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ICC KYOTO 2023のセッション「企業価値向上につながる!明日から実践できる人的資本経営」、全4回の③は、メルカリの「WIN-WIN MAX」について深掘り。個人の成長と事業の成長をいかに両立させるのか、そのために環境や待遇などをいかに設計しているかを明らかにします。誰もが市場価値に見合った報酬を得られるようにするためには? ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは クラウドワークスです。
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【登壇者情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 7D
企業価値向上につながる!明日から実践できる人的資本経営
Supported by クラウドワークス
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個人と組織の成長をいかに両立させて、最大化するのか?
酒井 では、人的資本経営の具体的な取り組みとそれをどう発信するかについて話していきたいのですが、改めて、今日会場にいらっしゃっている皆さんの興味を探りたいと思います。
人事部という立場で、取り組みを実際に推進していく方は、どのくらいいらっしゃいますか?
正忠 質問は、経営者なのか、投資家なのか、人事部門なのかということですよね?
酒井 もしくは、IR部門で開示業務を担当されている方ですね。
事業会社で、推進していく立場の方?(挙手を促す)
半分くらいですかね。
投資家の方は、どのくらいいらっしゃいますか?(挙手を促す)
3分の1くらいですね。
ありがとうございます。
では、取り組みについてと、それをどう発信すれば市場から評価されるかについて話していきましょう。
先ほども木下さんが、ミッションについて触れられましたが、従業員一人一人の想いとミッションやビジョンを接続すると、中神さんの言葉を借りると断行する力の強さとして跳ね返ってくると思います。
木下さんはまさにWIN-WIN MAX(組織のWINと個人のWINの最大化)、正忠さんはWell-being社会を個人につなげることについてお話しされていたと思います。
▶「Win- Win Max」で組織と個人の成果を最大化~メルカリ~(HumanCapital)
▶健康・安全・ウェルネス 楽天健康宣言 “Well-being First”(Rakuten)
メルカリでは、ミッションやビジョンと従業員一人ひとりの想いの接続について、どういう取り組みをされていますか?
色々なところと調整するという考え方は大企業病の症状
木下 社員一人一人の想いがあって、それは個人のWINとして重要ですが、会社として、事業としてのWINと両立していなければ独りよがりになってしまいます。
この両方をいかに高い次元で実現するかの取り組みを、WIN-WIN MAXと呼んでいます。
そのために何をすればいいかですが、社内では、一人一人の才能が解き放たれる環境や後押しが大事だと話しています。
やはり事業はストレッチして、10倍に成長していきたいと思っているので、個人も成長していく必要がありますよね。
ですから、事業成長と個人成長のうち、個人成長がスローだとそれが組織成長のブロッカーになりかねないのです。
これは、経営者の皆さんにとっても言えることです。
事業を成長させたいなら、そこで働いている経営者やメンバーの成長カーブを、事業成長のカーブよりも上回らせることが大事です。
中でも大事なのが、「ストレッチアサインメント」です。
我々はCulture Docと呼ばれる、4年前に作った社内の組織文化を明文化したものを、毎年更新しています。
今回ミッションが変わったので、原点に立ち返り、もう一度、自分たちがありたいと思う姿を再定義しました。
そこに込められた思いや期待値は変えず、より強い言葉に置き換えて、メッセージをより伝わりやすくしました。
その全社発表が、ちょうど今週の金曜(2023年9月8日)です。
何が言いたいかと言うと、次の10年を作るには、今まで以上に「Go Bold」でなければいけないということです。
ミッションのためにみんなが協力し合うチームワーク、つまり「All for One」も改めて必要です。
All for Oneについては、「これは、コンセンサスドリブンですか?」という質問が出て、思ってもいない方向に行きがちです。
でも、All for Oneとは、コンセンサスドリブンではありません。
ミッションなど自分たちが掲げたものに対して、みんなで力を合わせて取り組むというのがAll for Oneです。
チームとしては、何かしらの意思決定をしなければ前に進めないですよね。
反対する人がいてもいいのです。
しかし、事前に議論をし尽くすというステップをきちんと踏み、その上で反対する人がいたとしても、チームとして決定したのであればコミットをしてください、としました。
これは今回のカルチャー改定において、かなり力強く押し出そうと思っている考え方です。
色々なところと調整しないといけないという考え方は大企業病の症状であり、それはAll for Oneが足を引っ張っている結果です。
そしてそれは、本当に実現したいAll for Oneではありません。
我々はAll for Oneとスピードを両立させたいのだということを、強く伝えています。
もう一つが「Be a Pro」で、これは高い専門性を持って入社した一人一人がコミットし、貢献し、学び続けるということです。
我々はフルリモート勤務をしていますが、フルリモート勤務においてサボる人がいないかと言われたら、いないことはないのです。
人間は弱い生き物なので、そういう人は出てしまうのです(笑)。
サボりたくなる気持ちは分かるけれど、我々はプロだからそれに抗って、ミッションのために全力を尽くさなければいけないので、もしサボってしまっている人がいたら、厳しいフィードバックと評価をします。
