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「イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?」全5回シリーズ(その3)は、ユニファ土岐 泰之さんの子育てDXから議論がスタート。保育園で、保育士の負担を減らすDXとは?運営に負担にならないDX導入の順番とは? ハードウェア開発も並行しながらDXを推進する工夫を、ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
本セッションは、ICCサミット KYOTO 2020 プレミアム・スポンサーのTokyo Prime にサポート頂きました。
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【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
Session 10C
イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?
Supported by Tokyo Prime
(スピーカー)
川鍋 一朗
株式会社Mobility Technologies
代表取締役会長
小林 晋也
株式会社ファームノートホールディングス
代表取締役
土岐 泰之
ユニファ株式会社
代表取締役CEO
松下 健
株式会社オプティマインド
代表取締役社長
(モデレーター)
湯浅 エムレ 秀和
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
ディレクター
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最初の記事
タクシー、酪農、子育て、ルート最適化…さまざまな業界で進むDXを語る
1つ前の記事
当事者がやるのか、外から進めるのか。現場を持つと、DXの説得力が変わる
本編
収益とDX開発の時間軸、子育てDXの場合
湯浅 保育園や幼稚園、子育てに関するDXに取り組み、ハードウェアも作られている土岐さん、いかがですか。
土岐 そうですね、ハードは本当に苦労してきましたね。
先ほど申し上げた通り、保育園では、0歳児がうつ伏せで寝ていると窒息死するという事故が起きてしまいます。
そこで、医療機器として体動センサーをつけておけば、保育士の手書きチェックはなくなりますし、不慮の事態になるとすぐに気づけます。
コストがかかることは分かっていたので、最初にそこには取り組みませんでした。
まず業界を変えるために、誰からどうお金をもらうかについて、悩んだのです。
園内での写真をスマホで撮れば、自動でアップロードされて売れるという仕組みは、保護者が買ってくれるので保育園側は完全無料で使えます。
タブレット1、2台も無料で貸し出すので、保育園側は完全に無料です。
これまで、園長向けの会計ソフトやシフト管理ソフトはありましたが、値段は高いものばかりでした。
何より、現場の保育士を救うためにどうすればいいかと考えた時、保護者が買ってくれるこの仕組みはうまくいきましたね。
そこで一定収益が出るようになり、保育士が一番困っているのは子供の命や安全安心だということが分かってきたので、投資をして医療機器を作るようになりました。
そしてその後にデジタル連絡帳を買収しました、時間軸が大事だったなと感じています。
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湯浅 写真のサービスは完全にキャッシュ化していて、そのキャッシュフローを回して午睡用の医療機器を開発し始めたのですか?
土岐 事業としては利益は出ていましたが、それだけでは難しかったので、当初はファイナンスも絡め合わせて賄いました。
川鍋 それはすごいですね。普通なら赤字でも、いつか黒字になりますと言ってそのまま突っ走りますよね。
まあ、うちがそのパターンなのですが(笑)。
土岐 悩みながらでしたね。
利益、利益と言うよりも、まずはシェアをとるところが優先だと思っていたのですが、セグメントをきちんと分けていました。
例えば、ここは新規開発だから、赤字は許してねという感じです。
トライ&エラーのDX、どこから着手するか
Mobility Technologies 代表取締役会長 川鍋 一朗さん
川鍋 うちはタクシー屋なので、どんどんチャレンジしていました。
日本交通もあったので、その点、多少はファイナンス面で支えてもらえました。
その中で、ファイナンス面で唯一うまくいったのは、Tokyo Primeという後部座席のサイネージです。
これは20年タクシーを運営しているので、絶対に広告価値があると思っていました。
15年前、月2,000円の紙の広告として営業をしたことがありますが、全く売れませんでしたね。
サイネージ広告は、タブレットや通信費の価格がある程度下がらないと実現しなかったのです。
それがようやく4年ほど前に下がったので、それまではマネタイズできていなかったのですが、一気にマネタイズ可能になりました。
タクシーは価格も高いので、企業の意思決定者が利用するため、広告の価値はあったのです。
その価値を掘り出せるようになったのは、とても大きかった。
僕の場合、いろいろ取り組んでいて、たまたまそれが当たったということです。
湯浅 いろいろ試していたということですよね。
川鍋 かっこよく言えばそうですね、土岐さんのように戦略的に行っていたわけではありません。
土岐 いえいえ、私も相当試していました。
湯浅 やりたかったことと参入しやすいことは、あえて最初から分けていたのでしょうか?
