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2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。本レポートでは、2月18日夜に天神で行われた特別イベント「CRAFTED MEETUP NIGHT in Garraway F」の模様を、九州を舞台に活躍する4名が議論した「九州の地でCRAFTEDを語る」の内容とあわせてお届けします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
▶ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧
ICCサミット FUKUOKA 2日目、2月18日(DAY1)のネットワーキング・イベントは3箇所に分散して開催された。メインプログラムの会場であるグランドハイアット福岡のラクスルTVCMパーティ、リストランテKubotsuで行われた登壇者・一部スポンサー関係者向けのOPEN8プレミアム・パーティ、そしてCRAFTED カタパルトをきっかけとして広がる“CRAFTEDコミュニティ”と”九州ネットワーク”がMEETUPする場として開催された、LEXUSのスポンサード・イベント「CRAFTED MEETUP NIGHT in Garraway F」だ。
トヨタ自動車九州が運営するコワーキングスペース「Garraway F」
LEXUS宮田工場を有するトヨタ自動車九州が、地元福岡の起業家との交流の場として運営するコワーキングスペース、Garraway F(ギャラウェイ・エフ)。イムズ地下1階、天神地下街に直結するまるでアジトのような空間だ。
イベントは、Garraway Fでモビリティ起点の次世代イノベーションを仕掛けるトヨタ自動車九州・植野さんのスピーチで幕を開けた。オープンイノベーション・プログラム「ひらめきスプリント」をはじめとした同社の取り組については、こちらのレポートも参照されたい。
植野さん「トヨタグループの創始者、豊田佐吉翁が言った『障子を開けてみよ、外は広いぞ』の言葉に原点回帰しながら、ここ福岡の感度の高い起業家の皆さんに仲間にいれてもらうために、我々は商業施設であるイムズに、オフィス兼コワーキングスペースとしてGarraway Fを開設しました。
その位置づけは、“Co-Creative” すなわち協働協創の現場というものです。現場をつくることで人々の行動が生まれ、意識が変わり、やがて文化になることを目指しています。Garraway Fでの出会いを通じて『人の縁』と『時の運』を交差させることで、よりよい世界を実現したいと願っています。本日はどうぞお楽しみください」
続いて、福岡を拠点にコミュニケーションデザイン事業やスペースデザイン事業を手掛けるDAT.(ダット)の高松さん。
高松さん「DAT.ではいくつかの事業とあわせてケータリング事業を行っています。Garraway Fさんとはオープン当初からご縁があり、昨年末のICCのイベントでも、ジョルジュマルソーさんや吉武広樹シェフのRestaurant Solaさんに、九州の食材を使った美味しい料理を通じて九州のモノづくりを表現いただきました。
▶LEXUS宮田工場見学ツアー&福岡天神Garraway Fで語られた「CRAFTEDな考え方」とは?【活動レポート】
今日はミシュラン一つ星のNishimura Takahito La Cuisine Creativiteさんをお招きして、九州の食材と生産者の想いを西村シェフに届けていただきます。せっかくですので、西村シェフをご紹介させてください」
西村さん「平尾でフランス料理のレストランを営んでます西村と申します。……本日はよろしくお願いします」
西村シェフは、福岡西鉄平尾駅から徒歩15分ほどの住宅街で、古民家を改装したミシュラン一つ星のフレンチレストランNishimura Takahito La Cuisine Creativiteを運営する。朴訥としたお人柄を感じる一方、筆者は料理をサーブする西村シェフの表情に鬼気迫るものを感じた。
高松さん「シェフはシャイなので言葉数が少なめですが、その分、お料理にたくさん想いがつまっておりますので、後ほど楽しみにしてください。本日はよろしくお願いします!」
続いて司会から、最前列の“リングサイド席”に座る本日の特別ゲストが紹介された。特別ゲストは、農業・食分野を中心にモノづくり、ブランディングに携わる7名のICCサミット登壇者だ。グランドハイアット福岡から、LEXUSの送迎車にて会場入りした。
<特別ゲスト(五十音順)>
・岩佐 大輝さん(株式会社GRA)
・田澤 悠さん(BnA Co., Ltd.)
