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メディアの信頼性を問う-「新聞だから」「課金メディアだから」は通用しない【F17-1A #3】

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「メディアは今後どう進化するのか? クオリティ・信頼性はどうあるべきか?」【F17-1A】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!8回シリーズ(その3)は、メディアをビジネスにしていく上で重要な要素について議論しました。コンテンツの価値をどう考え、ブランドや信頼性をどう創っていくか?本質的な議論です。是非御覧ください。

ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年2月21日・22日・23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 1A
メディアは今後どう進化するのか? クオリティ・信頼性はどうあるべきか?

(スピーカー)

江幡 哲也
株式会社オールアバウト
代表取締役社長兼CEO
オールアバウトグループ代表

瀬尾 傑
講談社
第一事業戦略部長 兼 デジタルソリューション部担当部長

藤村 厚夫
スマートニュース株式会社
シニア・ヴァイス・プレジデント 執行役員 メディア事業開発担当

古田 大輔
バズフィード・ジャパン
創刊編集長

(モデレーター)

後藤 直義
株式会社ニューズピックス
企業産業チーム 記者

「メディアは今後どう進化するのか?」の配信済み記事一覧

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最初の記事
【新】メディアの進化と信頼性を徹底議論!【F17-1A #1】

1つ前の記事
なぜ倫理観を失ったメディアが出てくるのか?【F17-1A #2】

本編

後藤 江幡さん、テクノロジーとモラルハザードという話がありましたけど、やはりビジネスとして儲かる前提で事業をされてきたわけですよね?

そういう意味では、コンテンツの信頼性を担保するというお金がかかるところと、利益を上げなければいけないという狭間で葛藤することはないですか?

江幡 それは成り立つと思って事業を始めたのですが、一方で、どのようにコンテンツの生成コストを下げて品質を保つかについて、1995年ぐらいからとにかくずっと悩んでいました。

1996年頃に企画書を出してやれると思って、ブロードバンドが始まる2000年に始めたんですけど、うちでは金銭報酬ではない報酬を提供する仕組みを取っています。

書き手にポジションを提供して、その人が書き手としてデビューすると色々な恩恵があるという構造を作っています。

それにより直接ライティングのコストは下げて、高品質のものを大量に生産できるという構造です。

この裏側に、実はオールアバウトがマスメディアの情報源になっているという事実があって、それを逆手に取って書き手がテレビに出られる構造を作り、「持ちつ持たれつの」関係になっています。

後藤 古田さんはどうですか?

古田 後藤さんにも伺いたいんですけど、インターネットメディアでも編集部を置いてプロの記者が書いていますよね。

インターネットメディアだから信頼性がないというのは全く論理的ではないです。バズフィード・ジャパンは去年1年間で新聞やテレビが間違えた事例についてたくさん記事を書いています。

媒体が何であれ間違える可能性があるわけです。

ポイントは2つあって、1つは信頼性が高いものを作ろうとする高い理念を最初に持っているか。

最初の理念が金儲けであれば絶対に失敗します。

2つ目は、システムとしてそれを担保しているかどうかです。

うちの場合はライター、リポーター、つまり現場で記事を書く人たちがいて、その上にメディアで10年以上記者をやってきた能力の高いエディター、その上に編集長として僕がいて、なお且つ頻繁に社内でミーティングや勉強会を開いている。

正確性が高く、わかりやすく、シェアされる記事をどのようにして書くかについて勉強を繰り返す。

勉強している間は記事を書けないのでその分 生産性は落ちますが、クオリティを担保するにはそれぐらいやらなくてはいけない。

後藤 バズフィードでは、毎日記事を書かなくても怒られないんですか?

古田 目安としては1日1本出した方が良いよとは言っていますが、時間がかかる記事もあるので、絶対にこの時間までに出せと怒ったりはしません。

1日1本というのはなぜかと言うと、記事を書いて読者データを見て、よりよい記事を書くために自分を鍛えることができるんです。

1日1本出したらPVがいくつという考え方は絶対にしないようにしています。

藤村 後藤さんのチームは半年に1本ぐらいで許されるんですか?

後藤 転職1年目はやっぱり一生懸命書かないといけませんよね。

私たちは有料課金を獲得することを第一のターゲットにしているので、時間をかけても簡単には有料課金につながらないという点については、日々ものすごく悩んでいます。

取りやすいもの、取りにくいものもあるのですが、どうやれば王道の経済メディアと言えるのかというバランスにも日々葛藤しているところです。

バズフィードはペルソナを作らない

藤村 バズフィード・ジャパンは大胆な調査報道を発表されています。社内で面白おかしい話題の記事も多い中で、調査報道はどのような評価なのでしょうか?例えば、ビジネス的に意味があるなどありますか?

