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「大人の教養シリーズ『読書』〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)」、全10回シリーズの(その4)は、東京の下北沢で「B&B」という本屋をつくった博報堂ケトル嶋 浩一郎さんによるプレゼン。本とはどういうものなのか、本屋でできる体験について熱く語ります。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティング様にサポート頂きました。
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【登壇者情報】
2021年2月15〜18日開催
ICCサミット FUKUOKA 2021
Session 11E
大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)
Supported by リブ・コンサルティング
(スピーカー)
朝倉 祐介
シニフィアン株式会社
共同代表
北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)グローバルデータ統括部 ディレクター
関 厳
株式会社リブ・コンサルティング
代表取締役
(ホスト)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員/株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター
渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授
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▶大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)
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最初の記事
1.シーズン3突入! 経営者が自らの読書を語り、影響を受けた一冊を語る
1つ前の記事
3.1冊2万5,000円の「名著中の名著」を、その場でポチる人が続出した前シーズン
本編
渡邉 さて次は、嶋さんに導入としてお話をいただこうと思います。
嶋 スピーカーの皆さんのいろいろな本の読み方を伺う前に、僕の話をさせてください。
僕は東京の下北沢で「B&B」という本屋をやっています。
本屋としてどのような心構えで本を売っているかという僕の話を、この後の話に絡めていただかなくても全然構わないのですが、議論のネタになればいいかなと思っています。
2012年に「B&B」を開店しましたが、そもそものきっかけは、2011年に出版した『BRUTUS』の「本屋好き。」という特集で、雑誌の表紙はホッキョクグマのイラストでした。
『BRUTUS』の西田(善太)編集長が、ブックコーディネーターの内沼(晋太郎)君という、今B&Bの共同経営者ですけれども、彼と僕を「全国の本屋の取材に行かないか?」と言って行かせてくれました。
僕は京都の一乗寺にある恵文社という、素晴らしい本屋に行きました。そこの店長だった堀部篤さんは、今、京都の俵屋町で誠光社という本屋をやっています。
内沼君は鳥取の町の本屋さんの定有堂書店に行きました。鳥取駅の北口を降りて、鳥取砂丘のほうに向かうと、なぜこんな駅から離れたところに、こんな素敵な本屋さんがあるのだろう?と思う本屋さんです。
本には「人生のすべて」がある
嶋 そのような本屋をいろいろ回ったところ、書店の人たちはすごく頑張っていい本屋をつくっているのですが、経営はすごく大変でした。
街に、つまり自分の生活導線に本屋が普通にあるって状況は素敵なことですよね。
偶然情報と出会える場所が身近にある状況をどうつくれるか、21世紀にどうしたら自走できる本屋ができるかを考えて、B&Bをつくりました。
このステートメントが、僕たちが本屋にかける思いの全てです。
本には「知」や「エンターテインメント」、大袈裟にいえば「人生のすべて」があります。
それは素晴らしい「無駄」に満ちあふれています。
そんな本との「偶然の出会い」を街ゆく人の日常の中に生み出すべく手を尽くすこと。
それが「街の本屋」の役割だと、私たちは考えています。
待ち合わせのついでに、せつない恋を描く小説に出会う、買い物の帰りに、宇宙の仕組みをひも解く本に出会う……。
そんな出会いを提供する「場」になりたいと思います。
簡単に言えばセレンディピティですが、それができる場所が生活の身近な場所にきればいいなと思ったのです。
まわりの友達に「今度本屋をつくろうと思うんだ」と言ったところ、「頑張って」と言われるかと思ったら、意外に「ふーん」とか「いや、本屋をつくっても赤字ですよ」とか、カチンとくることをすごい言われました。
しかも、ネガティブなことを言うのは、大手出版社の人たちなんですよ。むかつくでしょ。
その人たちの本を売るためにつくっているんだよ!と。でも、彼らが言ってくれるのも分からなくもないのです。
