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4月16日~17日の2日間、ICC パートナーズは社員全員で山形と宮城へ視察旅行に出かけ、鶴岡サイエンスパークのメタジェン、話題のホテル・スイデンテラス、GRAのICHIGO WORLD、ボールウェーブを訪問しました。こちらのレポートでは、スイデンテラスを手がけたヤマガタデザインの代表取締役、山中大介さんのお話をご紹介します。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月3〜5日 京都開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
2月の福岡のICCサミットを終えて、次の京都での開催までは、ICCパートナーズにとってはオフシーズン。でも大切な構想・準備期間でもあり、充電期間でもあります。福岡が終了したあと、今年はオフィスの引っ越しがあり、ICCパートナーズは、下見旅行以外で初となる東北への視察旅行へ出かけました。
そもそものきっかけは、昨年にGRA岩佐さんの運営する「いちびこ」を訪問し、ICCサミットでのプレゼンや動画で何度も見ている、ミガキイチゴの農場を実際に見てみたいという話から。行きたいと思った時はすでに遅しで、イチゴ収獲期のほぼ終わりの時期でした。それから1年、2月のICCサミットも終わり、時間的に余裕ができたのでついに実現です。
▶1粒1,000円の高級イチゴ「ミガキイチゴ」で世界を元気に!農業生産法人GRAの夢と挑戦(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】
山元町のICHIGO WORLD訪問に加えて、せっかくだから東北の面白い企業をいくつか見に行こう!ということで、ICCパートナーズ代表小林雅が立てたプランがこれ。
1日目:山形シリーズ<鶴岡サイエンスパークを訪問>
・ICC KYOTO 2017カタパルト・グランプリ優勝者、メタジェン福田真嗣さんを訪問
▶総勢24社登壇!注目ベンチャーの祭典「カタパルト・グランプリ」栄えある第2回の優勝企業は…!?
・話題のホテル、ショウナイホテル スイデンテラスを創った「ヤマガタデザイン」代表取締役の山中大介さんを訪問。スイデンテラスに宿泊。
2日目:宮城シリーズ
・GRA岩佐大輝さんのICHIGO WORLDヘ。九州パンケーキの村岡さんも合流して、いちごとパンケーキのコラボ!
・福岡でリアルテック・カタパルトに登壇したボールウェーブの赤尾慎吾さんのラボを訪問。
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バイオベンチャー、デザインホテル、農業テック、センシングテクノロジー。まったくジャンルの異なる企業ばかりなのが、さすがICC! ICHIGO WORLD訪問は、ボールウェーブの赤尾さんや、ボランティアスタッフも合流の予定で賑やかになりそうです。
鶴岡サイエンスパークの駐車場に到着。正面にスイデンテラスが見える
それではまず1日目の宿泊地、スイデンテラスの写真も合わせて、「ヤマガタデザイン」訪問記をお伝えします。
スイデンテラスを作ったヤマガタデザインを訪問
ガラスの渡り廊下の左手は共用棟、右手は宿泊棟(Y棟)で、会議室も完備。宿泊棟は、H棟、G棟、Y棟の3棟があり、羽黒山、月山、湯殿山の頭文字を冠している
話題のスイデンテラスを手がけた、ヤマガタデザインの代表取締役、山中大介さんにお会いできたのは、山中さんが山形移住当初、鶴岡サイエンスパーク内のSpiberで働いていたことから。鶴岡で面白い人はいないでしょうか?と、登壇者の方々に聞いてみたところ、山中さんをご紹介いただいた。
まずは、山中さんが事業を始めたいきさつから。
山中さん「ここは”庄内”とよばれる地域ですが、それは江戸時代の庄内藩に由来します。庄内市というのはなくて、2市3町からなる人口約27万人のエリアのことです。
山形県は人口減少率が全国4位と高く、その中でもこの庄内は、最も人口減少が激しい。新幹線はなく、高速道路も分断されていて、1991年に庄内空港が開業するまでは陸の孤島ともいわれていました。
ヤマガタデザインは、デザイン会社とよく誤解されるのですが、街づくりの会社です。2014年8月6日に設立して、現在、社員は55名、パートさんなどを含めると110名になります。
街づくりコンサルというと数ありますが、いかに地域に愛され、信頼されるかが肝だと考えています。正社員は都会から来た人が多く、住民票を移動することが入社の条件です。
どうやって地域の人を動かしているのか?とよく聞かれますが、私が地域の人で、私が動いている、と答えています」
紙管のデザインが印象的なフロント。山形こけしなど地元の工芸品が飾られている
山中さんは、学生時代はバリバリの体育会系で、大学2年の時にはアメフトでオールジャパンに選ばれている。慶應義塾大学SFC卒、2008年に三井不動産に入社。前職時代に最後に担当したのは、ショッピングセンター作りのために土地を獲得する業務で、やりがいを感じていた。しかしもっと社会課題にダイレクトに向きあいたいという気持ちがあった。