古田 1つは、全く違うタイプのオーディエンスを集める効果があります。

藤村 オーディエンスを煮詰めないようにしているんですか?

古田 より多くの人にシェアしてもらいたいと心から思っているので、政治的にある意見を持った人とか、年齢層はいくつとか、都内に住む20代後半のビジネスパーソン等のようなペルソナは一切作っていません。

多くの人に楽しんでもらえる、信頼してもらえるものを作っていきたいという方針でやっているので、ある意味メディアとしては逆張りです。

記事生産コストを下げるために外注するとか、ペルソナを絞ってバーティカルにしてそこに深く刺さるとか、日本でインターネットメディアで成功する定番の手法がいくつかありますが、うちではファンをたくさん作れば何とかなるだろうと考えています。

価値の高いコンテンツはじわじわ効果が出る

藤村 後藤さんのところとはどう違うの?

後藤 ニューズピックスは有料課金を狙っているメディアなので、20代から40代の若いビジネスリーダー層がお客さんだと言っています。最初は皆、堀江貴文さんやDMM会長の亀山敬司さんのような個人の経営者がとても人気で、いわば経済ワイドショーのあの人の意見がズバッと聞きたいというような需要から、チャリンとお金を頂ける入り口になった訳ですね。

堀江さんが「来年には消えてしまう職業10」とかをズバッと話すと、「何!?」と読みに来るわけですよ。

ところが、粉飾決算が問題になった東芝がどうなるんだとか、真面目に来年消える会社とかを本気で取材すると、大変な時間と労力がかかり、課金の費用対効果がまた変わってきます。

藤村 ”チャラい”お話しをさせている方がラクみたいなところがある?

後藤 傾向ですね、完全にゼロではないんですけど、こういうジレンマをどう乗り越えていくのか。

毎朝10時半に前日の「成績表」が編集部のメンバー全員に送られてきて、徹夜して書いたのに課金した人がたった2人とかだと、次の日書けなくなるぐらいのショックを受けたりします(笑)。

古田 僕は後藤さんの記事のために課金していますから。

藤村 絶対響いていると思いますよ。

深いコンテンツとか価値の高いコンテンツって、人間が急にビビっと反応して脊髄反射的にボタンを押したりしないもので、だんだんじわじわ効いてくる。

1本読んで時間をかけて友達と議論を戦わせて、その後やっぱりそうだよねと時間のかかるサイクルだと思います。

インターネットメディアがレガシーメディアに劣るところはないという考え方で良いとは思うんだけど、片方で、なんとなくネットメディアは即行動で、ビビっと人を動かしていくことに価値があるみたいなバイアスもある。

ここにいる多くの方が価値の高い良いコンテンツに触れたときのふるまいを考えると、読んで10秒ですぐにボタンを押さないと思うので、そういうサイクルをきちんと見て大切にしていくことが重要ではないかと最近感じています。

価値の高い、品質の高い、あるいはまっとうな取材を含めた手間のかかったコンテンツを作ることがなかなか儲からないというのはどこでも突き当たるんですけど、そういう手法に対してきちんとインセンティブを生み出すような業界の価値観を改めて作っていけたらいいなと思います。

たとえば広告で言えば、今までのようにビューとかリアクションの数、いわゆるフェイスブック的な意味でのエンゲージメントだけではなく、きちんと人々に時間をかけて何かを及ぼしていくということの価値をきちんと測定していくアプローチが必要ではないか。

一方で、チャラい、ササッとやってひと儲けしようみたいなビジネスに対して逆のインセンティブが働くようなものを重層的に組み合わせて、良いものや手間のかかったものを作っていくことに経済的なことを含めた一定のインセンティブが働くような構造を作っていけたらいいと思います。

ブランド力やロイヤリティが大切

古田 瀬尾さんは課金モデルも広告モデルも両方されている中で、どちらに希望を感じていらっしゃいますか?

瀬尾 雑誌ビジネスそのものは今後スケール化するのはなかなか難しいと思っています。

では雑誌が潰れても世の中が困るのか。もし雑誌が社会に価値を持っているとすれば、新しい問題発掘や新しい才能の発掘です。そこをネットや違う形で残したい。

先ほど後藤さんが、記事を書いて課金ユーザーが2人で寂しいとおっしゃっていましたが、週刊誌は部数が毎週変わるのですごくよくわかります。編集長はその売れ行きがすごく気になり、僕らも自分のやった特集がトップを飾ったものが売れたら嬉しい。ここはモチベーションになります。

そして、雑誌の場合は一冊400円で買っていただく「課金」と同時に広告がのっています。デジタルの場合も、いまは広告収入が圧倒的に大きいですが、将来は課金と半々になってくれるといいと思っています。

