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4.「産業のDXにはロマンとそろばん、両方大事」(Mobility Technologies川鍋 一朗)

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「イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?」全5回シリーズ(その4)は、スピーカーたちが現場で感じるDXの課題を紹介します。Mobility Technologies川鍋さんが明かす、JapanTaxiとMOVとの統合エピソードが明かされ、名言も飛び出しました。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2020 プレミアム・スポンサーのTokyo Prime にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
Session 10C
イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?
Supported by Tokyo Prime

(スピーカー)

川鍋 一朗
株式会社Mobility Technologies
代表取締役会長

小林 晋也
株式会社ファームノートホールディングス
代表取締役

土岐 泰之
ユニファ株式会社
代表取締役CEO

松下 健
株式会社オプティマインド
代表取締役社長

(モデレーター)

湯浅 エムレ 秀和
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
ディレクター

イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?配信済み記事一覧


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最初の記事
タクシー、酪農、子育て、ルート最適化…さまざまな業界で進むDXを語る

1つ前の記事
DXを推進しながら見えてきた収益の向上、人材育成という課題

本編

現場で見えてきた、DXの今後の課題とは?

湯浅 ここまで各業界の中での取り組みを聞いてきましたが、ICCサミットなので、産業としてどういうことができるかを話していきましょう。

最近は何でもかんでもDXと叫ばれてはいますが、なかなか進んでいかないと感じています。

何が起こればDXが進むのかについて議論をしたいです。

例えば、自分が日本の総理大臣だとして、DX推進のために何かを変えられるとしたら、何を変えますか?

ユニファ 代表取締役CEO 土岐 泰之さん

土岐 保育園の場合、保護者や現場の保育士はDXに大賛成です。

連絡帳は、手書きよりもアプリがいいといいます。

今後一層変わっていくべきなのは保育の商社です。

保育商社は変われなくはないですが、保育園は自治体に対して書類を出し、補助金申請が必要で、しかも自治体によってフォーマットがバラバラなのです。

業界全部をやるなら、ユーザー、サプライヤー、そして管轄省庁と、全て丸ごと変わらないと劇的には変わらないです。

コロナによって自治体も変わろうとしているのはチャンスだと思っています。

湯浅 なるほど、行政手続きですね。

ファームノートホールディングス 代表取締役 小林 晋也さん

小林 長期的目線を持った経営者でなければ、DX実現は難しいと思いますね。

大企業はリアクティブな経営者の方が多いので、株主資本主義の中で、短期的な目線で対話をせざるを得ない状態だと思います。

しかしそれは仕組みではなく、人の問題だと思っています。

その人が、リアクティブかクリエイティブかという問題だと僕は思うのです。

クリエイティブで、DXが進んでいる会社もありますから、社長の器以上には会社は大きくならないというのは事実だと思いますね。

自戒も込めて考えていることですが、創りあげたい世界観、自分のビジョンがどれだけ大きいかを考えるようにしています。

ファームノートを始めた時は、すごいものを見つけてしまった!と思いましたが、実際にやってみると何も知らないど素人で、いろいろな人から教えてもらいました。

しかし一旦アプリを作ってしまうと、コストもかけたし顧客もいるしで、売上も立たないのに、それが未来だと信じて、抜け出すことができませんでした。

株主や顧客からどう思われるかと気にしていて、自分自身がすごくリアクティブな経営者だったと思います。

大きい世界があるのに、自分たちのコアはこれだと信じて、狭いところに閉じこもってしまっている可能性があります。

ですから、自分の作りたい世界があって、そのためにデジタルをどう活用するかという話なのではないでしょうか。

グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター 湯浅 エムレ 秀和さん

湯浅 資金の出し手によるかもしれないですね。

DXは、ネットビジネスなどよりも大きな市場を対象にすることもあり、必然的に時間がかかります。

10年のファンドで一定のリターンを回収する必要がある枠組みの中で事業を行っていると難しいかもしれないので、DXにマッチした資金の出し手を考えたほうがいいかもしれません。

プライベートエクイティファンドがスタートアップ業界に参入してきて、場合によっては、VCからそちらにバトンタッチするケースもあります。

上場株に投資する機関投資家が入ってくると、より長期的な目線で資金を出します。

VCが得意なアーリーからミドルステージよりも先になると、違う資金の出し手と一緒に進めていく方法もあるかもしれないですね。

DXが遅れている日本ではじっくり取り組める

Mobility Technologies 代表取締役会長 川鍋 一朗さん

川鍋 何を目指すかではないでしょうか。

ビジネスを大きくして上場して…ということなら、ソフトウェアやSaaSのようなB to Bビジネスの方がいいです。

それをやりたいのかどうか、という問題だと思います。

私は家業を継ぐ3代目ですし、モビリティにロックされているし、土岐さんは家族が好きだからやっているし、小林さんはおじいさんが農家で…と、それぞれストーリーと世の中を良くしたい思いがあります。

1,000億円規模になったところで、天下取っても二合半みたいな話です。

ローカル産業は日本のコアですし、そこにはたくさんの、一生懸命だけどスキルがない人たちがいます。

そういう人たちをサポートできるかもしれない立場にいるのは、すごく貴重です。

でも絶対に時間がかかります。

シリコンバレーでは敵が多いのに比べると、日本は時間がかかるけれどそこまで悪くないと思います。

日本にはDXが遅れている産業がたくさんあって、じっくりそれに取り組めるのはむしろチャンスです。

いつ来るか分からないその時に備えて、立ち続けているのも大事です。

先ほど例に挙げたタクシーのサイネージも、ずっとやっていて、タイミングが合ったわけです。

だから小林さんもそのうち、酪農王になっているはずですよ。

(会場笑)

