社のスコアですが、もしこれらの会社の方がいたら、申し訳ございません(笑)。

現時点でのファン層を見ると、ヘラルボニーのNPSは東京ディズニーランド以上です。

NPSは企業への信用、信頼、愛着を示す指標ですので、アメリカでは重要指標にしている企業が非常に多いです。

ヘラルボニーはそのNPSが高いということです。

また、ヘラルボニーを知った後、購入者や体験者が3カ月以内に家族・友人にヘラルボニーについて話してくれる割合も、異常に高いです。

これも、社会的な事業をしているからかと思います。

ステークホルダーコミュニケーションについては、今までDE&Iについての情報を取らなかった人の3人に2人が、ヘラルボニーとの交流によって取るようになったというデータです。

これらをWell-beingとしてどうとらえ、どう経営指標にするかはまだ考えがなくて、事実だけを話してしまいましたが、DE&Iと聞けばヘラルボニーだと第一想起される、必要なアジェンダの一つに組み込まれる価値観を持つ会社になっていきたいと強く思っています。

以上です、ありがとうございました。

起業のきっかけとなった兄・翔太さん

石川 この写真の真ん中のお兄ちゃんが、ヘラルボニーの名付け親なんですよね?

松田 そうです。この写真の真ん中の兄(4歳上の翔太さん)に、先天性の知的障害を伴う自閉症があり、小さい頃から兄はかわいそうだと言われていました。

自分たち双子は、兄のことをかわいそうだとは全然思っていなかったのですが、社会から見ると知的障害者だと。

兄は38歳ですが、IQで言うと2、3歳だと診断されます。

それがイコール欠落で、何もできない人だと捉えられますが、特性を抽出していけば、むしろ大きな価値に変わるという考えが、会社を立ち上げるきっかけでした。

石川 お兄さんが、ノートにずーっと「ヘラルボニー」と書いていたのですよね?

松田 そうなんです。兄にヘラルボニーって何なのか聞いても、「分からない」と言われるのですが…。

石川 それが何なのか分からないけれど、書いていたと。

松田 そうなんです。

でも、テレビの「ご覧のスポンサーの提供でお送りします」という言葉がすごく好きで、NHK、ソニー、タカラなども書いていたので、兄にとっての「ヘラルボニー」は何かの企業名なのではないかという仮説を、双子で立てたことがありました。

それで将来、テレビで「ヘラルボニーの提供でお送りします」と言われると、愉快だしワクワクするし、面白いなと思ったのです。

だから、ヘラルボニーという会社にしました(笑)。

生命保険業界はNPSがマイナス

藤本 NPSが56.3はすごいですね。

松田 本当ですか?

藤本 生命保険業界は、マイナスですよ。

松田 えっ。

藤本 ご存じの通り、NPSは11段階スコアで、7と8が中立で、9と10を選んだ人(推奨者)の割合から0~6を選んだ人(批判者)の割合を引いて算出します。

日本人は、9や10はつけないのです。

良くて7や8なので、5や6が多いので、ほとんどの産業でマイナスになると言われています。

56.3はすごいですね。

松田 ありがとうございます。私もこれにはびっくりしました。

でもまだ大きなビジネスにはなっていないので、そうなるようにきちんと変えていこうと思っています。

藤本 ヘラルボニーの社員の方々も、会社のこと、仕事がめちゃくちゃ大好きで、従業員による指標、ENPS(※職場の推奨度)もめちゃくちゃ高そうですよね。

松田 どうでしょう。うちのメンバーが今、会場にいるので……高いですか?

