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4月16〜17日、ICCパートナーズは、下見旅行以外で初となる東北への視察旅行へと出かけました。当記事では、1日目に訪れた山形県鶴岡市に拠点を置くバイオベンチャー「メタジェン」の訪問レポートをお届けします。みなさんが知っている腸内細菌の常識は、もうアップデートが必要かも? ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月3〜5日 京都開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
ICC特別企画 山形・宮城ツアーの初日。山形県は庄内空港に降り立ったICCパートナーズ一行は、空港から車で20分ほどのメタジェン本社を訪れました。
山形県鶴岡市が推進する「鶴岡バイオサイエンスパーク」の中央に佇む鶴岡市先端研究産業支援センターに、メタジェンは入居しています。同センターは「鶴岡メタボロームキャンパス」とも呼ばれ、我が国のメタボローム研究の一大拠点となっています(※)。
▶編集注:メタボローム研究とは、私たちの体内で生じる代謝物質(metabolite)を網羅的に分析し、生命現象の理解を目指す研究。ちなみに上記の写真の手前には、水田に浮かぶ木造ホテル「ショウナイホテル スイデンテラス」があります。詳細はこちらのレポートをご覧ください。
メタジェンは、2015年3月に設立されたバイオベンチャー企業。同社代表取締役CEOを務める福田さんは、理化学研究所や慶應義塾大学先端生命科学研究所などで長年にわたり腸内細菌の研究をされていました。
その後、ICCサミットではお馴染みの登壇者となった福田さんですが、以前医学系出版社に務めていた筆者(尾形)は、実はメタジェンを創業される前の福田さんと何度か原稿のやりとりをさせていただいたことがありました。当時から「Nature」に筆頭著者として論文を発表されるなど、注目の研究者でした。
今回はそんな福田さんに、これまでの歩みを振り返っていただきつつ、メタジェンとしての現在の取り組みや今後のビジョンを教えていただきました!
福田さん「最初にICCサミットに登壇させていただいたのは2017年2月福岡での『リアルテック・カタパルト』でした。プレゼンには自信があり、『自分が優勝するに違いない』と信じていたのですが、入賞にすら至りませんでした。結果発表のとき、3位は◯◯さんです、2位は◯◯さんですと続いて、次は自分だ!と思ったら『優勝は◯◯さんです!』となってえええっ!? と思いました(笑)。
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2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を修了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2019年より同特任教授。2011年にビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、2013年には腸内細菌が産生する酪酸が制御性T細胞の分化誘導を促進して大腸炎を抑制することを発見。ともに「Nature」誌に報告。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞、2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015(ナイスステップな研究者)」を受賞。同年、第1回バイオサイエンスグランプリにてビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、慶應義塾大学と東京工業大学とのジョイントベンチャーとして株式会社メタジェンを設立。専門は腸内環境システム学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本(KKベストセラーズ)」。
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会社を設立して2年。当時の僕はまだサイエンティストだったんですよね。プレゼンテーションの内容も一般向けにできるだけわかりやすく、また面白くもしたつもりでしたが、いま振り返るとやっぱり“研究っぽい話”でした。
『自分は、サイエンティストから起業家にならなければいけないんだ』そう思いながら、他の方のプレゼンテーションからビジネスピッチを学んで一生懸命準備して臨んだ結果、半年後の『カタパルト・グランプリ』で優勝を勝ち取ることができました。
▶編集注:優勝時のプレゼンテーションは、【動画版】腸内デザインで長寿ハピネスを実現する「メタジェン」(ICC KYOTO 2017) よりご覧いただけます!