山中さん「退職すると決めてから、ベンチャーに行きたいと思い、鶴岡サイエンスパークにバイオラボ棟をもつ慶應義塾大学 先端生命科学研究所の所長である冨田勝さんの紹介で見学に来ました。そこでメタジェンやSpiberを見て、不動産屋時代と課題の発想方法がまったく逆だと感じ、それを学びたいと思ったのがきっかけです」
そもそも、山中さんは山形が出身でも、ゆかりがあるわけでもない。しかし初めて庄内空港に降り立ったときの空気のよさ、都会にはもう住みたくないという気持ち、若い人たちがこの地でチャレンジしているという驚きに押されて、家族で山形・庄内(鶴岡市)に移住を決めた。
鶴岡市民は読書好きとのことで、広々としたライブラリースペースも。幅允孝氏がディレクションしている
庄内に移住してわかった、地元の課題
建築家の坂茂氏に依頼した理由は「木造で創りたかったのと、このプロジェクトに近いSFCの教授で、ワクワクするようなデザインをお願いしたかったから」
山中さんは当初Spiberの営業として入ったものの、ほどなくして鶴岡サイエンスパークの敷地21ヘクタール中の14ヘクタールの活用法について、地元の人々が考えあぐねているという課題に気がついた。
鶴岡サイエンスパークの取り組みは、外から見ると非常に評価が高い。慶應義塾大学先端生命科学研究所の整備や、ユニークで挑戦的な研究、開発、失敗でさえ歓迎し、推進する気風のあふれる研究環境から、世界でも例を見ないバイオベンチャー企業が拠点を構えている。
その一方で、行政が巨額の資金を投入する開発に、当時の地元の目は冷ややかだった。今後、サイエンスパークをどうするべきかと検討するチームに、いつのまにか山中さんはアドバイザーとして参加していた。
「チームに加わったのも、事業を始めたのもたまたまです」と山中さん
残る14ヘクタールで、何をすればいいのかわからない。テック企業に投資するところは多くても、水田の不動産開発となると外部の人間は二の足を踏む。それでも地元の人たちがどうにかしたいという思いが強いならば、みんなでお金を出せばいい。山中さんは鶴岡市も含め、地権者、地元企業、地元の人達を巻き込もうと考えた。
山中さん「私が、地元とも行政ともしがらみのない、元不動産業だったというのがよかったのでしょう。そこで『みんなでやりましょう!』ということになり、10万円の資本金でヤマガタデザインを設立しました」
それで生まれたのが「来ることを目的化」するスイデンテラス。Casa Brutusの表紙(写真)を飾ったことは予想外だったというが、「SFCの特別招聘教授であることから」建築家の坂茂氏に依頼して、一度見たら忘れられないような宿泊施設を作った。2018年末にオープンして、GWは早々に満室と、高い人気を集めている。
館内にはレストランもあるが、宿泊者の半数は市内に食事に出かけ、逆に地元の人たちがレストランを訪れるという好循環を生んでいる。ハイアットリージェンシー東京からUターンしたシェフを迎えた直営レストランでは、自社農園の無農薬野菜をはじめとする庄内の野菜、肉、魚介を使った料理を提供している。
施設としてはレストランのほか、ゆったりと作られたライブラリースペースや物販スペース、地下1200mから組み上げた100%源泉かけ流しのスパ/フィットネス(テクノジム社製の最新設備も)があり、館内のすべての施設は自社で企画・運営している。
外からの眺めも美しいが、館内の随所にも、立ち止まり眺めたくなるようなディテールや景色がある。
熊本地震で瓦礫となった瓦をアートとして再生した、印象的な坪庭
大きくとられた窓からの眺めは、借景の庄内平野の田園風景だけでなく、今春からはホテルを囲んだ水盤にも稲の栽植が行われて、外から見ればまさにその名の通り、水田の中に浮かぶようなテラスになる。
坂氏いわく「水田が美しく、活かすことが地域の誇りであり、外からやってくる目的にもなる」
鶴岡サイエンスパークから庄内の再興へ
ヤマガタデザインは当初、鶴岡サイエンスパーク開発だけを考えていたが、次第に山形・庄内の街づくりの会社へと変化してきた。「最初の数年間は相当、不安、心配をおかけした」というが、地元の人たちとやりとりを重ねてスイデンテラスを実際に創り、その過程のなかで、山中さんたちを見る目がだんだん変わっていったという。
山中さん「一つひとつ信頼を重ねていくうちに、サイエンスパーク以外もと言っていただけるようになりました。それならば庄内全体で考えたほうが、優秀な人材を集めやすい。そんな街づくりをしようと、約2年前に舵を切りました」
そこで、課題を改めて考えてみたところ、地域が困っている問題が浮かび上がり、それぞれに事業を作ったという。
いまや収益の中心となった「スイデンテラス」、それに加えて「子育て事業」と「農業」「人材紹介」が4つの柱となり、それぞれで複数のキャッシュポイントを作りながら、庄内を盛り上げようと試みている。
地域内外の人々が交流する施設「ソライ」
そのなかのひとつ、「子育て事業」として鶴岡サイエンスパーク内にある全天候型の子育て支援施設が「キッズ ドーム ソライ」。”ソライ”というネーミングは、江戸時代の庄内藩で酒井家が、幕府の方針とは一線を画して推進した徂徠学にちなむ。
