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8月31日~9月3日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、ものづくりに携わる人々が集まる、CRAFTEDカタパルトと、続いて開催されたCRAFTEDラウンドテーブルの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
今回のCRAFTEDカタパルトは、ボーダレス・ジャパンから生まれた「ビジネスレザーファクトリー」が優勝した。代表の原口 瑛子さんらはバングラデシュの宗教行事で大量に発生する牛革を使い、普通ならば雇用されないような人たちが安全に働ける場を作り、仕事を教え、精緻な日本のものづくりの技術を伝えている。
それによるゴールは、貧困問題の解決であり、CRAFTEDでないのでは?と思うかもしれない。
しかし雇用創出はスタートであって、そこから本格的なものづくりに取り組み、作り上げたもので勝負していく姿勢は職人そのもの。彼らが就労経験がなく、貧困にあえぐシングルマザーや障がい者であろうと、上から目線の同情で救われるのではなく、あくまで職人として評価された結果で自らを救うことを叶えていく。
そして消費者と生産者が顔の見える関係になり、働くことが楽しくなる。将来的には、暮らして働くことができるコミュニティを創っていく。そんな「ヴィレッジ構想」を、世界の貧困地域に広げていくことを目標としている。
つまり彼女たちのものづくりは、使う人だけでなく、つくる人までも幸せになっていくことを目指している。表面的に違って見えても、心を込めたものづくりは人を豊かに、幸せにするのはCRAFTEDの精神そのものだ。第4回となるCRAFTEDカタパルトは、それを体現するような10社が集まった。
登壇者の“CRAFTED”なプロダクトが会場に並ぶ
今回も会場や審査員席にはさまざまなものが並べられており、感染症対策に留意しながらも、過去最多といえるようなラインナップとなっていた。前回は飲食系が多かったが、今回はテーブルの上に花、パックの玄米ごはんやステージ前のテーブルにはスニーカーなど実にいろいろなものが並んでいる。
審査員席には、「わばら」のブーケが飾られている(「Rose Universe」)
展示されているスニーカー「ブライトウェイ」に興味津々(「インターナショナルシューズ」)
あの人気女優が食べている人気の玄米ごはんパック(「結わえる」)
この和装は極めてカジュアルという能楽師の宇高さん「舞台前はいつもどおり緊張で胸バクバクです」
登壇者には和装の能楽師までいる。”CRAFTED”と能楽でどのようなプレゼンになるのか、期待が高まる。審査員で、第1回目の優勝者Minimalの山下さんの姿も見える。
山下さん「ものづくりには効率だけでは測れないものがあり、その先に実現したい世界があると想います。そこにかける想いを聞くと、僕自身のモチベーションも上がります。審査員というとおこがましいのですが、見るのを楽しみにしています」
今だからこそ必要とされるリアルな体験
ICC小林「いつもは8名なのですが、今回10名になった理由は、このCRAFTEDカタパルトは、リアルビジネスをしている人が多い。コロナ禍で来られないかもしれないという方が予想されたため、増やしてお声がけをしたのですが、みなさん見事生き抜いて、今回は10名になりました」
会場から笑い声と拍手が湧き上がる。CRAFTEDカタパルトにはいつも、こんなアットホームなファミリー感がある。続いてこのカタパルトのスポンサーでもあるLEXUSの沖野 和雄さんによるプレゼンテーション。もちろん沖野さんもこの”ファミリー”の一員だ。