私たちは、腸内細菌を対象にしたベンチャー企業です。最先端の研究で腸内細菌の重要性が分かってきている一方で、一般の方の理解はまだそこまで進んでいないのが現状です。本日は、私たちの取り組みについてご説明させていただきたいと思います。」
メタジェンが目指すのは「病気ゼロ社会の実現」
福田さん「僕らが何を目指しているのか? それを一言で表現すると『病気ゼロ社会の実現』です。
通常のバイオベンチャーが薬を1つ開発しただけでは実現できないような、そして私自身が生きているうちに達成できるかも分からない、壮大な目標です。
これはおそらく、一般的なベンチャー企業の戦略としては間違っていると思います。ベンチャー企業はニッチから攻めるのが正攻法です。でも誰かがやらななければならない、という思いから、2015年に創業しました。
このスライドの画像は、マウスの大腸の切片を免疫染色という手法で色付けしたものです。
マウス腸管の免疫染色像。私たちの腸内には、無数の腸内細菌が棲息している
外側をぐるっと囲んでいるのは、マウスの腸管です。そして緑色に染まっているのは、腸内細菌です。内側で青く染まっているのは、食物繊維などです。
人間は、食べ物を摂取しないと死んでしまいますよね。では『食べる』という行為とは何かというと、体外から、体内に栄養素を取り込む行為です。
先ほどマウスの腸管をご覧いただきましたが、人間もほぼ同じ構造をしており、その体外と体内をちょうど繋ぐ腸管内には、無数の『腸内細菌』が棲みついています。
この腸内細菌は、私たちが上部消化管で消化吸収しきれなかったものをさらに分解して、色々な化合物を作ってくれます。そしてそれが体内に吸収されることで、私たちの体に作用します。
ここで重要なのは、『どのような細菌が、どのようなバランスで腸内に棲息しているかは個人によって違いがある』ということです。そのため、AさんとBさんが同じものを食べたとしても、同じ栄養素や化合物が体内に供給されるかというと、そうではないのです。
それどころか近年、これまで知られていた健康や病気に関する『個人差』の一部が、この腸内環境によって生じていることが分かってきています。」
便は、腸内の情報が詰まった「茶色い宝石」?
福田さん「皆さん『ビフィズス菌は体に良い』という話を聞いたことがあるかもしれません。ビフィズス菌が多ければ健康、といったイメージを多くの方がお持ちかと思います。しかし最近の研究では、ビフィズス菌にも様々な種類がいて、それぞれのビフィズス菌が生産する化合物が重要であることがわかってきました。人によってはビフィズス菌が少ない人もいますが、そういう人の場合、ビフィズス菌ではない別の菌が同じ化合物をつくってくれることがあることもわかってきました。
さらに言うと、前述のとおり腸内の環境は人それぞれ違いますので、同じ細菌が同じだけ存在していたとしても、腸内で同じような化合物が作られるとは限りません。
その個人差を理解するためには、その人のお腹の中にどのような腸内細菌がいるのか、そしてそれらの腸内細菌がどのような化合物を生産しているのかの両方を観察する必要があります。
そして、私たちメタジェンは「便」からそれらを解析する技術を開発しました。
便は言わば、腸内環境の情報が詰まった『茶色い宝石』という訳です。」
私たちの腸内環境は「一見さんお断り」の厳しい世界
福田さん「では、なぜ自分の腸内環境を知ることが大切なのでしょうか? そのことをご説明する前に、私たちが以前に行った研究をご紹介したいと思います。
これは、20〜30代の健康な男女の腸内細菌叢を解析した結果です。それぞれのバーは腸内を占める細菌の割合を「属」というレベルで色分けしています。
これを見ると、人によって腸内細菌のバランスがだいぶ違うことが分かるかと思います。例えば黄色で示されたビフィズス菌は、10番の方(KO10)ではたくさんいる一方で、11番の方(KO11)は検出限界以下でした。
しかし先ほども述べたとおり、この人たちは全員健康なのです。
ではなぜ腸内細菌叢のバランスは人によって異なるのでしょうか? 腸管は腸内のものを排出する運動(蠕動運動)をしているので、腸内細菌は腸内で絶えず増殖しなければいけません。増殖するためには細菌は細胞分裂をする必要がありますが、その前に遺伝子の複製が必要です。実はその時に一定の頻度で遺伝子に変異が生じます。その変異が細菌の性質に影響を与える場合、元の細菌と新しい細菌との間で『競争』が生まれます。
腸内細菌は、前述したとおり私たちが食べたものを栄養素として生きていますので、私であれば私の食生活、それも長期的な食習慣に適応した細菌だけが生き残ります。そのため日常の範囲内で生活している限りは、腸内細菌の組成は大きくは変わりません。例えば前の日にヨーグルトを食べたからといって、腸内細菌叢のバランスはほとんど変わりません。京都でいうところの「一見さんお断り」の状態なのです。
ただし、糖質制限などの急激な食習慣の変化や、あるいは1年間海外で生活してライフスタイルが大きく変化したり、それに伴って食習慣がガラリと変わったりすると腸内環境は変化することもわかっています。
食品や医薬品の効果は、腸内細菌によって決まる?
