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2. グローバル企業がインドで行う「イノベーションのアウトソース」とは

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「教えてほしい!グローバル市場の最新動向(インド/イスラエル/ブラジル)」全9回シリーズの(その2)では、ブライトパートナーズ蛯原さんがインドのベンチャービジネスの現状を解説します。インドの成長スタートアップをターゲットに、世界中のグローバル企業が“イノベーションのアウトソース”をしている構図が見えてきました。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2020年2月18~20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 12E
教えてほしい!グローバル市場の最新動向 (インド/イスラエル/ブラジル)

(ナビゲーター)

三輪 開人
特例認定NPO法人 e-Education
代表

(スピーカー)

蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー

竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner

中山 充
株式会社ブラジル・ベンチャー・キャピタル
代表

濱田 安之
株式会社 農業情報設計社
代表取締役 CEO, ファウンダー

※ 本セッションは2020年2月に開催されました。その後世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、現在の市場動向は異なる可能性がございます。

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1. シリコンバレーの約2割は“実質インド企業”? インド工科大卒の超秀才たちが創る新たなスタートアップ像

本編

グローバル企業がインドで行う“イノベーションのアウトソース”とは

蛯原 次に、2番目の「インドはグローバルトップ企業のイノベーションセンターである」という点についてです。

左はシスコシステムズの、右はSAPのバンガロールオフィスの写真です。

(スライド省略)

シスコ社は、世界中のどこのオフィスも同じキャンパスデザインにする会社方針があり、社員がどこに派遣されても違和感なく楽しく働ける環境を提供しています。

それらのオフィスに数万人規模の社員が働いており、そこでは当然のようにオープンイノベーション、スタートアップのアクセラレーション、投資を行っています。

右側の写真をよく見ると、卓球台があり、いかにもシリコンバレーライクなインターフェースで仕事がなされていることが窺えます。

日本側からすると、「インドはBPO(business process outsourcing)やソフトウェア開発のオフショアでしょう」というパーセプションが強いと思います。

それは決して間違いではないのですが、“イノベーションをオフショアしている”と表現するのが正しいと言えます。

これは、インドのバンガロールに拠点を持つ主な大手グローバル企業の例です。

(スライド省略)

IT系は言うまでもなく、ウォルマートターゲットペプシコナイキ等のノンテック系も全てイノベーションをアウトソースしています。

具体的に言うと、現地のスタートアップにアウトソースしているということです。

例えばウォルマートであれば、Amazon Goのようなテクノロジーをインドでつくるような取り組みを、現地のスタートアップと進めています。

私は日本企業にもこうした取り組みを積極的に推奨しているのですが、まだまだの状態です。

一番やっている会社はおそらくソニーで、現地に約3,000人の社員を抱えています。次点が楽天さんですが、その数は数百人ぐらいです。

日本企業もこれをやらないとダメですよと、一生懸命伝道師として頑張っているところです。

インドのスタートアップ・ビジネスを象徴する3つのキーワード

蛯原 さて、そうしたグローバル企業が「イノベーションのアウトソース先」として選ぶインドのスタートアップとは、どのようなものでしょうか?

次のスライドは各国のスタートアップ調達資金額を示したものです。

(スライド省略)

私どもは日頃から色々な統計をとっていますが、2019年のものがないので2018年の統計をご紹介します。

中国は一時米国を抜きましたが、2019年に米国の3分の2ぐらいまで著しく落ち込んでいますので、誤差の範囲ぐらいに捉えていただければと思います。

圧倒的に米・中が二強なのは言うまでもないのですが、国として次に大きいのが「インド」なのです。

ヨーロッパは全体を足してインドよりやや大きい程度で、その調達額はおよそ1兆~1.5兆円です。

さらに深堀りしていきます。

「インドで隆盛なビジネスとは何か?」――これは、おそらく皆さん一番ご興味のあることかと思います。

インドで、起業家が投資家に対してプレゼンをする時に必ず使う言葉があります。

まず1つ目が、“Fragmented”、細分化されているということです。

州ごとに法規制が全く違い、ついこの前消費税が統一されたくらいです。

2つ目が “Unorganized”、非近代的であるという点です。

物流から何からあらゆる産業において、州ごと科目ごとに零細企業が卸売りしているといった感じで、例えば医療品卸で言いますと500社ぐらい存在します。

中国のラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)をご存知の方は多いと思いますが、インドにはそのチャイ版のチャイポイントという会社があります。

