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文化、歴史、アート、産業…酩酊のなかの、とりとめもない雑談。ICC茶会シーズン2

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2月13日~16日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、最終日に大濠公園の日本庭園で開催された「ICC茶会」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください


 前回のICC KYOTO 2022の好評を得て、再び開催されることとなったTeaRoom岩本涼さんによる「ICC茶会」。前回は無鄰菴の敷地内にある茶室で行われたが、今回は福岡の中心にあるオアシス、大濠公園の中の日本庭園内にある茶室・茶会館で行われた。

▶ICC KYOTO2022のレポート:ICCを茶道で解釈してみたら…? 初開催「ICC茶会」で自分自身に向き合い、共創の種を蒔く

 正式な茶会というのは、食事も含めて全体で4時間ほどかかるという。今回はそれを1時間半程度に収めたショートバージョン。前室の茶会館で、食事とお酒を楽しんでから、庭園を通って茶室に移り、そこで濃茶を楽しんだ。予備知識はほとんどなく見学した初心者の目線で、前回に引き続きICC茶会をレポートする。

食事もお酒もあり。ICC茶会スタート

 茶会館に着いた一行を迎えたのは、下足入の上に置かれたこの風変わりな生け花と言っていいのか、下のほうから根が生えた青竹の花入に、茶の枝が入れられている。前回の茶会でも亭主(茶会のホスト)から、客を迎えるしつらえの意味を聞き、その一つひとつに様々な意味が込められていることを学んだ。

 これもまたきっと、何か意味があるに違いない。茶会に参加するメンバーが揃うと、一行は1つ目の部屋へ移動した。

リラックスした雰囲気から一転、正座で背筋を伸ばしてお辞儀をして部屋に入る。普段しない動作は、茶会モードへの切り替えスイッチのようである。

写真左から小林 君枝さん、freee武地 健太さん、Mosh籔 和弥さん、住友商事 南 昇吾さん、dof高野 俊一さん、HENNGE汾陽 祥太さん

 全員が揃うと、それを見計らったかのように襖の奥から亭主が登場し、茶会が始まった。

道真公、節分、立春をかけあわせた物語

 茶会は食事もお酒もタバコも何でもありと聞いていたが、今回はそれも含む体験となり、客たちの前にはお膳が並べられた。蓋付きのお椀が一つ、赤い盃が一つ。

 蓋を開けると、軽く盛られたご飯に白味噌のお味噌汁が入っている。

 客がお椀をいただいているうちに、お酒がやってきた。お酒は地元ものということで、ICCではお馴染みの「田中六五」。客の中には今回の福岡の滞在で、美食プログラムで飲んだという人も、過去に開催した酒蔵ツアーに参加したことがあるという人もいる、ICCが愛する福岡のお酒である。

ICCサミット特別プログラム「田中六五」酒蔵ツアー!「これがないと生きていけないような酒を造り、人の気持ちに入っていきたい」

 そのうち、この席でお詰め(末席を務め亭主を助ける係)を務めるHENGEの汾陽さんが、亭主とさしつさされつ、一緒にお酒を楽しみ始めた。これを「千鳥」というそうで、「千鳥足」の語源だそうだ。こちらが飲み、あちらが飲み、交互に飲み交わす作法で、客人が多いときには、主人はかなり飲むことになってしまうのだとか。

自分の盃の口元を懐紙でぬぐい、同じ盃で主人と飲む「千鳥」

 語源といえばもう一つ。会席料理などで「八寸」といって先付けのあとに出てくる前菜のようなもの、またはお酒のおつまみなどをそう呼ぶが、これも茶道から来ている。下の写真の上の方に写っているお盆のようなもののサイズが8寸(24cm)で、ここから客に料理を取り分けていく。

この日の八寸は海のものが福岡ならではの明太子、山のものが西京漬けのウド

 八寸をつまみ、お酒も入って雰囲気がほどよくほぐれてくると、今日の茶会のテーマが紹介された。

「今回は立春がテーマの一つです。

 玄関にあった、青竹の根付きの花入と、茶の木を添えました。八十八夜目が5月5日で茶摘みをしますが、八十八夜の1日めが立春です。茶の木はTeaRoomの茶園で分けてもらって、ベランダで1年育てたものです。

