これまでに配信した、組織づくりに関する議論を総特集いたします。今回は、ICCカンファレンス TOKYO 2016から、「世界で勝負するチーム・マネジメント」の記事を再編集して4回シリーズでお届けします。
組織づくり特集3(その3)は、世界から見たときの日本人の「強み」と「弱み」や、個性にあったゴール設定の仕方等について議論しました。スポーツ×ビジネス異色の対談をぜひご覧ください。
ICCカンファンレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回ICCカンファレンス FUKUOKA 2017は2017年2月21〜23日 福岡市での開催を予定しております。
登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 4C
「世界で勝負するチーム・マネジメント」
(スピーカー)
中竹 竜二
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター/
株式会社TEAMBOX
代表取締役
本蔵 俊彦
クオンタムバイオシステムズ株式会社
代表取締役社長
山口 文洋
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
代表取締役社長
(モデレーター)
彌野 泰弘
株式会社Bloom&Co.(株式会社ブルーム・アンド・カンパニー)
代表取締役
その1はこちらをご覧ください:世界に出る日本人は失敗から学ぶ「グロース・マインドセット」を持て【SP-OD2 #1】
その2はこちらをご覧ください:リクルートが世界で実践するダイバーシティ・マネジメント【SP-OD2 #2】
彌野 ちょっと違う質問になるんですけれども、僕がシンガポールに行った時に強烈に感じたのは、やはり日本人にも強いところと弱いところがすごくあるなということです。
インドなんていうのは10億人いて、そのうちでシンガポールに出てくるような人間というのは、本当に数が知れていて、トップ中のトップで、英語は話せるし計算は速いしアグレッシブだし、そんな中で日本人はコミュニケーションも遅いし、英語も得意ではないし受身だし。
ただやはり、日本人の強みというのは、計算の緻密さだったりとか、繊細さだったりなのかなと思いました。そういう日本人の強み・弱みみたいなところというのは、皆さんの会社や普段の生活の中では、どういう風にご覧になっていて、どういう風にうまく使われているのでしょうか?
日本人の「強み」と「弱み」は何か?
中竹 スポーツであれば、日本人はテクニックやスキルなどの細かいことにかなりこだわりますよね。
スポーツは根性っぽく見えますけれど、科学が進歩してはっきり分かったことがあります。我々は今ランニングコーチを入れているんですよね。
そういった走る専門家を入れたりとか、メンタルコーチももちろん入れていますけれども、スキルコーチというのは結構大事です。
人と人が当たる時に、パワーは「スピード×重さ」なので、今まではデカくて重い人が強いと思われていたんですよね。
当然そうなんですけれども、人間の力は地面からしか来ないので、当たる時にどちらが地面を先に踏んでいるかの方が大事なんですよね。
お分かりですか?アメフトもそうだと思うんですが、当たる瞬間にどちらの足が先に着くかが大事なんですが、普通に走るとタイミングがとれないんですよ。
そこだけの練習をやったら、40キロ差、つまり向こうが120キロくらいでこちらが80キロくらいでも、一発で倒せるようになりました。
実はこれ、科学的には分かっていたんですが、そういうスキルトレーニングがなかったので、最近進化したのと、僕、それを解析するのが結構得意だったんですよね。
今回それをやったら成功したのですが、そんなところにこだわれるのは、多分日本人だけだと思います。
グラウンド上の細かさに関しては多分日本が一番だと思っていて、あともう一つ勝てるのは、準備ですよね。これだけ一生懸命頑張って準備ができるのは日本人だけです。
僕は去年も世界大会に行ったのですが、他の国よりも圧倒的に、たくさんのミーティングと、グラウンドに行く前のミーティングルームでのストレッチやモビリティを入れましたね。
お前らまたミーティングをやってるのかと、他の国から馬鹿にされるくらいでした。
けれど我々がどんどん強くなっていくと、途中から他の国も真似しだしたんですよね。準備するのと細かさに関しては、世界で勝てる気はしますね。
本蔵 私もすごく同じような印象を持っています。我々はエンジニアなんですけれども、細かいところをしっかり地道にやっていくというのは、日本人はすごく得意だなと思います。
中竹 好きですよね?
本蔵 そうなんです。それをやりたがるんですよね。それがいい面に繋がる時もあるんですけれども、一方で、悪い面に繋がる時もあって表裏がありますよね。
中竹 分かります。小さいところしか見えなくて、そもそも何のためにやっているか忘れてしまうんですよ。
本蔵 そうなんですよ。あとは、過剰なまでにクオリティにこだわったり、自信を持って何かを言うためには、その根底に努力と成果の蓄積がないと言わないという姿勢。
海外のメンバーは、何もないのに結構すごいことを言っていたりします。結果としてどちらがいいのかというのは状況によって変わるんですけれども、先程の「Action beats reaction」のお話にもあったのですが、スピードが求められる時に、その緻密性とか、蓄積しないと言わないというところが、ネガティブに働くことが多いような気がしますけれどもどうでしょうか?
WHYから語らなければダメだ
中竹 もう本当にそことの戦いですよね。面倒くさいですが、すごく細かいスキルをやる練習の前後に何を話すかというと、「ゴールデン・サークル」の話をするわけです。何事もWHYから語らなければダメだよねと、下のスライドを使って何度も「ゴールデン・サークル」を話します。その連続です。もうそこは苦しみましたね。
本蔵 我々は日本人というところにはこだわっていないのですが、成果を出す時に、日本人はちゃんとした成果というかモノがないと何も言わないので、大きなゴールも、保守的にちょっとできるようなものを設定して、できましたと言う傾向がありますね。
一方で、そこのゴールを高いところに設定するのは、逆に海外のメンバーに向けてやったほうがよかったりします。それは国籍ではなくて人の個性でもありますので、個性のマネジメントにもなりますけれども、緻密にやったりしっかりやったりというところと、ドーンとゴール設定をして6割くらいしかできていないのにどんどん先へ進んでしまうスピードとかというのは、日本と海外のミックスのチームであればあるほど、うまくマネジメントすればいいとこ取りができる可能性があるのではないかなという感じはします。
あとは、ゴール設定のトレーニングをするといいんですよね。
「ゴール設定」をどのように行うのか?
