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9. “誤読”で生み出された「時間の測れない砂時計」の物語

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「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン3)」全11回シリーズの(その9)は、Takramの渡邉康太郎さんが“誤読”により新たな物語を生み出す「コンテクストデザイン」を語ります。渡邉さんがバカラの協賛で制作した、中に指輪を閉じ込めた“時間を測ることのできない”砂時計。そんな不思議な砂時計の誤読から生まれた、素敵な物語が紹介されました。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2020 プラチナ・スポンサーのリンクトイン・ジャパン様にサポートいただきました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 2D
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン3)
Sponsored by リンクトイン・ジャパン

(スピーカー)

石川 善樹
株式会社Campus for H
共同創業者

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 CDO (Chief Data Officer)

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC特別招聘教授

(モデレーター)

村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表

「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン3)」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. 人気シリーズ第3弾!教養と科学で「人間の理解」はどこまで深まるのか!?

1つ前の記事
8.「企業のイノベーション」と「産業のイノベーション」の起こし方

本編

村上 ここまで、歴史から始め、未来をどうつくるかの話をしました。

この「人間を理解するとは何か?」シリーズではかなり珍しいことですが、善樹さんからは事業の話もありました。

組織論から事業へと非常に役に立つ話が出てきて、残すところ20分ほどとなりました。

ここからは、よりリベラル・アーツ寄りに「人間の理解」を進めていきたいと思います。

その口火を、渡邉さんからお願いします。

Takram渡邉さんは、いかに「人間の理解」に迫るか

渡邉 北川さんからは『キングダム』でしたので、ここはすかさず『こち亀』を出したいと思います。

本セッションは「人間を理解するとは何か?」です。

でも、そもそも人間とは何でしょうか。

人間の学名はホモ・サピエンス(Homo sapiens)ですが、これは「賢い人」という意味です。

そこで取り組みたい問いは「今の文明は、人を賢くするのか?」というものです。

AI・ビッグデータから逃れる行為にこそ「知」が表れる

渡邉 僕が大好きなエピソードをご紹介します。

思想家で『動物化するポストモダン』『テーマパーク化する地球』の著者の東浩紀さんが、編集者の菅付雅信さんと対談をしました。

東さんは思想家なので日々山ほど本を読んでいるはずですが、東さんの話では、Kindle Unlimited(Amazonの電子書籍読み放題サービス)でたまたま0円だった『こち亀』を1冊読んだら、それ以降Amazonが勧めてくる本が全部『こち亀』になってしまったそうです。

(会場笑)

日本のリベラルアーツの知を代表する一人、東浩紀の本棚のレコメンドが、全部『こち亀』です(笑)。

村上 『こち亀』シリーズは200巻ありますからね。

渡邉 いくらでも勧めてきます。

対談の問いは、「文明の利器であるAIとビッグデータは人間を賢くしているのか?」でした。

『これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講』(菅付雅信/編、東浩紀ら/著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018

そこから連想します。現代社会には、スマートフォン、スマートシティ……色々なスマート◯◯が出てきている。確かにシステムはスマートになっていますが、人間はどうなっているのか。

村上 僕は、人間からスマートを奪っているように思いますね。

石川 スマート◯◯はあくまで企業利益のマキシマイゼーション(最大化)がゴールになっていますから、我々を賢くすることにはつながっていないですよね。

井上 そうですね。問う力はどんどん弱くなっている気がします。

渡邉 Homo sapiens(賢い人)と言うけれど、実際にはHomo stultus(頭が悪い人)になってしまっているのではないか。

AIやビッグデータが導く統計的なに正しさは、ある「一つの答え」に人を誘導するものです。

AIが「これが欲しい人は、あれが欲しいのだろう」と正解の枠組みに当て嵌めようとする。そこから逃れることこそが、人間の「知」なのかもしれません。

誤読がもたらす「新たな価値観の創出」を歓迎せよ

渡邉 そこで僕は、「誤読」を提唱したいと考えています。

誤読という言葉は、ここでは「間違った読解」ではなく「個性がある読解」を意味しています。

あくまでも前向きな意味にとらえたい。誤読こそが未来を拓くのです。

井上 そもそも誤読と言う言葉は「正解がある」ことが前提の言い方ですよね。

渡邉 そうです。ここでは、その正解から逃れることがポイントになります。

そもそも人は勝手に誤読してしまうものので、物事に勝手に自らの抱く思考を投影してしまいます。

例えば映画を見てその感想を話しあうとき、映画の話をしているというよりは、みんな自らの「読み方」や身の上話を語っています。

『キングダム』を読んで自分の好きなシーンやその理由を語るわけで、『キングダム』を語っているわけではありませんよね?

