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2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。本レポートでは、日本アイ・ビー・エムのサポートで実現した新企画「AIカタパルト」の模様を各プレゼンターのピッチ内容とともにお届けします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページのアップデートをご覧ください。
▶ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧
気鋭の起業家が事業ピッチを繰り広げるICCサミットの人気コンテンツ「カタパルト」。“スタートアップの登竜門” スタートアップ・カタパルトをはじめとして、研究開発型ベンチャーに特化したリアルテック・カタパルト、歴代のカタパルト入賞者らが集うカタパルト・グランプリ、モノづくりやブランドをテーマにしたCRAFTED カタパルトなど、複数の枠が用意されている。
今回のICCサミットでは、それらに加えて2つの新たなカタパルトが企画された。その一つが、本レポートで紹介する「AIカタパルト」だ。
本セッションをサポートするのは、長年にわたり「スタートアップ・カタパルト」のスポンサーを務める日本アイ・ビー・エム。この2月に、分野横断型の新組織「IBM AIセンター」の本格始動を発表した同社が、スポンサード・セッションとしてAIカタパルトを開催した狙いとは?
日本社会と共に85年、日本IBMが描く「AI活用の未来」
この日のキーノート・スピーカーを務めた日本アイ・ビー・エムの伊藤 昇さんは次のように語る。
日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウエア事業本部長 伊藤 昇 さん
伊藤さん「私ども日本アイ・ビー・エムは今年85年目を迎えます。時代の変遷にあわせて日本の皆さまに様々なソリューションを提案してまいりましたが、85年間変わらないのは『最先端のテクノロジーでお客さまの課題を解決し、社会に貢献する』というミッションです。
そして今回『AIカタパルト』をサポートするのは、お客さまの『AI活用の未来』を導いて行きたい、という思いからです。私どもは、ブラックボックス問題が取り沙汰されるAI業界において信頼を得られるAIの提供を通じて、お客さまの優位性を築いていきたいと考えています。
本日会場にお集まりいただいた参加者の皆さま、そしてプレゼンターの皆さまと、AI活用の未来を“Co-Creation”できればと願っています」
スタートアップ・カタパルト歴代入賞者が集結!
今回ステージでピッチを行うAIスタートアップは計7社。カタパルト初登壇となるオープンエイトを除く6社は すべて「スタートアップ・カタパルト」の登壇企業、それも優勝・入賞経験者だ。
社名 (今回の登壇順) |
主なプロダクト | スタートアップ・カタパルト 登壇歴 |
順位 |
1. RevComm | AI搭載型クラウドIP電話「MiiTel」 | ICC KYOTO 2019 | 4位 |
2. オープンエイト | インハウスAI動画編集クラウド「VIDEO BRAIN」 | ー(今回初登壇) | ー |
3. ラディウス・ファイブ | 「cre8tiveAI」「Creative AI 彩ちゃん」 | ICC FUKUOKA 2019 | 3位 |
4. カラクリ | CS特化型AIチャットボット「KARAKURI」 | ICC FUKUOKA 2018 | 4位 |
5. ニューロープ | ファッションAI「#CBK scnnr」 | ICC KYOTO 2018 | 準優勝(同率) |
6. ガラパゴス | AI活用LPデザイン「AIR Design」 | ICC KYOTO 2019 | 準優勝 |
7. inaho | 自動野菜収穫ロボット | ICC FUKUOKA 2019 | 優勝 |
ICCサミット FUKUOKA 2020「AIカタパルト」登壇企業
さて、歴代のカタパルト入賞者たちが挑む今回の“テーマ特化型”カタパルトだが、実はもう一つ大きな特徴がある。それは、通常のカタパルトとは異なり「コンテスト形式ではない」、つまり順位がつかないという点だ。
この日ナビゲーターを務めたe-Educationの三輪 開人さんは、セッション冒頭で次のように述べた。