小汚い、巷の喫茶店のようだった店舗をナショナルブランドとしてスタバライクに展開するこのチャイポイントにセコイア・キャピタルが投資をするなど、まさに典型的な“Unorganized”なものがOrganizeされていく事例です。

3つ目は、皆さんよくご存知のように“Leap frog(段階飛ばし)”をして発展する点です。

“おらが村”にコンビニができる前にネットスーパーができる、ATMができたりクレカを持ったりする前にeウォレットを使う、といったような話です。

おそらく彼らはもう永遠にバンクは持ちません。「これ(スマホ)がバンクになります」というのがインドなのです。

フィンテック、モビリティ、ヘルスケアへの投資熱

(写真左)リブライトパートナーズ株式会社 代表パートナー 蛯原 健さん

蛯原 今インドで一番お金が集まっているのが、「フィンテック」「モビリティ」「ヘルスケア」で、ズバリこれが3大産業です。

これはインドに限らず他の新興国にも当てはまり、この次に「農業」が来るといった形です。

農業分野への期待は大きく、これからどんどん伸びてくると思いますし、弊社も投資をしています。

フィンテックインフラに関しては、政府がつくっていることもあり特に盛んです。

国民識別番号制度の「アドハー(Aadhaar)」では、政府が12億人の“両眼の虹彩”、“全部の指の指紋”といった生体情報を取得し、それをベースにした諸機能をオープンAPIとして集合させた「インディア・スタック(India Stack)」が提供されています。

インディア・スタックWEBサイトより

そこには本人確認のeKYC(electronic Know Your Customer)や決済インフラのUPI(Unified Payment Interface)などのサービスが含まれており、もはや日本でいう全銀連のようなものをAPIレベルで作っているのです。

モビリティ分野も相当盛んです。

いわゆる“CASE” の全分野にプレーヤーがおり、タタ・モーターズが既にレベル5の自動運転を実証実験で成功させています。

▶編集注:CASEは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング/サービス)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語。メルセデス・ベンツが2016年に同社の注力領域として発表し、自動車産業における今後の重点領域として広く使用される。

モルガン・スタンレーのレポートによると、10年後(2030年)のインドでは新車販売のうち30%がEVになり、走行距離ベースで3分の1がシェアリングに、そして新車販売のうち半分以上がADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)機能を有しているだろうと予測されています。

Why India Dreams of Electric Cars(Morgan Stanley)

次は、ヘルスケア分野です。

DocsApp WEBサイトより

DocsAppは、モバイルアプリを通して診断書や処方箋発行の医療サービスを提供しています。

その処方箋をドラッグストアに持参するだけで、インドではそれなりの薬が買えてしまいます。一発で腹痛が治る副作用がおっかないような薬も手軽に手に入ってしまう不安もあるのですが(笑)。

(会場笑)

当社の社員の例では、真夜中に2歳の子どもが泣き出し非常に困惑して「そうだデューデリジェンス中のこの会社があるじゃないか」と思い出してアプリを使ってみたところ、処方箋をもらって薬を受け取って、それを飲ませたら無事落ち着いて30分で解決した、ということがありました。

