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『澤屋まつもと』の松本酒造の酒蔵見学ツアー、下見に行ってきました!【ICC KYOTO 2020下見レポート】

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8月31日から開催予定のICCサミット KYOTO 2020。今回は、スモールグループでの見学やワークショップなどを数多く用意しています。その一つとして、住吉酒販の庄島 健泰さんのご紹介で、「澤屋まつもと」を醸す、京都伏見の松本酒造の酒蔵見学ツアーを実施することになりました。それに先立ち、先日下見も兼ねて訪問した模様をレポートします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは
公式ページをご覧ください。


ICCサミットのプログラムの中でも、これが楽しみといってくださる方が増えてきたのが、DAY2に開催されるCRAFTED カタパルト。素晴らしいモノづくりに打ち込むプレゼンターが顔を揃え、そのプロダクトがもたらす豊かな体験や時間のために、どんな想いや創意工夫が重ねられているかが語られます。

ピッチコンテストなので順位は決まりますが、その発表後には審査員も登壇者もともにディスカッションをするCRAFTEDラウンドテーブルがあり、夜はCRAFTED NIGHTが開催されるなど、共有する課題や、知見を学び合うCRAFTEDコミュニティは、会を重ねるごとに盛り上がりを見せています。

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前回の福岡で、惜しくも入賞を逃したものの、最終日に見学ツアーで深い印象を残した「田中六五」の白糸酒造は、ICCサミットの日本酒ファンを沸かせました。

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白糸酒造を紹介してくださった、住吉酒販の庄島 健泰さんが、京都ならばということで今回ご紹介くださったのが、松本酒造。ICCサミットのご説明も兼ねて、「素晴らしい蔵」と庄島さんが絶賛する松本酒造の酒蔵を見学するために、6月某日、京都伏見を訪れました。

京都 伏見の松本酒造を訪問

京都駅で庄島さんと合流したICC一行は、一路伏見区の松本酒造へ向かいました。車で20分ほど行くと、ウェブサイトで見たとおりの赤い煙突と木造の建物群が、東高瀬川の向こうにいきなり現れます。

冬は北西から冷風が吹くため、川沿いに温度調節用の窓が多く設置されている

入り口には、「松本酒造」の看板とともに、2007年に「近代化産業遺産」に認定された「日本酒製造の近代化をけん引した灘・伏見の醸造業関連遺産群」の看板が掲げられています。産業の発展に貢献した歴史的な建造物という趣たっぷりの雰囲気です。

酒造りは冬に行われるため、9月には酒造りの様子は見学できませんが、200年あまり続く重厚感ある蔵の雰囲気は体験いただけるかと思います。

門を入って案内されたのは、明治に建てられた、元・製薬会社の所有物だったというレンガ造りの建物。入るその前に、写真右側にご注目ください。

酒造りに欠かせない水。伏見の水が井戸からこんこんと湧き出ています。

口に含んでみると、角のないくせのないきれいな水、という印象です。この伏見の水を求めて、この近辺には月桂冠など全国的なブランド含め、約20の酒蔵が集まっています。

杜氏であり、次回CRAFTEDカタパルトに登壇する松本酒造の松本 日出彦さんに、1791年から続く酒造りについて、また今回開催する酒造見学ツアーについてお話をうかがってみましょう。

初めて、発信の必要性を感じたタイミング

松本さん「僕は、末端のお客さんに対して、ファン作りをまったくしてきませんでした。なぜなら、自分が実際に接するには限界があります。

実際に販売してくれるパートナーである、酒販店さんやそのスタッフ、彼らが販売しに行ってくれる飲食店さんで、自分のやろうとしていることや考え、作っているものを共有してもらうことに力を入れたほうが、彼らの販売商材となると考えていたのです。

それを楽しんでくれたお客さんが、トータルでよかったと楽しんでくれれば、ツールのひとつとして成立するかなと思ってそうしていました。

しかし今回のコロナで、はっきりと向き合わざるをえなかったのが、そういった共有していた人たちが動けなくなると、まったくものが動かないということです。

実際にお店で飲んでくれていた人たちは、それをどこで買えばいいかわからないし、別にうちのファンではなくて、そのレストランのファンだったということです。

そこで我々が体現しようとしていることを、シンプルに、自分たちなりに自然な形で共有していく形を作っていければと思っています。

今回の登壇はコロナ前にいただいていた話なのですが、何かしら自分の中でも発信が必要だなと思っていたタイミングで、知らない人たちの間で話させていただくのは大変光栄です。でも、話したことが、聞いてくれた人たちのためにならなければ意味がない。それをどうしたらできるかなと考えています」