三輪さん「テーマ特化型のカタパルトは、昨年9月に開催されたICC KYOTO 2019の『メディカル・ヘルスケア』『アグリ・フード』『モビリティ・ロボティクス』の3つのカタパルトからスタートしました。
こうしたテーマ特化型カタパルトによって生まれた新たな価値は『深さ』です。本日もAIに特化したカタパルトだからこその、ディープなプレゼンを聞くことができるのではと思います。
そしてもう一つ。この新しいカタパルトの魅力は、“競争”ではなく“共創”が生まれる点です。同じテーマのもとに活躍する皆さんが、自身の順位ではなく、ICCの理念でもある“ともに学び、ともに産業を創る” ためにどのように手をとりあってゆくのか、とてもワクワクしています」
セッションの開始前、会場に集まった登壇者の面々に、この“テーマ特化型カタパルト”への意気込みを伺った。
プレゼンターの意気込みを聞く
まずは、水色のTシャツがトレードマークの會田さん。
RevComm 會田さん「今回は審査もないということなので、“ピッチ資料”ではなくて我々の“プロダクト”をお見せしたいと思います。我々は音声解析AI用のAPIを公開したりOEM提供も行ったりしていますので、今日はぜひ、参加企業の皆さまと“Industry Co-Creatioin”できればと思います」
続いて、本サミットのプレミアム・スポンサーとしても支援いただいたオープンエイトの石橋さん。
オープンエイト 石橋さん「弊社はあらゆる企業の“動画のリッチ化”に軸を置いてテクノロジーを開発しています。本日はインハウスAI動画編集クラウド『VIDEO BRAIN』の紹介を通じて、これからビジネスに動画を活用する企業さまも含めて、幅広くテクノロジーでサポートするきっかけとなればと思います」
午前中の「カタパルト・グランプリ」にも登壇したカラクリの小田さんは次のように話す。
カラクリ小田さん「今回は、企業でカスタマーサポートを管掌されているような方々に『弊社のAIではこんなことができますよ』とお届けしたいと思い、カタパルト・グランプリとは違いメッセージ性を重視したプレゼンを用意しています。顧客対応の現場には確かにこんな課題があるなと、自社のことを思いながら聞いていただければと思います」
最後に、「今日は優勝します!」とおどける前回スターアップ・カタパルト準優勝のガラパゴス中平さん。「ちなみに、どんなプレゼンをした人が『優勝』だと思いますか?」の質問に「そう来たか」という表情で次のように答えた。
ガラパゴス 中平さん「そうですね……『会場の心拍数をあげた人』が優勝なのではないかなと思います。今日はそこを目指していきたですね!」
こうして、ICCサミットの新企画「AIカタパルト」がスタートした。
◆ ◆ ◆
7名のプレゼンターによるピッチに先んじて、キーノート・プレゼンターの伊藤さんから、IBMのAIテクノロジーを活用した3つのビジネス事例が紹介された。
伊藤さんによると、2019年のIBMによるAI関連の米国特許取得件数は1,800件以上。IBMのAI分野における強さが見て取れる。
① やまやコミュニケーションズ のAI活用事例
まず1つめは、今回の開催地・福岡の「やまやコミュニケーションズ」でのAI導入事例だ。
▶たらこの品質を検査するAI 明太子のやまやとIBMが開発 グレードや異物の有無を判定(ITmedia)
1974年創業の辛子明太子メーカーの同社は、多くの製造業がそうであるように、職人的技能をもつエキスパートの定年退職による人材不足、それに伴う生産コスト増の課題があった。
そこでやまやは、製造工程における異物検出・グレード判定を行うAIを導入した。それにより、検査工程の84%の省人化、安定した検品・品質と知識の蓄積、AI開発・運用の内製化を実現した。
これは、IBMが提供するWatson Machine Learning とディープラーニング技術支援サービスが可能にした、製造業における生産性向上の成功例だ。
② 男子ゴルフ マスターズ・トーナメント のAI活用事例
次に紹介されたのは、男子ゴルフ マスターズ・トーナメントにおけるAI活用事例だ。
IBMが開発したハイライト自動収集アプリ「Cognitive Highlights」は、90選手の4日間の数千時間分の映像を処理し、各ラウンド3分間のハイライト「My Moments」を自動制作する。
選手の動き(ガッツポーズなど)や表情などのビジュアル、観客の声援を含めたか環境音、ボールの位置、ショット、コースなどを総合的に解析して映像が生成される。
