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3. 「国宝的人材」「国師」「国有」ーーー比叡山延暦寺が育てる3種類の人材

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「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」-1200年以上続く比叡山延暦寺から学ぶ人材育成とは?全6回シリーズ(その3)は、比叡山がどんな人材を育成しているのかにフォーカス。「国宝的人材」「国師」「国有」という3種類のリーダーを育てているといいます。また、1200年間消えたことがないという「不滅の法灯」をいかに守っているかは、すべての組織に必読の内容です。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット KYOTO 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
Session 12D
「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」-1200年以上続く比叡山延暦寺から学ぶ人材育成とは?
Supported by Lexus International Co.

(メイン・スピーカー)

今出川 行戒
天台宗総本山延暦寺
副執行 参拝部長

(ゲスト)

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

星野 最宥
天台宗総本山延暦寺
参拝部主事

松下 健
株式会社オプティマインド
代表取締役社長

吉田 浩一郎
株式会社クラウドワークス
代表取締役社長 兼 CEO

(モデレーター)

村山 和正
株式会社オートクチュール京都
支社長

「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」-1200年以上続く比叡山延暦寺から学ぶ人材育成とは?の配信済み記事一覧


最初の記事
西暦788年開山(延暦7年)、1200年以上続く比叡山延暦寺から人材育成を学ぶ

1つ前の記事
修行中の評価、フィードバックは? 比叡山延暦寺の人材育成はどれだけ現代化しているか?

本編

「一隅を照らす」に込めた、人材育成の真意

株式会社オートクチュール京都 支社長 村山 和正さん

村山 だんだんお坊さんはすごく大変だというイメージが付いてきましたが、今回は「一隅を照らす」という言葉がテーマにありますので、それを前提として今の話を聞けば、厳しいことには意味があるということにつながると思います。

延暦寺1200年、「一隅を照らす」という言葉と、言葉の裏にある理由や意義について、今日は深い話をしたいと思います。

▶参考:天台宗 一隅を照らす運動

もともと「一隅を照らす」という言葉の意味について、CRAFTED TOURで最宥さんからゲストの方にお話ししていただいたと思いますが、改めて最澄さんがおっしゃった「一隅を照らす」という言葉はどういうものなのかと、それを体現して1200年ずっと続いている「不滅の法灯」に向けてのお話をいただいた上で、改めて厳しさについてのお話をしていただければと思います。

それがないとただただ、怖いというイメージになってしまいますので(笑)、「一隅を照らす」からぜひお願いいたします。

天台宗総本山延暦寺 参拝部主事 星野 最宥さん

星野 私は昨日、一昨日に比叡山をご案内させていただきましたが、皆さんご到着されて一番最初に見られた「大講堂」と呼ばれる大きなお堂の横に、伝教大師最澄様のスローガンが掛かっています。

そこには「一隅を照らす」という文字が彫られています。

「一隅(いちぐう)を照らす」というのは一隅(ひとすみ)を照らすと書きますが、重箱の隅を突くような小さいことを指すわけではなく、「なくてはならない人間になりましょう」という意味です。

法話集「なくてはならない人になれ」(天台宗公式HP)

「この人がいてくれたお陰で、このプロジェクトがうまくいった」「あの人がいてくれたお陰で助かった」そのようにして、後々周りの方々が「あの人のお陰で」と言うような、「なくてはならない人間になろう」これが伝教大師 最澄様のおっしゃる人材育成のコンセプトではないかと私は思っています。

比叡山が育てる3種類の人材

星野 この言葉の前後にはまだ続きがあります。そこはあまり光を当てられませんが、3種類の人がいるということをおっしゃっています。

1人目は「よく行い、よく言う」です。要は、知識もあり、実践力、実行力も伴う人こそは国の宝であるということで、伝教大師最澄様は「国宝的人材」と位置付けました。

言うことも実行力も両方伴っている人が1人目で、2人目は「言うことは伴うけれども、行うことはちょっと苦手である」です。つまり知識や学術的なことで人を導いていける人たち、これが国の師、「国師」であると位置付けられました。

3人目が、その逆になります。「よく行い、言うこと能わず」実行力の面で人々を導いていく、後輩たちを育成していく方々を「国用(こくゆう)」と位置付けられました。

このように、3種類の人たちを比叡山では育てていくということです。

実は4種類目がありまして、これは辛辣かもしれませんが、「言うこと能わず、行うこと能わざるを国の賊となす」です。

「国賊」とまで言い切るぐらい、「実行力、知識を備えた3種類の人々を比叡山では育てていく」ということを、伝教大師最澄様はコンセプトにしてお育てになったということが、「一隅(いちぐう)を照らす」ということではないかと思います。