・田中 安人さん(株式会社グリッド / 株式会社吉野家)
・西尾 修平さん(株式会社HiOLI)
・西澤 明洋さん(株式会社エイトブランディングデザイン)
・舟本 恵さん(JR西日本SC開発株式会社)
・安田 瑞希さん(株式会社ファームシップ)
そしていよいよ、会場からの割れんばかりの拍手に迎えられ、特別トークセッション「九州の地でCRAFTEDを語る」が開始された。モデレーターを務めるのは、メイドインジャパンの工場直結ファッションブランド・ファクトリエを展開するライフスタイルアクセントの山田さん。
九州を舞台にCRAFTEDな事業を展開する3名のスピーカーが、地域に根ざした事業の在り方を熱く語った。45分のトークの模様をダイジェストでお届けしたい。
(スピーカー)
・佐藤 崇史さん(株式会社資さん 代表取締役社長)
・庄島 健泰さん(住吉酒販有限会社 代表取締役)
・村岡 浩司さん(株式会社 一平ホールディングス 代表取締役社長)
(モデレーター)
・山田 敏夫さん(ファクトリエ 代表)
特別トークセッション「九州の地でCRAFTEDを語る」
山田 敏夫さん(以下、山田) ファクトリエの山田です。よろしくお願いします。
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山田 敏夫
ファクトリエ
代表
1982年熊本生まれ。1917年創業の老舗洋品店の息子として、日本製の上質で豊かな色合いのメイドインジャパン製品に囲まれて育つ。大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。2012年1月、ライフスタイルアクセント株式会社を設立し、同年10月に「ファクトリエ」をスタートさせる。経産省「若手デザイナー支援コンソーシアム」発起人、毎日ファッション大賞推薦委員。著書「ものがたりのあるモノづくり ファクトリエが起こす『服』革命」(日経BP社/2018年)。
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私の会社は熊本に本社があり、ここにいる4名の共通点は「九州」です。このトークセッションが終わる頃には、皆さんが「九州、大好き!」となったらいいなと思っています。
さてスピーカーのお一人である一平ホールディングスの村岡さんは、2年前に本を出されています。その本のタイトルが『九州バカ』 というものでした。
『九州バカ 世界とつながる地元創生起業論』(村岡 浩司/著)、2018
僕はこの本が大好きで、「自分のことを『バカ』と表現してしまうほど夢中になるものがあるなんて、何てすばらしいんだろう」と思いました。かくいう僕も「モノづくりバカ」「洋服バカ」です。
今日は、九州を愛する4人が揃いましたので、それぞれが何バカで、どんなこだわりを持っているかまずは自己紹介していただきたいと思います。
では佐藤さんから、よろしくお願いします。
北九州の人たちの“食堂”として愛されてきた「資さんうどん」
佐藤 崇史さん(以下、佐藤) こんばんは、北九州発のうどんチェーン資(すけ)さんうどんを経営している佐藤と申します。私は「うどんバカ」ですね(笑)。
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佐藤 崇史
株式会社資さん
代表取締役社長
北九州のソウルフードとの呼び声の高い「資さんうどん」を、福岡県を中心に約50店舗ドミナント出店する株式会社資さんの代表取締役社長。現在、「北九州から九州の資さんへ」、「世界で愛される資さんへ」となるべく、出店地域の拡大や海外展開を進める同社の第二創業をリードする。1997年、慶應義塾大学環境情報学部卒。同年、ソニー株式会社に入社し、営業/事業企画を経験後、2001年より、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)にて、消費財等の顧客企業に対し、経営戦略/海外戦略/営業改革/新規事業立ち上げ等のコンサルティングを手掛ける。2006年、ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングに転じ、経営変革/グループ戦略/人事/店舗運営/社長室等の責任者を歴任し、チェンジエージェントとして経営変革をリードした。2018年3月より現職。
