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下町ロケットの弁護士モデルが語る「特許を活用したベンチャー企業の資金調達」【K16-6D #6】

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「小説『下町ロケット』の弁護士モデル(鮫島 正洋氏)が語るグローバルニッチ・トップを目指すための知財戦略論 」【K16-6D】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!8回シリーズ(その6)は、WHILL杉江さんに特許戦略をお話し頂いた上で、鮫島弁護士・ソラコム玉川さんを交えて、特許を活用した資金調達等のテーマを議論しました。テクノロジーベンチャー必見の内容です。是非御覧ください。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016 「ICC SUMMIT」
Session 6D
小説「下町ロケット」の弁護士モデルが語るグローバルニッチ・トップを目指すための知財戦略論
 
(スピーカー)
鮫島 正洋
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
代表パートナー弁護士・弁理士
 
杉江 理
WHILL Inc.
CEO
 
玉川 憲
株式会社ソラコム
代表取締役社長
 
(モデレーター)
水島 淳
西村あさひ法律事務所
パートナー

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【本編】

水島 パテント・シールド、知財を保有する会社の買収、プールライセンスを受けるなど、外の知財を使うための手法はたくさんあり、ベンチャーの成長ステージにあわせて、どこまで投資が可能なのかという点も含め、非常にバランスが必要ですね。

杉江さんにも同じ観点からお話をお願いできますか?

WHILLの特許戦略

杉江 我々の場合は、餅は餅屋と言いますか、役割分担が重要だと思っています。

具体的に申しますと、弊社はコア技術として前輪のテクノロジー、モビリティのベースを持っています。

このコア技術に、例えばIoTやロボテックスの技術を組み込んでいく時に、では全てを自社開発でやるかというと決してそうではありません。

いろいろなところとライセンス契約を結び、モビリティプラットフォームにどんどん載せていくことになります。

そうすることにより、一気に面を取っていく、市場を取っていくことが最も重要な戦略だと位置付けています。

そのような観点から、役割分担を徹底し、必要なライセンスをどんどん取得し、面を取っていこうと考えています。

水島 現時点で特に狙っている、アンテナを張っている分野はありますか?