中竹 多くの場合、ゴール達成のトレーニングにいきますけれども、ゴール設定のところでトレーニングするといいですね。
我々は今、TEAMBOXという会社でそれをやっています。やはり日本人はゴールを低く設定してできそうなところにいくんですけれども、これが5回くらいやりとりすると設定が上がるわけですよ。
だって、最初から高いところにあるゴールを目指したほうがいいよねというのがあるじゃないですか。
日本人の癖として、低めのゴールしか狙わないというのがありますが、ゴール設定能力はゴール達成能力とはまったく別の話なので、これをやるといいなと今回すごく思いましたね。
本蔵 例えば今回の(2015年の)ラグビーのワールドカップはすごい活躍がありましたけれども、どういう仕掛けで、勝つ前に、本当にできるんだという自信を持たせることができるのでしょうか。
もちろん、地道に練習をすれば自信がつくというのはスポーツの基本だと思いますが、地道さと緻密さに頼らなくても自分達でできるんだという自信ですね。
高いゴールを設定しても、これは絵に描いた餅というか単なるゴール設定ではなくて、本当に成し遂げられるゴールなんだという、自信の醸成みたいなことは、スポーツチーム、例えばラグビーではどんなやり方でされているんでしょうか?
中竹 勝った時に、エディー・ジョーンズに「何が大事だった?」と聞いたら、「まず俺が信じたことが大事だった。」という言葉が返ってきました。
日本中の人が苦笑し、日本中の人が失笑した、南アフリカに勝つということを俺はまず信じてたと。
ヘッドコーチが信じることが大事だと。そしてゴール設定したと。
ゴール設定、ビジョン設定しただけでいいかというと、当然勝つだけではなくて、会社と同じで、勝って何を成し遂げたいかというビジョンを言うわけですよ。
日本のラグビーの歴史を変えようと、エディー・ジョーンズはそれを作ったんですよね。「世の中に勇気を与えよう」みたいに。でも、それだけでもダメだと。
やはり、それに耐えうるだけの準備が大事で、プランニングが大事で、多くの人が、日本人は特に、いいプランニングをしたらそれで満足をするのだけれど、大事なのはどれだけやるかで、その時にやみくもに根性だけでやるのではなくて、そのやっていることがいかに科学的にいいかということと、やろうと思ったことを妥協せずやり抜くかというのが相当重要だったと思うんですよね。
彌野 エディ・ジョーンズさんの場合は、結構外人ぽく見えて実は日本人ぽいキャラクターだったりとかしますか?
中竹 あれはエディ・ジョーンズ人っていう感じですね。国籍は問題ではなく、彼ぐらいしかできないと思いますね。
今回イングランド代表の監督になっても、13年ぶりにグランドスラムというヨーロッパの大会で優勝したんですね。
【参考】 エディーHCのイングランド全勝優勝(Number Web)
多分、彼には自分なりの哲学があって、言っていることは常に一緒で、ゴールではなくてちゃんとしたビジョンを掲げて、プランニングして、最後までやり切る。
エクゼキューションのところですね。ここに多くの人は妥協するんだって言っていましたね。
彌野 ゴール設定はすごく大事ですね。アメリカ系の会社ではゴールがクリアに設定されていて、言ったか言っていなかったかというのがすごく大事です。
逆に言うと、評価をされるのがそこなので、欧米人のほうがゴール設定を慎重にしがちだという側面もあるんですよね。
マネジメントの役割としては、高い目標まで行かなければならないし、行けるだろうという風に説得力を持たせることがすごく大事で、そこのコミュニケーションの押しの強さというのはとても重要だったなと思っています。
本蔵 そうですね、今日の冒頭にもお話しましたが、やはりビジョンの高さや魅力や、これが本当にできそうなんだという可能性ですね、そういうモチベーションで人が集まり、優秀なチームがさらに優秀な人を呼ぶと思います。
そしてそういうサイクルのボタンを押すことが、リーダーの大事な役割だと思いますし、そういう意味で、リーダーが本当にこれを成し遂げるんだと信じるそこからスタートするというのは、すごく共感できます。
それが多分、アントレプレナーの一番大事なところで、細かいところまで全部自分が面倒を見てやるというのは基本的には難しいわけで、それができるようなチームを集めるその最初のところですね、そこのビジョンや信じる力というのは重要だと思います。
私は東京大学のアメフト部でしたが、その時は東京大学のアメフト部がかなりいいところまでいきました。当時の主将の山本さんのすごかったところは、本当に信じていましたし、それをずっと言い続けていたところです。
それをやるとチームの中に、本当にできるのかよみたいな、懐疑的な人達も出てきますが、それでもお構いなしに自分はできるんだ、チームはできるんだと言い続けて、それを最初に言い始めて、常に言い続けるという、そこがスポーツもビジネスも、リーダーの一番重要なところなんじゃないかなという気はすごくしますね。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子
続きは 組織の不満分子は早く辞めてもらったほうがお互いに良い をご覧ください。
【編集部コメント】
続編(その4)では、会場からの質問を受付、組織でのネガティブキャンペーンへの向き合い方や組織横断のビジョンの創り方などを議論しました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。
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