村上 北川さんがお気に入りの「全軍前進!」をやりだしたように(本セッションPart3参照)、それぞれの観点で語り始めるわけですね。

渡邉 そうです。ある意味、世の中のあらゆる読解は、そのように読み手の個性が投影されている。それがあらゆる表現活動のスタート地点で、結果、誰かに物語が届いていくのです。

「カエサルの最期の一息も、我々の呼気に届いているかもしれない」となってくる(本セッションPart4参照)。

村上 ここで伏線 を回収してくるわけですね(笑)。びっくりしました。

(会場笑)

誤読で生み出された「時間の測れない砂時計」をめぐる物語

渡邉 ちなみにスライドの写真は、僕が作ってみた用途のない砂時計です。

きれいだから作ってみただけで本当に使い道がない。砂時計のガラスの上半分に青い指輪、下半分には赤い指輪を入れています。

「時間を測れない砂時計を作りたいんですけれども」と言って、バカラに協賛してもらいました。

ちょうど指輪が隠れるぐらいの量の砂を入れました。砂がだんだんと落ち青い指輪が見えてくると、赤い指輪が隠れます。

指輪に砂が引っ掛かるので不規則に砂が落ちるため、毎回時間が変わり時計としては機能しません。

バカラのマーケティング担当の女性も、最初は「なんでこんな使い道のないものを作るのか……」と不審そうでした。

しかし出来上がった砂時計を見た瞬間、彼女は突然閃いたように、こう言いました。

「渡邉さん、砂時計の使い道を思いつきました。今年小学生になった娘に部屋を与えたのですが、彼女の部屋の窓辺に置いて使いたいです」と。

「毎晩砂時計を使って、『今日は学校で何があったの?』と会話の時間を持つことにしたい。それを何年も続けてみたいです。彼女が20歳になったら、砂時計を割って、青い指輪は私、赤い指輪は娘が着けて、一緒に出かけたい」と言うのです。

村上 ロマンティック!

井上 きれい!

渡邉 僕はデザイナーです。そんな僕が思いつきで使い道のない砂時計を作って“クリエイティブ風”の表現に終始しようとしていたら、むしろデザイナーではない彼女のほうがよっぽどクリエイティブな用途を思いついた。この喜びに、その瞬間ひたりました。

石川 いやー、渡邊さんみたいなカッコいい人生はどうやったら送れるんですか?すごくうらやましいのですが(笑)

(会場笑)

村上 作ったのは渡邉さんなのに、完全に主体が入れ替わっていますよね。

渡邉 そうなのです。

見た人は「誤読」してしまう。誤読した人は自分の人生を照らして、むしろ作り手よりいいものを生み出すこともある。これが、人間のコミュニケーションの本質なのかもしれません。

ここに書いた“Homo Errat”という言葉は昨晩僕がGoogle検索でラテン語の活用を調べて考えた言葉ですが、ラテン語は結構難しかったです(笑)。

意味は、「さまよう人、間違える人」です。エラーのErratですね。

「賢い人」や「一つの正解」ではなく、むしろ「間違えよう!」と言いたいのです。

コンテクストデザインで「誤読する余地」を残す

渡邉 僕はコンテクストデザイナーを名乗っています。「コンテクスト」と言ったときに多くの人が連想する「企業のブランドやストーリーを押し付けてる」こととは真逆の、使い手や顧客と一緒に「編む」ことをしています。

“Context”の語源はラテン語です。“con-”は「一緒に」、 “texere”は「編む」を意味します。

一緒に編み上げていくという意味で、一人ひとりに誤読してもらいたい。

「いかに自分事としてとらえてもらうか」の余地をデザインすることは、『洛中洛外図』が半分雲で覆われているのとまさに同じだと思うのです。

2. 人間を理解するヒントは、京都の『洛中洛外図』にあり!?