また、そのためにはマスを狙ったモデルよりも小さなメディアのほうがやりやすい。うちはターゲティングメディアなので、ビジネスはビジネス、サッカーはサッカー、ファッションはファッションと絞っています。

新聞や週刊誌のようなマスモデルではなく、戦略は専門誌型モデルで、編集部は5人とか10人が食える、昔で言う月刊誌のようなモデルをハニカム構造的にたくさん運営することが可能だと考えています。

▶編集注:ハニカム構造とは、蜂の巣のように、正六角形または正六角柱を隙間なく並べた構造。ここでは専門誌を多く分散して持つといった意味。

マーケティングやデータのようなバックヤードは共有化して、表は別々の編集部でやりましょうというイメージですね。

ですから読まれる数はあまり気にしなくて良くて、むしろブランド力やロイヤリティが大事です。

「なんかゲキサカすごく良いじゃない!ここからJリーガーいっぱい育っているし、Jリーガー読んでいるよ」の方が大事なんです。

広告モデルなので、僕がクライアントではそれを説明すると、理解してくれる方も多いです。これからは、そのブランドアップを数値化するのが課題だと思っています。

課金メディア=信頼性のある情報とは限らない

古田 僕は学生の頃からインターネットが好きで20年ぐらい課金と広告に関する議論を見ているのですが、ずっと揺れていますよね。

メディアがインターネットに最初に情報を出し始めた時、20年前は皆、課金でやろうとしたんですが、一切来ないんですよね。

当時メディアはちょい出ししかしないから、そんなのでお金払う訳ないと。

それで一気に広告だという流れになって、何年かやってみたらそんなに単価が上がらないから課金に移った。

でも、やっぱり課金だと広がらないので広告だと。

そして、今年は課金の年になっています。予言しますが、何年かのうちにやっぱり広告だって絶対に言い出します。

今日のテーマは信頼性なので、確認をしておきたいところがあって、課金だから信頼性のある情報が出せるという議論はどう考えてもおかしいんですよね。

想像してみてください。課金で10万円を稼ぐメディア、広告で100万円を稼ぐメディアがある。

どちらがコンテンツにお金をかけられるかと言うと、100万円稼いでいるところですよね。

違う議論もあって、課金で10万円稼いでいて月に1本だけ記事を書くメディアと、広告で月に100万円稼いでいて月に1,000本書いているメディアがあって、どちらが1本にコストをかけられますか?

課金か広告かによってコンテンツのクオリティのためにお金をかけられる数が決まるわけではなく、そのメディアのビジネスモデルやどういうメディアを作ろうとしているかを編集長や経営者がどう考えているかによって変わってくる。

江幡 大前提の整理をしておくと、メディアは大きく分ければ2つあります。

1つは、ジャーナリズムも含め、ニュース、つまりユーザーから見れば受動的で、言い方は悪いですが、暇つぶしにいつでもスティッキネスに見ていくようなメディア。

▶編集注:Stickiness(粘着度)とは、サイトへの訪問者が、サイトに留まっている時間の長さやサイトに戻ってくる頻度を指す言葉。

もう1つは、我々がやっているような生活情報の行動コンテンツ、つまり何か目的がある時にユーザーが来てくれて調べて行動する。

この2つはメディアとして全く違っていて、ユーザーから見ても違うし、マネタイズ構造も違います。

コンテンツのクオリティにかけるコストとマネタイズがバランスするのかについて、僕らはニュース系は儲けるのは得意でないので、行動コンテンツにフォーカスしました。

なぜ行動コンテンツが儲かるかと言うと、たとえばオールアバウトでは常時約20万本の科学的に作られた記事があって、品質も担保しています。

コストもWELQさんの10倍ぐらいかかっていますが、一般のオールドメディアよりはかなり安く作っている。

実は読まれる3分の2はストックコンテンツで、新規のコンテンツは一部しか使われていません。

ストックコンテンツがずっとお金を稼ぎ出してくれているという構造なので、品質が高く、コストをかけても十分利益が出ている。

それを外さないようにやっていく、これが編集なんです。

一方で、僕らから見ると、ニュースコンテンツやスティッキネスなものも欲しいので、ブランドを作るとか一部やっているんですが、こちらはサブスクリプションにチャレンジしたい。

だから、全然違う話だと思います。

(続)

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸

【編集部コメント】

モデレーター後藤さんの渾身の記事でも翌日2人しかサブスクリプションが増えてなくて…というお話がありましたが、ICCのメディアでも、編集大変だったんだけど全然読まれない…という記事があり、レベルは違いますが思わず共感してしまいました(榎戸)

続編もご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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