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第一線で活躍するベンチャーキャピタリストや上場企業大手のCFOらが熱く議論した 「今後のベンチャーファイナンスの行方」の講演議事録 その3を公開しました。ベンチャー冬の時代をどう生き残るのか?などを真剣に議論しました。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。
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登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 2A
「今後のベンチャーファイナンスの行方」
(スピーカー)
伊佐山 元 株式会社WiL Co-Founder and CEO
今野 穣 株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 最高執行責任者(COO)
村田 祐介 インキュベイトファンド 代表パートナー
山田 善久 楽天株式会社 副社長執行役員
(モデレーター)
武田 純人 UBS証券株式会社 マネージングディレクター
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【前の記事】
【本編】
武田 では、次のテーマに進んでいきたいと思います。
冬の時代の到来を想定しておくことを否定される方は、おそらく誰もいないと思うんですが、冬が来るということを考えた時に、冬備えをどういう形でやっておられるのか、最初にキャピタリストのお三方にお伺いしたいと思います。
投資家としての備えに加えて、投資先に対してどういうアドバイスや指導をしていらっしゃるのかというところについても、ぜひ教えていただきたいなと思います。
それでは、最初に村田さんからよろしいですか?
村田 そうですね、後で伊佐山さんから多分あると思うんですけれども、シリコンバレーは冬をものすごく体感できるレベルになってきた一方で、日本は未曾有の資金調達ができる環境があるわけなので、起業家の視点からすれば「投資家がポジショントークをしているんだよ!」という話だと思うんですよね。
「投資の条件交渉のためにそういうモメンタム(流れ)を作ろうとしていないか」みたいに思われがちなところもあるんですけれども、確実に来年以降、今年に入ってからも、何か当然動きはあるんだろうなとは思っています。
その上で何をすべきかというところで言うと、リーマンショックの前に投資をしてきた会社の中で、例えば2008年くらいに資金調達ができた会社の中でどういう会社が評価されたかというと、やはりトップライン(売上高)がしっかりある会社ですよね。
とにかくKPI先行型で、MAUを作っていくというような(売上高ではなく)特定の指標ばかりを追いかけているという面もやはりあると思うんですけれど、キャッシュフローを自前で作れる環境を作っておいて、その上でスタートアップ側の投資のバジェット(予算)のコントロールというのをしっかりコントロラブルにしてきた会社というのが、次の大きな資金調達に繋がっています。
冬の時代が来たからといって全く資金調達ができませんという話は全然ないわけで、いい会社は当然どんな時代でも評価されます。
そこでしっかり評価を受けれる状態にした上で、次々に調達を決めていって投資をしていくことが大事なんだろうなと思いますね。
武田 ありがとうございます。今野さんはいかがですか?
今野 先程伊佐山さんが仰ったように、ファンドができちゃっているので資金調達という意味において冬の時代が来るかどうかというのは分からないというのはあります。
それはさておき、まずファンドとしてはシンプルに2つですね。
ダウントレンドになればバリエーションが下がるので、新規投資の時です、Exitを控えますというというのと、あとは、追加投資枠の比重を上げます。
例えば100のうち、普段であれば70:30で、70を新規枠にして30を追加投資枠にしていくところを、冬が来たら50:50にして、何があってもリードインベスターとして支え切れる備えをするという、その2つですよね。
あとは、投資先に関しては、実は見方によってはダウントレンドも結構チャンスで、リーマンショックの時を思い出すと、4K、つまり、交通費、交際費、広告費、研修費が劇的に落ちるんですよね。
一方で、グロービスの本業を見ていて面白かったのが、企業研修はガタ落ちしたんですが、個人のスクール事業は伸びたんですよ。
結局、残業がなくなってお金に多少は余裕があって、一方で自分にスキルをつけなきゃみたいな感じで個人の受講が増えたりするんですよね。
あとは皆一斉にコストを見直すので、クラウドなんか結構進むと思うんですよね。だからそういう意味においては、見方によっては全然チャンス。
それから、起業家は経営陣からすると、マクロのせいにして固定費を一気に下げられる。それに加えて、マクロのせいにしてトップライン(売上高)の成長がゆっくりだという風に対外的に言えるチャンスです。
その2つの意味において筋肉質な経営をできるチャンスではあるので、そういうアドバイスというか心構えの話をしたりしています。
逆に4Kにはまるところは注意しないとね、というのを早めに言っていますけどね。
武田 ありがとうございます。伊佐山さんはお二人の話を聞かれていかがですか?