この点も、強いメッセージとして社内発信をしています。
フルリモート勤務は、社員のためにそうしているのではなく、会社のため、バリューとパフォーマンスを一番引き出す方法だと思って採用しているわけです。
ですから、そうではない例があればポリシーを見直すかもしれないし、そうではない個人にはものすごく厳しい評価をするということを、明確にしています。
10年目にして、原点回帰として、優しい、甘い、ぬるいという空気は徹底的に排除しています。
強い組織を作りたいなら報酬にメリハリをつけるべき
木下 報酬に関しても、今回、大胆な見直しを行いました。
高い評価の社員に思い切り報酬を出すという点も含め、メリハリのある分布にしました。
5段階のうち、一番評価の高い5と評価の低い1か2、それぞれの分布数を2倍にしたのです。
評価の際、どうしても中間値に集まる傾向があります。
それだと、会社としてのメッセージが何も出ていないことになります。
活力を引き出したい、強い組織を作りたいと思っているなら、メリハリをつけるべきであり、会社としてどこに投資すべきか、そして逆に言えば「あなたは投資対象ではない」ということを、明確に突きつけるべきなのです。
ですから、それぞれの分布数を倍増させました。
もともと厳しい評価をしていなかったわけではないのですが、これまで1か2という厳しい評価をつける対象が全体の7~8%だったとしたら、今はそれを15%にまで引き上げたということです。
一方、一番評価の高い5は、やはりなかなかつかないのです。
というのも、マネージャーや部門長が、なかなかつけたがらないのですよね。
そこで、目安を10%として、10人に1人くらいの割合で5をつけるような方針を出しました。
今まで5は20人に1人しかついていなかったけれど、10人に1人は絶対に貢献してくれている社員がいると我々は信じているので、迷わず5をつけてくださいと伝えています。
5がつけば、昇給もするし賞与も弾むので、その社員は報われたと思えると思います。
フルリモート勤務だからこそ、特にそういう人たちが大事です。
トップ10%にきちんと報いようという考えのもと、こういった変更を行いました。
報酬でジェンダーギャップが生じていた理由
木下 同時に、新卒と中途間、そしてジェンダー間における、ペイギャップアジャストメントの課題に取り組みました。
これは結構、思い切りました。
我々の報酬制度の考え方は、ペイフォーパフォーマンス・バリューです。
もう一つが、competitive(競争性がある)であることです。
つまり、市場におけるその人の価値を鑑みるということですね。
我々の社員の90%が中途採用なので、ある程度払わなければ入社してくれないと思っています。
去年、世界基準のD&I(Diversity and Inclusion:多様性とそれを受容すること)を実現したいと考えて、グローバルのD&I audit(監査)を行った結果、指摘されたのは報酬におけるジェンダーギャップだったのです。
私たちはあると思っていなかったので、驚きでした。
Inclusivityを大事にしているし、社内で差別的発言はほとんど聞かれないのですが、本当ですか?と。
グローバルで使われているサーベイをもとにすると、女性社員はフェアに扱われていない、報酬面でもギャップがあると感じているようで、この点は深掘り調査をするべきだとアドバイスをもらいました。
世の中からジェンダーペイギャップの開示を求められる前に、メルカリではイニシアチブがあったということです。
▶メルカリ、ジェンダー平等に関するグローバル認証「EDGE Assess」を日本企業として初めて取得(メルカリ)
そして調査を行った結果、実際、社内にギャップがありました。
ギャップがあったのですが、男女間の賃金格差を生んでいるのは主な要因は、グレード分布の差でした。
メルカリでもシニアの職位に女性が少ないという問題はあります。また、それ以外に上げられる要因として職種による違いもあります。
それぞれの職種にとって市場競争力のある、フェアな報酬を払おうとしている会社なので、このギャップの理由は説明できますし。
一方、深掘りした際に等級と職種を見ると、説明のつかない男女間のギャップが7%あったのです。
そういうギャップを作っている意識は全くなかったので、何だこれは?という感じでした。
深掘りすると、毎回の昇給において、女性だけが昇給していないというような事実はありませんでした。
しかし、違いがあったのは入社時点の報酬だったのです。
メルカリは社員の90%以上が中途採用です、つまり入社前の前職の給料に影響されるのです。
メルカリには10個の等級があって、それぞれの等級における給与レンジは結構広いので、同じ等級であっても、女性は低めのレンジで入社してくることが多い傾向があるということが分かりました。
もちろん、男性でも低めのレンジで入社する人もいますが、女性の方が多いということです。
これが、調査の結果、分かったことです。
そして、本来これはあってはいけないことだと考えました。
入社後はフェアに評価をするので、評価の高い人は昇給や昇格をしますが、それでも十分に追いついていなかったので今回、思い切ってアクションを取ったのです。
追加予算を取り、7%あったギャップを2.5%まで縮めました。
対象者全員の給料を例えば、一律2万円上げるというやり方ではなく、その人の実力値と市場価値に照らして査定した上で、、個別調整を行っています。
人的資本経営の考え方に基づき、一人一人を見た上で、昇給すべき女性社員は誰かを決定したのは、思い切ったアクションだったと思います。
誰もが市場価値に見合った報酬を得られる会社であるべき
正忠 それは、メルカリの課題というよりも、日本の社会課題ですよね。
木下 おっしゃる通りです。
正忠 他社での実績にすぎない、つまり御社に入社した後に同じ実績が出せるかどうか分からないけれど、メルカリに入社する時点で、前職の実績に見合う水準に上げるということですか?