藤本 でも、まあここで言えないですよね(笑)。

桑原 身近なところで、後輩(忍岡 真理恵さん)が御社に転職をしました。

松田 そうですね、経済産業省出身の方で、COOとして入社し、今回、HERALBONY EUROPEのCEOを務めます。経済産業省出身でマッキンゼーを経験して入社してくれました。

みんなの「何かしたい」が集結してきた。インクルーシブの実践を重ねるヘラルボニー執行役員COO・忍岡真理恵さんの働き方(「Money for Good」note)

共感しているものを身に着ける喜びもWell-being

藤本 すごい。

ヘラルボニーの作品を買う人を見ていると、儲かるから買う、何か良いことをしようとして買うという感じではないと思います。

先ほどおっしゃったように、かっこいい、美しい、素敵という感覚がまずあって買っているのではないでしょうか。

もちろん、前者もいるとは思いますが。

多くの人が、かっこいいし、素敵だし、心地いいし……と思って買っています。

Well-beingという文脈で世界にビジネスを展開するにあたり、意外と、かっこいい、美しいという要素が大事で、それがあるから世界に広がるのではないかと思います。

桑原 善樹さんにおうかがいしたいのですが、共感という要素も大きいと思います。

デザインがクールで美しいことも商品価値ですが、こういう価値観が遂に世の中に広がったことに、自分もワクワクして共感しているのではないでしょうか。

つまり、自分が共感しているものを身に着ける喜びを感じることも、Well-beingと言えるのでしょうか?

石川 自分を超えた大きなものの一部であるという感覚は、Well-beingと言えます。

昔だと、貧困撲滅のホワイトバンド、がん患者支援のイエローバンドや乳がん啓発のピンクリボン、今でいえばSDGsバッジなどを身に着けることで、大きな集団の一部であると感じているのだと思います。

スポーツは分かりやすいですよね。

スポーツファンは、ユニフォームを着ることで大きなものの一部になります。

人は、他の人が変化したり成長したりを見ることで勇気をもらうことがありますが、ヘラルボニーの場合、それが分かりやすいのだと思います。

世界ではさまざまな人のWell-beingが満たされていない

石川 ヘラルボニーは障がい者のWell-beingですが、世界的に見れば、今、難民が増えています。

難民のWell-beingはどうなのか。

難民は国籍がないので、仕事一つとっても大変なのです。

今、難民のWell-beingに果敢にチャレンジしようとしているのが、リクルートです。

労働市場の障壁を低減し、3000万人の就業を支援する(リクルート)

リクルートは難民の方々の仕事を創り出そうとしていて、社会価値はもちろんのこと、経済価値も生もうとしています。

例えば、これまでの難民への食糧支援は、ただ腹を満たす、もしくは栄養不足にならないための支援でした。

でも難民となった人には、もといた国の伝統的な食生活があるわけですから、それに配慮した食糧支援のあり方がこれから主流になるのではないかということで、食×Well-beingですね。

日本のみならず、世界でまだ色々な人のWell-beingが満たされていないので、価値を生みやすいところだと思います。

松田 腹を満たすだけではなくなってきている、ということですね。

衣類を渡してそれでOKではなく、それを通じて、コミュニケーションを生んだり、ハブになったり、色々なものが複雑に絡み合う中の一つをきちんと作る必要があるということですね。

藤本 先ほど、法定雇用率が今後上がっていく中で、数字だけでなく価値観や思想が広がっていくことが重要、という話がありました。私も法定雇用率が上がり、その根底にある価値観や思想が広がっていくことで、へラルボニーのビジネスは広がっていく、今後世界に広がるんじゃないかと思います。

今、弊社のチームメンバーがシンガポールでNPOを作って、障がい者のデジタルアクセラレーションプログラムを行っています。

デジタル対応の障害者就労支援を シンガポールのNPOと住友生命子会社が意見交換(産経ニュース)

シンガポールは、法定雇用率がなく、障がい者の定義自体が法律上も明確ではないそうです。

つまり、障がい者雇用を進めなくても企業に罰則があるわけではない。でも、そのプログラムに現地のグローバル企業が参画してくれていますが、それらの企業のDE&I部門担当者が、めちゃくちゃ楽しそうなのです。

善行をしているという感じではなく、すごく活き活きしているので、実は彼らが一番Well-beingではないかと思うくらいです。

先ほども話しましたが、正しいこと、良いこと、というよりも、かっこいい、楽しい、素敵、面白いみたいな感覚を共有できるということが、Well-beingビジネスが世界に広がる鍵かもしれないと思います。

松田さん、世界の反応はどうなのでしょうか?