福田さん「本題に戻ります。腸内細菌の違いが私たちの健康にどのような影響を及ぼすのか、その一例をご紹介したいと思います。
先ほどのグラフの、ピンクの部分に注目してください。これは「プレボテラ」という細菌ですが、22名中、5名の方(KO3, KO4, KO8, KO11)の腸内はこのプレボテラが一定数を占めていることが分かります。
突然ですが皆さん、大麦をご存知でしょうか。近年“スーパーフード”として注目されている穀物ですが、大麦を食べた後の次の食事を摂取した時に血糖値が上がりにくくなるというセカンドミール効果があることが以前から知られていました。一方でその効果には個人差があることも知られていました。
そしてその理由を突き止めた論文が、2015年に科学雑誌『Cell Metabolism』に発表されました。
出典:Kovatcheva-Datchary P et al:Cell Metab, 22:971-982, 2015
なんと、先ほどのプレボテラが腸内にたくさんいて、かつ大麦を食べるとプレボテラの割合がさらに増える人は、大麦による耐糖能改善効果が得られることが判明したのです。さらに詳細な実験から、大麦に含まれるβグルカンという水溶性の食物繊維をプレボテラが代謝し、そこで作られた化合物が体に作用することで耐糖能を改善することも分かりました。
逆に言うと、プレボテラが腸内にいない人は、残念ながらその時点ではいくら大麦を食べても短期的にはその効果は得られないということです。もちろん、大麦などの食物繊維を多く含む食品を長期的に摂取することでプレボテラが腸内で増加すれば、その後大麦を食べることで同様の効果が得られる可能性はあります。
つまり重要なポイントは、自分の腸内環境ををしっかり把握した上で、何を食べるかを決めることが健康に役立つ、ということです。
これは食品の例ですが、薬でも同様のケースがあることが知られています。
例えば、京都大学の本庶佑先生のノーベル賞受賞で話題の抗PD-1抗体(オプジーボ)の効果も、腸内細菌叢のバランスに依存することが分かってきています。
出典:Gopalakrishnan V et al:Science, 359:97-103, 2018 / Matson V et al:Science, 359:104-108, 2018
このような例が基礎研究のレベルで分かってきてはいるのですが、食品メーカーや製薬企業は“マス”に対して商品を開発しているので、それらがどのような人に効くのかについては必ずしも把握はしていません。
確かに、食品メーカーも試験は行っています。例えば100名の方にヨーグルトを食べてもらって、60名の方に良い効果がみられたとします。それをヨーグルトを食べていない人たち100人と比較すると、確かに統計学的に有意に良い効果があると言えます。しかしヨーグルト摂取群でも、100名中40名の人には効いていないわけです。消費者の立場からすれば、大切なのは自分がそのうちの良い効果があった60名に入るのか、効果がなかった40名に入るのかですよね。
ですから、消費者一人ひとりが自身の腸内環境を把握して、どのようなものを食べるのか、どのような薬を飲むのかを判断する1つの基準を持つことが重要になってきます。」
病気の診断や、創薬への応用も
福田さん「私たちは病気ゼロ社会をめざしていますので、『病気の診断』も重要だと考えています。
対象としたのは大腸がんです。
私たちは、便中に含まれる腸内細菌叢のメタゲノム解析(便にどのような菌種が存在しているかの解析)とメタボローム解析(便にどのような代謝物質が含まれているかの解析)を統合したメタボロゲノミクスアプローチにより、早期大腸がんや進行した大腸がんをどちらも8割前後の精度で診断する手法(特許出願中、Nat Med 2019)を開発しました。
大腸がん検診に用いられている既存の検査には「便潜血検査」があります。便にまじった血液を検出することで、大腸がんの可能性を検査するものです。
ある調査では、36,000名が便潜血検査を受けたところ、7.5%(2,700名)が便潜血陽性となり、そのうち600名が病院で実際に内視鏡検査を受けました。そのうち、大腸がんが判明したのはわずか5%、その他の病気が判明したのも5.9%で、便潜血検査で大腸がんが疑われた90%近い患者さんが特に異常がなかったという結果が出ています。
ここで問題なのは、そもそも内視鏡検査には医療費がかかっており、もし90%もの方がそもそも大腸内視鏡を受ける必要がないことが事前にわかればそれだけ医療費も削減できますし、内視鏡も多少の侵襲性を伴いますので、受けずに済むなら患者さんのQOLを考えても有益なわけです。
