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ICC KYOTO 2022の特別プログラム決定! 「中川木工芸 比良工房」で、世界が認める木桶作りを見学

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毎回、魅力的な企業・経営者が登壇するICCサミット。次回ICC KYOTO 2022に新たに加わってくださるのは、ドン・ペリニヨン公認のシャンパンクーラー「konoha」など、美しい桶を手作りする「中川木工芸 比良工房」の中川 周士さん。特別プログラムのご相談も兼ねて、滋賀県大津市にある工房を一足先に見学させていただきました。その模様をお伝えします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


HOSOO GALLERY 細尾 真孝さんのご紹介により訪問したのは、中川木工芸。京都市内から車で約1時間、滋賀県は大津市にある比良工房に到着しました。すぐそこは琵琶湖で、JRの高架に畑が広がる中にある、民家から少し離れたロケーションです。

ここで工房を営んでいるのは、中川木工芸3代目の中川 周士さん。中川さんはおよそ700年前、大陸からその製作技法が伝わったという木桶を、当時の製法を受け継いで作っています。ちなみに京都市内にも同じ名前の工房がありますが、こちらはお父様で2代目、重要無形文化財「木工芸」保持者、つまり人間国宝である中川 清司さんの工房です。

工房に一歩入ると、木のいい香りがします!

かんな屑をつないだパーテーション。芸術的!

出迎えてくださった中川 周士さんに、早速木桶のこと、木のことについてお話をうかがいました。

中川木工芸3代目の中川 周士さん

桶は木片の集合体

上の写真の中川さんの背後にある桶、こういう桶は、何枚もの木片が寄せ集められて作られているってご存知ですか?

中川さんにそれを小さいコップで実演してもらいました。

複数の木片を集めて、木槌でタガを締めていくと(そう、あのタガが外れるのタガです)、複数の木片の間隔がきっちりと締まって、1枚板のようになります。タガを2本しっかり入れることで木片同士が密着します。接着剤は、仕上げで使うこともあるという程度だそうです。

タガがあるものの作り方は同じで、完成したものを見ると、まるで1本の木から削り出したようになめらか。緻密に角度こそ設計しているものの、隙間なくつながっています。

ここで中川さんは、すべて手作りの伝統的な技法で、歴史あるものからモダンで革新的なものまで、さまざまな作品を生み出しています。古いものの修繕も行っています。

たとえばこんな大きな桶。よく見ると正面に白い縦線のように見えますが、隙間が開いているのが見えます。

中川さん「和紙の紙漉きの職人が原料の楮(こうぞ)を釜で煮るときに、この桶で中身が飛び出さないようにかぶせるのに使うそうです。200年前のもので復活させたいと修理に出されたのですが、表面を少し削ってみると木は傷んでいませんでした」

近くに寄ってみると、これが修理できるということに驚くような古さで、そこここに隙間が見えます。その表面を削り、古くなったタガを交換して正しい位置に戻して水を張っておけば、木が膨張して隙間が閉まります。桶の製法は、木の特性を活かしたサステナブルな製法なのです。

タガが緩んだ状態の古い桶

手作りとあって、工房内はさまざまな道具が並んでいます。同じ道具でも、作るものの大きさに合わせて様々な大きさのものがあります。

大小さまざまな鉋(かんな)

工房の外に桶を作る木が置いてあるというので、見せていただきました。

材料となる木について

人と比較するとその大きさがわかるでしょうか? 中川さんの横にあるのは、樹齢200〜300年ぐらいという高野槇(まき)です。槇はお風呂を作るのに、木材として最高級だそうです。

断面は、ハーブのような芳しい香りがします。年輪1本につき1年といわれますが、それが約300本あるというわけです。

中川さん「これは大きいし高くて買えないかなと思ったら、大きすぎて普通の製材所では板にひけないということで、値段が上がらなかったんです。

木は競りで買うのですが、運動場みたいなところに100本ぐらい並べられていて、表面を見ながらうちに向いているかなと思ったものを入札します。仲買人みたいな人から買います」

買った木材はすぐ使うのではなく、雨風にさらして、ヤニや灰汁のようなものを追い出すために、数年置いて干しておくのだそうです。外に出しておいて大丈夫?と思いますが、木には抗菌効果があり、汚れの原因以外には、基本的にカビたり苔がつくことはないのだとか。

いい木の条件は?という質問に、素直に割れてくれるのがいい木かな、という中川さんですが、最近は無垢材の節や年輪があるものをテーブルにと好む人もいて、よい木というのは好みや使う目的によって違うとのこと。

ちなみに大柄な成人男性1人では抱えられないほどの直径の吉野槙、なぜ中川さんたちが買えたかというと、特別な機械があるからではなくて、人力でくさびを入れて割っているから。どうやって割っているかというと……。

くさびを繊維に沿って立てて、

何度か叩いてくさびを押し込んでいくと

あるときパカッと割れるのです!