木下 メルカリのグレードに照らした時、その人がグレード3の仕事をしてくれそうだと思えば、グレード3の給料を払うべきだということです。
あくまで期待値に沿ったものです。
正忠 なるほど、それでも一気に給料が引き上がるということですね。
木下 人によっては、そうなりますね。
逆に、他社でもらいすぎていて、給料が下がった状態で入社する人もいます。
メルカリのグレードに基づいてその人の能力を判断しますが、その人がもらっていた給料がそのグレードに見合わない場合、判断したグレードの給料でオファーします。
その結果、入社しない方もいらっしゃいますし、それでも入社したいという方もいらっしゃいます。
面白かったのは、エンジニアにはジェンダー間のペイギャップがなかったことです。
エンジニアの女性比率は10数%ですが、エンジニアの数は多いです。
そこにギャップがなかったのは、エンジニアの半分以上が外国籍の方の採用だったからです。
外国籍の方を採用する際は、前職の給料は関係ないからです。
インドルピーやシンガポールドルやUSドルで言われても…と思いますし、シリコンバレー出身者を採用しようと思うと給料が高くなりますが、「我々は日本相場において競争力のある給料を提示しているので、前職の給料を参考にしないでください」と伝えています。
それは男女関係なく行っているので、フェアなのです。
ですから、基本的な考えは、そのやり方を他の職種にも導入するということです。
正忠 なるほど。
酒井 それは、人事から方針を出して、採用現場に伝えているのでしょうか?
木下 どのくらいの等級でどのくらい貢献してくれそうかは、バリューとパフォーマンスの観点から現場が査定しますが、それに対して給料がいくらになるかは、私たちのチームがオファーをするときに決めます。
ハイヤリングマネージャーには共有しません。
酒井 結構入り込んでいるのですね。
ミッションに合意していればチームの決定に納得できるはず
正忠 経営者の皆さんもそう思うと思いますが、メルカリのDisagree & Commitというのは、結構大変なことを強いますよね?
同意できないけれど、一旦決まったらコミットしろというのは、ともすれば、退職を促すことにもなりますよね。
同意できないのにやらされるなら違う会社に行く、ということになるかもしれないです。
それはすなわち根底に、辞めないであろうという信頼関係が築けていないといけないので、それを示していくことが求められるのではと思いますね。
木下 そのために大事なのが、ミッションとビジョンという上位概念において合意しているかどうかです。
上位概念において合意していれば、目の前にある右か左かについては、どちらの方向からでもその山に登れるのです。
どちらを選んでも、プロコン(賛成意見・反対意見)はあります。
でも、登りたい山が同じであることは合意しているので、どちらの道に行くかで右の道に行くことを会社として、チームとして決めたのであれば、左の道に行きたかった人もフルコミットしてくれということです。
もちろん、失敗することもありますよね。
そこで、「ほら、左に行けばいいと言ったじゃないか」といった発言はやめてほしいと伝えています。
なぜならそれは、All for Oneではないからです。
みんながフルコミットして取り組んだのだから、失敗した原因を振り返って、学び、もしかしたら次は左の道に行くことを選ぶかもしれません。
そうやって、アジャイル形式で進めていくのが我々の強みです。
でも、登りたい山が同じであることを合意するのが大事です。
あと、お互いきちんと言い合えることも大事です。
チームとしての決断はしますが、自分が意見を言う前にそれが決まってしまっていたら、Disagree & Commit以上に「やらされている」と思ってしまうからです。
ですから、左に行くべきだと強く思うことをきちんと伝えきった後にみんなで右の道と決めたのであれば、自分の意見も考慮、尊重された上で意思決定がされたと思えるので、ある程度は納得できるのではと思います。
酒井 なるほど。
楽天の場合、32,000人と規模が全然違いますし、楽天主義ワークショップみたいなものもありましたよね。
▶小林正忠CWOが語る「楽天グループが3万人規模になっても大切にしていること」(BIGLOBEニュース)
ミッションやビジョンと従業員一人一人の想いを、どう接続していますか?
(続)
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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成