酒蔵の見学へ

現在、松本酒造の酒蔵を見学できるのは関係者のみ。上のような考えから、今後は少人数制で蔵の考え方を伝えるツアーを考えているそうです。そこで、蔵を見学してからお話の続きをうかがうことにしました。

酒樽と、以前使っていたという蒸し器。これでお米を蒸していたそう

外観から見ても印象的だった、三棟連なる仕込蔵へ入っていきます。この蔵は、大正10年(1921年)から使われています。

突き当りが三棟並ぶ蔵の入り口

松本さんの祖父にあたる8代目の書が掲げられています

蔵の中はきれいに磨き上げられ、道具が整然と並んでいます

手前の棟には米を洗い、米を蒸す場所があり、川沿いにある棟には仕込みに使う深い藍色の樽が並んでいます。

松本さん「広いですが、動線に合わせて人が仕事しやすいようになっています。

ここで一番肝心なのが、味を作ることです。約30日間発酵させて、お酒にします。

作るといっても、半分以上が洗いもの、掃除、片付けです」

訪問前に庄島さんがおっしゃっていたことには、冬の仕込みの時期は早朝に仕事が始まり、黙々と仕込み作業を行い、午後はひたすら清掃をしている様子が、神々しいほどの光景だそう。松本さんの話は続きます。

松本さん「どんなお米を使い、どんな水で、どんな米麹をという組み合わせがあったとしても、どこに着地点を作るかが、作り手の考え方だと思うのです。

味のイメージがその蔵のカラーになりますが、その積み重ねの要素として米や水があります。

僕は杜氏となって10年ぐらいですが、やればやるほど使っているお米の中身がどうあるかで、どこまでやれるかがわからなくなってきます。

今はすごく便利で、電話で組合にオーダーしたら、希望産地の米が希望の精米具合で届く。僕らみたいに経験が少ない人達でも日本酒をかつてないほど作りやすくなっていて、いわゆるおいしいとされる、吟醸酒のレシピも確立されています。

レシピも道具も材料もあるなかで、そこから自分は何を表現するのか。
表現するといっても、それが、お客さんが求めているものかどうかはわかりません。

何をアイデンティティとして、日本酒として表現していくのかというところで、一番大切なのは、蔵の場所=水です。

日本酒のテクスチャーのほぼ8割は、水です。その味わいを生かして、アルコールなんてほんの数%ですが、その数%の味を、米からどう作って落とし込むのか。

そのイメージや世界観を、原料のお米から引き出してきます。それは、簡単にオーダーできる米からだと何も見えてこないのです。

どういう環境で、どう育って何を吸収してきたのか、背景やストーリーを知らないと本当の酒造りは追求できないと、6年前ぐらいから考え始めました」

蔵に入ると、俄然饒舌になった松本さん。酒造りをしていない今の時期は、田んぼに通っているそうです。

松本さん「味の観点から、お米を限定してそのお米がどう育ったかフィードバックできるように、土地の感覚をつかみながら冬のお酒造りに備えています。

去年に比べて身が詰まっているかどうか、米が柔らかいか硬いか、作ってみてから勝負ではなくて、作る前から伝えるようにすると、出来には雲泥の差があります。

これから大切だなと思っているのは、農家さんとの関わり方。どう接するべきか、どうマーケットに伝えていくかを模索しなければいけません」

職人も語らなければいけない

蔵の中ですっかり議論モードに入った3人。話は続きます。

松本さん「自分たちが表現したいものを作るエゴではなく、自分たちが作らなければいけないという思いと、その責任を果たせているところが、これから必要とされていくのではないかと思います。

今いるお客さんにとって、近い未来に必要だと思ってもらったり、共有してもらうことで、守れるものや伝えることが、結果として我々の財産を守ることにもなる。

東条にある田んぼの空間は、絶対に人工で作れないような広い谷に、天候がよくて東西に川が流れていて、そういう環境でお酒のお米をたくさん作っている。そこで90年近く山田錦が育っています。