参入しやすいことをキャッシュポイントにし、それをもってやりたいことに進んだのでしょうか?
土岐 そんなにきれいなものではなくて、私はもともとパパ目線で、「子供の写真が欲しい」という思いからビジネスを始めています。
最初は、文字と写真で見られる連絡帳アプリを作ったのです。
でもそれだとたくさん写真をつけられないですし、園長からお金をもらわないといけなくなります。
現場も保護者も喜べるものは何だろうと考え、写真販売がアナログだったこともあり、そこに行き着きました。
そこから、その事業1本だけで進めるつもりが、実際の現場にある突然死の問題などが見えてきたので、それらに取り組まなければいけないと思って広がっていったという感じです。
最初は挫折がありました。
川鍋 小林さんのパターンと似ていますね。
最初はソフトウェアで、次に牛のセンサーを開発して…土岐さん、次は保育園経営ですね。
小林 やりましょう!
土岐 ルクミーというブランドなのですが、従業員からは「ルクミー保育園作って」と言われますね(笑)。
最近は、モデル園という形で、我々のサービスを全部導入してみてどうなるかというテストはしていますが、まだ自己資本ではできていないですね。
▶なるほど!こう変わる。保育園×DXの現場 | ルクミー – 保育施設向けICT・IoTサービス (lookmee.jp)
小林 農業は支援を受けやすい立場なので、そこに背中を押してもらったという理由はありますね。
川鍋 確かにそうですね、でも保育もそうかもしれないですよね。
小林 そうですね。
土岐 補助金は使えますね。
松下 土岐さん、自分たちだけで買収しないのには、何か理由があるのでしょうか?
土岐 保育園の運営会社を、ということですよね?
1、2園ならあり得ますが、それが何十施設にもなると、我々の顧客である保育園とのカニバリが起きます。
アンテナショップのような形で経営するという選択肢はあると思っています。
松下 コンセプトモデルということですね。
湯浅 それはスケールする過程で、皆さん考えることではないでしょうか。
主体的に考える人が増えれば産業は良くなる
グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター 湯浅 エムレ 秀和さん
湯浅 多くの方はITスタートアップとしてスタートし、プロダクトをツールとして現場に提供していきます。
しかし小林さんがおっしゃったように、一部分だけを最適化しても、全体への影響は限定的です。
であれば、牧場、保育園、タクシー、など、丸ごとデジタル化した方が事業者にとってもユーザーにとってもいいかもしれません。
ITスタートアップがリアルアセットを持ち始めるということですが、小林さん、葛藤などはありませんでしたか?
小林 僕は、自分のやりたいことよりも、うまくいく方法を考える経営者でした。
しかし16年やってきて、それだと伸びないことが分かってきたのです。
社会的意義があることなら飛び込めばいい、というのが今の僕の考え方です。
バランスシートが厳しくなるのは間違いないですが、それよりも誰が社会課題に向き合って切り込むかの方が大事だと思っています。
ですから、この農業という社会課題の重要さを考えると、あまり気にならなかったというのが正直なところです。
僕らが牧場をどんどん増やすかと言うと、そうではないと思っています。
主体的に考える人が増えれば産業は良くなると思っているので、プラットフォームをうまく使ってもらうことで、技術習熟度が高くなくても参入できる、再現性の高い牧場を活用して収益を上げてもらうことを目指しています。
あとは共通機能、例えばうちは獣医師を雇っていますが、生産性が上がるような獣医師の関わり方を提案するなど、ソフトウェアというよりもソフト面でのサポートを増やそうとしています。
これまではスマホアプリ屋でしたが、最近、牧場の経営状況をレポーティングするサービスを始めました。
皆さん、経営という感覚が少なく、キャッシュインとアウトだけを見て、お金が増えていればいいという感覚で牧場運営をしているのです。
でもその途中段階、つまりKPI(重要業績評価指数)管理をしている人が少ないのです。
それを可視化すると、皆さん「えっ、こんな状況なの!」と驚くので、そこに、うちの獣医師からアドバイスをするアプローチもしています。
これは利益のためというよりも、生産者が気づかなければいけないポイントを我々が提供しているということです。
そうやって機能を作っていくと、パッケージ化されて生産性が高くなっていくということかなと思いますね。
育成、スキルアップ…産業の収益性を上げるには?