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資さんうどんは会社ができて40年、業態ができて44年。本社は北九州の小倉ですが、元々は戸畑の一軒のうどん屋から始まりました。当時鉄鋼の町として栄えた北九州では、鉄工所や港湾の労働者の方々は、24時間3交代制で働いていました。
鉄工所の周辺には食堂がなかったので、彼らの勤務時間に合わせて食べられるようにとうどん屋をスタートしたのが資さんの始まりです。北九州の人の誇りの一つが、「セブンイレブンが来る前から24時間営業していたのが資さんうどん」だったということです。
(会場笑)
ところで皆さん、そもそもうどんが福岡発祥だということをご存知ですか? 香川の人たちは香川発祥と思っていらっしゃるかもしれませんが、僕らは福岡発祥だと言っています。
山田 早速うどんバカっぷりが出ていますね(笑)。
佐藤 博多うどんはアゴ出汁であっさりなのが特徴ですが、僕らのうどんは、鉄工所等で働く人たちのためにパンチのあるサバ出汁で作られてきました。これは創業者(故・大西章資氏)がずっとこだわった味で、「もっと薄くしたほうが売れますよ」と進言した者には「バカか!この濃い味がみんな病みつきなんよ」と言っていたそうです。
うどんの他にカツとじ丼、ぼた餅、カレーなどメニューは130種類ぐらいあって、うどん屋という名の「食堂」です。実はうどんより売れているのがカツとじ丼で、めちゃくちゃ濃い味なのですが3回ぐらい食べるともう病みつきで、他のかつ丼が食べられなくなります。それが資さんの味です。
北九州での知名度・認知度は99.5%で、北九州の皆さんからは「ソウルフード」と言っていただけるようになりました。私が今目指しているのは、北九州にとどまらず全国の皆さん、世界の皆さんに資さんうどんを味わっていただけるようにすることです。
九州で一番九州の酒を好きな酒屋「住吉酒販」
庄島 健泰さん(以下、庄島) 住吉酒販の5代目を務めます庄島です。本日はよろしくお願いします。
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庄島 健泰
住吉酒販有限会社
代表取締役
1981年福岡市生まれ。高校卒業後、飲食店厨房や高級鮮魚店を経て2009年住吉酒販有限会社入社。2017年代表取締役就任。酒屋業5代目。「酒に笑う人生」というテーマを掲げ、商品主導であったこれまでの地酒専門店からの脱却を進める。2014年に「九州の酒と食」をコンセプトとした博多駅店をオープン。「世界で一番九州の酒を好きな酒屋」を自負。2017年より、「Field-to-Table 土から食卓まで」をコンセプトに、厳選された原料を使いナチュラルな製法の酒・食品のみを販売する、東京ミッドタウン日比谷店、六本松421店(蔦屋書店内)をオープン。「本当の美味しさとは、偉大な自然と人の叡智からしか生まれない」ということを発信することで、あるべき自然と人との共存を目指す。
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庄島酒販は大正3年に酒問屋として創業しました。しかし昭和の終わりに田舎の問屋業が成立する時代は終焉を迎え、そこから業務用酒販店に移行しました。
全国規模の酒販店が価格競争で凌ぎを削る弱肉強食の世界で、地酒専門店としてとにかくこだわったものを飲食店に、そして直接消費者にと流通の変化にあわせて広げてきました。店舗としては、現在福岡に3店舗と東京ミッドタウン日比谷のお店の計4店舗を展開しています。
「住吉酒販」本店内の様子。所狭しと酒瓶が並ぶ(こちらのレポートより)
何バカかで言うと僕は「酒バカ」、もっと言うと「九州の酒バカ」です。10年前に東京から家業に戻るときに「地元九州の酒をとにかく愛して行こう」と決めました。
僕がいくら東北の酒に惚れようが、東北にはその酒を地元で支えている酒屋がある。僕がいくらフランスのワインに惚れようが、それを支える地元の人たちがいる。じゃあ九州で酒をつくっている人のそばで彼らを支えている酒屋がいるのか? そう思って、僕が人生を懸けてでも九州の酒蔵を支えていこうとやっています。
つい最近、地元を支えることがいかに大事かを感じた出来事がありました。先週1週間パリに行きまして、それからシャンパーニュの産地にも行って、とにかく朝から晩まで飲み続けていました。
山田 仕入れに行っていたのですか?