現地に足を運べない世界のスポーツファンに向けた、タイムリーでハイクオリティーな映像発信を支援するこのテクノロジーは、ゴルフ以外のスポーツでもその活用の幅は広がる。
▶参照:AIが作るハイライト動画が語るマスターズ(IBM THINK Business)
③ 視覚障害者のアクセシビリティー向上・生活支援へのAI活用事例
こちらの女性は、この4月から日本科学未来館 新館長に就任した全盲の研究者、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所 IBMフェローの浅川 智恵子さんだ。
視覚障害者のアクセシビリティ実現のための研究を行う彼女は、国内164万人の視覚障害者が抱く「一人で街を自由に歩きたい」という想いをサポートする「AIスーツケース」の着想を長年抱き続けてきた。
今回紹介されたAIスーツケースのプロトタイプでは、最適ルート探索、誘導ナビゲーション、物体回避などの移動をサポートする機能のほか、搭載されたカメラにより、相手の表情や行動から状況を判断し、対人コミュニケーションをもサポートする。
◆ ◆ ◆
以上、製造業、スポーツビジネス、そして社会課題へのアプローチと、IBMが取り組む多彩なAIソリューション事例が紹介された。
なかでも3つ目の「AIスーツケース」は、日本アイ・ビー・エムとオムロン、清水建設、アルプスアルパイン、三菱自動車工業の日本企業5社と米国カーネギーメロン大学によるコラボレーションによる取り組みとのことである。
AIスタートアップ 7社のプレゼンテーションを一挙紹介
ここからは、各プレゼンターのピッチ内容をダイジェストでお届けしたい。8分間のフルバージョンはYouTubeにて公開しているので、ぜひ各リンクよりご参照いただきたい。
①RevComm:AI搭載型クラウドIP電話「MiiTel」
トップバッターを務めたRevComm 會田さんが紹介したのは、AI搭載型クラウドIP電話「MiiTel」だ。
RevCommは、電話営業において顧客と担当者の会話が“ブラックボックス化”していることが、成約あるいは失注理由の分析の妨げとなっていることに着目し、顧客と担当者が「何を」「どのように」話しているのかをAIで可視化するMiiTelを開発した。
會田さんは「本日は審査もないということなので」と、手元のラップトップPCで実際のインターフェイスを操作しながら、AIが会話内容を可視化・分析し、ドキュメントとして整理する主要機能を紹介した。
今後はセールス領域のみならず他業種・他職種への展開も予定し、すでにHRテックとしてリモート面接での活用が動き出していると語った。
②オープンエイト:インハウスAI動画編集クラウド「VIDEO BRAIN」
株式会社オープンエイト 執行役員 兼 CTO 石橋 尚武さん
おでかけ動画マガジン「ルトロン」や動画広告サービスを手掛けるオープンエイトが紹介するのは、動画制作を自動化するインハウスAI動画編集クラウド「VIDEO BRAIN」だ。
素材となる画像や動画、テキストをVIDEO BRAINに読み込ませるだけで、AIエンジンによりストーリー性を持った動画が自動生成される。
動画コンテンツの制作に係るコスト・時間・スキルのハードルを一挙に解決するサービスだ。
テーマ特化型のカタパルトらしく、その裏側で動いているテクノロジーについても解説された。動画生成のためのテキスト認識や物体認識、およびそれらをマッチングする技術は、同社が特許を取得するVIDEO BRAINのコアテクノロジーだ。
さらに、膨大な飲食店情報と素材データをもつグルメサービス「Retty」へのAPI提供によるコラボレーションも紹介された。
ECサイトや旅行ウェブサイトにおける商品・宿泊施設紹介の動画化、HR企業における求人企業や候補者の紹介動画作製など、その活用の幅は多岐にわたる。石橋さんは、同社のテクノロジーを「コンテンツテクノロジー」と表現し、会場の参加者とのコラボレーションを呼びかけた。
③ラディウス・ファイブ:アニメ高解像度化AI「AnimeRefiner」
ラディウス・ファイブは、今回のAIカタパルトにあわせてDeep Learning技術によりHD・フルHD品質のアニメ映像を4K・8Kに高解像度化する新サービス「AnimeRefiner」をローンチした。
もともと、静止画や映像データを加工・生成するクリエイティブAIの積極的な開発を進めてきたラディウス・ファイブが睨むのは、まもなく訪れる5G時代と、それに伴う4K・8K対応デバイスの普及だ。