伊佐山 大体を今野さんがカバーされていたんですけれども、一つ言っているのは、アメリカでは随分冬を感じるような現象が起きていて、強いベンチャーキャピタルには一瞬でお金が集まるというのはいいですし、ダメなところはダメというのは、冬も夏もへったくれもありません。
アメリカはそこはよりシビアなので、多少楽になった人もいるし、すごく大変な思いをしている人もいるなと思うのですが、やはりベンチャー企業側は圧倒的に冬に入っていて、アメリカの場合は露骨にリストラするわけですよ。
だいたいリストラする情報を持っているのは上の偉い人なことが多いので、リストラする前から執行役員クラスが転職し始めるわけですよね。
それが起きて6ヶ月後くらいに、20パーセントリストラとか、30パーセントリストラとかというニュースが出るんですけれども、我々のところには、まさにその執行役員クラスが身の上相談に来るんです。
今年1月から、僕のところにユニコーンと言われた会社のVPと言われる、日本でいういわゆる執行役員クラスの転職相談が異常に増えています。
明らかにVCに転職希望の有名企業の中堅の人が増えて、それから大体3~6ヶ月経つと大リストラが起こるという現象が起きていることを地元で身近に感じています。
もう一つは、2年前とかに派手に増資して調子に乗ってお金を使っちゃた会社が、お金がないということで今増資しているんですけれども、明らかに20~30パーセントのダウンラウンドですね。
だから株が下がってしまっているわけですけれども、それで、しかも投資家に有利な条件で資金調達をしなければいけない結構有名な会社が最近増えているので、そういうのを見ると、起業家は大変だなと感じます。
調子のいいときは皆に持ち上げられてすごくお金が入っていたのに、こんなになった瞬間にすごくえげつない交渉をされて、それで資金を受けざるを得ないというのはすごくいい反面教師です。
当然ながら、今年どこかに資金調達するような計画をしていた会社は、資金が尽きる月が延びればチャンスがあるので、何としてでも来年以降1ヶ月でも2ヶ月でもいわゆるランウェイを伸ばすようにコスト意識を上げていきますし、我々も今までは何となくお金が集まっていたからある意味放置していたような会社に結構入り込んで、もう一回PLを見せるように言ったりして、かなりそこをシビアにやるということはしていますね。
VCとしてはリーマンショックの時も含めてこういう時に何を考えるかというと、ベンチャーキャピタルもポートフォリオだからってやるんですけれども、VCのポートフォリオ理論って、普通のポートフォリオ理論と違って、(Facebookのような)勝ち組がとてつもないアノーマリーというか異常なリターンを出す世界なので、ベンチャー事業の場合は見切るというのが結構大事だということです。
普通の事業で見切るというと、見切りが早いぜって、あまりいいイメージがないんですけれども、ベンチャー投資ではいい会社にダブルダウンしていくっていう、先程村田さんが仰っていたんですが、いい会社の追加投資を増やすことによって、一社あたりのリターンの絶対額を最大化するということをやらなければいけないので、僕としてはやたらめったらいい会社に投資するよりは、今ある会社の中で、時間をかけて投資するとまずコンペティター(競合)が死んでいく中でより強くなるという会社に集中投下するというスタイルをとっています。
僕が十何年見ていて、トップティアー(一流)のVCのポートフォリオにおけるIRR(利回り)を見ると、(Facebookのような)大体1社か2社がとてつもないリターンを出しているので、凡打ではファンドのリターンを返していないということですよね。
三振が多くてホームランが2回くらいあってファンド全体が3~4倍になっているというのがいわゆる大御所がやっている投資のスタイルなので、本当は全部の会社に成功してほしいんですけれども、実態はそういうものだということである程度選別化を進めるというのは、この冬の時代によりシビアに評価するようになっていることかなと思います。
武田 ありがとうございます。
山田さんにはちょっと別の観点で、逆に投資家からお金を入れてもらっている、冬到来の株式市場に上場している会社としてお話をお聞きしたいと思います。
ご存知ない方もいらっしゃるかもしれないですけれども、最近メルカリの84億円の資金調達が大きな話題になっていますけれども、楽天さんは去年約1,900億円で資金調達をされています。