コロナ禍による価値観の変化により「何が自分自身に大切だったのか、今まで以上に自分自身と向き合う時間ができたのではないか?」と言うLEXUSの沖野 和雄さんは、自分の生活を豊かに彩ってくれるものが必要で、だからこそ“人の五感を刺激するリアルな体験”に尽力したいとプレゼンの最後で訴えた。
「私たちLEXUSも、豊かなライフスタイルの実現に向けて、まだまだ挑戦者です。CRAFTEDの熱い想いでつながる皆さんのアイデア、熱いプレゼンを期待しております!」
10社によるプレゼンテーション
10社のプレゼンは、「本日(9月2日)、40歳になりました!」という浅井農園の浅井 雄一郎さんのプレゼンによって始まった。
今回のCRAFTEDカタパルトに目立ったのは、豊かなライフスタイルにつながるものづくりが、素晴らしい匠の技術やお客様への体験価値にとどまらず、素晴らしいものなのだから、さらに広げていこうという姿勢だ。写真を中心にプレゼンターを紹介していこう。
独自の開発技術でオーダーメイドのミニトマトを生産する、あさい農園の浅井 雄一郎さんは、農園はエネルギーの変換事業であると気づき、植物を研究開発する方向に舵をきった農業経営に活路を見出す。デンソーとの合弁会社による、国内7箇所の農場をつなぐ日本初の遠隔自動栽培管理システムは、海外の展開も視野に入れている。
SE出身のカンブライト井上 和馬さんは海外赴任で日本食の美味しさを再発見。日本各地の生産者たちと高級食材の端材や名産を活用しながら、食通も納得するグルメ缶詰を少ロットから生産する仕組みを構築した。今後は全国の生産者をつなぎバリューチェーンを構築、日本食を世界に届けることを目指す。プレゼン中には、人気缶詰のテイスティングも行なった。
好青年のインターナショナルシューズ上田 誠一郎さんは、1954年創業の婦人靴OEM工場の3代目。OEMのため長年名もなき影の存在だったが、自分たちが本当にほしいスニーカーを作り上げて消費者に提案。クラウドファンディングは反響を呼び、靴作りが作業から誇りを持てるものづくりへと進化した。創業者の祖父の「自分たちが作った靴で、世界の人たちを笑顔にしたい」という言葉に一歩ずつ近づいている。
金剛流能楽師 シテ方宇髙 竜成さんのプレゼンは、いきなりの暗転と謡(うたい)、鳴り物で始まった。「能と茶の湯は日本紳士の嗜み」という理由は、信長、秀吉、漱石といった歴史上のトップリーダーたちが皆、能を演じることで長い時間の人生観を獲得してきたことから。「同じ演目を続けて公演しない」「能面をつけるのは本番のみ」「演者同士手の内を隠す」など、能の舞台裏を明かし、会場を刺激ある幽玄の世界に誘った。
審査員席に玄米で作ったおはぎを配布した「結わえる」荻野 芳隆さんは「世界の主食を茶色くし、持続可能な世の中を創ること」を目指している。「寝かせ玄米ごはん」は、玄米の従来の独特な風味を食べやすくして、2014年から累計800万食も売れている大ヒット商品。おいしくする技術の一点突破で、生活習慣病の予防に役立つ全粒食品を主食に置き換え、健康な世界を目指すことを提案した。
Rose Universeの國枝 健一さんは、クレオパトラや楊貴妃が愛でていた頃のようなばらの香りや感動を伝えるため、現在主流のばらとは一線を画する、たおやかな昔ながらの野草のような「わばら」を育てている。「香りを嗅いでみてください」と國枝さんがすすめると、カタパルト・グランプリで優勝したばかりのMAGOさんが数本を抜き取り、香りを楽しむ場面も。「わばら」の自然な魅力が支持され、海外での栽培も広がっている。
▶『和ばら』が伝える、本来の花の美しさと豊かさ。日本の美意識を形にする、Rose Farm KEIJIを訪問しました【ICC KYOTO 2020下見レポート】
優勝を飾ったビジネスレザーファクトリー原口さんは冒頭に紹介した通り、精緻なものづくりから、安心して暮らせて働ける環境づくりを堂々とプレゼン。バングラデシュで雇用機会のない人たちへ機会を「与える」ではなく、「一緒に作り、課題を解決する」という共創の姿勢が印象的だった。
