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ラグビー日本代表を変えたエディー・ジョーンズの理不尽さ【SP-YI1 #3】

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2016年に配信した、石川善樹さんご登壇記事を総特集いたします。今回は、ICCカンファレンス CONNECTION から、異分野対談「石川 善樹 X 中竹 竜二」を5回に再編集してお届けします。石川善樹特集(その3)は、ラグビー日本代表を率いたエディー・ジョーンズ氏の指導を例に取り、理不尽な状況下に置くことの効果等について議論しました。ぜひご覧ください。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。参加者の募集を開始しました。

 

登壇者情報
2016年2月17日開催
ICCカンファレンス CONNECTION
異分野対談   「石川 善樹 X 中竹 竜二」
 
(スピーカー)
石川 善樹 
Campus for H
共同創業者 
 
中竹 竜二
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター 
 
(モデレーター)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社
代表取締役

その1はこちらをご覧ください:【新】〔石川善樹〕”ゾーン”に入る(深く集中する)ための3つのステップとは?【SP-YI1 #1】
その2はこちらをご覧ください:〔石川善樹〕五郎丸選手に学ぶ、”ゾーン”に入るルーティーン【SP-YI1 #2】


小林 前に中竹さんと食事をした時に、エディジャパンの話になったことがあります。エディ ヘッドコーチはむちゃくちゃ練習が厳しいと。

そういう極度のストレスの中で結果を出すのはすごいなと思っていたのですが、それと通じるものがあるように思われますね。

石川 エディさんとのミーティングというのはどのような感じなのですか。

エディー・ジョーンズが作り出す危機感

中竹 相当厳しいです。本当に厳しいハードワークを選手らに求めるんですよ。だから石川さんの話を聞いて、あの極度のストレスがゾーンへ誘っていたのかと思いました。

小林 完全に南アフリカ戦とかはゾーンというか、すごい集中力でしたよね。

中竹 そうですね。すごい集中力と逆にリラックスもありました。話を聞くと、試合が始まって15分くらいで「今日いける」と思ったらしいです。

石川 そんなに厳しい人だったのですね。

中竹 そうです。厳しくてかつ尋常ではないことをやってきたので、だからああいう結果が出たのかなという感じはしますね。

石川 危機感を作るのが本当に上手かったのですね。

中竹 本当です。厳しさとの戦いです。

石川 すると『ウォーキングデッド』は見る必要はなかったのですね。

中竹 一番厳しい人が目の前にいるわけですから。

石川 僕はエディー・ジョーンズさんとテレビの対談で一緒になったことがあるのですが、その時は大変ニコニコしていました。

そして、彼が一番日本のラグビーチームで驚いたのは、「今日どうだったか」と聞くと反省点しか言わない、と。

勝った試合でも反省しかしていないから、もっと良いところを見なよと、そんなことを言っていたのですが。

中竹 それで選手が良かったところを言うと、エディは厳しい人なので「そんなんで良いのか」という話になるでしょう。

「朝令朝改」のエディー・ジョーンズ

中竹 彼はよく、言っていることがコロコロ変るのです。朝礼暮改という言葉がありますでしょう。そんなところではありません。朝礼朝改です。

どれくらい一貫性をもってやるのが大事なのかという話をしたときに、即答で「朝礼朝改はアリだ」と言ったのです。

要するに、朝言ったことは朝変えてもいいのだと。何故かと言うと、こちらは本気で考えているから、言っていたことがもし間違えだったと思ったら、一貫性を保つより良いことに乗り換える方が大事だと。

「俺の言うことがコロコロ変わると言われても良いのだ。そちらの方が良いことをやれるのだから」と言う。

そこの信念はすごかったです。

だから誤解されている面もあります。

選手からすると、言われたことをただやると、「これをやれ」と言われてやったら激怒されるわけですから。ですから、それくらい何をやっても怒られるという厳しさは常にありました。

石川 それはトップ研究者と近いかもしれません。

トップ研究者はセオリーとかを考えますでしょう。そして、考えた瞬間に次は何をやるかは二つある。

一つは自分が考えたことに当てはまらない例外をすぐに探しに行くのです。そしてもう一つは例外がなさそうだと思ったら、自分の考えの原則に立ち返って、その原則から考えるとどういう間違えがありうるのかを探すのです。

自信満々でありながら、ものすごく謙虚。この相矛盾するものが同居しているのがトップ研究者なのです。

(ICC KYOTO 2016 「最先端テクノロジーは社会をどのように変えるのか?」

セッション登壇時)

中竹 信じながら疑っているということですか。

石川 そうです。エディさんはそれに近いかもしれません。

中竹 もちろん僕自身彼を見ていて、本当に彼は世界一だと思うくらい人を変える力があったのですが、選手に聞いたのです。五郎丸選手を含めリーダーたちに聞いたのです。

これは意図的かどうかはわからないけれど、練習をやっている時に、自分たちの中では言われた通りにやり、戦術も上手く行き、「よくやったな今日の練習」と選手たちの間で言った瞬間に激怒されたりしたことがあるらしいのです。