庄島 仕入れと、訪問と、勉強を兼ねて行っていました。まあ、飲みに行ったんですが。
(会場笑)
今回すごく衝撃的だったのがJacquesson(ジャクソン)というお酒の味です。ジャクソンは僕が月に4本ぐらい飲む一番気に入っているシャンパンなのですが、パリに着いた当日にステーキ屋でボトルを1本頼んで飲んだら、日本で飲み続けていた味と全然違うのです。
現地のほうが雰囲気もあるし美味しく感じる、というのはなんとなく想像がつきますよね。でも明らかに違う美味しさでした。それもそのはずで、750 mLの液体が船便だと3カ月間ずっと揺らされて環境の違う場所で保管されたら、やはり別のものになるわけです。
だとしたら、九州の酒を輸出することを考えるよりも、世界の人が飲みに来る場所、九州の産地の近くで近くの食とともに酒を楽しんでもらえるような場をつくることができればいいなと。
そんなことを考えながら、酒屋業をやっています。
九州全県の美味しさとこだわりを届ける「一平ホールディングス」
村岡 浩司さん(以下、村岡) 宮崎から参りました、一平ホールディングスの村岡です。
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村岡 浩司
株式会社 一平ホールディングス
代表取締役社長
“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材だけを集めて作られた九州パンケーキミックスをはじめとする、「KYUSHU ISLAND®︎/九州アイランド」プロダクトシリーズを全国に展開。また、台湾(台北)の「九州パンケーキカフェ」は食による日本の地方創生モデルとして話題を呼び、予約の取れないカフェとしてブームを巻き起こしている。現在では多数の飲食店を経営する一方、九州各地にて様々な地元創生活動や食を通じたコミュニティ活動にも取り組んでいる。メディア出演:カンブリア宮殿、NHKワールド、日経プラス10、日経ビジネス、東洋経済 他多数。ローカルイノベーター55選、日本を元気にする88人(フォーブスJAPAN)に選出。「第1回 九州未来アワード」大賞受賞。ICCサミット KYOTO 2019「CRAFTED カタパルト」優勝。著書に「九州バカ 世界とつながる地元創生起業論」(発行=文屋、発売=サンクチュアリ出版)。
公式ウェブサイト:https://ippei-holdings.com
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宮崎のお寿司屋さんに行くと、どこの店にも置いてあるメニューがあります。それは“レタス巻”です。「お寿司屋なのにレタス巻って何だ?」と思われるかもしれませんが、レタスとマヨネーズ、えびが入った、一般的に“サラダ巻”と呼ばれる手巻き寿司です。
実はこのレタス巻きは、僕の実家の一平寿司が発祥なんです。五十数年前にうちの父親がスタートしたもので、世界中に広がっていきカリフォルニアロールの源流になりました。
毎朝マヨネーズを作るところから一日が始まるのが我が家の日常でした。当時父が始めたとき、色んな人から「そんなの寿司じゃない」と言われましたが、今では宮崎の郷土料理のようになっています。
一方で今、地元の人が地元のものを食べていない、という現象がよく起こっています。地方から新しいモノづくりをするとき、最初から「東京で売ろう」とか「大きい街で売ろう」という発想で始めてしまうのが原因の一つです。
父親が元気だった頃から、僕はずっとこう言われていました。
「浩司、10年間やり続けたらみんなに支持されるものが地元の味になるんだ。だから、最初はちょっとぐらい違うものであっても、思い切ってやりなさい」と。
寿司はシャリがあってネタがあって、それを握って出します。うちでは今、九州産の素材で作られ九州で製造された九州セブングレイン(七穀)パスタや九州産の小麦と九州全県から集めた雑穀をミックスした九州パンケーキを販売していますが、僕にとってはパスタもパンケーキミックスも、100%九州産の原料をこれまでと違う形で加工・調理して出しているだけで、本質は全く一緒なんです。
九州の農業素材と九州の昔からの伝統加工技術を持っている工場さんと一緒に、山田君が全国の洋服づくりの現場に行くように、僕も九州の色々なモノづくりの工場を車で回って、それを掛け合わせて色々なモノづくりをしています。
もう九州を何周したか分かりません。とにかくそれが飽きない、「九州バカ」なんです。
山田 ありがとうございます。こうして見ると皆さんそれぞれに強いこだわりがあり、プロダクトアウトですよね。一方、それが本当にお客様の支持を得られているのだなと感じます。
資さんうどんは、ファンの方々からどのように愛されているのですか?