 また、福岡といえば太宰府、菅原道真公ですよね。2月25日が命日にあたりますが、江戸時代の絵師、曾我蕭白が描いた迫力ある道真公の軸を知り合いからお借りしました。その方がお求めになったあとで、九州国立博物館から『ほしかった』と電話がかかってきたそうです」

 そのほか、1月25日に行われる、1年の嘘をリセットする伝統行事の「鷽(うそ)替え行事」にちなんだ鳥の鷽をモチーフにした置物や、立春前に行う鬼祓いの節分にちなんだカゴにも意味がある。玄関にカゴを掛けておくと、鬼は目が悪いため網の目で目を回して、退散してしまうのだとか。

「道真公、節分、立春をかけあわせた物語としました」

 さり気なく飾られた様々なものにも、季節、場所、客人への目配りと、ストーリーが込められている。それを聞いて楽しむもよし、話を聞く前に謎解きのように推測して楽しむのもよしである。

 個人的に面白く感じたのは、この食事とお酒の後にはお菓子とお茶が出てくるのだが、それを促すさりげない方法。食事と酒が終わったら、客は箸を2〜3cm持ち上げてお膳に落とす。そのカランとした音はお膳の片付けを始められるサインで、言葉で伝えるのは野暮というわけである。

梅が満開の庭園へ

 広々とした茶会館から茶室へ移動する一行は、途中に立春の梅の花が咲き誇る日本庭園も見学。作庭は島根県の足立美術館や京都府の二条城などの庭園設計で著名な中根金作氏によるもので、築山林泉廻遊式、枯山水もあり、これだけでも見どころがあるものだ。

 庭はちょうど梅が盛りを迎えていた。足元が滑らないよう飛び石を踏みながら、茶室へ向かう。8畳の茶室に収まった6名は、ここで亭主の岩本涼さんに迎えられた。

ほの暗い茶室の中で

岩本さん「床の間をご覧ください。能の演目で『高砂』というのがございまして、その中で、相生の松というめでたい松の下でおじいさんおばあさんが踊るのですが、そこで使われるのはほうきと熊手です。熊手はいいものをかき入れる、ほうきは悪いものを掃き出すということで、それを2つ重ねた花入を今回自作で作りました」

 今回の茶室は外の明るさがあったが、通常は床の間も茶室も光が入らず真っ暗なことが多く、そこに少し酔いが回った状態の人たちが入り、釜から立つ湯気を眺めて、お茶の香りが満ちてくると幽玄の世界、現実か夢かわからない酩酊状態を味わえるという。

上の写真でトゲトゲのついたオブジェのような不思議な形の器に目を留めた客たち。

岩本さん古賀 崇洋さんのスタッズ、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。実業家の多いICCの皆さんには文化に触れていただく機会をつくりたくて、そういう若手作家さんの器を持ってきました。古賀さんは福岡のヒットメーカーです。正客(お茶会に招かれた客の代表)にお渡ししますね」

小林さんに渡された古賀さんの器は、茶会では使えないほど人気が高まっているのだそう

 そこから広がる話は、前回のICC KYOTO 2022での体験でお茶の器を買うことになったことや、岩本さんがこの席のために特別に手配くださったアーティスティックな和菓子職人の話、コロナ禍を抜けつつある茶席の話、じつは亭主役は客の数だけ立ったり座ったりを繰り返すため、筋力が必要であることなどなど。

この日使った器は、古賀 崇洋を始め、酒井智也宮下サトシといった、若手の気鋭の作家によるもの。これも岩本さんの感性に響いた、これから新たな産業を作っていく若手と接点を持ってほしいという観点で選ばれていて、間違いなくこれから価値が上がっていくような人たちの作品だ。

岩本さんはそんな人達と一緒に、マイアミで開催されるアート・バーゼルで茶会を開催する予定で、ビーチに茶室を建てるという。海外だけでなく日本でもすでに人気が高まっており、博多阪急の催事では150万円の招き猫などが飛ぶように売れて過去一番の売上を達成、その購買者はリッチな20〜30代だったという。