それがきっかけとなり、この会社には米国のベッセマーと一緒に投資しています。

DX、地方、ソーシャルの交点で勃興するインドの新ビジネス

蛯原 時間が押していますので端折っていきますが、次はインド(新興アジア)における3つの隆盛分野についてです。

まず1つ目は、“インターネットの中”についての時代はもう終わり、“インターネットの外”へ目が向けられているということ。

2つ目は、インドでは都市に住んでいる比率が人口全体の3分の1で、残りの人々は地方に住んでいます。ですので、地方の問題解決を図るビジネスが盛んであるということ。

そして3つ目はソーシャルインパクト、つまり社会問題解決型のビジネスで、これらの3つが交差するところに新たな産業が生まれています。

後ほど濱田さんにも詳しくお話しいただけるかと思いますが、アグリテックがその好例です。

人工知能により収穫高が2倍となったため、補助金産業から経済合理の産業へ発展したということです。

あとは、BYJU’S(バイジュズ)に代表されるエデュテックの領域です。

特例認定NPO法人 e-Education 代表 三輪 開人さん

三輪 我々は教育系のNPOですが、隣国のバングラデシュでもBYJU’Sの名前を聞かない日はないぐらい有名な会社ですね。

蛯原 はい。エデュテック分野の大変大きな会社ですが、象徴的なのはトップVCのセコイアと、経済合理では解決しない問題に取り組むソーシャルインパクトファンドのチャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ が共同投資をしている点です。

今、ソーシャルインパクトこそがVCが追いかけているものであり、特に東南アジアはそれが顕著に表れています。

それから、先ほど申し上げた“Unorganized”(非近代的)な面についてですが、これは家族経営のいわゆる“パパママ・ストア”にAmazonが出資し、おそらく買収してインテリジェント化するだろうという報道があります。

要するに“パパママ・ストアのコンビニ化”なのですが、新興国的文脈から言いますと、個人商店のエンパワーメントをテクノロジーで行い、それにより彼らの生活が向上する、といった流れが見えてきています。

世界中の投資マネーが集約、加熱するセカンダリー投資

蛯原 現時点でインドのユニコーン企業は約25社あると言われていますが、今年中にあと50社生まれると予測されています。

ユニコーン企業自体がいいのか悪いのかという議論もありますが、ファクトとしてはそういったところです。

米国の著名VCはほとんど進出しており、していないのはアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)クライナー・パーキンスぐらいです。

中国、中東、韓国からの進出・投資も非常に盛んで、このように世界中の投資マネーが集約されているのがインドの現状なのです。

2018年のM&Aの全産業・全世界の最大ディールは、ウォルマートによるインドの最大手スタートアップ・フリップカート(Flipkart)の買収で、その額は実に2.2兆円に及びます。

▶︎ウォルマートがインドEC大手フリップカートを買収(インド)(JETRO)

この時の時価総額が日本のEC最大手である楽天の2倍に及ぶことからも、そのスケールの大きさが分かると思います。

このようにインド企業のM&Aは躍進的に増加しており、投資家としてM&Aエグジットも十分あり得るといった状況です。

しかしそれ以上に今増えているのは、業界用語で言う「セカンダリー」です。

次の投資家に対してバトンタッチして売るというエグジットで、例えば、巨大ホテルチェーンのOYOは既に初期の投資家に1,500億円ぐらい戻してしまっています。

なぜならば、ソフトバンクが買い上げているからです。

これは世界の潮流でもありますが、先進国では次の投資家に対するエグジットという「セカンダリー」がユニコーン以上の企業でどんどん出ている状況です。

時間となりましたので、いったんここで区切らせていただきます。

三輪 ありがとうございました。 蛯原さんでした。

(会場拍手)

残りあと1時間で3名のプレゼンターの方々が控えていらっしゃるものの、この時点でいったん蛯原さんへの質疑応答の時間を設けたいと思います。

質問ある方は、いらっしゃいますか。では濱田さん、よろしくお願いします。

インドのスタートアップが日本市場へ進出する可能性は?