創業社長は、お客様を喜ばせることが全てだった
佐藤 僕たちはお客様の声を大事にしている会社なので、お客様が書いてくれた投稿やお電話やメールで頂いたご意見等は全部読むようにしていますし、SNSでのお客様からの発信もよく見ています。そこでお客様からよく言われるのは、「創業社長は、お客様を喜ばせることがすべてだった」ということです。
創業社長は、鉄工所等のお客様から「毎日うどんばっか食ってるのは飽きるけえ、他のものも作ってよ」と言われて、カツとじ丼を作ったりしていきました。そういうふうにしてメニューが増えていって、うどん屋ですがメニューの半分はうどん以外のものになったのです。
「資さんうどん」WEBサイトより(メニューはこちら)
メニューが130種類もあるので、お客様から僕らが知らないような食べ方や組み合わせを教えてもらうことも多々あります。この前はお客様から「焼うどんに生卵を注文してすき焼き風に食べたらおいしいよ」と言われました。確かにこれはおいしいです。
お客様から僕のところに直接、「社長、なんでこのメニューなくしたんですか。もう1回作ってよ」とメッセージが届くこともあります。この距離感が、“資さんうどんらしさ”なのかなと思います。
山田 効率を考えると130種類もあると大変ですよね。10種類に変えるなどはしないですか?
佐藤 しません。カツとじ丼が売れるのでよく「かつ丼屋をやったらどうか」等とも言われますが、資さんに来たら130種類のメニューがあることが価値だし、家族で来たときにうどんもある、カツとじ丼もある、カレーもあるからみんなでとりあえず行こうとなります。
面白いことに北九州には「資(すけ)る」という言葉があって、資さんに行くことが動詞になっているんです。「今日、資らん?」とか。
(会場驚嘆)
山田 え、すごい!そもそも「資さん」を「すけさん」と読めるのも地元の人ですものね。
佐藤 そうですね、新たに展開した地域では決まって「しさん」と言われます。だから「すけさん」と呼ばれるようになったら、初めてその土地に認められたということだと、あえてふりがなを付けていないのがこだわりです。
お酒に詳しくない方が最初に出会うのが、うちであってほしい
山田 庄島さんは、地元の方からこう言われると嬉しい、みたいなのはありますか?
庄島 僕が「みんなで仕事したな」と実感できるのは、特に飲食店の方から「酒が分からんなら、住吉に行き!」と言われるときですね。
飲食店で経験を積んで独立しようという人が、料理は勉強してきたけれどお酒は分からない、そんなときに、人づてに「とりあえず住吉酒販に行き!」と勧めてもらえることがしばしばあります。そんなとき、仕事をした結果だなとしみじみ感じます。
お酒をよく知っている人は自分でお酒を選べますので、その場合の僕たちの役割は流通業でしかありません。そうして分からない人から頼りにしてもらえる酒屋になることが、一番価値があることだと考えています。
山田 東京ミッドタウン日比谷にもお店がありますよね。福岡で住吉酒販を頼りにする人と、日比谷のお店に行く人の層に違いはありますか?