雲で覆われ見えないからこそ、受け手一人ひとりが思い描いている街の様子が投影される、ということなのではないでしょうか。

北川 なるほど!

渡邉 ちなみに、このあとのSession 4Fでコンテクストデザインについてのセッションがありますので、よろしくお願いします。

それは語りたくなる商品か——コンテクストデザインに学ぶ“誤読”が導く体験(XD)

村上 最後に番宣が含まれました(笑)。

コンテクストデザインはすごく面白いですね。皆さん、森岡書店 はご存知でしょうか?

渡邉さんが手掛けた、本を1冊しか置かない本屋です。本屋なのに、1冊しか置いていないのです。

「なぜそんなことを?」と思いますが、人には想像力があります。

自分の中の過去の経験に照らして、「これって私にとっては、こういうことなんだ」と誤読が発生して、先ほどのバカラの女性のようなストーリーが生まれます。

僕は、このコンテクストデザインの考え方は今のソーシャルの文脈とすごく合っていると思います。

情報過多の時代なので、誰もが情報を押し付けられることに飽きてしまい、メディアが言っていることはなかなか「自分事」になりません。

しかしこうした誤読のフィルターを通すことで、より自分事に、信じられるものになっていきます。

そこをデザインしようとしているのが、すごく面白いなと思いました。

『松林図屏風』『4分33秒』に見る“情報”と“偶然”のコントロール

渡邉 臣さんがおっしゃるように、押し付け過ぎてもだめだし、何も言わないのもだめです。

『攻殻機動隊』『エヴァンゲリオン』が優れているのは、その奥に壮大な世界観があることを少しずつ出していく情報のコントロールです。

情報の蛇口を自在にコントロールしているところが、優れているのだと思います。

長谷川等伯の描いた『松林図屏風』は松がササっと描かれていますが、その大部分は何も描かれていません。

『松林図屏風』(東京国立博物館WEBサイトより)

ただよく見ると、真っ黒な松もあれば、ぼやっとした白に近い灰色の松もあります。

この余白や灰色は何も描いていないのではなくて、あくまで霞(かすみ)や靄(もや)、湿気、奥行を描いている。

想像力のためにあえて余白を設けることで、ちょうどよい案配で、受け手の想像力が刺激されるのです。

石川 僕らも余白をつくるために、3分ぐらい黙ってみましょうか?

(会場笑)

渡邉 真っ白ではだめなんです(笑)。

村上 グラデーションが必要ということですね。

北川 でも、『4分33秒』(※)の沈黙がありましたよね? あの沈黙は誤読をもたらさないのですか?

▶編集注:『4分33秒(4’33″)』は米国出身の音楽家ジョン・ケージが1952年に発表した「無音」の楽曲。

渡邉 あれはチャンス・オペレーションといいます。

オーケストラのもとに指揮者が出てきて、パッと指揮棒を上げてからの4分33秒は無音ではなくて、会場を共にしている人たちの咳や自分自身の耳の近くで震える血の流れが聴こえてくる。

人々が耳を傾けようとすることを利用して、「偶然を顕在させる」のです。

村上 観客の「えっ?」みたいな反応も含めてですね。

渡邉 はい。偶然が介在する。

当然、誤読が許されないコンテクストもある

村上 今ちょうど世の中は新型コロナウイルスで大変ですが、Twitterを見るとお医者さんが正しい情報を無料で一生懸命発信してくれています。

しかし、レスを見ると大変なことになっていて、絶対専門家ではない人たちが「それは嘘だ」とか何だとか言っています。

結局その人たちは自分が信じたい情報を探しているだけであって、その結果、正しい情報を確実に持っている人は、疲れて発信を止めてしまったりします。

人間を理解する上で、「人は基本的に自分が信じたいものを信じる」のだなと思います。

渡邉 法律や飛行機の操縦、ウイルスの感染などは「誤読」してはいけないものです。

安全・安心を超えた、一人ひとりの個性を表出する文化・文明のような話になったときに、どんどん「誤読」しようということです。

村上 ありがとうございます。

それでは議論が深まってきたところで、次は浄さんです。

石川 いよいよフィナーレに向かいますね。

北川 楽しみですね!

(続)

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続きは 10. 人間を理解するためのリンパ組織的考察〜僕らの境目〜 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/フローゼ 祥子/小林 弘美/戸田 秀成

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