「コンテクストデザイン」を活用するスピーカーが語る、事業やプロダクトを鍛え、愛着をもたせ、進化させるには?【ICC FUKUOKA 2021レポート】 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

「コンテクストデザイン」を活用するスピーカーが語る、事業やプロダクトを鍛え、愛着をもたせ、進化させるには?【ICC FUKUOKA 2021レポート】

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2月15日〜2月18日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、Takram渡邉 康太郎さんのモデレーションによる「『コンテクストデザイン』を考える(シーズン3)」の模様をお伝えします。オイシックス・ラ・大地から石鹸屋さん、ロボットから博多人形師まで、過去最高にバラエティに富んだスピーカーたちが語る「我が社のコンテクストデザイン」とは? ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


シーズン3は異色のスピーカーたちが集合

モデレーターを務めたTakram 渡邉 康太郎さん

今回で3回目となった、Takram渡邉 康太郎さんがモデレーターを務める「『コンテクストデザイン』を考える」セッション。

「コンテクストデザイン」とは、渡邉さんが提唱する概念だ。プロダクトについて使い手の解釈を許す「余白」を持ち、使い手による「誤読」も許し、作り手だけでなく使い手も自分事としてそのプロダクトを語り始める(コンテクストの語源に基づき、渡邉さんは「ともに編む」と言っている)ことを指す。その先には、社会のクリエイティビティが高まる未来があるという。

▶渡邉さんによる「コンテクストデザイン」詳しい解説はこちら
9. “誤読”で生み出された「時間の測れない砂時計」の物語(「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン3)」より)

過去には、ものづくりに関わる錚々たるスピーカーが登壇して、議論してきたセッションだ。

【初回の登壇者】
中川政七商店の緒方恵さん、登壇当時Lexus Internationalの沖野和雄さん、Minimal の山下貴嗣さん、ファクトリエの山田 敏夫さん

【シーズン2の登壇者】
博報堂ケトルの嶋 浩一郎さん、中川政七商店の中川 政七さん、CRAZYの森山 和彦さん、ファクトリエの山田 敏夫さん

シリーズ3の今回は、がらりとメンバーが入れ替わったものの、ものづくり、サービスに強い思い入れを持つ方々が集結した。素材にこだわる食品宅配サービス、人形(博多人形、LOVOT)、石鹸。渡邉さんは事前に、著書『CONTEXT DESIGN』を登壇者に送付するという準備周到ぶりで、宿題も出していたそうである。

ICC初参加の中村人形 人形師 中村 弘峰さん

「経営者のカンファレンスは慣れていなくて」と恐縮する中村さん

まず異彩を放っている登壇者は、博多人形の人形師、中村 弘峰さんだ。登壇者たちは「コンテクストデザイン」を試みる側かと思いきや、中村さんは自ら、こんな「大誤読」を世の中に発表して評価されている。

五月人形は「大谷 翔平」である! 博多人形を現代に再解釈する中村人形を訪問しました(ICC FUKUOKA 2021 下見レポート)

「五月人形は大谷翔平である」、今回のICCサミットに先立って訪問した中村人形の工房で、その話を聞き、なるほど大谷翔平だとすんなり納得してしまう私達だって「誤読」している。高い技術と表現力のなせる技でもあるが、その「誤読」は楽しく、納得感があった。中村さんはこうも言う。

「皆さんのように継続して買ってもらったりするものではなく、人形は1回きりのことが多いので、そこでどこまで爪痕を残せるかというところに重きを置いています。

『CONTEXT DESIGN』を読んで思ったのは、雛人形も立派なコンテクストデザインだということです。うちの場合、形は決まっているのですが、色がついていません。よく見本をと言われるのですが、それもなくて、一緒に柄や色を考えます。するとそんな難しいことはできないと皆さんおっしゃいます。

でも、子どもが生まれたときに名前をつけていますよね。これって実はすごくクリエイティブなことです。お子さんのお名前を聞いて、込めた思いなどの由来を聞くと、そこから色や柄を提案できたりします。