Linc’well氷熊 大輝さんの考えるCRAFTEDは、ヘルスケア・医療においても、体験にこだわり、気軽かつ安心できるものを提供すること。治りさえすればよしとされてきた体験を、スマートクリニックのCLINIC FORやコスメで、ホームケア・オンライン・対面診療のサービスをワンストップでスピーディーに提供し、「めんどくさい」「怖い」「恥ずかしい」のヘルスケアのイメージを変えていく。
1791年創業、来年で230周年の松本酒造 松本 日出彦さんは、熱狂的なファンをもつ「澤屋まつもと守破離」を醸している。道具、仲間を大切にし、先人を敬う心の上に酒を造り、これから必要なもの・こと・精神を体験として提供し続けるのは職人として生き続ける価値だという。「守破離」とは、ストイックな酒造りに加え、さまざまな世界の人と出会い、創造を継続し続けること。審査員たちにその極上の一杯が振る舞われた。
▶『澤屋まつもと』の松本酒造の酒蔵見学ツアー、下見に行ってきました!【ICC KYOTO 2020下見レポート】
”スタートアップの自分探しの旅”をストーリー仕立てで語ったFar Yeast Brewingの山田 司朗さんは、賃貸住宅の自室で2011年にクラフトビールを造り始めた。品質・評価ともに高く評価されたものの、出身のIT業界で経験したほど事業計画は伸びず、追って到来したクラフトビールブームの中で、多様性を追求しようと決意。独自の個性あるビールを求めて、山梨県小菅村で200年前の製法から新しい味を生み出そうと日夜チャレンジを続けている。
“CRAFTED”な審査員の感想は
三星グループ岩田さん「前回が私がご紹介した楠さんが優勝したので、インターナショナルシューズの上田さんがいい線いくんじゃないかと思います。Far Yeast Brewingの山田さんは、あれだけいろいろやってきて、最後のメッセージがチャレンジすることというのがいいなと思いました」
マザーハウス山崎さん「バングラデシュつながりということで、ビジネスレザーファクトリーの印象に残ったのはスケール感ですね。
クラフテッドは大量生産できないイメージですが、多くないと意味がないというところも今回は印象的でした。過去何回か審査員をしてきましたが、今回は本当に構造が変わりつつあるというのを実感しました」
一平 ホールディングス 村岡 浩司さん「宇高さんの能の一期一会の概念、松本酒造の松本さんの朴訥としたプレゼンに心打たれました。ビジネスレザーファクトリーの原口さんのプレゼンには涙が溢れました。いつかバングラデシュでパンケーキを焼きたい。連れて行ってください」
クスカ楠 泰彦さん「ものづくりへのこだわりが進化しているなと思いました。日々成長していると感じます」
既報の通り順位が発表され、優勝コメントを求められたビジネスレザーファクトリー原口さんは、いささか驚いた様子だったが、落ちついて一言きっぱりと答えた。
「ものづくりを通して、よりよい世界を作っていきたいなと思っています!」
このカタパルトをスポンサーするLEXUS沖野さんは優勝者へのコメントを求められ、
「生産ラインを組むことはメーカーだから知っているけれど、おっしゃっているような人材を雇い、独自のシステムを組んでいることのすごさが、本当にわかります。
一人ひとりの人生をクラフテッドされていて、素晴らしいなと思いました。恥ずかしながら知らなかったので、驚愕しました」
と答えた。「独自のシステム」とは、働いている人たちが働いた経験のない人や、文字を読めない人もいて、その人たちが仕事を技術を学びあえるために、4人一組で技術を習得できるような仕組みを作っていること。作業工程も細かく分かれており、気の遠くなるような工程を積み重ねて完成したのが、この審査員席に並べられていた名刺入れなのだ。
審査員のネーム入りのレザー名刺入り(「ビジネスレザーファクトリー」)
カタパルト終了後、メディアの取材を受け終わった原口さんに聞く。バングラデシュのいまの工場の状態は?