杉江 今は、自動運転、自動制御、自動停止の技術を入れていくことに取り組んでおり、これらを我々のプラットフォームに載せていくことになります。

これまでの製造業には、モノに対して知財を取得して、他の人が販売できないようにして、自分たちだけが売る、という考え方があったと思います。

それが昨今ではソフトウエア的思考になってきていると思います。

例を挙げれば、トヨタ社が最近、水素関連技術のパテントを5,000件くらい開放しました。

▶︎参考資料 PRESIDENT Online「トヨタが燃料電池車の特許を無償開放した本当の理由」

パテントを一気に無償開放することで、面を取り、その後にライセンス化していくというビジネス戦略だと思うのですが、これはソフトウエアの考え方と同じです。

これは極めてやり方がソフトウエア的であり、ハードウエアだけれども、やり方はソフトウエア化しています。

水島 ありがとうございます。

杉江さんにもうひとつお伺いしたいのは、ハードウエアの特徴として、仮想領域ではなくて現実世界でモノを実際に作って運んで売るというプロセスがあります。

そのプロセスを通して外部とのやり取りが生じますが、その際、知財を守るという観点から注意していることなどがありましたら教えてください。

知財流出防止の観点から量産パートナーを選定

杉江 先ほどの鮫島先生のスライドでも、スタートアップに欠けがちな能力として、量産とグローバル販売の2つが挙げられていたかと思います。

我々のケースもまさにそうで、量産の部分については、台湾でOEM生産しています。

量産に際して気を付けなければならないのは、よくある事例ですが、中国で量産したらその後全く同じ製品が同じ工場から出てきた、というようなことがよくあります。

量産する時に、どのようにコアテクノロジーを守っていくかということは、相当に注意していかなければならないと思います。

それに対して我々が取った対策には2つあり、ひとつは国の選定です。

中国で量産するよりもコストがかかるのを承知で台湾を選んだ理由は、親日国であるというシナジーです。

先ほど2つの対策と言いましたが、3つありました。

2つ目は、工場を2つに分けました。

1つの工場はもともと電動車いすを作っている、安定したところを選定し、ここでベースを作っています。

他方、コアテクノロジーについては別の工場を選定して作っており、1工場で全てを作れないように隔離し、ノウハウを取られないようにしました。

3点目はシリーズAの時、水島さんもご存知の通りですが、コア技術を作ってもらう工場から、少し資金を入れてもらいました。

資金を入れてもらうことで、パートナーとして信頼しながら、一緒に成長しようと。他方でたくさん入れすぎてもらうと工場を変えたい時、拡大したい時にスタックするリスクもあるのでフレキシビリティを残せるくらいのシェアを持っていただきました。

工場に関してはこのような形で、ハードとして持っていかれないように戦略を打ち立てました。

水島 ありがとうございます。

これは非常に示唆に富んでいると思います。

鮫島先生、何かコメントはございますか?

鮫島 杉江さんのウェブサイトを拝見して非常に感銘を受けたのですが、従来の車いすのイメージがすっかり払拭されていて、かつ今のお話では、かなりのハイテクを取り入れているということです。

車いすについてはまだ分析したことがありませんが、本当は今日分析を終えてくれば良かったのですが、車いす自体は恐らく昔から特許が多く出ている世界だと思います。

そのことは決して悪くなく、昔からあるものなので、良い特許はほとんど全部消えていて、車いす全般を押さえるような広い特許は残っていません。

ですから、そこに特許リスクはありません。

その中でどのようにニッチ化していくかという話だと思います。

杉江さんのWHILLの場合は恐らく、「自動運転」を入れたり、タイヤなどにもかなりハイテクを使っているかと思いますので、「ハイテクを使った車いす」というジャンルになるのでしょうか。

こういう発想はあまりなく、「自動運転×車いす」などの観点から検証してみれば、WHILL社の製品は確か13件の特許を公開されているかと思いますので、上位に食い込んでくるのではないかとと思っています。

ひとつ言い忘れましたが、このように知財戦略のアウトプットを出していくと、資金調達の面などでもかなりアピールできると思います。

水島 ありがとうございます。

知財戦略のアウトプットは資金調達面でも有効

水島 非常に良いポイントを挙げていただいたと思うのですが、知財の利用、マネタイズに関して、知財という権利を持ち、仮に誰かがその権利を侵害したとしても、特許庁が何かしてくれるということはありません。

特許庁が、警察のように出動してくれることはなく、裁判所に持ち込み、差し止めなり損害賠償を求めないと、実際には権利の行使はできないわけです。

これがベンチャー企業にとって知財が諸刃の剣であると言われる所以でして、実際に訴訟をするとなるとコストがかかり、もしコストが何とかなったとしても、1年、2年という時間がかかります。

そうこうしている間に、顧客がライバル企業へと取引を切り替えてしまい、ビジネスが立ち行かなくなるという例も少なくなく、特許、知財については諸刃の剣であることを理解をしたうえで考えていかねばなりません。

頭では特許が大事である、知財が大事であるということが分かっても、「それがなんぼのもんやねん」というところ、一体いくらになるのだというところは、モヤモヤとした感じが残ると思います。

ただ、ベンチャー企業に対して私がいつも申し上げるのは、当然、鮫島先生がプレゼンテーションでも触れられていたように特許を取得するということは、10年、20年後の1,000億円マーケットをきちんと押さえるため、企業のいわゆるサステイナブル・ビジネスのためであるという点もさることながら、ベンチャー企業でのマネタイズの仕方として、先生が先ほどおっしゃったように、もちろん知財自体によるマネタイズではありませんが、この知財を持っているがゆえに資金調達が順調にいく、このようなマネタイズの仕方もあると思っています。