スイデンテラスから歩けるロケーション。こちらも坂茂氏によるデザイン
山中さん「庄内には、短所の克服よりも、個性、天性を伸ばそうという、アントレプレナーシップを育む気風が昔からありました。私には子どもが3人いて、20世帯の村に住んでいますが、同年代の子どもが1〜2人しかいない。会う大人も物理的に限られるという環境で、中学生までずっと過ごすことになります。
仙台から移住してきた営業マネージャー 藤原俊介さんにご案内いただいた。館内では子どもたちが走り回っていた
そこでソライは、住んでいるエリアや年齢に限られない、巨大な遊び場という意図で創りました。2018年の11月にオープンして、5月中旬現在、5万人の方に利用いただいています。使用料は会員とビジターの2体系。体を動かして遊ぶ『アソビバ』と、モノづくりができる『ツクルバ』があり、1000種類以上の素材と3Dプリンターを含む200種類以上の道具を自由に使って、作ったものは持ち帰ることができます」
おもちゃをDIYできるスペース。アーティストのオブジェなども飾られている
ソライは平日は学童のように使われ、週末は県外から来たスイデンテラスの宿泊客の親子たちも訪れる。高校生ボランティアが子どもたちにモノづくりを教えたりもしており、ここでしか会わない友だちもできているそうだ。都会では考えられない規模の豊かな遊び場環境が、鶴岡の子育てでは享受できる。
住民が出資することでコミットメントを高める
「みんなでやろう」と始めた鶴岡サイエンスパークの活用から、魅力ある街づくりで山形の再興へ。それを行政任せにせず、自分たち住民がやるというのが、山中さんの計画。アイデアや実行だけでなく、住民たちが実際に自分の街に投資している。
資本金10万円からスタートしたが、現在は資本金等が22億8,200万円。「この規模で街づくりをしている人たちはいないのでは」と山中さんは言う。
山中さん「そうして地域の企業や人たちが出資することで、いわば強制的なコミットメントを作っています。だからこの場所にお客さんを連れてくるし、地元の社長の奥さんがいつも京都で開いていた集会を、スイデンテラスができたから庄内においでよ、というふうに使ってくださいます。
いうなれば既存の行政を補完するような民間の行政を作って、街づくりをしているようなものです。既存の行政は税金で成り立っていますが、それを投資という形で、地域の一人ひとりが負担する時代を作っていきたいし、それが庄内がもう一度チャレンジするために必要なアプローチだと思っています。
上場は今のところ考えていません。株主たちも、儲けなくていいからつぶれないでくれと言われています。将来的な目標としては、庄内の人口である27万の株主を持ちたいと思っています」
「農業」や「人材紹介」事業についても詳細なビジネスモデルをお聞きしたが、テクノロジーと庄内のブランディング(※)にも目を配りながらも、いずれも地元民ならではの視点と具体的なプランがあり、描く夢は壮大だ。一次産業の課題は多く、待ったなしの状況でもある。
▶編集注:庄内の魅力を発信するウェブサイト、ショウナイズカンを展開し、求人案内につなげている
そこで「もっとリスクをとって、スケーラブルに」と、さらにギアを上げた実行をしたいと意気込む。その原動力となるものとは?
山中さん「社会をよりよくしたいです。でもそれよりも強いのは、世界をよくするのは、誰よりも自分でありたいという想い、自分が作り出す未来にワクワクしたいという気持ちです。そのために自分たちがやるべき課題がたくさんあるので、それに挑み続けます。
会社の理念はノブリス・オブリージュ、直訳すると『責任あるべきものが負うべきもの』という意味です。10年後、50年後、100年後の日本、少なくとも庄内という地方都市は、今のままでみんながハッピーというのは確実に存在しないと思っています。
実はみんなもそれに気がついている。だから幸せの価値観や社会の仕組みなど、いろんなことを変えていかなければいけません。今、それにチャレンジしている時代だと思います」
山中さんは現在33歳、鶴岡市の街づくり委員会に最年少で入っている。この日の夜、会食で再びお会いしたが、翌日は行政との定例ミーティングに出席するとのこと、庄内の朝は早くて、6時半開始だそうだ。
スタイリッシュな宿泊施設を作って、外から人を呼ぶというアイデアを思いつく人はいても、ここまでの質、スケールでの実現は大胆極まりない。それを支えているのが人口減が進む地方都市の住民自らによるチャレンジというと、さらに例を見ないだろう。
山中さん「ヤマガタデザインは街づくりの会社だから、庄内の次は別の街をやるのですか?と聞かれますが、自分が住んでいない場所というのも違うと思いますし、庄内に解決しなければいけない課題はたくさんあるので、それに挑み続けたい」
住民たちの本気が、どれだけ未来を変えるのか。魅力ある街づくりを行政任せにせず、自分たちでも新たな価値を生み出すために、ヤマガタデザイン、山中さんたちの挑戦は続く。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/ICCパートナーズ
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