「動いています! 6月とかはさすがに止まっていたのですが、だいぶ状況が落ちついてきたので再開しました。今日も電話していたんですよ。いつかICCの皆さんにも見に来ていただきたいです」
今日がプレゼン本番だからというわけではなく、それが日課という口調で原口さんは話した。
“CRAFTED”なメンバーがディスカッション
ランチタイムを挟んで午後最初のセッションは、会場を変えてCRAFTEDラウンドテーブルとなった。ものづくりに関わる人、興味のある人、ディスカッションをしたい人、さまざまな人たちが会場に集まり、ディスカッションの開始を待っている。
挙手で決まったディスカッションテーマは5つ。好きなグループに入って、早速議論が始まった。
CRAFTEDとスケーラビリティがテーマのグループ。ものづくりを一生懸命やっていると、スケールから離れるのではないか?という問いに、ブランドを毀損することを意識しながらも生産力を拡大した貴重な経験談が共有されている。「職人が食べられるためにスケールしていると、声高に言っていいのでは?」という意見も。
CRAFTEDのブランドで経営者はどうあるべきかをテーマにで話し始めたグループ。コロナ禍で社員と話す機会が増えて自社の製品のよさを改めて見直したり、過去の経営が厳しかったころのエピソードは組織の歴史や共通体験に刻まれていることから、逆境を前向きに捉えようとする発言も。
ECサイトなどオンラインと実店舗のオフラインについて議論したグループは、両方とも行なっている面々が集結した。今年はリアル店舗の限界がコロナ禍で加速したことや、最近行なったリサーチで街行く人はあまり買い物をしていないことが明らかになり、ショッピングの転換期にあるのでは?という指摘も。
宇髙さん発案で、日本文化について語り合っていたグループ。プレゼンを聞いたばかりの能の世界に質問が集まり、伝統をどう残すべきか、本質を残しながら変化していくこと、伝統と現代の乖離をどう考えるか?など、酒販店や京都のメディアを担う登壇者にも通じる課題で議論がヒートアップ。
スタートアップとCRAFTEDはKPIが違うのか?というテーマで話し始めたグループ。ブランドのファンを作って売上を上げることがKPIなのか、売れていればいいわけでもないと、さまざまな意見が交錯。「定量的なものでブランドの価値を言えないと、目先の数字にとらわれる」という鋭い意見もあった。
付箋を使ってアイデア出しをしたり、ボードにまとめていったり、ひたすら気になるテーマや話したいことを出し続けているグループもいた。7割弱がCRAFTEDラウンドテーブルではおなじみのメンバーで、それ以外は今回初参加といったところ。初参加の方々は、活発な議論に驚かれたのではないだろうか。
ディスカッションの時間が終わると、各グループからの発表の時間となった。
各グループから議論のまとめを発表
Minimal山下さん「小さくCRAFTEDが始まると、市場を大きくしていったときに初期ファンが離れていきます。それをどう解釈するかということで議論が始まりました。
そこで出た回答は、”コンセプトの普遍性”です。自分たちは何のためにビジネスやっていて、どこへ行きたいのか。100億なのか1兆円なのか、スケーラビリティのコンセプトはどこで、ずれていないかというのが、ブランドを伝えていくときに大事だという話になりました。
CRAFTEDを拡張させていくのはどういうことか?と考えると、『CRAFTED=手作り』ではないのです。
あさい農園さんは、本当においしいと言ってもらえるトマトを作ることがすべてです。そのためにテクノロジーで24時間管理していて、人が管理するよりもおいしいものができたりします。
お客さんに届いたときの商品クオリティをどう高めるかで、素材や技術、自分たちの投資するところや、技術を考える。どこにゴールを置くか、そのために自分たちが何をCRAFTEDと定義して、どう拡張させていくかが、スケーラビリティとCRAFTEDの共存に大事なのではないかという話になりました」
マザーハウス山崎さん「CRAFTEDのブランドと経営者のあり方について議論しました。経営者は、プロダクトに対するこだわりをどれだけ体現しているかが重要だと思います。それにはいろいろなやり方があって、生み出す工程にこだわる人もいれば、誰よりも愛を語れる人もいます。店や作る場の現場にこだわる人、自分が誰よりも工場に行っているという人、すべて任せている人もいます。
議論したグループはプロダクトが中心の人が多く、それについてどれだけ語れるかがという話が多かったですが、加えて社会的なメッセージを出すブランドもいます。地域愛や地域を語るブランドはありますが、そこに絡んでくる社会的な意味合いは経済性を伴いません。
売っているかかぎり、プロダクトについてのこだわりは経済性を伴いますが、そうではない部分について、経営者が経済性伴わなくても語ることを決断しているというのがありました。
CRAFTEDはトップが語れる人なので、ブランドになりやすい。最初はそれでいいのですが、大きくなっていったときに、それを引き剥がしていくべきかどうか。自分はブランドから離れていると言っているGRA岩佐さんみたいな人もいれば、楠さんみたいに、”ザ・ブランド”みたいな人もいるわけです