1200年で一度も消えたことのない「不滅の法灯」

村山 それを体現して、延暦寺には「根本中堂(こんぽんちゅうどう)」という国宝のお堂があります。

根本中堂

そこには1200年一度も絶やしていないという灯があります。「1200年一度も消えていないというのは、どうやって?」と思いますよね。

「何かあって、消えたことはあるのでは?」と思いますが、実はないそうです。

そこには特別な法的力があるわけでもなく、消えないように蓋をしていて、絶対何かあっても大丈夫なようにしているわけでもなく、とてもシンプルで、でも皆さんがなかなかできないようなことが秘密としてあるということです。

今出川さん、ぜひ「不滅の法灯」をどのようにして守られてきたのか、お話しください。

「不滅の法灯」を1200年間どのように守ってきたか

天台宗総本山延暦寺 副執行 参拝部長 今出川 行戒さん

今出川 話し出すと長くなりますが、「不滅の法灯」を、会場の皆さんはご存知ですか。

壇上の3人のゲストの方には、CRAFTED TOURで見ていただきましたが、伝教大師最澄上人が平安時代に19歳の若さで比叡山に上って、小さな草庵を建て、仏様を刻み、小さな灯を点されます。

その灯は、ご自分の夢、希望、想い、願い、いろいろな思いを託して点された灯です。

それを1200年間一度も消すことなく守り続けているのが「不滅の法灯」です。今も「根本中堂」の中央に脈々と灯り続けていますが、私の中でも「不滅の法灯」の存在が、何をするにしても、まず根本にあります。

どのように「不滅の法灯」を守っているかと言うと、「根本中堂」という総本堂に従事している住職が管理をしています。

それだけ重要で、消すなどということは決してあってはならないことですが、「不滅の法灯」係を決めているわけではありません。

それは係を決めると、人間なので万が一ということもあり得るからです。忘れてしまったりもあり得ますので、そういうことがないように「みんなで守る」という意識を持つために、あえて係がいないのです。

「不滅の法灯」は3つに分かれていますが、直径30 cmぐらいの真鍮でできたお皿が中に入っており、菜種油をいっぱい入れて、灯芯を5~6本束ねたものに灯が点いています。

油を注ぎ足し、灯芯が短くなったら代えるという、管理方法はそんなに難しいことではありませんが、それを1200年間続けるというと、これは尋常なことではないなと思います。

これが私にいろいろなことを教えてくれています。

直径30 cmもあるお皿ですので、油も1リットルぐらいは入ります。ですから、少々放っておいても油が完全になくなってしまうことはありません。でも常に必ず確認をしながら油が減っていないか、少しでも減っていたら確認をして足すという作業を日々繰り返してやっています。それは誰でも気づいた人間がしていきます。

現実問題から言うと、今も言ったように丸一日放っておいても、全くなくなることは物理的にはありません。それを分かっていても、必ず確認をするということを続けています。

「油断」という言葉がありますが、「油断」とは「油を断つ」と書きます。「一日放っておいても大丈夫だから」ということが、心の油断につながるわけです。でも万が一があってはいけません。「油断大敵」という言葉がありますが、「油断することなかれ」ということも教えてもらっています。

古いことをただ続けては、伝統は守れない

今出川 もう一つ重要なことは、「伝統」という言葉です。伝統文化など、伝統という言葉を普通に使いますし、京都にもいろいろな伝統文化を継承している会社やお店があります。

会社の伝統、お店の伝統、お寺の伝統、一家庭でも家庭の伝統というものがあります。すべての方に伝統があると思います。

ただ、そのように簡単に「伝統」という言葉を使いますが、私は「伝統」は非常にもろいものだと思っています。

例えば京都には100年続いている和菓子屋があるとします。では100年続いているから、次の100年もそのまま同じことをしていれば守れるのかというと、私は簡単に壊れるぐらいもろいものだと思います。それは新たにできた会社であっても、100年続いているお店でも、たぶん同じことだと思います。

皆さんもそれぞれ会社を経営されている中で、それぞれの伝統があると思います。

何が言いたいかと言うと、今は「伝統」は伝えるに「統」と書きますが、本来の意味合いからしますと、「燈」と書きます。「燈(ともしび)を伝えていく」、まさしく「不滅の法灯」と同じように、1200年間灯を後世に伝えていくことが伝統を守ることにつながるのだと思っています。

ではどのように「不滅の法灯」を守っているかと言うと、先ほど言ったように放っておいたら2~3日で確実に消えてしまいますので、毎日新しい油を足しているわけです。

やはり古いもの、比叡山で言えば、比叡山の根本的な教え、文化を守ろうと思うと、毎日新しい風を入れたり、新しい油を足していかないと伝統というものは守れません。古いことをただただ続けていても、伝統は守れないのです。

やはりそれは時代のニーズであったり、世の中の変化にも、お寺であっても順応していく、取り入れていくことが「不滅の法灯」を守っていく一番重要なことだと私は思っています。それを1200年間灯り続けている「不滅の法灯」が、私に教えてくれていることだなと日々感じています。