これが上場市場の資金調達の金額。日本のナンバーワンインターネット企業の資金調達の金額です。その時の株価が確か1,900円ちょっとくらいですね。
一方でその後、マーケットの不振などもあって一時は1,000円を切る株価の状態も経験される中、山田さんがCFOとしてステークホルダーとどうコミュニケーションをとってこられたのでしょうか。
直近に楽天さんが「Vision 2020」という初めての中期計画を出されているんですが、そういうところも自分はきっとヒントがあると思うんですね。
まさにこれから冬が来るかもしれないという中で、企業経営者の方達が、ステークホルダーとどうコミュニケーションをとっていくのかというところについて、学びのあることをフィードバックいただけるのではないかなと思っています。ぜひコメントをお願いします。
山田 今、武田さんが仰った通りで、資金調達をしましたが、マーケット全体の下落もあったし、私どもの個社の要因も若干あって、残念ながら株価としては資金調達をした時よりも大分下がってしまっています。
場合によってはそんなに目先の利益を追わないでガンガンやらないといけないんですけれども、そういった株価動向もあるので、資金調達をしてしばらく経ってから、投資家の皆さんに一旦きちんと利益という形でコミットメントを出さなければならないと思い、楽天としては初めて、中期計画というか利益ベースのコミットメントを出しました。
Non-GAAPといって若干調整を加えた営業利益が2015年に真水ベースでは1,300億円くらいだったんですけれども、それを2020年、つまり5年後には3,000億円にしますということを明確に出しました。
投資家とのコミュニケーションということなんですけれども、そんなに何か変わったことというのはなくて、当たり前ですけれども、株価動向がどうであろうとも、できるだけ丁寧に逃げないで、自分達のやっている色々なことをよく説明するということです。
投資家の皆さんはプロなので、資金調達時よりも株価が下がったからといって感情的になるということはなく、僕らも色々な資金調達をするにあたって、弁護士を入れて開示資料なんかも全部きちんとチェックした上でやっていますので、揉めるようなことはないんですね
丁寧にきちんと、自分達の戦略などをご説明してご理解していただくしかなくて、その点では、アメリカの資本市場の厚みというのは結構すごいなという風には思っています。
多少の行き過ぎなどはあるんですけれども、長い目で見ればきちんと評価されるべき会社が評価されて、それが結局はキャピタルマーケッツの厚み、つまり正しい反応をすることで良い企業が育っていくということに極めて密接に繋がっていると思います。
日本だと、株式市場というのは、まだまだ金儲けとか汚いとか言われていて、あれは本当によくないなと思っています。
アメリカ人に聞くと、ベンチャーキャピタルも含めていい企業を育てるための資本市場を本当に信じきっていることが分かります。
そういった意味で言うと、別に株価がどうであろうとも、普段と変わらずにいます。IRでも、場合によっては一日に7件とか8件の投資家の方とお話をしています。
武田 先程のダブルダウンのお話だったりとか、楽天が初めて中期計画で数字にコミットするところを出されるといった意味で、まさにこういう局面だからこそ、本当にいい会社だったら長い視野でどれだけのファンを作っていくのか、そのためのコミュニケーションの努力を戦略的に実行するべきなのではないか、個人的にはすごく感じるところです。
次のテーマに進んでいきたいなと思うんですが、日本のベンチャー市場は残念ながらまだまだだよね、というところで、ただ、先程お話させていただいたように、色々な期待の芽も出てきている中で、ここからの飛躍のために我々としてどんなことが必要なのか、ということをしっかりと共有しなければいけないと思います。
目を背けてはいけない課題がどんなところにあるのか、ここから議論していきたいと思います。
事前に今野さんとはちょっとディスカッションをしていたんですけれど、まずかたりしたいのは日本のベンチャー市場が抱える「Exit(売却)の問題」です。ベンチャー業界に携わる多くの方達が仰るところですよね。
それについて、どういったところが課題なのか、今野さんのExitに関しての現状認識を簡単に教えていただけますか?