庄島 福岡の酒屋のスタッフには、「この一升瓶のよさを伝えて売ることができれば、一升瓶1本分、福岡の街の文化が向上するんだ」と本気で伝えています。一方でミッドタウンにはそうしたローカル性はないので「新たな生活に自己投資したい人たちがお酒と出会う場所」と位置づけています。
日本酒は一升瓶2,000~3,000円が相場ですが、そうした方々からすれば4合瓶で2,000~3,000円でもなんていうことはないし、むしろ「そんな値段でいいの? 日本酒ってこんなに素敵な飲み物だったの?」という感じです。そうしたファンをつくっていく場が東京です。
ですので福岡と東京の店舗では役割がちょっと違います。ただどちらにしても、お酒に詳しくない方が最初に出会う場所がうちであってほしいと。そしてそれを自信を持って言えるための日々の営業と努力を怠らないようにと思っています。
彼(白糸酒造・田中氏)と出会えたから、今の住吉酒販がある
庄島 それともう一つ。日本酒づくりは伝統産業です。本人たちはそう思いたくないかもしれませんが、言うならば、仕事の最大の目的は跡を継ぐことです。自分の時代に本当にいい酒ができなくとも、次の世代に渡すことができれば、それは一つの役割を達成したと言えます。
かたや僕たち酒屋は、最初にお話しさせてもらったように時代に合わせて形を変える必要があります。
明日、福岡の日本酒「田中六五(たなかろくじゅうご)」の酒蔵、白糸酒造の専務(田中克典氏)がCRAFTED カタパルトに出ますが、彼が家業に戻った時期と僕が酒屋に戻ったタイミングが一緒なんです。その時代に一緒に走ってくれるパートナー、つまりモノづくりをしている彼と、ものを伝えていく僕が全く同じタイミングで出会えました。
田中六五というワンアイテムが、うちの売り上げの10%にもなっています。もし彼に何かあったら、うちの屋台骨がグラグラするぐらい、そのぐらい一心同体でやっています。一心同体の彼と、このタイミングで、この時代に出会えたから、今の商売があるのも確かです。
山田 田中六五のよさは、どこにあるのでしょうか?
庄島 福岡の街の魅力は一言で言うなら「上質なカジュアル」です。ラグジュアリーではない。ぜひ後で飲んで感じていただきたいのですが、田中六五はまさに、派手さはないけれど飲み心地がいいんです。自然と次を欲する感じが、福岡の魅力と一緒だなと思っています。
福岡では客単価が1,500~2,000円の大衆酒場から客単価が3~4万円のお寿司屋さんまで、かなりのお店にメインのお酒として置いてもらっています。
東京で売るために設計していたら、福岡でははまらなかったと思います。彼と僕が出会って最初から決めていたのは「東京を頼りにしないで、福岡の街の人たちに愛される酒をつくる」の一点でした。
「ファンから愛された創業者の意思」を継ぐことの幸せ
山田 今受け継いでいくことの話が出ましたが、親世代からの継承の仕方や、自分たちがどういう形で次の世代に引き継ぐべきかを考えたりはしますか?