4K・8K対応のアニメ映像を制作するには、あらゆる工程において単純計算で従来の4倍、16倍とその制作コストは増大する。さらに、高解像度の画像・映像を処理するためのハイスペックマシンなどの設備投資に必要となる。こうした業界のペインが、ラディウス・ファイブが解決を目指す課題だ。
対象とするのはアニメなどのコンテンツビジネスに留まらない。
このDeep Learning技術を製造業における検査・検品カメラ向けのエンジンとして用いることで、大きな設備投資をすることなく、高価格なカメラと同等の高品質な検査が可能となる。防犯カメラ用のエンジンとしての活用も同様の可能性をもつ。さらに、オフィスプリンターに搭載することで低解像度の印刷データを高解像化して出力することも可能だ。
同社が兼ねてから開発・提供を進めるAIプラットフォーム「cre8tiveAI」についても、人物写真をアニメ風画像に転換する“アニメ転生AI”などのユニークな機能が紹介された。
▶ラディウス・ファイブファイブ 漆原さんのプレゼンテーション動画を見る
④カラクリ:CS特化型AIチャットボット「KARAKURI」
“超インテリなCSツール”としてカラクリの小田さんが紹介した「KARAKURI」は、カスタマーサポート業務に特化したAIチャットボットサービスだ。
今や様々なWEBサイトに導入されるチャットボットサービスだが、消費者側の実感としては、「その質問には答えられません。詳しくは…」などとFAQページに戻され、結局はFAQに書かれている以上のことは分からない、というネガティブな体験の方が強いのではないだろうか。
多くのチャットボットが「FAQ」をベースに組み立て、電話等による直接の問合せ削減を狙っているのがその理由だ。対するKARAKURIは、顧客がサービスを知りWEBサイトを訪れ、コンバージョンに至るまでの「カスタマージャーニー」」をベースにチャットボットの会話シナリオを作成する。
KARAKURIでは、LTV(ライフタイムバリュー)やCVR(コンバージョンレート)等のマーケティング指標をKPIとして設定する。今回のピッチでは言及されなかったが、想定質問への正答率が95%に達するまでKARAKURIのチャットボットは納品されない。さらにローンチ後も運用サポートを継続して行う。「プロフィット創出」への徹底したコミットが強さの秘訣だ。
数百人規模のコールセンターを持ちながらも人力対応に限界が生じていた証券会社の導入事例では、24時間サポート体制の構築を実現できたほか、新規口座開設ページの通過率が向上した。大手人材紹介サービスでの導入事例では、有料オプションの問合せ増加、電話対応メンバーの削減にも成功した。
カラクリの小田さんは、「このような事例が続出している。カスタマーサポートの現場にAIを未導入のお客さまには危機感を持っていただき、我々にご相談いただきたい」と語った。
KARAKURIでは今後さらに自動化領域を拡大し、問題解決のみならず顧客への「売り時」を察知してアップセルを支援する機能も組み込み予定とした。
⑤ニューロープ:ファッションAI「#CBK scnnr」
福岡出身のニューロープ 酒井さんは、福岡開催のICCサミットということで随所に博多弁を織り交ぜながら、同社がBtoBで提供するファッションAI「#CBK scnnr(カブキスキャナー)」を紹介した。
年間生産量の3分の1、実に13億着の衣服が毎年廃棄されるファッション業界の産業構造を是正するべく、ファッション業界に特化した画像認識AIを開発する。6年以上の年月を費やし人力で教師データを収集・入力し、スナップ写真から画像内のファッションを抽出するAIを生み出した。
#CBK scnnrにより、インスタやファッションメディアのスナップ写真から気になる商品を検索する機能や、店頭サイネージに導入することで来店時のファッションにあったコーディネート提案なども可能だ。こうしたスタイリング提案はファッションECサイトでも活用される。
アパレル企業のマーケティング領域においても、引き合いは強い。インスタ、ツイッターなどのSNSに上がるファッションスナップを分析することでリアルなトレンドを追い、商品の需要予測を行う研究開発も進めている。未だ活用しきれていない膨大なデータをAIで活用し、そこから生まれた消費がさらなるデータを生む。
ニューロープがこの先に狙うのは、今後10年で約2倍に成長するとされるアジアのアパレル市場だ。そのマーケットに日本のアパレル企業が立ち向かうためには、“年間13億着の廃棄”から脱却し、その分の投資をクリエイティブに向ける必要がある。