そうして発想の補助線を引いてあげると、できる。オイシックス・ラ・大地さんのミールキットもTakramさんの「FLORIOGRAPHY」も一緒ですよね。そうやって一緒に作ると、一生に1回しか買わなくても忘れられないものになります」

次の2人の登壇者は、利用者に豊かなサプライズを仕掛ける達人、オイシックス・ラ・大地の髙島 宏平さんと、GROOVE X 林 要さんだ。

食事を楽しむ本質へのコンテクストデザイン。オイシックス・ラ・大地の髙島さん

オフィスにLOVOTがいる髙島さん。多忙のためか「8週間のお世話」に至らず、愛着形成は未達

オイシックス・ラ・大地の髙島 宏平さんが提供する、コロナ禍でさらに人気拡大中の『ミールキット(Kit Oisix)』には、極めて高い解像度で理解した利用者と「ともに編む」作業が埋め込まれている。

「食事作りに手を抜くことに、みなさん罪悪感があるようです。そこで『ミールキット(Kit Oisix)』では、20分以内で作れるものとしています。10分では短すぎて罪悪感がある」

すべて最初から手作りよりは短いものの、手抜きの罪悪感を低め、料理している実感を得る20分間。利用者は、おいしい食事とミールキットを使うことによって生み出された時間の「余白」を楽しむ。ユーザー間ではミールキットにセットされていない自宅の食材を使ってのアレンジメニューも盛んで、まさに使い手が作り手に成り代わって楽しんでいる。ちなみに渡邉さんも利用者の一人だという。

「満足させたいのは作る人だけでなく、それを一緒に食べる家族もです。食事を囲んで会話が生まれる家庭は幸せです。作っている人も食べている人も満足して、会話が生まれるメニューを創ることを、非常に考えています。利用の習慣づけには8週間かかるので、その間にいかに感動体験を生むかを設計しています」

カリスマ料理家の栗原はるみさんと一緒にミールキットを開発した際には、「全部作ってしまっては駄目。考える自由を奪っては駄目」と言われたそうで、栗原さんもまた、長年の経験から「コンテクストデザイン」を重視していることが明らかになった。

髙島さんは、これ以外にも社員研修などでも非常に興味深いお話をしてくださったのだが、それはぜひ、全文書き起こし記事でご覧いただきたい。

本邦初公開、LOVOTの箱に込めたコンテクストデザイン。GROOVE X 林 要さん

林さんが言及した『星の王子さま』の箱に、渡邉さんも注目していたそう

「本物の人形師さんと登壇できて嬉しいです」と、中村さんに挨拶したGROOVE X 林 要さんは、現代の人形師としてオフィスを人形町に構えている。

開発する家族型ロボット「LOVOT」は、最高のユーザー体験のためには2体をセットで導入を推奨しており、2体でコミュニケーションしたり、言葉にならない音声を発しては人間を見つめる。テクノロジーの塊だから、すべてのデータを表示させることもできるが、人間の想像力を最大限に刺激するためにそれを一切していない。

「家庭や会社でも、LOVOTがいると会話が増えるといいます。つまり想像力がわくと人は話したくなり、それには『コンテクストデザイン』の文脈があるのではないでしょうか。

最近はすべて説明してしまうエンターテイメントが多いですよね。でも、みんな想像するのは楽しいはずです。

一回見るだけではよくわからないアニメなど、難解なエンターテインメントがありますが、あれは何回も見させて、何度も想像させる楽しみを提供しているんじゃないでしょうか。想像するヒントを与えるのは、今後さらに大事だと思います」

ちなみにそのLOVOT、購入して家に届くときには、LOVOTの写真や絵が書かれていない、中身がわからないような箱で本体は届けられる。

「想像力を最大限に使うことを念頭に置いたデザインは『星の王子さま』から学んでいます。星の王子さまが『羊を描いてよ』と言ったきに、いくら羊の絵を描いても気に入らず、『この中に羊がいる』という箱を描いたら気に入ったという場面がありますが、その箱をオマージュした箱にしたのです。