佐藤 僕は親から受け継いだのではなく、プロ経営者として資さんうどんに来ています。以前もICCのセッションでお話ししましたが、実は僕は創業者に会っていません。創業者が亡くなった後に入社しているんです。
▶ICC異色セッション「『創業の精神』と『事業継承』を徹底議論」登壇企業から学ぶ、変わらないもの、変えるべきものとは(ICC FUKUOKA 2019)
でも資さんうどんを支えるファンの皆さん、従業員の皆さんと出会って、これは人生を懸ける仕事だと感動し、これは絶対やらなければと使命感に燃えて来ました。創業者がお客様の声を聞くことをすごく大事にしていたので、創業者と直接話した人たちとたくさん会話をして、彼らの中にある想いと一緒にそれを引き継ごうとしています。それが僕の大きな使命だと思うし、難しさだなと思っています。
僕のような新しい人間が来て何かを変えようとすれば「いや、これは創業者が決めたことやから」と言われることもあります。それに対して「創業者もきっと変えたと思う」「そんなことないですよ」といった会話を今までたくさんしてきました。
お客様の声を大事にしながら、本当に一つひとつ、じゃあこれは守っていこう、これは変えていこうと会話をしながら日々やっています。
創業者が亡くなってもなお、ファンの方々が語ってくれるような会社を、それまでを全然知らない自分のような人間が経営していくなんて、ものすごく幸せなことです。だから創業者と同じ想いで進化させていった先にこそ、お客様にも受け入れられ、愛される未来があると信じています。
山田 素晴らしいですね。
(会場拍手)
これからは、社会における使命感・存在意義を考える時代に
山田 村岡さんは、次世代への継ぎ方などをどのようにお考えでしょうか。
村岡 そうですね……一つ言えることは「変わらないと残らない」ということなんですよね。
ちょうど1年前、CRAFTED カタパルトの審査員としてICCサミットに参加させてもらって、すごく衝撃を受けました。皆さんのプレゼンを聞いて心から感動して「僕は何を呑気にこっち側(審査員側)に座っているんだ。こんなことしている場合じゃない」と思ってその次の京都で登壇させてもらい、光栄なことにグランプリをいただきました。
▶一平ホールディングスが涙のグランプリ! CRAFTED カタパルト&ラウンドテーブルで増幅するモノづくりへの情熱(ICC KYOTO 2019)
面白いのは、カタパルトというのはもともとベンチャー企業のピッチの場ですよね。比較的新しいベンチャーの皆さんが集まるICCのコミュニティの中で、CRAFTED カタパルトへの登壇企業、審査員の皆さんを中心に、歴史のある企業、農業や食、モノづくりが交ざり始めています。
たぶんこれから5~10年のスパンで世界を見たときに、社会に染み出す自分たちの使命や存在意義を、みんながすごく考えるような時代になってきていると思います。
僕の場合は長い時間軸で物事を考えているので、もしかしたら僕が死ぬときや死んだ後ぐらいに完成するような事業プランです。佐藤さんのお話を聞いていて、僕の代で変えたものを次の代がまた変えていって、全然血縁でもない方が経営していたりして、そのときに2代目や初代のことを語っていたりすると、すごい幸せだなとしみじみ思いました。
山田 ありがとうございます。庄島さんはいかがですか?
そこに暮らす人々が抱く「愛情」が、文化になる
庄島 お酒はその時代、その場所の象徴です。九州や日本に限らず、1,000年前、2,000年前も関係なく、人間の歴史上、お酒は文化のすぐ側にありました。
僕は、その象徴の在り方が変わってきていると感じています。
ここにいらっしゃる多くの方は、例えば海外から来た人に「あなたの地元の酒を1本買って帰りたいから、教えて」と言われたとときに、語れるものがそんなにはないでしょう。
ただそれが1本だけでいい。1人に1本それがあれば、例えば田中六五でもいいのですが、「全然お酒のことは知らないけれども、福岡の街では田中六五ををみんなが飲んでいるし、僕も好きでよく飲むんだよ」という一言を言えることができればと思うのです。
それが、地元に対する愛情の象徴だと思います。
地元の酒のことぐらい、1本だけでもいいので語れるようになってほしいなと、そのために僕たちはできる限りお客様に寄り添っていけるように、そこでちゃんと伝えて気持ちよくお酒を味わえるようにしていかなければと思っています。
九州のお酒でなくてもいいので、「好きなお酒は何?」と聞かれたときに、1本すぐに答えられるような人が増えればと思っています。
山田 ありがとうございます。皆さんのお話を聞いて思うのが、お三方にとって“CRAFTED”は、今の庄島さんの言葉を借りると、愛であり、文化であると。そして、僕ら一人ひとりがそれを語れることが、CRAFTEDを体現している生き方だなと思います。
僕たちからは、以上になります。ありがとうございました!