実際本日ご登壇いただいた2社は、私もずっと一緒にやっていきていますが、特許のそのような側面を活用しながら資金調達を行っています。

資金調達において、ないしは将来を見据えて、将来のイグジットの可能性を踏まえて知財がどのように重要なのか、過去のエピソードがありましたら、またどのような点に注意をしているかについて、玉川さんからお話を伺えればと思います。

玉川 我々は昨年の頭にシリーズAで約7億円、今年5月から7月くらいにかけ、シリーズBで総計約30億円の資金調達をしたのですが、やはりシリーズBの時には、実際出資者の中にも、知財の保有状況に関心を持つ投資家がいました。

我々は、技術的に非常にハードルの高い、モバイルのクラウド化を行っていますが、これらの技術に関連する知財は押さえられているのかという観点から調査していただきました。

我々は特許を取得しており、かつ確度が高かったので、その点を評価していただいて実際の出資に至ったことが具体的にありました。

面白いことに、資金調達を始める前の時点で一度評価してもらった時には、あまり芳しくない結果だったのですが、きちんと調べていただいたところ特許の存在を理由に出資の意思を固めていただくことができたという実例があります。

水島 ありがとうございます。

杉江さんはいかがですか?

グローバルニッチであることが重要だった

杉江 結論から言いますと、特許がなければ我々も資金調達ができなかったと言っても過言ではないくらい、重要な役割を果たしていると思っています。

我々もシリーズA、Bでトータルで30億円くらいの資金調達を行っていますが、Aの時も、Bの時もどこの特許を押さえているのか、それはブレイクされにくいのかといった点について、また特許に絡めたビジネスモデルの戦略については明確に審査されました。

もうひとつ付け足すと、先ほどニッチトップのプロダクトという話がありましたが、我々のプロダクトは現時点では、国内でニッチにさえなれないくらいにニッチですが、考え方としては、グローバルニッチを目指しています。

どういうことかと言うと、保有している特許はどこの国で優先権を持っているのか、世界中か、という点まで評価が行われます。

我々はPCT出願で優先権を主張し、アメリカと欧州での特許を持っていますので、将来を見据えたグローバルニッチとして、その点も重視されました。

ですから、非常に重要だと思います。

水島 ありがとうございます。

鮫島先生、何かコメントをいただければと思いますがいかがですか?

鮫島 特許を利用した資金調達というのは、我々も長年取り組んできていますが、やはり投資家ないしはベンチャーキャピタルというのは、技術についてはあまり詳しくないので、技術的な面をいくらアピールしても限界があります。

それよりは、投資家とのリレーション、言い換えれば、投資家に保有している特許の価値を分かってもらうにはどうすればよいか、という観点から先ほど(詳細な特許分析。本記事では非開示)のようなプレゼンを作っているわけです。

もうひとつ、先ほど出ました特許とは「なんぼのものなのだ」という話ですが、例えばこのように考えられると思います。

特許を侵害している人に対して特許訴訟を起こし、いくらか回復できたとしても、これはベンチャー企業にとってはあまり意味がないと、私は思っています。

訴訟というのは確実に、社内のリソースを消耗します。

つまり、前に進むエネルギーが無くなっていきますので、我々は勧めていません。

では何のために特許を取るのかというと、1,000万円を特許取得のために使って、例えば1億の資金調達ができれば、それは意味があっただろうと、資金調達に関して言うならば、そのような考え方だと思います。

特許の価値や意味は、このように見出していくしかないのではと思っています。

水島 ありがとうございます。

(続)

続きは 下町ロケットの弁護士モデルが語る「ベンチャー企業が考えるべき特許の品質」 をご覧ください。
https://industry-co-creation.com/management/9653

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/鈴木 ファストアーベント 理恵

【編集部コメント 】

続編(その7)では、ベンチャー企業が展開することの多いソフトウェア(ITサービス)の特許化に関して留意すべきポイントを鮫島弁護士にお話し頂きました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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