酒井さんは「売れるものはきちんと売る。そして売りにくいものは『適正量』を作り、それを欲しい人たちにしっかりと届けて、売り切る。そのプロフィットを、次のクリエイションに当てていくのが求められる」とビジョンを語った。
⑥ガラパゴス:AI活用LPデザイン「AIR Design」
セッション開始前に“優勝”を宣言したガラパゴスの中平さんは、2019年7月にローンチしたAI活用LP(ランディングページ)制作サービス「AIR Design for LP」を紹介した。
ガラパゴスは約3万件のLPサイトをクローリングし、独自の画像解析AI技術「Reverse Design」により要素分解を行い、LPサイトのデータベース(DB)を構築した。
AIR Design for LPでは、キャッチコピー・デザイン・トンマナ等、あらゆるLPサイトのパターンを知り尽くしたDBをもとに、AIが新規LPサイトのワイヤーフレームを自動作成する。そこに、人間がDBを参照しながらテキストを入力し、AIとデザイナーが共同して最終的なデザインを仕上げる。
通常の1/4の期間、1/3のコストでLPサイトを制作できるばかりか、AIが“勝ちパターン”を学習することで、CVR改善も見込まれる。
AIR Design for LPは、「たくさん作ってたくさん試す」ことができなかったLPサイトの制作フローを劇的に改善し、企業のマーケティング活動におけるクリエイティブを一変させるAIサービスだ。
中平さんは、こうした自社の取り組みを「デザイン産業革命」と表現した。
⑦inaho:自動野菜収穫ロボット
ラストプレゼンターを務めたのは、ICC FUKUOKA 2019 スタートアップ・カタパルト王者、inahoの菱木さんだ。
inahoは、労働力不足が叫ばれる農業において特に人手を要する「選択収穫」の作業に着目した。アスパラガス、キュウリなどの選択収穫では、収穫適期を作業者が目視で判断し収穫する必要がある。
inahoの野菜収穫ロボットは、ToFセンサー搭載カメラを含む複数のカメラで物体を認識し、Deep Learningアルゴリズムの1つである「セマンティック・セグメンテーション」により、白ぼけしやすい太陽光が注ぐ環境下においても収穫適期の野菜を認識することに成功した。
さらに、ハウス内およびハウス間の自動走行には実装コストの高いSLAMではなくCNN(畳み込みニューラルネットワーク)と呼ばれるDeep Learningアルゴリズムを用いることで、可視光カメラでより低コストに自律走行を可能とした。
inahoでは、この野菜収穫ロボットを収穫高に応じた従量課金制のRaaS(Robot as a Service)モデルで農家に提供する。菱木さんは、この3月から15台の導入が予定されているほか、施設園芸先進国であるオランダへの展開も予定していると語った。
◆ ◆ ◆
全員のプレゼンテーションが終了後、司会の呼びかけで7名のプレゼンターが今一度、ステージに上がった。日本アイ・ビー・エムの伊藤さんは次のように総評した。
伊藤さん「非常に面白かったです。全ての業界の全てのプロセスにAIが入り込み、ビジネスを効率化する余地があるのだなと、改めて認識しました」
「続いてプレゼンターの方にも感想を聞きたいと思います。我こそはと思う方は……」というナビゲーター三輪さんの“振り”に、他のプレゼンターから無言でパスを回されたのはガラパゴス中平さん。
中平さん「今回はコンステスト形式ではないということで、非常にリラックスして発表することができました。
皆さん本当に素晴らしいプレゼンテーションだなと思いましたが、なかでも一番エモいなと思ったのは、ニューロープの酒井さんのプレゼンテーションでした。魂というか、気持ちがこもっているなと感じました」
そんな酒井さんは、今回のAIカタパルトを俯瞰して次のように感想を述べた。
酒井さん「今回見ていて思ったのは、ガパラゴスさん、オープンエイトさん、ラディウス・ファイブさんなど、クリエイティブ支援系のAIの話題が多かったなということです。
これまでは、エンジニア向けのAIツールの開発が先行してきました。演算能力の向上もあるかと思いますが、AIのテクノロジーがクリエイティブ系に広がってきているのを実感できたのが、個人的には嬉しかったですね」
◆ ◆ ◆
かくして、初企画となった「AIカタパルト」は幕を下ろした。セッション終了後、日本アイ・ビー・エムの伊藤さんに再び感想を伺った。
――本日はありがとうございました。今回、特に印象に残ったプレゼンテーションはありましたか?