株式会社オートクチュール京都 支社長 村山 和正さん

村山 僕もその話を、同じことを話せるのではないかと思うぐらいお聞きしていますが、一番は「利他の心」だと思います。

「自分が」とか「係を持つと僕がやらなくてはいけない」だと、硬直化してしまいますが、「みんなで守ろう」「あの人はもしかしたら今日来られないかもしれないから、念のため僕が見ておこう」と、誰かをそれぞれ思いながら、みんなが同じような状態でやっているというのは、ある意味最強だなと思っています。

会社もたぶんそうなのだろうなと思います。社長が一方的に言って、下の人が分からないという状態ではなくて、みんなが同じように相手を思うような行動、心、つまりちょっとした優しさだと思うのです。そういうことを持てただけでも、全く方向性が変わるのではないかと思います。

ただビジネスとなるとちょっとドライなところがあったり、ましてや先ほどの話にあった若い世代になると「ちょっと、その辺は別にいいです」みたいに、変な壁ができててしまいます。

そこが比叡山だと、みんなが同じところにいて、みんな頑張って同じ修行をして、相手の気持ちも分かるのだと思います。「すごいしんどいだろうな、分かるよ」というのが無意識にできるのです。

僕も高校時代寮生活で厳しかったのですが、同じような仲間がいて、助け合い、ものすごくしばかれたり怒られたりしましたが、結果的にはそれが強さにつながっていると、今はとても感じます。

いつか皆さんも御山に来て、このことを思い出して見ていただければ、今のお話がさらにしっくりくるかなということを感じます。

最初の修行は「下座行」。比叡山の教育法とは

株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田 浩一郎さん

吉田 会社の経営では、まさに法灯の係の問題はあります。ベンチャーでよくありがちなのは、会社が大きくなってくると、オフィスを掃除する人がいなくなります。

それまではなんとなくみんなのゴミを自分でやっていたのですが、誰かがやってくれるだろうと思うと誰も片付けなかったり、会議室の椅子がバラバラになったままだったりと、これは誰の担当なのかという問題が結構あると思います。

今の人材育成の話で興味を持ったのは、まず「みんなでこれはやるものだ」という型を教えるやり方と、本人が「こうやるとみんなが困るんだ」ということを自分の実体験で気づくアプローチは、比叡山においてはどのようにされていますか? 基本的には型で教えていくものなのでしょうか?

今出川 基本的には、まずは型です。一応修行の期間もそうですし、マニュアルではないですが、ある程度日々しなくてはいけないことを教えていきますが、あとはそこからは本人の気づきや工夫です。

先ほど星野から線の引き方や料理の工夫の話がありました。同じことはしていても間違えではありませんが、例えば食事係や掃除係がいたとして、こういうふうにしたほうがきれいになるのではないか、効率がいいのではないか、こういうふうにしたら美味しくなるのではないかというようなことはそれぞれの創意工夫です。

どうしてもそこは人という部分での差はありますよね。やはりできる人はできますし。

株式会社COTEN 代表取締役 深井 龍之介さん

深井 延暦寺に新参者が来たときに、「こういうふうに動くのだよ」という話は、一番最初に言葉で伝えるのですか?

星野 はい。新参者が修行に来た場合は、まず上の方が「下座行(げざぎょう)」(※)を教えます。「下座行に徹しなさい」ということが基本的な心の持ちようになります。

▶編集注:人より一段低い位置に身を置き、不平不満を表さず忠実に任務を果たすこと。

「常に自分が動かないといけない」ということでもって、「日常生活、一挙手一投足すべてにまで気を配りなさい」と指導されます。

3年間または、12年間修行している人たち皆、根底でまずそれをクリアしてきているわけです。経験して3年後住職になって、12年後籠山が終わっても、「下座行」が根底に残っています。「下座行」の考え方が流れているので、下座行をする人たちの気持ちが分かります。

深井 「下座行」が一番プライオリティの高いこととして、まずは伝えるのですか? それとも幾つかある中の一つとして、「下座行」を伝えるのですか?

今出川 基本「下座行」は広い意味で下座行です。要するに下座というのは、一番下っ端の人間がまず行う行です。

深井 その精神が先ほどの「一隅を照らす」や「不滅の法灯」にすべてつながっているということですね?

今出川 もちろんそうです。

深井 その基礎を一番最初に伝えて、それが身体性を伴う修行の中に溶け込んでいて、修行をする中で沁み込んでいって、センスがいい人と悪い人がいて、センスがいい人はすぐ習得するし、悪い人はなかなか習得しないのだけれども、当事者意識をもって自分が常に動いていくという感覚をインストールしていくという感じですよね。

今出川 まあ、そうですねえ、ただ昔は理屈じゃないというか、また話は昔に戻ってしまいますが(笑)、無駄に走らされたりしましたね。

(会場笑)

それを考える時間を与えられないぐらい動かされます。

深井 理屈だけで考えないところは、山岳仏教自体がもともとそういう感じですものね。

今出川 そうですね。それがいいか悪いかは別として。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/フローゼ 祥子/戸田 秀成

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