丸太が割れると、閉じ込められていた香りが解き放たれ、なんともいい香りがします。乾くとすぐ飛んでしまう香りですが、濡れると復活。木製のお風呂でいつまでもいい香りがするのはそのためだそう。

中川さん「今の板は最初からスライスしたものが一般的ですが、ここでは丸太を割ったものを板にしています。繊維にそってきれいに割っていきます」

その理由は、作るものの強度を確保するため。機械やのこぎりを使えば物理的にはまっすぐ切れますが、木は繊維のかたまり。森の中で枝や木を避けて木が育つときに繊維が曲がってしまうところがあり、それを無視してカットした板は、顕微鏡で見ると小さな穴だらけといいます。

中川さんは繊維の状態を確認するために割って確認し、まっすぐなところを桶に使っています。ただし、買うときに割るわけにはいかないので、丸太の状態で買うのはバクチに近いとのこと。

のこぎりで切れば粉が出ますが、割るのは削りかすが出ず、割いているようなもの。だからタガを締めるときにぴたっと断面が合います。想像に難くありませんが、この木を割る作業は完全な力仕事で、1日やっていると、フラフラになってしまうそうです。

余談ですが、「あなたの目は節穴か」なんて言い方をしますが、これは木から派生した言葉です。

人間の胴体から手足が出ているように、木の幹から枝が生えていますが、節とは枝があったところ。木が成長していくと、節の周りの繊維は曲がり、さらに木が高くなって上に枝が生えると、下の枝は枯れてしまいます。そんな部分を割ってみると……

こんなふうにきれいに穴が開きます。これが「節穴」というわけです。

ドン・ペリニヨン公認のシャンパンクーラー

2階の工房では、伝統工芸の専門学校出身など、若い3人の職人さんが黙々と作業に取り組んでいました。かつては200軒あったという桶屋は一時は3軒まで減ってしまったといいますが、”新しい桶”を作るようになってから、若い人たちが加わってくれるようになったそうです。

中川さんが小脇に抱えている”新しい桶”のひとつが、ドン・ペリニヨンが採用したシャンパンクーラーです。

中川さん「新しいデザインが完成して、売り込みに行ったら公式クーラーとして採用してくれたんです。公認のものは焼印が入って、一般には販売ができないのですが」

精巧で美しいこの「桶」は評判を呼び、海外からも人気を集めています。こんなふうにメディアで取り上げられているのをご覧になった方もいるかもしれません。

よく見るとつなぎ目がわかり、桶と同様の製法で作られています。木の葉の先っぽのような部分は、強度をもたせるために1本の板から作っています。

左側の木片が、シャンパンクーラーの先端部分

下のヌンチャクのような、両側に持ち手がついた道具は何に使うもの?と思っていたのですが、この先っぽを繰り出すように削るのにも使う道具でした。

何一つ無駄にならず、1つにまとめる

曲がった繊維の木の個性を、桶以外で活かす試みも

工房を見学して、お話をうかがって印象に残った話があります。冒頭でご紹介した、コップをタガで締めていたときのこと。1枚1枚を並べてみると細かったり太かったり、木の大きさが違います。

中川さん「工業的には全部同じサイズにすると思いますが、円周さえ合えばいいので、いろんなサイズがあります。だから材料が無駄にならない。木をいかに無駄にせず、最後まで利用するかに知恵があります。

順番もランダムに入れ替えることも可能です。個性的なバラバラなものをタガで締めていくことでひとつになっていく、これからの時代に必要な仕事じゃないかと思うんです」

いかに個性豊かなものをまとめて、いかにタガを締めて、1つとして完成させるか、まるでICCサミットで議論されているような内容です。

素晴らしい技術を持つ職人であり、ものづくりを通して今の時代を見る中川さんの工房見学ツアーをICC KYOTO 2022では特別プログラムとして開催します。かんなを使ってお箸を作るワークショップをご提供いただく予定です。ぜひご期待ください。

中川さん、工房のみなさん、どうもありがとうございました。以上、中川木工芸 比良工房から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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