そりゃあ今どき本屋で買わないだろう、ネットで買うだろうという意見もありますが、僕はネットで買う本とリアルの本屋で買う本は全然違うと思っています。
買うものが決まっている場合はネットで買うほうが便利だし、僕もそうしています。
でも買うつもりのなかった本を買ってしまう本屋が、一番いい本屋だと僕は思っているのです。
本屋は自分の「好奇心」を発見する場所
嶋 本屋は、その場に行くことで、買うつもりのなかった本を「あっ、これが欲しかったんだ」と分かるという、言語化できていなかった自分の好奇心が言語化される場所だと思うのです。
人間は不器用で、欲しいものを言語化できません。
だから、本屋はそれを助けてくれるのです。
『羊たちの沈黙』という名作映画がありますが、そこにアンソニー・ホプキンス演じるハンニバル・レクター博士という狂気の精神科医が出てきます。
▶『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.3(Safari Online)
彼は殺人鬼ですが、深い教養があってオペラ、文学に詳しく美食家で、いろいろな非常に含蓄あることを話す人ですが、ハンニバル・レクター博士が語る人間の欲望について、内田 樹さんがエッセーでこう訳していました。
「人間の欲望は実存するのではなく、目の前にそれが現れた時に発動する感情なのだ」という訳は、本屋をやっている感覚とすごく近いなと思いました。
人間って不器用だから自分の欲望を言語化できない。つまり、本屋に入ってくる時まで「僕はこの本を欲しい」とほとんどの人は本来の欲望を言語化できない。
でも本がたくさん並んでいるのを見ると、「ああ、僕はこの本が欲しかったんだ」というふうに、目の前に本が現れた時に欲望が出現するので、本屋は欲望発動装置なのだなと思います。
人はすでに言語化されている欲望に、「どうですか?」と言われてもあまり感謝しませんが、自分が気づかない欲望に「どうですか、これは?」と言われると、すごく感謝したり、勧めてくれた人をすごく好きになります。
検索して見つかることに対してはあまり感謝しないけれども、「あっ、僕はこの本、実は欲しかったんだ」と見つかることにはすごく感謝してくれるのです。だから、そういう本屋は愛されます。
自分が気づいていない欲望が見つかると、人は感謝をするということは、すごくあるなと本屋をやっていて思います。
読書は「非効率」なものでいい
写真左から、リブ・コンサルティング関さん、博報堂ケトル嶋さん
嶋 本屋をやる心得というか、こんなつもりで本屋をやってますみたいなことを話し始めたわけですが、先ほどのステートメントにもあるとおり、基本「無駄」で「本は役に立たないものです」と言って売っているつもりです。
本屋を始めて8年ぐらいですが、「○○できる本はありますか?」とか、「恋愛小説で泣ける本を探しているのですが」とか、目的をすでに決めてから本を買いに来る人がすごく増えています。
それはもったいないなと思っています。
コンテンツに接する前に効果効能というか、「何のために本を読むかを事前設定しないと、本を読めないのか!?」と思ってしまって、その手の本の読み方を日本から駆逐したいと思っています(笑)。
ドストエフスキーを読んでも、父親殺しの話(『カラマーゾフの兄弟』)は人生に何の感動を与えないかもしれないし、一生役に立たないかもしれないし、死ぬ直前に「こういうことか、人生は」と思うかもしれないぐらいの、基本的に読むものは「無駄」であって「非効率」なものです。
すべてのイノベーションは辺境のはじっこから生まれるので、「本ははじっこにあるものだと思って読んだほうがいいよ」という感じで本を売っています。
そして「分類されていない本」が好きです。
本屋をやっていると、ときどき分類できない本があります。
文学の棚に入れるか、世界史の棚に入れるか迷ってしまう、すごく変な本が時々あります。
でもそういう本こそ大好きで、本屋は意外にそういう本をレジ横に置くのです。
だから皆さん、レジ横は狙い目です。置く場所がないから(笑)。
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん
渡邉 本の分類は十進分類法を用いることがありますが、文明開化の時にイギリスなどからやってきた分類方法ですよね。
そうなると、その分け方自体がもう古い。
例えば、人工知能の話をするときには環世界の話もちゃんと入ってこないといけないし、その中には生物学が関わってくるはずだし、さらにすすめると仏教の思想とも関連して……と、本同士のつながりは、分類とは無関係に広がっていきます。
一冊の本をあらゆる棚に置きたくなりますが、そうもいきません。
嶋 分類自体がもう価値観で、誰かが見つけて価値があると思うから、その分類にしているわけじゃないですか。
誰かが「価値があるよ」と、先ほどの効果効能をラベリングしているのが分類ですよね。この棚の本を読むと、酒の作り方が分かりますよと。
まだ見ぬ情報やまだ見ぬ知識、まだ人が価値を価値だと思っていないようなところにアクセスできる場所が本屋だといいなと思います。
朝倉 ご自宅の本棚はあまり考えずにというか、カテゴリーでは区別しないで並べているのですか?