LVMHの傘下というのはすごいと思いますが、他の国の反応はどうですか?

松田 アートは、世界共通のものの一つだと思っています。

視覚情報として入っていきやすいのは、大きいですね。それに対する反応は、めちゃくちゃあります。

グローバルで見ても、ヘラルボニーのような会社がまだないということが大きい理由なので、プラットフォーマーになっていけるのではないかと考えて動いています。

経産省もインパクトスタートアップに期待している

藤本 桑原さんは経済産業省で、スタートアップ支援をされていると思いますが、ソーシャルアントレプレナーやWell-being領域のスタートアップは、多くのスタートアップの中でもソーシャル色が強いプレイヤーが多いと思います。

それらプレイヤーへの支援や可能性については、どう考えていますか?

桑原 大きな可能性だと思っています。

そもそも、スタートアップ自体が、社会課題の解決などをリードする存在として期待されています。

ものすごく成長して、アメリカのGAFAMのように、M&Aを経てどんどん大きくなっていく、経済成長のドライバーとしての期待がまずあります。

他方で、新しいテックやビジネスモデルでWell-beingと社会課題の解決をつなげていくドライバーとしての期待もあります。

僕が個人的に、それ以上にスタートアップにとって大事だと思っているのは、社会全体の変化としては時間がかかりそうなことに先駆けて取り組み始める、トリガーボタンのような役割です。

例えば福祉の世界だと、パブリックとプライベートの間にあって、「we」の範囲が広がっていくような感覚があります。

ソーシャルインパクトとかインパクトスタートアップとか呼ばれるものも含めて、社会課題の解決ニーズに応えつつビジネス的にも良いものは持続的に広がるので、きちんと成功する可能性が高まるものと考えています。

ファイナンシャル面だけではなく、同時に社会課題解決も追いかけていくべき存在としてのインパクトスタートアップは、大変注目をしております。

▶編集注:インパクトスタートアップとは、「社会的・環境的課題の解決や新たなビジョンの実現と、持続的な経済成長をともに目指す企業」を指す(経済産業省:官民によるインパクトスタートアップ育成支援プログラム 「J-Startup Impact」を設立より)。

非常識を常識に変えて産業を作った先人たち

石川 どれくらいの時間軸で物事に取り組みたいのか、ということですよね。

スタートアップと言うと、僕らの多くは直感的に株式会社を思い浮かべますが、そもそもたくさんの法人形態があります。

NPOも合同会社も社会福祉法人もあれば、社団法人もあります。

なぜこれほど多くの法人形態があるのか。

それは、時間軸や目的によって選べるようにするためだと思います。

本当にリスキーな、でも誰も賛成する人がいないような領域に、お金を持ってスタートアップとして参入してきたのが財団法人です。

例えば、僕がもともと取り組んでいた予防医学という分野を作ったのは、ロックフェラー財団です。

当時は治療医学ですらままならない時代でしたが、そんな時に「予防でしょう!」と、とんでもないことを言い出したわけです。

ロックフェラー財団が投資をしたことで、結果的に予防産業が生まれました。

例えばフィットネスなんて、20世紀初頭には、考えられない産業でした。

20世紀初頭は、体は動かさない方が良いと言われていたのです。

松田 なるほど。

石川 でも、体を動かすことと健康にポジティブな結びつきがあるという研究を初めてした、ロンドンの先生がいます。

20世紀初頭、その先生は、運動は健康に良いということを自ら証明するために、近所を走っていたのです。

そうすると、近所の人が「あの先生、頭がおかしくなった」と、警察に通報したらしいです(笑)。

松田 (笑)