私たちの手法を使えば、便中の情報をしっかりと測ることで80%前後の精度で大腸がん患者を見出し、早期の対策を打つことができるようになると考えています。
そして診断の先には治療があります。私たちはがん治療における創薬の研究も進めています。
ご存知のようにある種の抗がん剤は副作用を生じますが、同じ抗がん剤でも副作用が出る人と出ない人がいることが知られていました。抗がん剤が体内で代謝されて生じた化合物が副作用に関わることは分かっていましたが、それがなぜかは分かりませんでした。
そこで私たちががん患者さんの便を調べたところ、ある腸内細菌の存在が副作用の出現を左右していることが分かりました。さらに詳細に調べた結果、その腸内細菌の代謝反応が副作用抑制の鍵であることが判明したのです。
この発見を応用して、既存の抗がん剤とこの細菌を合剤とすることで、『効果はそのままで副作用の少ない新薬』が創り出せる可能性があります。」
腸内環境に基づく「層別化ヘルスケア」の実現に向けて
福田さん「しかしながら、診断や治療だけでは病気ゼロ社会は実現しません。『層別化ヘルスケア』の実現をめざす企業を増やし、また、腸内環境を知ることが消費者にとってより身近になる必要があります。
そのための活動の1つが、「腸内デザイン」をコンセプトに様々な事業会社と連携して研究開発を推進する企業プラットフォーム「腸内デザイン応援プロジェクト」です。
参画企業向けに、私たちメタジェンが腸内細菌研究に関する最新の動向や技術、新たなビジネス開発などをテーマに、年2回のセミナーを開催しています。ここから弊社の研究開発プラットフォームを通じた共同研究開発事業も多数生まれてきました。食品系、医薬品系の企業のほかに、化学系や保険会社にもご参画いただいています。
また2019年5月末に、皆さんの腸内細菌を調べて情報をフィードバックする“腸内環境評価・層別化サービス”を開始しました(※)。
▶参照:株式会社メタジェン、次世代腸内環境評価・層別化サービス「MGNavi®」を医療機関・企業向けにサービス開始(ニュース | メタジェン)
私たちが独自に開発した採便キットでユーザーに便を採取・発送してもらい、腸内環境を調べ、その情報をユーザーにフィードバックするサービスです。」
3年かけて出願した「糞便の保存方法」の特許
福田さん「実は、このサービスを実施するには、既存のシステムでは不十分でした。
それはなぜかというと、便は『生き物』だからです。便を常温で置いておくと、便中の細菌バランスや化合物は変化します。そのため、正しい結果が得られなくなります。
研究レベルでは、例えば病院で患者さんから便を採取し、すぐに冷凍することで腸内細菌の生体反応を止めることができます。しかしこれを一般化しようとした場合、便検査のために病院に来て下さいというわけにもいきません。そのためご自宅で採取していただくことになりますが、自宅の冷凍庫に便を入れたくないですよね(笑)。
現状、薬剤を使って常温で便を安定化するキットもありますが、これはタンパク質を変性させてしまいます。DNAは無傷なので遺伝子レベルで細菌の種類を調べることはできますが、それでは肝心の細菌が生産する化合物を測定することができませんし、生き物として細菌を調べることもできません。
そこで私たちは3年かけて『糞便の保存方法』という特許を出願しました。前述のような薬剤なしに、DNAも化合物も壊さずに便を保存する手法に関する特許です。
この特許技術をもとに開発した『MGNavi』は、変性剤を使用しないので安全で、代謝物質も常温で安定化するので細菌が生産する化合物の評価も可能な採便キットです。私たちはこれをもとに、先ほど紹介した腸内細菌の分析事業を2019年5月末からスタートしました。菌を生きたまま安定的に保持もできる特性から、『便バンク』などの開発にもつなげていきたいと考えています。
メタジェンではこのように、大学とも連携して新しい技術を開発しています。それらをライセンシングして、事業会社様と健康食品やサプリメント、さらには創薬も行う計画にしています。
また先ほどの採便キットを用いた臨床研究を通じて、どのような人がどういう食事をしたら腸内細菌叢のバランスがどう変わって、それが良いのか悪いのかという、独自の生活習慣・腸内環境データベースを構築したいと考えています。
そこで集まった情報から、『あなたの腸内細菌叢はこういう状態なので、このような食事をしましょう』というフィードバックが行えれば、病気ゼロ社会に一歩近づけると考えています。」
“腸カッコいい”と思われる医療・ヘルスケアを目指す!