その歴史のなかで、我々も田んぼを支えながら、お酒の味の構築の責任を担って、飲食店や酒販店、蔵を見に来てくれる人たちを通じて、いいなと思ってもらえるものであればいいんじゃないかなと思います。

ものづくりの観点でいえば、材料をよくして、美意識、アイデンティを美しく表現するということです。

『いいものができた』と思う瞬間は多々あるのですが、それが終わりだとか、全部の答えではない、ということの繰り返しです」

ICC小林「恥ずかしながら、お米から日本酒ができているとは知っていてもイメージがありませんでした。お話を聞いていると、田んぼが見てみたくなります」

松本さん「100人ぐらいしかいない限界集落で、自分で作っている田んぼもあります。その村では毎日みんな、真面目に草を刈ってやっています。

お米からできていると知らなくても当然です。これだけ食べ物があるなかで、日本人が米を食べなくても生きていける時代です。米がある空間の中で、我々が日本人として生きてきたというのをどうとらえるかによって、これからの生き方が変わると思っています。

でも、朝から晩まで忙しい人に、米を食べなさいと押し付けるつもりはありません。

忙しい毎日の中で、10分でも自分の時間を見つけたいという人がいるとしたら、キャップの栓を開けて飲んだときに、お米の背景や、日本酒の考え方を体に染み込ませる自分の時間で、生きていてよかったなと思えるならば、それは僕らが世の中に貢献できることかなと思います。

社会貢献とか農業の発展とか、きれいごとならばいくらでも言えますが、リアルに農家と接していると、問題はもっとシビアです。

お米を生かしたものを作っている二次側な人間として、三次、四次にバトンをつなげる、我々は特にそのつなぎ方を、より自分たちの言葉で伝えなきゃいけないんじゃないか、職人も語らなければいけないんじゃないかと思います。

なかなか共通言語がすくないのですが、言葉に落とし込む行為は、自分たちがやっていることを再発見する、すごく学びになる機会なんじゃないかと思います」

庄島さん「僕ら酒販も中間の立場ですが、日本酒ってものが何なのか、伝え方などを変えないといけません。日本酒が何か伝わっていないから、チューハイと比べられたりするのです」

ICC小林「カンファレンスもそうです。他にもたくさんカンファレンスはありますから」

松本さん「僕たちの主体は酒造り、酒を売ることなのですが、小林さんは人の価値観やイメージを共有する場所を、いかに効率よく、より利益を生む形でつなげられるか、そんな現場を作るかということなのでしょうね」

ICC小林「そうですね。あとは本当にいいことをやっているのに、知らない人が本当に多いですね。

よいものを作っているのに知られていない、評価されないことがあまりに多いと思うので、その人が少しだけプレゼンを練習することで伝え方が変わり、評価が変わる、出会う人が変わるというのが面白いですね」

松本さん「知らない人ばかりの新しい環境に行って話すのは、すごくありがたいかもしれないと思えてきました」

庄島さん「僕らも2月に参加させてもらって、色々なことががらっと変わりました。ICCサミットをよく知らないまま参加して、なんじゃこりゃ!と驚きました。今回は日本酒の蔵がいくつか集まります」

ICC小林「お酒もそうですが、体験するまで、飲んでみないとわからないですよね。事前に自分が体験して本当にいいものをおすすめしたいので、こうして実際、メンバーも一緒にうかがっています。

今回のような下見のレポートでもネタバレするんじゃないかというくらい書くのですが、それを読んでも、なお行きたいという人が来ます」

伝統的な酒蔵建築を観る

瓦の屋根・漆喰仕上げに焼板張りの造りは伝統的な酒蔵建築。杉板を焼くことで炭化して、防水防虫になる

昭和時代に建てられた貯蔵蔵。鉄筋だが景観を損なわないよう、焼板が貼られている

古い建物の梁の補修。ペンキを削り落とし、防水防虫防腐効果のある自然の塗料、柿渋を塗る。補修は5年前から計画し、3年かかるそう

構想30年、工期は5年余かかったという松本酒造の迎賓館、万暁院は現在屋根の補修中。桃山時代から江戸時代の美術品などを集め、素晴らしい庭や茶室も備えています。

万暁院に向かって左手には、松本酒造の正門があります。これはなんと織田信長の弟、織田有楽斎が住んでいた建仁寺の北にある正伝寺(現在の正伝永源院)の表門だったものを、巡り合わせで買い取ったものだそう。