濱田 安之さん(以下、濱田) インド企業が日本へ進出してきて、一気に日本市場を攻めてくるといった可能性はあるのでしょうか。


濱田 安之
株式会社農業情報設計社
代表取締役 CEO, ファウンダー

1970年北海道室蘭市出身。1996年に北海道大学農学部卒業後、農業機械の研究者として性能や安全性の評価試験や情報化・自動化に関する先端技術を開発するとともに、国内の大手農機メーカーや工業会と連携して農業機械間の通信制御の共通化に取り組んできた。2014年4月に農業情報設計社を設立。GPSを利用して真っ直ぐ等間隔、効率的な走行と作業を実現するトラクター運転支援アプリ「AgriBus-NAVI」は世界140か国の農業者に愛用されている。研究者として培った知見を生かし、「より良い農業へのチャレンジを支える」べく農業機械を中心とした農業生産技術の自動化やロボット化、情報化といった農作物・畑・田んぼそして農業者に一番近い先端技術の開発・提供に取り組んでいる。

蛯原 ベンチャー企業は、大きくテクノロジードリブンの企業とサービス産業の企業の2つに分けられます。

全部とは言いませんが確率論的に言うと、サービス業は圧倒的にローカルが勝つと言われており、例えばOYO Hotels Japanが日本市場で苦戦しているケースが一例です。

逆にテクノロジー分野はDay1からグローバルマーケットを攻めていかなければなりません。事実、ハイテク系のインド企業は日本にも進出しています。

日本でも使われているアドテックやCRMといったサーバーサイドのプロダクト、あるいはセキュリティー等、その辺の分野は相当強いですから、区分け次第だと思います。

インド人起業家やIIT卒人材のキャリアパスとは?

竹内 寛さん(以下、竹内) 僕からも質問をよろしいですか?


竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner

三井物産(株)企業投資部所属。2004年、同社VC子会社(Mitsui & Co. Venture Partners) 米シリコンバレー拠点立ち上げの為渡米し、現地で米Startup投資業務に従事。2009年に日本帰国後、三井物産の複数部門で自動車・IoT分野の米Startup投資と日本での事業開発に従事。同社経営企画部イノベーション推進室で、全社イノベーション推進体制の企画・推進。2018年11月、イスラエルのStartup投資にFocusしたVC、Magenta Venture Partners設立、Managing Geneal Partnerに就任。現在イスラエルに駐在し、同国Startupへの投資業務に従事。早稲田大学大学院 理工学研究科卒(修士)。ソフトウェア工学専門。

インドとアメリカの結び付きがすごく深いというのは分かったのですが、インドのアントレプレナー(起業家)を見た時、インドで起業する人と、アメリカに行って起業する人と、選択肢として2つあるように思いました。

どういう感じで棲み分けているのか、その辺りを教えていただけると幸いです。

蛯原 先ほど申し上げた通り、ハイブリッドが多いと思います。

アメリカでマーケティングしてグローバル企業のヘッドクォーターに営業し、一方でインドで営業すもるしモノづくりもするといったタイプが多分一番多いような気がします。

竹内 なるほど。ありがとうございます。

三輪 会場の皆さんからも、ご質問はありますでしょうか? はい、そちらの方どうぞ。

質問者1 IIT(インド工科大学)出身の方というのは、基本的に自分で起業したい方が多いのか、あるいはまずアメリカに行きたいのか、その中で選択肢として日本で働くということもあるのか、その辺りの感覚を教えていただければと思います。

蛯原 非常に増えているとは言え、割合で言いますと毎年1万人の卒業生のうち起業するのは100人前後です。

三輪 メルカリさんやソフトバンクさんが、IITの学生を直接採用しているとお聞きしましたが。

蛯原 そうなんですよ。結論から申し上げて、IIT出身者の採用は全く問題なく可能です。

ジョブフェアと呼ばれる就職説明会が何度も開催されますが、そこで一番上、Tier1を採りに行くのは大変で、そこはやはりGAFAです。

その次ぐらいに大手があり、3番手ぐらいであれば採用可能で、日本のベンチャーでもいけます。

質問者1 ありがとうございます。

三輪 蛯原さんありがとうございました。蛯原さんに今一度拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

次は竹内さんのプレゼンテーションです。竹内さん、よろしくお願いします。

(続)

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/小林 弘美/蒲生 喜子/戸田 秀成

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