土岐 保育園の運営主体としては、3つの種類の法人があります。
社会福祉法人は保守的で、国公立の園はもっと保守的です。
4、5年前から株式会社による運営の園が出てきまして、上場もしています。
そういうところに顧客になってもらいました、彼らは積極的に動いてくれるので、最初のユーザーとしては我々にとって苦ではなかったのです。
ただ、株式会社系でも苦労しているのは、保育士の育成やキャリアパス作りですね。
ですから、”ルクミー保育園”というよりもむしろ、”ルクミー大学”みたいなものを作りたいと思っています。
10個ほどある機能を使いこなすことで心と体にどうゆとりが生まれて、残業時間が減って、副業を始めて給料が上がるなどを期待しています。
例えば、保育士がよくやる読み聞かせはすごくノウハウが必要なので、副業にも活かせると思います。
ですから先ほど小林さんがおっしゃっていたソフト面、キャリアパスまで作れるような、大学みたいなものに、これから取り組みたいと思っていますね。
川鍋 それはおそらく、全産業共通ですよね。
日本の政策の結果、それぞれの事業規模が小さいので、現場が忙しくてスキルアップの時間もなく、後継者を作る余裕がないのだと思います。
私も、タクシー大学は必要だと思いますね。
タクシー業界は特殊で、中途しか採用しておらず、20~40代の人がいないのです。
そこで新卒採用を始めたらうまくいっており、これからは新卒ドライバーを増やしてキャリアアップさせていこうとしています。
今年は230人、来年は300人ほど採用します。
東京の新しいタクシードライバーは約6,000人なので、うちが1,000人採用すれば、他も新卒を採用し、新人ドライバーの半分ほどが新卒ドライバーになる計算になります。
働き手のITリテラシーという観点でも、若手のドライバーだと解決されます。簡単にフリック操作ができるとかね(笑)。
タクシーの場合、東京だと、きちんと働けばそれなりの給料になります。
湯浅 産業自体の収益性を上げていこうという話ですよね。
川鍋 そうですね。小さい会社が多いので、それをまとめるだけでも生産性が上がると思っています。
保育無償化による、産業への弊害
土岐 保育園業界では不思議なことが起こっています。
昨年、保育無償化が始まってしまいました。
▶幼児教育・保育の無償化のこと | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
保育園の運営費は年間5兆円ほどですが、それを国が負担しますということです。
タクシーや酪農の場合、頑張れば頑張るほど売上が上がりますが、保育無償化により、園児に対しての単価がロックされたので、どれだけ頑張っても売上が変わらない業界になってしまったのです。
新陳代謝が止まるということなので、産業の健全な発展を考えると、危機的な状況なのです。
国からもらう分と保護者からもらう分に分けて考えなければいけません。
絵本や離乳食、知育玩具などBtoCの育児産業市場は10兆円ほどありますから、それらを保育園が獲得できるような産業にしていかないといけないと思っています。
▶少子化でも成長が続く「子供産業」について | みずほ銀行 (mizuhobank.co.jp)
川鍋 介護業界と同じ状況になってしまうのですね。
土岐 その通りです。
湯浅 プロダクトだけではなく、ビジネス全体を変えるアプローチ、そして産業全体を変えるアプローチと広がっていくということですよね。
そうなると、法規制も問題です。それについてはどのような活動をしていますか?
土岐 我々は写真やバイタルデータなど、膨大な量の、子供たちの個人情報を持つことになります。
これらについて、個人情報保護法のもと、どう運用していくかが課題です。
保護者から事前に同意書をもらうなど、後から後ろ指を指されない状態にしなければいけません。
個人情報を保護者に提供しつつ、産業の収益性を上げようとしているので、内閣府や経済産業相と話をしています。
また、意外と規則で縛られているので、保育士の兼業の解放のための活動をしています。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/星野由香里/戸田 秀成/大塚 幸
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