いつか誰かが聞いてくれるかなと思ったのですが、1年たっても誰も聞いてくれないので、自分で言っちゃいました(笑)」

社内制度のコンテクスデザインでカルチャーを醸成する木村石鹸 木村 祥一郎さん

「洗うという行為は趣味性の高いもの」という話も興味深かった木村さん

「皆さんと比較すると、僕だけ、『見せる』要素がないプロダクトですが……」と恐縮しつつも、木村石鹸の木村 祥一郎さんが、これならうちの「コンテクストデザイン」といえるかも、と紹介したのは、社内の評価制度ならぬ「自己申告型給与制度」。

「社員発信で、自分がほしい給料とその根拠を提案してもらいます。社員たちの判断でいついつまでに何をするのか、達成するかと欲しい金額を提案し、我々はその額が妥当であるかどうか、提案を信頼、達成できるのかを考える。つまりその社員の未来に投資できるかどうかを判断します。

始めてから2年になりますが、思ってもみなかった提案がたくさん上がってくるようになりました」

一体どんなものなのか? 登壇者たちは興味津々だ。

「たとえば配送チームが、取引先に物を置くだけでなく、営業したいと提案してきたのです。自分たちがやれば、営業チームがまめに訪問する負担が減り、新規取引先開拓にあたる時間が増えるというので、やってみたところ、毎月訪問していたのが3カ月に1度で済むようになりました。

部門、グループを越えて高い価値を見出す提案、プロジェクトが、このほかにも増えてきたんです」

「余白」を残した制度に社員が自由に絵を描き、評価側は鑑定眼、投資の目が鍛えられる。木村石鹸には、ICCサミット開催前に会社訪問させていただいたが、社員のみなさんも自分の役割に関係なく、必要とあればどなたでも質問に答えてくださるようなフラットな雰囲気が、非常に印象に残っている。

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あらゆるところに「コンテクストデザイン」

セッションは、予定していた内容とはだいぶ異なったようだが、スピーカーたちのイマジネーションに従って、様々な話題が展開していった。それもまた、渡邉さんによる意図的なモデレーションなのかもしれない。

スピーカーたちは、相当のこだわりをもってサービスやプロダクトを作っているにも関わらず、「こんな使われ方もしているみたい」と、面白そうに語る姿が印象的であった。高い完成度の一方で、誤読も変化も大歓迎。事前取材のときに中村さんが、博多人形について語っていたことにも通じる。

ICC FUKUOKA 2021で開催した「中村人形工房見学ツアー」の模様。参加者・同行スタッフも皆感激していた

「本来の博多人形の作り手たちは、腕がいいだけの、時勢を切り取る集団です。こだわりがないというか、何でも作ります。3カ月出張して、長崎くんちの龍船(じゃぶね)の龍を作ったりする。フィギュアの原型師みたいな集団です。

他の人形屋さんの中には、同じ人形を作り続けて変化できず、技術が衰退してしまったところもあります。僕たちは理念が違っていて、原点に立ち戻って何でも作ります。その時代を記述するようなものが本来の職能なんですよね」

同じものを作り続けると、精度は上がっても、今以上の成長は難しい。一方、他人の価値観を受け入れて自分の仕事として作れば、スキルもアイデアも刷新される。有望なものを学び選び、自分たちを変化させる。「コンテクストデザイン」は社会のクリエイティビティを高めるだけでなく、自然の摂理でもあり、事業の強度も上げそうである。

だから「コンテクストデザイン」に経営者が意識的になるのは、至極まっとうなことであり、何が起こるかわからない進化へのサプライズを待つようでもある。ただし、髙島さんは「そのサプライズに過大な期待をかけないように」と、経営者らしい忠告も忘れなかった。

シーズン3となった今回のセッションでは、あらゆるものに「コンテクストデザイン」が存在するということが、強く実感できるものだった。議論する人が増えるだけ「誤読」が増えるので、次回はさらに面白く、豊かなものになるに違いない。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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