特定の個人に引っ張られていれば、ブランドは大きくなれるのでしょうか? この続きは岩田さんへ」
三星グループ岩田さん「スケールするときは、マネージャーを置いて自分は離れていかねばと思っています。LVMHなど、買収するブランドはだいたい創業者が亡くなっていて、個人から離れてブランドの価値があるものを買っています」
dof齋藤さん「漠然とブランドのKPIを、共通のものが持てるのではと議論を始めましたが、難しかったです。ブランドによって悩み、課題も違うので、それぞれのKPIを作らねばというのが浮き彫りになりました。
経営者は売上を目標にしがちなのですが、それ以外のものも何か持てないものか。経済的価値のないところにブランドの価値があると佐竹食品の梅原さんは言っていて、売上に寄与しないイベントをやっているということです。
ブランドは手に持てない、定量化しづらいもの。ある程度定性的に言語化していくのが大事だと思いました」
JR西日本舟本さん「ブランドのリアル店舗とオンラインについて議論しました。一長一短ありますが、たとえば普段はECでやっているけれど、急に顧客へギフトを買って持っていくにはリアルが必要になったりして、ECのみでもリアルの重要性はあります。
最適なバランスは企業やブランドによって変わります。思い切って変える勇気があるかどうかにかかっています。
その他さまざまな話が出ました。リアルの場は、レジ列、試着室の街などストレスフリーである必要があります。リアルショップがあると全然知らない人が入ってこられるメリットがあります。
ECのみだと新規の顧客の獲得は、たとえばインスタライブなどを地道にやり続けることになります。すると数人で数10億円規模までやっていけますが、リアルショップなら数店舗かがその規模になるでは必要だし、ブランドも薄まっていくという問題があります」
Takram渡邉さん「日本の伝統文化について語りました。白熱した議論でみんな早口になり、僕も半分ぐらいしか追いついていません!
宇髙さんの『西洋の文化は借り物にすぎない。我々は損をしている』というのをスタート地点に議論が始まりました。
西洋文化にない日本ならではのものの例として、はっきり分けるのではなくて『ハワイの寿司』という話が出ました。ハワイの米を使い、ハワイの魚を使うなどしないとサステナビリティになりません。そしてハワイのローカリティに合わせてアップデートしないといけません。
寿司は健康的で安全で、今のライフスタイルに合っているかもしれない。だから我々の寿司に対する見方をイノベーションしていくのです。ものさしが多様になっていき、今まであったものに別のものさしを当てることが可能になっていく。
庄島さんからは、なぜ日本酒と缶チューハイは比べられるのかという話がありました。マズローの五段階欲求で考えると、生理欲求など、底辺に近いものは価格が安く、交換可能なものと比べられます。高次になると、”自分のもの”や交換不可能なものになっていく。自分が選ぶ意思や想像力が働くものになっていきます。
想像力とは、宇高さんから出た話で、水墨画では濃い墨で描かれた部分に絵はだいたい描いてあり、半分以上は余白で何も描かれていません。でも霧と霞の奥に想像力を働かせると、遠ざかっていく奥行きや空気感を想起できるかもしれない。そこに自ら参加していくことで、自分のものになりアイデンティティが宿っていきます。
ポスト資本主義の社会では、お金や効率で測れないものさし、別のものさしが可能になるかもしれません。そこで東洋の思想が必要とされるかもしれない。
伝統を生かすには守っていてはいけなくて、移り変わらなければいけない。そこで、能をヨガでやればいいのではとか、洋服で能を演じるのはどうか、そのジャンルは流行るかどうかで盛り上がりました。比叡山延暦寺の不滅の法灯に、新鮮な菜種油を注ぎ続けるのと同じです。
伝統といったときに、歴史的なものを届けるではなく個人的な正しさを、つまりCRAFTEDなものづくりを資本主義の論理で曲げられずに、ポスト資本主義のなかでいかに作っていけるか」
身近なテーマから今の世の中の課題まで、”エクストリーム・カンファレンス”ICCサミットでは、CRAFTEDに限らずこういったラウンドテーブルや、ワークショップなどでディスカッションする場をいくつか設けている。
なかでもこのCRAFTEDラウンドテーブルは、集まる人たちが議論好きなため、いつも白熱する。“CRAFTED”は、精緻なものづくりから豊かな体験や人生にまで拡大したものとなり、あらゆる人に関係するテーマとなっているのではないだろうか。
最後の挨拶で、LEXUS沖野さんが「もうみなさん、CRAFTEDは自分の考えだと思っているのではないでしょうか」と言って一同がどっと笑う場面があったが、まさにそのとおり。ここに集まっている人たちはただ作るだけでは物足りず、素晴らしいものづくりをして、それを受け取る人や社会が豊かになることで、幸せになる人たちなのである。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/塩田 小優希/戸田 秀成
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