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8月31日~9月3日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、最終日の9月3日に開催したCRAFTED TOUR 「『WABARA』のRose Farm KEIJI 見学ツアー」の模様をお伝えします。滋賀県守山市から世界に広がろうとしている「和ばら」の農園を訪ね、その魅力と新たな品種を作出する現場を見学しました。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
LEXUSでCRAFTED TOUR出発
ICCサミット KYOTO 2020の最終日は、LEXUSを駆って、琵琶湖畔の滋賀県守山市にある、Rose Farm KEIJIを訪問するCRAFTEDツアーが開催された。この前日にCRAFTEDカタパルトに登壇いただいた國枝 健一さんは、今日は一転してツアーを受け入れるホストとなる。
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今回のツアー参加者は、ものづくりに興味があったり、和ばらに関心があったりする方々に加えて、ICCサミットの運営スタッフも参加させていただいた。最終日は運営に人数が必要なカタパルトやE・F会場でのセッションもないため、スタッフ数は充足しており、こういったツアーやワークショップに空席があれば参加できる。
ICCサミットではメイン会場外でのプログラムは一部、試乗車としてLEXUSをご提供いただいており、プロのレーシングドライバーの解説のもと、今回のように豊かな学びの体験があるツアー地へ向けて試乗することができる。移動の間はLEXUSのものづくりに触れながら上質なCRAFTEDの体験ができる仕組みだ。
参加者はそれぞれ、運転してみたい・乗ってみたいLEXUSを選び、目的地である滋賀県守山市へ向かった。
エイトブランディングデザイン西澤 明洋さんはヒートブルーという色が気に入ってNX300h “F SPORT”をチョイス
RX450h“version L”を選んだ車好きの慶應義塾大学 琴坂 将広さんは、運転中にレーシングドライバーを質問攻めにしたそう
京都から琵琶湖を横断してRose Farm KEIJIに1時間ほどで到着。畑が広がる景色の中、一際目を引くモダンな建物を訪ねた。
▶CRAFTED TOUR 「『WABARA』のRose Farm KEIJI 見学ツアー」の模様をダイジェスト映像でもぜひご覧ください。
Rose Farm KEIJIに到着
迎えてくださったのはRose Universe代表取締役の國枝健一さん。早速Rose Farm Keijiについての紹介が始まった。
「ばらを品種から作っています。ばらの変化していく、自然物ならではのありのままの姿があらわれたようなばらを作りたいと思って、培地や環境など、さまざまなものを工夫しました。しかし、今の技術をもってしても、すべての瞬間をサポートすることはできません。
そこで土と植物に任せて、植物が弱っているときは土壌に助けてもらい、土壌が弱っているときは植物に頑張ってもらうといった共生関係を作ることで、本来の花の姿に戻り、言葉では表せないものを形にできると考えました。それが『和ばら』です。
この土地には3年前に引っ越してきました。この建屋は、オフィス、出荷作業、加工品を作るラボ、保管室などがあります。建屋もわばらと同様、素材を生かすことをコンセプトとしていて、板にプリントされた文字もそのまま、化粧板で隠していません」
「外では食用のばらやローズヒップを無肥料・無農薬で作っています。窓の外に石のように見えるものは、ろ過の設備です。湧き水が生まれる自然のサイクルに倣い、川から引いた水をろ過装置で浄化してから畑にまいています」
解説が終わるとツアー一行は、冷蔵室へ。外気は30度を超える暑さだが、冷蔵室では青々とした枝葉とともに生命力あふれる和ばらが出荷を待っていた。
涼しい冷蔵室を出ると、いよいよ和ばらが育つハウスの中へ入っていく。
和ばらを生み出す國枝 啓司さんが登場
ハウスの中では、ばら作家であり、國枝 健一さんのお父様の國枝 啓司さんが待ってくださっていた。
「今日は暑い中、来ていただいてありがとうございます。今年はなかなか涼しくなりませんね。ばらにとっても暑いのは大変で、ばらも人間と同じように夏バテします。
ばらは普通、春から秋にかけて咲くものですが、うちは四季咲きで、1年中咲きます。外で育てると冬は休眠します。バラ科のサクラやリンゴ、イチゴは冬の寒さによって、春に芽を出して花を咲かせます。
このハウスの中では冬と夏は空調を管理して、18度〜30度を保っています。だから1年中咲いていてくれますが、夏はなるべくお花が休めるようにしています」
見学したハウスは5,000平米の広さで、60数種の和ばらを作っている。用意されたテーブルの上には、色とりどりの和ばらが並んでいた。