百貨店で茶道具が茶道具売り場を追いやられて、ライフスタイル売り場においてみたらすごく売れたという話など、アートから産業、茶道、茶人になるには?など話題は尽きない。

一服の茶に亭主の心を感じ、この日のために取り寄せられた菓子の美味しさに驚きながら、とりとめのない話をして、ゆっくりと時間が過ぎていく。戦国武将も愛したこの茶室という狭い空間が与える影響はとても大きく、足は崩していても、特有の緊張感のある別世界だ。

普段時間に追われる経営者たちにとって、こういう時間は意識しない限り作れない。茶道が好きな方を除いたとしても、ICC茶会にいつも人数が集まるのは、いつも使う脳の部分を休め、違う部分を働かせながら、非日常と雑談に身を任せるような時間を無意識のうちに求めている人が多いのではないだろうか。

ICC FUKUOKA 2023のICC茶会、最終回ご参加の皆様、どうもありがとうございました!

終了後は、この日6回の茶会を行った岩本さんミニインタビューとなった。まずは茶会のテーマに込めた想いについて。

文化人が文化の活動をしているだけでは、ともに産業を創ったことにならない

岩本さん「『ともに学び、ともに産業を創る。』をコンセプトとした茶会にしています。生きている工芸品を使って産業界、産業性をどうやって茶会の中に出していくかをキーにしています。

ただ文化人が文化の活動をしているだけでは、ともに産業を創ったことにならないですし、それを実業家の皆さんが文化に触れていく機会を作ることによって、何か産業性を発出させるようなことがしたいんです。

入り口に茶の木を荘り、福岡という場所柄、菅原道真公のあの掛け軸、好んだ梅、太宰府のお菓子屋さん、前回との京都とのつながりも生むために茶道具とかは京都と福岡の半々で今回取り込んで、それもすべて若手の作家さんにお願いをしました。

熊手を持って、悪いものを掃き出していいものを取り入れる能の『高砂』の演目にちなんで、ICC最終日のプログラムとして、1つのいいものを吸収して悪いものを掃き出して、学びを得ながらもう1回社会に戻っていこうということを考えました」

カタパルトやアワードで審査員を務めて、岩本さん自身、非常に刺激を受けたという。クラフテッド・カタパルトなどで今回、顕著に語られていたのが、生産者は作るだけでなく伝え続ける努力をすべきということだった。

今を生きる自分は、ものづくりで社会に何ができるのか? 8人の決意を聞いたクラフテッド・カタパルト

岩本さん「(ICC小林)雅さんにも相談したのですが、近い将来、私も何らか発表する機会を作ろうと思いました。茶会を担当させていただくのもその1つだと思うのですが、伝え続けることがすごく重要です。

今回もフード & ドリンク アワード、クラフテッド・カタパルトとか、いろいろな審査員をさせてもらったのですが、イチゴや日本酒のベンチャーがそこにいるだけで、イチゴと日本酒のことを期間中に話題にするんですよね。

茶会は3日目のコンテンツでもあったりするので、参加者の半数以上帰ってしまうっていうのもあると思うのですが、ど真ん中でお茶の文化とか文化の価値とかっていうのを、伝え続けないといけないなというのを今回感じました。

雅さんがICCはもっと茶会とか文化に近づかなきゃいけないっていうことをおっしゃていて、文化を創りながら産業を創っていくし、逆もしかりで産業を創ってからまた文化にしていかなきゃいけないっていう、ここは間違いなくあることだと思うんです。

ものづくりをしている方々や大切なものを大切に引き繋いでいる方々に、どうしたらお金が回るのか。

カタパルトやアワードに、どうやって人を増やすか、登壇者を増やすかみたいな問いと近い話かと思うんですけど、大切な方々が残っていくために何をすればいいのかを、ICCと一緒に考えたいって言ってくださったので、そこはすごく励みになったというか、一緒に何かできそうだなと思いました」

穏やかな茶席の姿とは一転、岩本さんはいつも熱く語る。次回ICC KYOTO 2023では、その舞台が茶席になるのか、カタパルトになるのかまだ不明だが、文化人に留まらない行動力と情熱のある茶人、岩本さんの動向からしばらく目が離せないことになりそうである。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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