それが一回や二回ではないらしい。何なのだろうこれはということになる。そして、ずっとやって最後勝って話を聞いた時に、「これはもし意図的だったらすごいよね」という話になったのです。

やはり人間はカオス体験で本当の進化が起き、カオス体験で成長していくのですが、あえてそれを作りだしていたのではないかとリーダーたちは言っていた。

実はそれを聞いたことがあったらしいのですが、答えてくれなかったそうです。

テクニックとスキルの違い

石川 これは(陸上の)為末大さんに聞いた話なのですが、日本で強いスポーツというのは、練習と本番で同じ動きをするものが多いと言うのです。

実際球技とかですと、状況状況で何が起こるかわかりませんよね。

そして、日本というのは生まれた時から電車は時間通りに来たりとか、気温も調整できたりというように、物事が予測できるという前提で社会ができていると。

しかし、ブラジルなどでは物事が前提どおりに動かないという前提で動くから彼らは強いのだと言っていたのです。

中竹 まさにそうだと思います。

なのでこの4年間で、僕とエディ・ジョーンズでコーチングの指針を変えたのです。日本のラグビーのコーチングの指針を明確にしようということで僕と二人で作った。みなさんは、テクニックとスキルの違いというのはわかりますか。

スポーツをやられている方はいますでしょうか。

小林 そちらの方、違いがわかりますか。

参加者 サッカーで言うと、テクニックは例えばドリブルでどういう技ができるかということで、スキルはその技術を試合で例えばパスを出すとかシュートを打つとかというように落とし込むことだと思っています。

中竹 正解です。素晴らしいです。

実は、これは世界的に定義はないのですが、日本のラグビーの中で決めようということで決めた。テクニックというのは身体的な動作です。

練習での素振りであったり、四股であったり、要するに型なのです。対して、スキルというのは、アンダープレッシャーです。本当の試合に近かったり、プレッシャーの中で状況判断、ディシジョンメイクを伴うものです。こういう定義です。

そして、僕らが分析したところでは、高校世代までの練習は、ラグビーだけでなくほとんど日本のスポーツはテクニック重視なのです。

ほとんど敵を伴う練習をやっていなくて、美しい練習、成功する練習をやっている。決まったことを決まったとおりにやるというのは、練習そのものからそうなっているのです。

これではいけないということで、日本代表の練習から全部練習を変えて、敵をつけない練習を排除した。これは結構難しいのです。コーチは大変でしょう。敵を毎回つけなければいけないというのは。しかし、これで劇的に変わったと思います。

日本代表が強くなったのは、スキル練習を大幅に増やしたから。僕は企業のコンサルタントなどもしているのですが、営業などはそうです。

ロールプレイングで実際にやってみなければならない。言葉を覚えたり、情報を覚えても、現場へ行った時に表情が読み取れるかというのが結構大事ですから。

なので、ディシジョンメイクを切り取った練習というのは日本ではすごく大事だと思うのです。

理不尽をグループで俯瞰する

石川 先ほどのお話を聞いていて、人は理不尽なことが起きた時は他の人のせいにしたがる傾向があるのではないかと思いました。

これは相手が強かったからとか。それを自責に向かわせるコツというものは何かありますでしょうか。

中竹 多分、一人では不安になると思うのです。これも本当に聞いたのですが、ウチの代表チームでもリーダーグループを作ったそうです。やはりチームにしがみ付く人間とチームを引っ張る人間というのは意識が違う。

理不尽が起こった時、付いていっている人間は理不尽に耐えられなくなる。

ですが、少し上から俯瞰している人間は「ちょっとこれは意図があるのかもしれない」というふうに考えます。

ラグビーでは良いと思ってやったプレーが審判の判断によって覆されることがあるのです。わかりやすいルールではない。

意図的にやったかどうかで反則がひっくり返るということがあるスポーツなのです。ですから、プレイヤーとしては結構パニックに陥る。ですから、

もしかしたらエディ・ジョーンズはこれを意図的に練習の中で、理不尽が振ってくるというのを何度も作り、しかもそれを他人のせいにするのではなく自分たちで解決させる。

「こんなところでジタバタするな」、ということをひたすら4年間やられたのではないかというのを、実はリーダーの6人だけで共有していたのです。

そして、みんな言っていたのは「一人では無理だった」ということです。一人では絶対他人のせいにしたけれど、「やっぱおかしいよね」「いや、おかしいよね。俺も思ったんだよ」とみんながおかしいと言うと少し安心するらしいのです。

そして、自分たちは代表チームだから仕方がないという形になったらしいです。

(続)

編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/石川 翔太

続きは 〔石川善樹〕トップアスリートが持つ「インナー・ドリーム」とは? をご覧ください。

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【編集部コメント】

続編(その4)では、ゾーン状態を組織的に作り出す方法や理不尽を乗り越える方法等について議論しました。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。

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