続いて、啓司さんは香りの違うばらを次々と紹介。柑橘系、ミルクティーのような香り、フルーツ&スパイスと、さまざまな香りの違いに驚く参加者たち。しかしここでは、強い香りのものはあまりないという。
「昨年、傑作ができました。ダリアみたいな『絃』(げん)という和ばらです。1つの花の中で色にグラデーションがあって、世界中で評判がいいです」
和ばら(切り花)は、日本国内ではRose Farm KEIJIのみで栽培をしているが、世界6カ国のパートナー農園があり、そこで栽培された和ばらたちが、世界中の花屋に並んでいる。
「世界中に自分が作ったばらを並べたい。ここですべてを作るわけにはいかないから、世界で作ってもらえたらそれが叶います」と啓司さんは語る。
さまざまな和ばらを学ぶ
最近人気のばらは「かりん」「葵」「美咲」といった、ばらの原種に近いような一重のばら(花びらが多くないばら)だそうで、ツアーに同行した同名のスタッフは大喜びだ。
琴坂さんは、愛娘と同じ名前の『栞(しおり)』という和ばらを紹介されて早速撮影。その後「こんな名前の和ばらはないですか?」「作る予定はないですか?」と、参加者の方々のご家族の名前が飛び交ったことは言うまでもない。
四季で変わる色味や花びらの厚さ、品種を作出するときの工夫など、聞けば聞くほど興味深い話が続く。下の写真の黄色いバラに一筋濃いピンクが入った和ばらは、元はピンクのばらが突然変異したものだそうだ。
左手で1本抜き出しているのが、突然変異した元はピンクの和ばら
「和ばらは茎が細く、自然の歪みが特徴です。繊細ですが内に秘めた力があり、切った段階では蕾のお花でも、ばら自らの力で咲ききる力があります」
咲き誇っていても威圧感はない和ばらに、参加者たちは何度も触れていた。細くてしなやかな茎の先に優しく開く花や、普段花屋で見かけることのないようなデリケートな色合い、草花のような可憐さに、参加者たちは見れば見るほど魅了されていったようだ。
「食べる和ばら」を試食
Rose Farm KEIJIが特別なのは、既存のばらを作っているだけでなく、品種から作り出していること。そのオリジナリティゆえに、切り花や苗の販売だけでなく、加工品も少しずつ増やしている。空調が効いているとはいえ、暑いハウスの中で一行の乾きを癒してくれたのはその中の一つ、「食べる和ばら」だ。
一般的なローズウォーターとは違い、水を加えたりしていない「ばらの生体水」は、花びらだけから採られたエキス。45℃までしか熱を加えないため、フレッシュな香りが抽出されており、冷水に数滴落とすと、何ともいい香りの飲料水となった。一般的なローズウォーターは、ばらのガクの部分も合わせて煮出すため独特の青臭さが残るが、このエキスは一切それを感じない。
櫻井焙茶研究所とのコラボ商品で、生体水をとったあとの花びらを乾燥させて、煎茶や番茶とブレンドした花びらのお茶は、『ダマスクローズ』と『かおりかざり』を使っており、ハーブティーを飲み慣れた参加者も「これはすごくおいしい、海外でも受けるのではないか」という声が上がっていた。
みやじ豚 宮治 勇輔さんが食いついたのは、京都のイタリアンレストランLUDENSと共同開発したWABARAスパイスソルト。これをうちのバラ肉で食べたい、豚バラのしゃぶしゃぶのつけダレに入れたいなど、「バラばらコラボ」で盛り上がっている。「それを食べチョクで売ろう!バラチョク!」とノリノリだ。
無肥料・無農薬で育てた食べる和ばらの花びらも試食。花でも外側より中心のほうが柔らかい。
ビジネスとしての和ばら質疑応答
当初は参加者たちでパネル・ディスカッションを予定していたものの、啓司さん、健一さんの解説ですっかり満足している一行。質疑応答が止まらない。
エイトブランディングデザイン西澤さんから、和ばらの取引先についての質問が出た。
健一さん「最初は花、ばらが好きなお客様が多かったのですが、和ばらのカフェををきっかけに、これまでとは違う層の方や、ライフスタイル系の商品を取り扱われているお店さんからの取り扱いの依頼も増えています。
お花を売るだけでなくて、お花のある食卓、風景を作っていきたいと考えていて、作っているばらも、従来の典型的なばらではなくて、こんなばらもあるというような花です」
作っているばらがオリジナルならば、販路もオリジナルで、従来の形にとらわれていない。時勢がら、新型コロナウイルス流行の影響についても質問は及んだ。和ばらはウェディング需要もありそうだ。業界全体で苦境が伝えられている今、和ばらはどうだったのだろうか。
健一さん「多少の影響はありましたが、これまでのギフトとしてのお花の需要から、自宅に飾る方が増えた、という実感があります。オンラインでは『ご自宅用わばら束』という商品を販売していますが、こちらの販売数は大きく伸びました。
僕らはお家に飾ってほしいというスタンスでずっとやってきたのですが、今回本当に、みんなお花を飾ってくれるんや、と思いました」