ライバルが仲間になるとき

湯浅 家業の日本交通があって、MOVと組んでプラットフォームとしても圧倒的な存在になっている川鍋さんは、どこを目指しているのでしょうか。

川鍋 私は30年先、次の世代に継ぐまでを常に見ています。

私自身は、20代は勉強だと思っていたので、30歳で家業に入りました。

うちの長女が7歳なので、あと23年は頑張らないといけないと思っています。

日本交通は引き継いできたバトンだと思っていますし、Mobility Technologiesの株も日本交通が持っているので、私個人には何も入ってきません。

だとすると、30年後に向けて産業全体が変わればいいなと思います。

そういう意味では、時間はたっぷりあります。

Mobility Technologiesになってからは、ベンチャーはリスクを取るものだと思うので、永続性とのバランスをとることには腐心しています。

自分がやり続けると、どうしても永続するために地味になってしまいます。

MOVとの統合については、配車アプリではJapanTaxiが先行していましたが、両社とも投資として100億円ほど使いました。

私は5年かけて100億円使いましたが、MOVは2年で使いました。

向こうの投資のやり方がすごいですよね。

そうなるとチキンレースです、DiDiも参入してくるし、海外ではUberは何兆円という規模です。

こちらはひるんでしまって、最後の方はお金を使えなくなってしまったのです。

でも最大のライバルだったMOVは、まっすぐ、真面目にタクシー業界に向き合ってくれていたので、自分だけじゃなくてもいい、一緒になってもいいと思うようになりました。

私はタクシー出身でテクノロジーは弱いけれど、相手はテクノロジーが得意です。

冷静に考えると、一緒になった方がいいと思ったのです。

お互いボコボコに殴り合って、戦い切って、最後に夕日に向かって肩を組んでハハハ、みたいな感じです(笑)。

(会場笑)

合併後、「何を悩んでいたのだろう、自分のエゴだけだったな」と思いました。

きっと自分以外の全員は、合併した方がいいと思っていたのではと感じましたね(笑)。

土岐 タクシーや自動運転の世界は脚光を浴びやすいので、お金や人が集まりやすいですよね。

川鍋 その通りです。

土岐 保育となるとかなり閉鎖的で、業界を変えるには他の業界との勝負になる側面もあるのです。

「家族の幸せを生み出す」ために事業を立ち上げているので、保育士だけではなく、子供の保護者や祖父母の幸せのために何をするかという使命感を持っています。

そのために、広く共感を集める勝負をしてきた自負がありますね、その共感がお金や人になることもあります。

業界を良くするためには潰れた方がいい保育園もありますし、競合が海外にいることもありますので、誰とどう戦うかやリスクの取り方には腐心してきましたね。

湯浅 産業を良くする、産業の収益性を上げる、と言いつつも、そこに抵抗する人たちもいるのでしょうか?

それをどう乗り越えてきたのか、もしくはどう向き合ってきたのでしょうか?

川鍋 「こっちの水は甘いぞ」と仲間に引き入れることもありますが、敵やアンチはやはりいて、そこは巻き込めません。

私の最大の武器は時間ですね。

永遠にモビリティに取り組み続けることは間違いないので、立ち続けているとチャンスが来ると思っています。

あと、抵抗勢力は年齢が高いことが多いので、待ち続けていれば…。

30歳の頃、「もう5年、10年もすれば君の時代が来るから」と言われてなだめられていたのですが、皆さん長生きです(笑)。

(会場笑)

でもいずれ時代は来るので、その時に適応できることが大事だと思いますね。

ロマンとそろばん、両方大事

松下 業界や社外ではなく、社内に抵抗勢力はいなかったのでしょうか?

オプティマインド 代表取締役社長 松下 健さん

川鍋 日本交通はオーナー会社なので(笑)、最後は、前向きな人しか残りませんでした。

JapanTaxiは最初から、優秀な人たちでした。

産業のDXと言うと良い人は来ますが、良い人が稼げる人かどうかは微妙です。

善いことをやればいいだけではなく、ビジネスとしての収益を考えてもらわないといけません。

そこは永遠の課題ですね。

未来に向けて投資すれば今の収益は減りますから、バランスを取るのが難しいです。

松下 長期的に投資をすればミッション、使命としてかっこよく見えますが、足元の売上も立てないといけないわけですよね。

そこのメッセージングについて、具体的に教えてください。

川鍋 社員は放っておくと未来を向いてしまうので、財務内容、赤字が大きいことをきちんと伝えるのが大事です。

赤字を出しながらも、キャッシュがどこで尽きるかも見せます。

それで、「この時点までは大丈夫、調達も行う、でも本当にまずい時は事前に伝える」ということを伝えておくのです。

それで、すぐの黒字化は難しくても、現状赤字なのだから無駄は省いていかないといけない、と強調します。

湯浅 なるほど、夢と数字の両方ですね。

川鍋 はい、ロマンとそろばん両方大事です。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/星野由香里/戸田 秀成/大塚 幸

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