伊藤さん「優劣は付けにくいですけれど、先ほど言った通りどの業種のどのプロセスでも、人間に依存している業務がAI化している、そんな実績が各企業さんから出てきているのが、本当に素晴らしいです。
いま、AIスタートアップの皆さんが努力していることの一つは『いかに学習データを作るか』だと思います。今回登壇された7社は、そこを一生懸命積み重ねてきたからこそ実績を出せているのかなと感じます。
これから労働人口が減ってきますので、どの業界も生産性を上げていかなければいけません。例えば、inahoさんが取り組むような農業や食糧の問題は世界規模の社会的課題ですので、日本のスタートアップがそれらの課題にどのように立ち向かっていけるのか、大きな可能性を感じました。
弊社はWatsonをはじめとした様々なAIテクノロジーを提供しています。本日ご来場いただいた皆さま、ライブ中継をご覧になった皆さまも、大きな可能性を秘めた未活用データをたくさんお持ちかなと思います。私たちは世界中でクラウドコンピューティング・サービスも展開していますので、ぜひ皆さまの課題を解決するお手伝いを通じて、社会に貢献していきたいと思います」
「AIカタパルト」登壇企業から生まれたCo-Creation
最後に、ICCサミットがきっかけで生まれた“Co-Creation”をご紹介させていただきたい。
ICC FUKUOKA 2020 開催から約1ヵ月半が経った4月7日、新型コロナウイルス感染症の拡大により多くの企業がリモートワークへのシフトを強いられる中、カラクリ、レブコム、そしてリモートワーク支援サービスを展開するキャスターから、三社合同で一通のプレスリリースが発表された。
▶カラクリ、 レブコム、キャスターの3社が、コールセンター向け「リモートワーク導入支援サービス」で連携(PR TIMES)
全国のコールセンターを対象に、リモートワーク用にVPNでセキュア構築したKARAKURIのチャットボット/有人チャットツールにフルクラウドIP電話のMiiTelのプランを追加、さらに、それらの運用マニュアルや組織設計ノウハウを、キャスターの「CasterAnywhere」から提供するパッケージサービスだ。
通常であれば初期導入コストが嵩むこれらのツール群を一部3ヵ月間無償で利用できるこのパッケージサービスは、RevCommの會田さんがICCサミットをきっかけに出会ったカラクリ小田さんにFacebookで持ちかけたことでスピーディに実現した。
AIテクノロジーの産業利用については、しばしば「人間の仕事を奪う」「無機質で、温かみがない」といったネガティブな論調が見られるが、果たしてそうだろうか。
新型コロナウイルス感染症という外的要因により、世界はこれまで予想だにしなかったスピードで変化し、私たちの生活もそれにあわせた進化を余儀なくされている。AIテクノロジーは、こうした劇的な変化に人類が対抗するための「武器」であることは、間違いないだろう。
そしてAIテクノロジーを支えるのは、紛れもなく、社会に貢献したいと願う起業家たちの熱い思いだ。そこから生まれる“Co-Creation”を支えることが、ICCサミットの使命なのだと実感した。
(続)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
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