福田さん「ここまで、診断や薬、ヘルスケアの話をしてきましたが、便には他にも大きな可能性が秘められています。それは『便移植』です。健康な人の便を収集して、それを内視鏡を用いて患者さんに移植する治療法です。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器内科「腸内細菌療法の臨床研究について」より引用
便移植は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、糖尿病や動脈硬化などの代謝疾患などの治療に応用できる可能性が研究されているのですが、大事なポイントは、便は生き物なので便移植に使用する便は“新鮮便”である必要があるということです。
便を輸送する新たなロジスティクスとして、まだアイデア段階ではありますが、ドローンで便を空輸するのはどうかと考えています。既に移植臓器の空輸(※)も行われていますし、便移植用の便はまさに移植臓器なので、ドローンを用いて新鮮な便を安全に、迅速に病院に届ける仕組みができないかと模索中です。
▶参照:世界初、ドローンで空輸した腎臓を移植 米メリーランド大医療センター(AFPBB News)
便を活用したヘルスケア・医療がさらに日常に溶け込むためには、将来的には便を運ぶことなく、トイレで用を足したらそのまま便を検査してくれるセンサー付きのデバイスや、おむつをIoT化して乳幼児やご老人の腸内環境を検査し、健康へのフィードバック情報や病気を早期発見する仕組みなどが必要です。
そしてゆくゆくは、そうした設備が整った“住むだけで健康になる”スマートホーム、スマートシティを創り、病気ゼロ社会を実現したいと考えています。
それを実現するまでの道のりは簡単ではありません。そこで私たちは同時に力を入れているのが「教育」です。
こちらはメタジェンが監修して東京工業大学の学生さんたちがつくった『バクテロイゴ』という世界初の腸内細菌ボードゲームです。
腸内にいる細菌たちが陣取り合戦をするゲームで、「下痢カード」「分裂カード」「蠕動運動カード」「ヨーグルトカード」「抗生物質カード」などを駆使して、小学生が腸内細菌のことを学びながら遊べるように作られました。
彼らが「お腹の中に細菌がいるんだ」ということが分かった上で大人になれば、確実に病気のリスクは下がるだろうと考えています。また十数年後、大人になった彼らが一緒に研究や事業を行う仲間になってほしい、という思いを込めています。」
メタジェンの航海は「ブラウン・オーシャン」への挑戦
福田さん「人間は動物ですから、食べ物を食べて、便を出します。私が計算したところ、地球上で1日あたり150万トンの便が排泄され、それらは全部捨てられています。しかしその中には、私たちの健康や疾患のリスクに関する重要な情報が入っているのです。また将来薬になるかもしれない、大事な微生物資源も眠っているかもしれません。
そこで私たちが考えている戦略はこうです。
先ほどの採便キットを使って世界中から鶴岡に便を集め、われわれのテクノロジーを使って重要な情報や微生物資源を取り出し、それを世界中にフィードバックすることで便から世界を健康にする。
われわれは、レッドでもブルーでもない「Brown Ocean」に挑戦していきます。
ICCサミットでもこのスライドを使用しましたが、便がビューンと日本に飛んでくるこの絵を見て皆さん必ず笑われます。でもそれは私が思うに、“便の価値をまだ十分に理解していただけていないから”ではないかと思っています。私たちの目標は、便がビューンと日本に飛んでいる絵を見ても、皆さんがそれいいね!と言ってくれる未来をつくることです。便の価値を理解する、それが病気ゼロ社会につながると信じています。」
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以上、最新の知見も交えて、一人ひとりが自分の腸内環境を知ることの重要性、そしてメタジェンが目指す「病気ゼロ社会」への挑戦をご紹介いただきました。
ICCパートナーズでは、上記でご紹介いただいた腸内環境評価・層別化のサービスを導入予定です。私(尾形)は最近、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を読んで食生活の改善に勤しんでいるところです。このサービスの結果を受けて、さらに自分にあった食生活を目指したいと思います!
福田さんは、メタジェンが大切にしている文化の1つに「異分野融合」があると言います。食品、医薬品、IoT、ドローン…様々な分野と融合して新しい道を引き拓いているメタジェンの、次のステップが本当に楽しみです。
メタジェン×ICCサミットで、今後さらなる産業が生まれることを心から願っています!
ご同席頂いた、メタジェン執行役員COOの村上さんと、経営戦略部マネージャーの長谷川さん
福田さん、そしてメタジェンの皆さま、貴重なレクチャーをいただきありがとうございました!
(終)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/戸田 秀成
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