石川 当時、障害者と見られたということです。

そういう非常識なことを常識に変えて、新しい当たり前を作ってきて、運動は健康に良いことが分かると、フィットネス産業になっていったのです。

つまり、時間軸を長く捉えた時、短時間で早く大きくなりたいのであれば、株式会社として流行りの分野に参入するのが良いだろうと思います。

でも息の長いことをしようとすると、色々な法人形態とコラボしながらするのが良いのでしょうね。

ヘラルボニーが岩手に本社を置く理由

藤本 そんな中、へラルボニーは株式会社を選択されています。

松田 そうですね。

この兄弟写真は岩手で撮ったものですが、株式会社ではできないこともあるなと感じる中で、新たなハコも選択肢として考えていきたいと思っています。

それはあくまで、私たちが10年後、20年後に見たい景色を作るためにです。

スタートアップでいると、利益がどれくらい出るか、そのための時間とリソースは、という資本効率の話になってしまいます。

私たちが本当に目指したいもの、哲学を岩手という場所で表現しておくことが、会社の芯を作ると考えています。

インパクトスタートアップに共通することだと思いますが、課題の根が深ければ深いほど、ビジネスに寄ると、実際にそうではなかったとしても搾取構造に見えてしまいます。

でも、へラルボニーで言うと、福祉に寄るとビジネスにならない。

その間のちょうど良いところに一本槍を投げ込むことが、すごく重要だと思っています。

ですから、ただ「LVMHに選ばれて、やったー!」とはなっていないですね。

哲学を維持することを、会社として意識します。

藤本 哲学というか、軸足をきちんと持つことがすごく大事かもしれませんね。

松田 確かに。

それがないと100年続くような事業にはならないと思いますし、本社を渋谷や六本木ではなく岩手県に置いているのは、自分にとって、時間軸を長く捉えるためという理由もあります。

ビジネスの規模は東京に求めていますが、Well-beingでいられる場所を作るという感覚に近いのかもしれませんね。

藤本 Well-beingビジネスのあり方の一つかもしれませんね。

ビジネスをグロースさせても、戻る軸がなければ根無し草のように、どこかに飛んでいってしまうかもしれません。

松田 流行り廃りに流されないための槍かもしれません。

キャッシュとバリューを分けること

石川 僕は、ファッション業界はよく分かりませんが、ヘラルボニーが仮にそこに属しているとして…。

これは僕の偏見ですが、ファッション業界は、作りたいものを作りたい人と作ることと、儲けることが、パキッと分かれていることが多い気がします。

例えば、儲けるためにはTシャツをたくさん作って売る、でもファッションショーなどに出すものは、儲けた利益を費やして作る。

つまり、キャッシュを生み出すところと価値を生み出すところを分けていることが多いと思います。

FacebookやGoogleも、キャッシュポイントとバリューポイントを分けていますよね。

松田 完全に。

石川 キャッシュは広告、バリューは検索や人とのつながり。

お金と社会的価値を、無理やり一緒にしようとすればするほど、破綻が生じる気がします。

桑原 映画や音楽、化粧品もそうなのでしょうか。

これはある意味、トップのビジョン次第だと思います。

逆説的なことを言いますが、ヘラルボニーに対して、ハイパーグロースをする可能性を感じるからこそワクワクする方もいるでしょう。

善樹さんがおっしゃったように、キャッシュかバリューかという選択肢があるが故に、今後、松田さんがヘラルボニーをどうしようと考えているか興味を持つ方もいると思います。

そんな中、速いスピードでパリ進出となるとワクワクが止まらない感じになりますが、松田さんは今後の方向性を考えられているタイミングなのではないでしょうか?

松田 あまり考えていないかもしれないですね(笑)。

藤本 パリに進出しても、軸足は常に岩手にありますよね。

松田 そうですね、場所が、東京、フランス、盛岡なので、面白いですよね(笑)。

桑原 展開が結構速いので、注目されたり、大企業から声をかけられたりしたと思いますが、岩手に根を張っていることで、自分たちの進む道に選択肢がある状態だからこそバランスを保たれているのかなと思いました。

藤本 地域、キャッシュとバリューなど、バランスをとるポイントがいくつかありますね。

(続)

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式Xをぜひご覧ください!
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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/原口 史帆/戸田 秀成

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