地元を愛する気持ちと、CRAFTEDなモノづくり
トークセッションを終えた会場は、お待ちかねのパーティ会場へと早変わり。西村シェフが腕をふるった九州の美食と住吉酒販のお酒を楽しむ参加者の皆さまに、トークセッションの感想を伺った。
Nishimura Takahito La Cuisine Creativiteの料理の数々
まずは、特別ゲストとしてお越しいただいたJR西日本SC開発の舟本 恵さんにお話を伺った。
舟本さん「先ほどのトークセッションを聞いて思ったことがあります。私は大阪駅でルクアというショッピングセンターのレストランフロアを担当しているのですが、そこで強いのはやはり地元大阪の地場のオーナーさんが運営する飲食店です。でももう一つ、爆発的に売れるお店の特徴があります。それは、宮崎地鶏、もつ鍋、とんこつラーメン、野菜の肉巻きなどの九州の食材を扱った飲食店なんです。
それがなぜなのだろうとずっと思っていたのですが、今日皆さんのお話を伺って、九州に対する各事業者さんの思い、九州らしさとは何かを追求する姿勢から溢れ出てくる『文化』が伝わっているのだと気づきました。
そして九州では、その文化を地元の人たちが一緒に築いているのだなと。地域のよさを出したCRAFTEDなモノづくりをするためには、地元の消費者はむしろ一緒にプロダクトをつくるパートナーなんだなと勉強になりました」
続いて、全国展開の利き酒イベント「SAKE Spring」を手掛けるのぞみの藤田さんにもお話を伺った。
藤田さん「普段僕も京都にいすぎるので自分で分からないところはありますが、地元愛はやはり大事だなと思いました。それと九州の食のカルチャーは独特ですよね。日本の都市部はどこも、料理人が高いレベルを目指しすぎていて逆に大箱をやらなくなっています。でも博多では、店の箱がどこも大きいんですよ。いまどき、地場の店で30〜40席がそこかしこにいあるのは日本では札幌と福岡ぐらいです。
オペレーションにしても料理の考えにしても、ある程度の工業化を取り入れながら個性を出して行くノウハウ、そしてそれを支える文化があるのだろうなと思います。
あとはこれは今回のICCサミットのセッションを聴講していても感じたのですが、経営の考え方として非ロジカル側、非言語側への流れが来ているなと。経営における“ひらめき”とか心理的安全性とか、AIにはない人間の人間らしさみたいなところが議論され、1年前くらい前からマーケティングや人事の手法として結果が出てきていますよね。
今日一日ICCに参加して、地元愛やそこに根付く文化、そして非ロジカルへの寄り添いのみたいなものも大事なのだなと考えさせられました」
九州の美食と美酒で進むICCのネットワーキング
西村シェフの彩り鮮やかなフランス料理とともに、バーカウンターには住吉酒販が提供するドリンクの数々が並んだ。
“CRAFTEDコミュニティ”とともに、産業を創る
21時過ぎになると、ここGarraway Fから徒歩数分のリストランテKubotsuでプレミアム・パーティに参加していたスピーカーの皆さんが合流し、会場は一層の熱気に包まれた。
最後に、この特別イベントをスポンサーいただいたLexus International レクサスブランドマネジメント部 Jブランディング室 室長の沖野 和雄さんの言葉で、本レポートを終わりとしたい。
沖野さん「皆さんありがとうございました!皆さんのおかげで素晴らしい夜になりました。
やはり自分の仕事に愛情を持ってる方というのは素晴らしいなと感じました。九州の宮田工場をはじめとして、LEXUSのクルマも本当にたくさんの人の力で出来上がっています。その仕事の成果をしっかりと語り、伝えることがマーケティングに携わる私の仕事なのだと改めて思いました。
そして明日は、CRAFTED カタパルトをはじめCRAFTEDな企画が目白押しです。この後はみんなで資さんうどんを食べに行き、明日に備えましょう!」
聞くところによるとこの後、何組かの参加者は実際に、最寄りの資さんうどん(博多千代店)に行かれたとのこと!
愛するものを語る人がいて、それを伝える人がいる。これは、ICCにおいて日ごと醸成されるCRAFTED コミュニティの一つの「文化」なのかもしれない。Garraway Fでの特別な夜は、こうして幕を下ろした。
(続)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
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