滋賀はばらの産地ではあるが、啓司さんは品種から新しいものを作り出している。源流から差別化できているところが強いと指摘する西澤さんに「たまたまというのが一番大きいですが」と健一さんは答えたあと、こう説明した。
健一さん「ばらの加工品も作っているのはうちくらいで、あまり市場原理に従っていなくて、自分たちがいいと思うものを作っています。『生体水』を作るときも、本場のブルガリアに学ぼうと見学に行ったのですが、ローズウォーターの抽出方法やその風景が観光産業としても確立されており、また歴史も長い。
同じことをして勝負するのではなく、抽出方法から独自のものを生み出そうと決意しました。そこでたどり着いたのが今採用している『低温真空抽出法』です」
食べチョクが好調のビビッドガーデン秋元里奈さんには、ぜひ和ばらを扱ってほしいと参加者たちから声が上がった。
秋元さん「もともとの起点は、一次産業を助けたいという思いがあって、実は花も扱い始めています(※)。『食べチョク』なのでどうなのかという議論があったのですが、始めてみたら『待っていた』という声が多かったんです」
▶編集部注:2020年11月現在では、和ばらの取り扱いはありません
宮治さんはますます本気になり「片手に和ばら、片手にうちのバラ肉でバラチョクでお願いします!」と叫んでいる。
「自分ほど、ばらが好きな人間はいない」
世界中に自分の作ったばらを、人びとを癒す自然な形の和ばらを届けたい。その根底にあるのは、ばら作りへの尽きぬ想い。60品種作出するのに25年間、新しい品種を作るのには6〜7年かかるという。「香りがよくて、散らないものを作りたい」と、啓司さんは次の構想を語った。
「毎朝、ハウスに来て葉っぱをこうやって触るんです。温かいか冷たいか、元気かなと」
接ぎ木や挿し木で増やすことなどを一通り説明したあと、啓司さんがしみじみと言った言葉が印象に残っている。
「自分ほど、ばらが好きな人間はいないと思うんです。世界で一番好きだと思います」
ツアーを終えて
すっかり和ばらの世界に魅了された一行は、家に届く和ばらを注文してツアー終了。CRAFTEDなものづくり、ブランディング、五感を刺激される体験……さまざまな学びを胸にハウスを出ると、周囲には夏の暑さにも負けず、和ばらが咲いていた。
周囲が田んぼだけあって、ばらの周りにカエルが飛び跳ねているような環境だ。近い将来、この一帯にもばらが咲くようになるのかもしれない。
帰途は西澤さんの運転するLEXUSに同乗させていただいたが、滋賀県出身の西澤さんは、ひたすらRose Farm KEIJIに驚嘆していた。
「鳥人間コンテスト、T.M.Revolutionの西川くんに次いで、3つ目が滋賀県に出てきた!という感じですね。國枝啓司さん、健一さん、なかなかああいうコンビはいない。作る人と継ぐ人がしっかりしていて、あそこまでブランディングができている。しかも直販半分と言ってましたよね。
しかもスピードが早い。9:1で卸が多かったところを、ブランド立ち上げから2〜3年で5:5まで直販がきている。社長(健一さん)主導でやっていて、商売のセンスがすごいんじゃないかな」
過去にばらの品評会に、主流とはかなり違う茎が曲がった「和ばら」を出し続けていて、売るあてもないのに品種改良を続けており、ブランド立ち上げ時にすでに約20品種くらいはあったという、ツアー下見の取材時に聞いた情報を伝えると、西澤さんはこう言った。
▶『和ばら』が伝える、本来の花の美しさと豊かさ。日本の美意識を形にする、Rose Farm KEIJIを訪問しました【ICC KYOTO 2020下見レポート】
「お父さんのポリシーもすごい。市場性があるかどうかわからないものを、いいと思うものを信念を曲げずに作り続けているのがすごい。非合理性のかたまりです。そういうのをぶつけられたら、差別化要因が強すぎて、誰も怖くて真似できません」
◆ ◆ ◆
後日、このツアーで和ばらを注文して帰ったICC運営スタッフたちの間では、自宅に届いた花の写真が次々とシェアされていた。
届いたのは、つぼみから次々と開いていく和ばらの花束と、スパイスソルトなど、見学でご紹介いただいた加工品などをツアー参加者限定でご用意いただいたセット。なかでも格別なのは、やはり和ばらだ。
あのハウスの中で大切に育てられた、他に見ることのできない色、形をした和ばら。それが届いた空間を優しく、明るくする。人に知らせずにはいられない魅力がある。そんな強いブランドが作られる現場を見学し、作る人の話を直接聞くことのできる貴重なツアーとなった。
最後にツアーにご協力いただいた國枝 啓司さん、國枝 健一さん、西田 詩織さん、及びご協力いただいたRose Farm KEIJIの皆様、誠にありがとうございました。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/塩田 小優希/北原 透子/戸田 秀成
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