嶋 区別していないです。ぐちゃぐちゃですね。下手すると同じ本が数冊バラバラのところにあります。
でも、それはいいのです。
3年前に買った気持ちと今日買った気持ちがもしかしたら違う動機でその本を買っていたかもしれないので、自分がなぜその本を買ったかという、自分の好奇心のマーキングになります。
先ほど言ったように「本屋は好奇心を発見する場所」だとすると、好奇心が発動したという、好奇心のマーキングのためにバラバラと何冊か同じ本があってもいいかなと思います。
渡邉 確かに。あと空間の中に配置されていて、場所を占めているということも結構大事ですよね。
何か行き詰まった時にEvernoteを探す、Kindleを探すというより、本棚の前をふらふらするような身体性によって、思考が駆動される。トイレに置きっぱなしにしてある本やリビングルームに置きっぱなしにしてある本と目が合う時間が大事ですよね。
嶋 それはちょうど3つ目に書いたんです。
渡邉 おっ!
本屋は10分で世界一周ができる場所
嶋 「本屋は10分で世界一周ができる場所」ということで、なかには特殊な本屋もあるものの、だいたいどの本屋の経営者も、街の本屋になろうと思った志の人は、本屋の中に世の中のすべての構成要素を組み込もうとします。
歴史の本があって、宇宙の本があって、物理の本があって、ガーデニングの本があって、野球の本があって、音楽の本があって、ドロドロ恋愛小説があって、若者の成長譚があって、経営者の皆さんの経営に関する本があって、という本屋にします。
私鉄沿線の駅前の本屋の広さはどのくらいか、皆さん分かりますか?
だいたい30坪くらいです。
そこに何冊ぐらい本を置いているか、分かりますか? 置こうと思ったら、駅前の本屋には2万冊置けます。
B&Bでは、見やすくということもあって、1万冊置いています。
駅前の小さい本屋でも意識の高い本屋は、世の中を構成する要素の本を頑張って全部入れたいと思うわけです。
それでも、30坪の本屋は、5分、10分あれば全部見ることができます。
5~10分の時間で世界を構成する要素が、ガーデニングからアポロ計画からケネディ暗殺まで全部見られるのは相当稀有な、目の前に棚があって、身体性でそれと接触することによって発見するみたいなことと一緒です。
それはいつかネットに負けるけれど、ネットで5分、10分使って調べ物をしていいよと言われて調べられる内容と本屋を5分歩き回って見られる情報量は、圧倒的に本屋の5分間が勝つと思うのです。
渡邉 そうですね。目的がないから大事なのでしょうね。
目的の外へ出ていくとか、自分が予期しているもの以外のものに出会うという可能性が開かれているから、1軒1軒の小宇宙の構成の違いが気になってきて、見立ての作法を見たくなる。
嶋 そう。だからそういう意味で、好奇心の発見アラームが鳴るし、「あっ、実はこういう本に興味があるんだ」という、自分が言語化できなかった水面下の欲望に会える本屋をやりたいなと思っています、という話をしてみました。
渡邉 本屋愛に溢れていますね。
北川 実際やってみてどうでしたか?
嶋 面白いですよ。「このお店、素敵ですね」と言ってくれる人は、やはり自分が買うつもりのなかった本を発見する人たちです。
やり過ぎると良くないのですが、今日は雪が降りそうだなという日があると、雪だるまが出てくる話の本を置いたり、『007』の映画が公開されそうになるとスパイ道具百科の本を面陳(※) で置いたり、ワールドカップがあると普段は売れないドラえもんの国旗図鑑の本をレジ横に置いたりします。
▶編集注:本を棚に立て、背ではなく表紙を見せて陳列する方法。
夕方に行ってみると売れていたりして、キュンとしてうれしいなと思います。
渡邉 メッセージボトルの通信が、誰かに届いたような気持ちになりますね。
では、ぜひここからはお一人お一人の読書の世界観を頼りにしながら、みんなでディスカッションしていければと思います。
嶋 お互いに自由に質問していただく形で進められればと思います。
渡邉 順不同ですが、トップバッターは北川さんからでいいですか?
(続)
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続きは 5.登壇者同感!「仮説・検証型読書」にはまると、小説が読めなくなる をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美
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