今野 ポジショントークではなくて、エコシステムの一員としてお答えしますけれども、一言で言うと、東証マザーズ市場にどうやって向き合うかというところに尽きると思っています。具体的には3つくらいポイントがあるかなと思います。
一つは、アメリカでは恐らく8割はM&A、2割がIPO、もしくは9割がM&Aですね。日本の場合は逆。東証マザーズ市場は世界で最も上場しやすくて、かつ回転する素晴らしい資本市場であるというリスペクトの前提で言いますけれども、日本の場合は非常に小さな会社がたくさん上場しているので、結局、長い目で見た時に、誰とどんな競争をして何の役に立っているのかが曖昧になってしまうということが、僕らの自戒も含めて結構あるなと思います。
かつM&Aの増加によって、人材の新陳代謝とかシリアルアントレプレナーが出る出ないみたいな話があるので、やはりそこのバランスがちょっと歪かなと思っています。
二つ目が、マザーズ市場があるお陰でというか、あることによって、シリーズC、Dが日本には存在しないんですよね。
いわゆる30~50億円程度の資金調達ができるような事業規模、利益規模になるともう東証マザーズに上場するみたいな。
そうすると何が問題かというと、VCが取れるマージン(利益)も狭いので、やはり条件が厳しくなってしまうのが一つと、あとはやはり早く上がってしまうので、本格的にグローバルで競争しようとする前に、短期的な資本市場のプレッシャーを受けやすくなってしまいます。
上場の最大の目的は資金調達であるにもかかわらず、1~2億円の当期利益で上場して、それを使おうと思うと赤字になっちゃうから使えないからやるのがM&Aみたいな。
意味のあるM&Aだったらいいのだけれども、そこで多角化してしまってROEが逆に落ちるみたいなことが起きやすい構造になっているので、我々が今努力しているのは、ファンドのLP(出資者)を、東証マザーズと同じようなサイズのファイナンスの投資家候補として直接声をかけているということです。
30~50億円を出せるプライベートエクイティファンドが存在するので、その辺が課題だと思います。
三つ目が、なかなかこれ言いにくいんですけれども、リターンを出そうとすると、公募を上げるか初値を吹かすかどちらかになちゃうんですよね。
その時に、東証マザーズ市場は30億円くらいのディールサイズを越えると、もう需給が崩れてしまうので、公募を上げるかディールを絞るか、要するに公募プラス売り出しを絞るかみたいに、中長期を見ると、VCがディシプリンを持たないと結構不健全な意思決定になってしまいます。
もしくは高すぎる公募でファイナンスをしてしまって、株主のバトンパスを失敗するようなケースがあって、これは何がいいとか悪いとかではなくて、東証マザーズ市場の投資家の厚みがもっと増えてほしいし、増えてもらえるような事例を僕らがもっと出さないと、マザーズに上場する意味って何だろうねっていう風になってしまうかなと、資金調達の意味においてはその辺が課題かなと思っています。
武田 ありがとうございます。
(続)
編集チーム:小林 雅/ Froese 祥子
続きはこちらをご覧ください:未上場市場と上場市場のギャップをどう考えるか?
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