松本酒造の正門

モノづくりで大切にしている3つのこと

敷地内の社員寮なども紹介していただいたあとは、八角煙突を目印に、明治時代の赤レンガ蔵へ戻りました。

この赤レンガ蔵、内装もかっこよくて、所々に酒造りの道具を用いたインテリアや、松本さんが以前目指していたというDJの機材や、大きなキッチンなどもあり、ちょっとニューヨークのウェアハウスのような雰囲気です。

見てきたばかりの松本酒造の正門の話から、京都という場所について話が始まりました。

松本さん「京都は1200年以上ずっと、30万人以上の人間が住んでいて、そういう都市は世界的にみてまれです。30万人が1000年以上、人が住み続けたら、当然物資がなくなるじゃないですか。

そこで地方のいいものを都に取り寄せて、土地と水で職人が仕事をしていくというのが、京都の価値観です。

僕たちが京都の美意識と言ってしまうと厚かましいのですが、京都には、そこで培われてきた京都の美意識があるのです。京都にあって、そのものが意味をなしてくるものがあると思うのです。

うちには正伝院の門がありますが、そこにあった如庵という茶室だけは、愛知の犬山城に移築されています。もともと京都にあったものが、別の場所に移築されている。すごくきれいで美しいのですが、どこか寂しげです。

京都にあって、やはり京都の人間が、京都に来てくれた人に対して、おもてなしをするために使ったり、自分たちの感覚できれいに保存したり残したり、そうしようとする行為自体に美しさがあると思うのです。

うちの建物も、手を入れなければあっという間に朽ちていくのですが、それをちゃんと住み込んで世話して管理して、何十年かに1回、大きく手入れしないといけません。

商いをしながら出た利益で、守って、自分たちのアイデンティティとして守っていくというのは、ここでお酒を作って生きていくときに、意味があると思っていいのかなと思います」

過去にツアーに参加いただいた方は同意いただけるかと思うのですが、見学したあとは、さらに話がはずみます。質問のなかで、松本さんのモノづくりへの思いが感じられたのはこんな会話からでした。

松本さん「お酒を造って、チームを構成してとなると、当然チームのみんなや、私も、どんな仕事でも負荷がかかってきます。

負荷のある中で仕事をするときに、自分が何かしらの意味を感じられるものがあるとしたら、ちょっとふんばれます。それは大きな意味があるんじゃないのかなと思っています。

新しい蔵を建ててもいいとは思うのですが、川沿いのこの場所で、やり続けることに意味があるかなと思います。

写真左から、明治、大正、昭和の建物が並んでいる

この場所にこの蔵を持ってくると決めた曽祖父は、このレンガの煙突に、木造の約40mの仕込蔵を、棟3つを並べたらきれいじゃないかとイメージしたと思うのです。それをベースに昭和に親父がやり、今は僕が、酒屋として本来あるべき姿に戻そうとしています。

モノづくりをするときに、絶対自己満足に陥らないことと、世の中のためになっていること、あとは、自分たちも関わってくれる人たちも、その意義を感じてくれるかどうか。この3つを大切にしています」

このほか、話題は家業としての法人の残し方や、初登壇するCRAFTED カタパルト、農業など多岐に渡りました。

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松本さんの酒造りについては、こちらの記事にも詳しいのでぜひご覧ください。
足して造る酒じゃなく、引いて造る酒を目指した(前編)(CAMPANELLA)

1791年から続く京都 松本酒造の酒蔵見学ツアーは、すでに満員御礼となっております。1時間〜1時間半程度で、酒蔵の見学ツアー&住吉酒販の庄島さんによる日本酒セミナーという内容になる予定ですので、どうぞお楽しみに!

お時間をいただいた松本さん、福岡からかけつけてくださった庄島さん、どうもありがとうございました! 以上、現場から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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